親娘の写真
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第九章
「親子になるんだな」
「そういうものなんですね」
「いや、本当によくわかった」
しみじみとしてだ、彼は言うのだった。
「わしも。そしてな」
「そしてですか」
「このことは覚えておくな、全く似てなくても」
それこそ血縁を疑われるレベルでだ、しかし彼は自分の妻のことをよく知っているのでこのことは疑ってはいない。実際に陽菜の母彼の妻はそうした人間ではない。
「親子だな、親子は最初からなるんじゃなくて」
「なっていくものなのね」
陽菜も言う。
「そういうものなのね」
「そうだな、そういえば里親をな」
「天理教って受け入れているけれど」
「血はつながっていなくてもな」
「一緒に暮らしていくうちにね」
「親子になっていく」
里親のことからもだ、二人は考えていくのだった。
「少しずつでも」
「そういうものなのね」
「そうなんだな」
「ええ、そのこともわかったわ」
「全くだ、いや今日はとても大切なことがわかって知った」
「まさかこいつに言われるとは思わなかったけれど」
相変わらずの口の悪さでだ、陽菜は利樹を見て言った。
「いいことを知ったわ」
「まさかとかは余計だろ、まあそれでもな」
利樹も饅頭を食べつつ言うのだった。
「何か俺が役に立ったみたいでよかったよ」
「ええ、凄くね」
「そうだったら何よりだよ」
「じゃあお礼にお饅頭でも」
「いいいい、大したこと言ってないからな」
陽菜の申し出はだ、利樹は笑って断った。
「この饅頭食ったら帰るな」
「そうなのね」
「じゃあまた明日な」
「ええ、また明日ね」
「学校でな」
こう言って饅頭を一個手に取ってだった、利樹は食べた。そうしてそのうえで家に帰るのだった。陽菜の父の送るという申し出も笑って断って駅に向かった。その父と共にいて同じ仕草と表情で手を振る陽菜を見て笑みを浮かべてそうした。そして家に帰って夕食を食べて風呂に入ってから寝て翌朝登校して陽菜と笑顔で挨拶をして一日をはじめた。
親娘の写真 完
2016・12・15
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