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風魔の小次郎 風魔血風録

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98部分:第九話 夜叉の窮地その八


第九話 夜叉の窮地その八

「さて、項羽」
 その笑みで項羽に対して言う。
「どうするんだ?それで」
「小細工をするつもりはない」
 それに対する項羽の返答には何の動揺もない。
「羽を使ってな」
「青いのも赤いのも知ってるんだぜ」
「それは知っているのはもうわかっている」
「ではどうするというのだ?」
「投げるだけだ」
 やはりその左手には羽がある。何時でも投げられるようにしている。
「受けろ、妖水」
 その左手を構えての言葉だった。
「この項羽の羽根、見えるだけではないということを知れ」
「見えるにも見えないにしろな」
 羽根が放たれた。妖水のヨーヨーが光る。
「この妖水に切られないものはないということを教えてやる!」
 今青羽と赤羽が数枚ずつ放たれた。妖水のヨーヨーが煌く。勝負の時だった。
 そして竜魔と陽炎もまた激しい闘いを繰り広げていた。その中で竜魔は一旦後ろに退き間合いを離した。とはいっても数歩程度であった。
「その間合いでは放てはしないぞ」
「わかっている」
 陽炎に対して答える。
「死鏡剣は放たぬ」
「ではどうするつもりだ?」
「これを使う」
 言いながら使った術は。
「ほう、それか」
「そうだ。風魔分け身の術」
 その言葉と共に竜魔の身体が一つから二つ、二つから三つへと横から流れるようにして幾つにも分かれた。忍の分身の術だった。
「それを今見せよう」
「面白い。ではこの陽炎の名の由来を教えよう」
「名の由来だと」
「そうだ。行くぞ」
 陽炎の笑みがさらに余裕のあるものになった。そして。
「陽炎分身」
 陽炎もまた分身の術を使ったのだった。それで幾つにも分かれる。そのうえで両者は再び闘いをはじめる。幾つものそれぞれの身体で。
 二つの闘いが続いていく。その中で項羽は左手から数枚の青羽を放った。
「無駄だってわからねえのかね!」
 妖水は嘲笑うようにしてそのヨーヨーを切ってみせた。
「この妖水にそんなものは効かないってな!」
「さて、それはどうかな」
「何っ!?」
 続いて放ったのは一枚の赤羽だった。妖水はそれに対してはもうヨーヨーで切ることさえしなかった。侮蔑した顔を見せるだけだった。
「一枚かよ。もうこんなのはよ」
「切るまでもないか」
「白虎から聞いている。こうすればいいだけれ」
 首をすっと捻ってその赤羽をかわしてみせた。
「これで弧を描くってな。わかって・・・・・・なっ!?」
「確かに赤羽はそうだ。しかし」
「こ・・・・・・こんな馬鹿な」
 妖水の胸に一枚の羽根が突き刺さっていた。それは。
「な、何だこの真っ黒い羽根は!」
「闇羽だ」
「闇羽!?」
「羽根は見えるものだけではない」
 クールは胸を刺され驚愕の顔になっている妖水に対して述べた。
「こうして。他の羽根の影となり相手に襲い掛かる羽根もあるのだ」
「ちっ、羽根はあの三つだけじゃなかったってことかよ」
「その通りだ。だが」
「ぐうう・・・・・・」
「まだ立っていられるか。無意識のうちに身体を動かして急所はかわしたようだな」
 その辺りは流石と言えた。
「だが勝負は俺の勝ちだな。既に貴様は満足に闘えまい」
「止めをさせ」
「そうしたいのはやまやまだがそれはできん」
「どういうことだ!?」
「貴様に切り刻まれていったおかげでこちらも羽根がなくなった」
 だから止めを刺せないというのだった。
「木刀も持って来ていないしな」
「くっ・・・・・・、情けをかけたというのなら」
「本当のことだ。できればすぐにそうしている」
「・・・・・・真か」
 今の項羽の言葉を聞いて妖水もそれが真実だと悟ったのだった。つまり項羽は本当に止めを刺せなかったのだ。
「止めは次だな」
「次!?次は貴様が死ぬ番だ」
 妖水はよろめきながらもこう項羽に告げた。
「貴様がな。覚悟しておけ」
「覚えておこう。それではな」
 踵を返し戦場を後にしだした。
 
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