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刑部の潔白

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第二章

「何があろうとな」
「何故そんな話が出たんか」
「実に妙ですな」
「全く以て」
「何処の誰が流したのか」
「おかしなものです」
「面妖としか言い様がありませぬ」
 家臣達も言う、大谷にとっては身に覚えのないものだった。そして実際に彼はその様なことはしていなかった。
 石田もだ、その話を聞いてすぐに言った。
「桂松はその様なことはせぬ」
「はい、決して」
「その様なことはされませぬ」
「断じてです」
「治部殿の言われる通りです」
「そうしたことはされませぬ」
「あ奴は何があっても辻斬りはせぬ」
 石田は断言した。
「全く以ておかしな話じゃ」
「左様ですな」
「何処の誰が流したのか」
「刑部殿に恨みを持つ者でしょうか」
「何かしらの」
「最近虎之助達とは仲が悪いが」
 大谷も人間であり揉めていない者はいる、加藤清正や福島正則達とはお互いに幼い頃より知っているが今は感情のもつれで仲が悪い。
「あ奴達はそうした噂は流さぬ」
「はい、直接言われることはあっても」
「あの方々もそうしたことはされませぬ」
「この様な性質の悪い噂を流すなぞ」
「誰がやっておるのか」
「実際に殺された者がおる」
 辻斬り、それによってだ。石田はこのことも指摘した。
「下手人はおる、それが誰かじゃな」
「はい、一体」
「刑部殿を貶めるにしても性質が悪いです」
「何処の誰がしているのか」
「気になりますな」
「全くじゃ」
 石田は友を救う為に動こうとした、だがこの話を聞いて彼以上に強い反応を示す者がいた。それは誰かというと。
「その様なのは噂じゃ!」
「そう言われますか」
「桂松はその様なことはせぬ!」
 太閤である豊臣秀吉は言葉を荒わげて言った。
「何があろうともな、どうせ実際に辻斬りをしておる者が桂松に罪をなすりつけておるのじゃ」
「左様ですか」
「わしが知る限り天下で力を持つ者でじゃ」
 秀吉はその頭の中に徳川家康や上杉景勝、伊達政宗といった面々を思い出した。寺社や公卿も含めて。
 しかしだ、誰も心当たりがなくこう言った。
「おらぬ、その下衆が流しておるのじゃ」
「辻斬りを犯している」
「そうした者達がですか」
「その噂を流している」
「そうなのですな」
「夜の大坂で暗い場所に人を潜ませておれ」
 秀吉はすぐに言った。
「怪しい、しかも刀を持って怪しい動きをしておる者ならな」
「その者がですな」
「今回の件の下手人ですな」
「実際の」
「そ奴を捕らえるのじゃ、一人でなくともじゃ」 
 何人かいてもというのだ。 
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