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誇り高き獅子

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第一章

                          誇り高き獅子
 ネメアに一匹の獅子がいた。巨大で黄金の毛と鬣を持っている。しかも。
 不死身だった。その恐ろしい獅子について誰もがこう言っていた。
「あの獅子は怪物だからな。不死身なのも当然だよな」
「凶暴でしかも強いからな」
「あいつは普通の獅子じゃない」
 誰もが知っていた。ネメアの獅子がどういった獅子かも。
「テューポーンとエキドナの間に生まれた怪物だ」
「普通の獅子じゃない」
 そうなのだ。彼は普通の獅子ではなかったのだ。
 怪物の父であり神々の敵であるテューポーンとその妻エキドナの間に生まれた怪物なのだ。そうした意味で彼は厳密には怪物であり獅子ではなかった。
 だがそれでもだ。獅子は言うのだった。
「俺は獅子だ。それ意外の何者でもない」
「そう言うのか」
 遠くから声が聞こえてきた。声の主はケイローンだ。ケンタウロス族の中で最高の賢者である彼は遠くから彼に対して尋ねてきたのである。
「そなたは獅子だと」
「そうだ。では他の何だというのだ」
 荒地に悠然と、スフィンクスの様にねそべり獅子はケイローンの声に問うた。
「俺が獅子でなくては何だ」
「人はそなたを怪物と言うが」
「そのことか」
「そうだ。しかしだというのだな」
「確かに俺の父と母はそうだ」
 テューポーンとエキドナだとだ。間違いないというのだ。
「だがそれでも俺はだ」
「獅子だな」
「それ以外の何者でもない。俺は百獣の王である獅子の中でもだ」
「最高の獅子か」
「俺以上の獅子はいない」
 彼は誇りと共に前を見据えて言い切る。
「そうではないのか。ケンタウロスの賢者よ」
「そうだな。確かに今のそなたは獅子だ」
 ここでだった。そのケイローンが彼の前に姿を現してきた。前に岩場に悠然と腕を組み四本の馬の足で立ちそのうえでだった。
 獅子に対してだ。こう言ったのである。
「見事なな。だが」
「だが。何だ」
「死ぬ時まで獅子でいられるのか」
 ケイローンが獅子に問うのはこのことだった。
「それはどうなのだ」
「死ぬまでか」
「そなたは確かに獅子だ」
「今はだな」
「しかし獅子は獅子でいる為には」
「最後のその時までか」
「獅子でいなければならない」
 獅子を見て。ケイローンは言っていく。
「そうでなければならないのだ」
「俺が死ぬ時もか」
「そなたは確かにどの様な刃も通さない身体を持っている」  
 だから不死身なのだ。この獅子の不死身とはそうした意味なのだ。
「だがそれでもだ」
「死ぬというのか」
「そなた以上の強い者が現れれば」
 まさにその時にだというのだ。
「そなたはその者に倒される。そしてその時にだ」
「俺は獅子でいられるか、か」
「そなたは獅子とは誇りだと思っているな」
「その通りだ」
 まさにそうだとだ。獅子も返す。
「獅子は姿や生まれでなるものではない。それはだ」
「心によってだな」
「そうだ。心によってなるものだ」
 まさにそうだというのだ。
「獅子の姿でも獅子の心でなければだ」
「獅子ではないな」
「だからこそ俺は獅子なのだ」
 真の獅子、そうだというのだ。 
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