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風魔の小次郎 風魔血風録

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92部分:第九話 夜叉の窮地その二


第九話 夜叉の窮地その二

「風魔も遂に風林火山を」
「はい」
 壬生が夜叉姫の言葉に答える。
「小次郎が持っております」
「小次郎・・・・・・あの男が」
「申し訳ありません」
 壬生は次に夜叉姫に対して頭を下げた。
「小次郎を討ち漏らしてしまいました」
「相手も聖剣を持っていれば仕方ないこと」
 だが夜叉姫は壬生を赦すのだった。
「それならば致し方ありません」
「有り難き御言葉」
「そして武蔵」
 夜叉姫は今度は武蔵に対して声をかけてきた。
「貴方は竜魔を倒せなかったそうですね」
「その通りです」
 目を閉じ静かに一礼しての言葉であった。
「これもまた。申し訳ありません」
「相手もまたサイキックソルジャーだったそうですね」
「そうです」
 その言葉に対しても一礼してみせる。
「風魔にもサイキックソルジャーがいるとは」
「予想外のことでした。竜魔に関しては情報が少なく」
「私もあの男がそうだとは知りませんでした」
 竜魔については夜叉姫も知らないのであった。
「不覚でした。私も」
「姉上、それは」
「私が知らなかったのは事実」
 壬生に対してもそれを隠さなかった。はっきりとした言葉で言うのであった。
「ですから」
「左様ですか」
「それでです」
 夜叉姫はあらためて二人に対して言ってきた。
「今度の将棋の試合ですが」
「はい」
「今回の担当は」
「陽炎、妖水」
「はっ」
「こちらに」
 夜叉姫の声に応えて二人が入って来た。そうして武蔵と壬生のところに来たのだった。
「姫様、それでは今より」
「出陣致します」
「頼みますよ。今のところ八将軍で動けるのは貴方達二人だけ」
「思えば減ったものですな」
 陽炎は涼しい顔でこう述べながら武蔵を横目で見る。
「もうすぐ六人は戻って来るとはいえ」
「対する風魔は今は九人」
 妖水もそれに加わってきた。
「四人。まあそれだけ俺が奴等を切り刻めばいいだけか」
「壬生」
 陽炎は今度は壬生に声をかける。彼に対してははっきりと顔を向けていた。
「御前の黄金剣にも期待しているぞ」
「わかっている」
 壬生は生真面目に陽炎に答えてみせた。
「私があの小次郎を」
「いや、おそらく今回はあの猿は出ない」
 しかし武蔵はここでこう言ってきたのだった。
「出ないだと!?」
「そうだ」
 壬生に対しても答える。顔は正面を見据えたままだ。
「今はあの風林火山を操ろうと修行に必死だ」
「そうなのか」
「だからだ。壬生」
 ここまで話したうえで壬生に声をかけてきた。
「むっ!?」
「御前も今は修行に励め」
「修行にか」
「剣は慣れれば慣れる程強くなる」
 それが武蔵の言葉だった。
「だからだ。いいな」
「わかった。それではな」
 壬生も武蔵のその言葉に頷くのだった。
「今はそうさせてもらおう」
「待て、武蔵」
 陽炎は剣呑な目で武蔵に対して言ってきた。
「何だ、陽炎」
「壬生を動かさないのか」
「そうだ。それがどうかしたか」
「向こうに風林火山があるのだぞ」
「それはわかっている」
 目を閉じ落ち着いた声で陽炎に答える。
「だがその小次郎が今剣に慣れようとしている」
「壬生と同じなのか」
「そうだ。だから壬生には今は慣れてもらう」
「ふん。それであの男が出て来たならばどうするのだ?」
 陽炎は剣呑な目で武蔵に対してそれを問うた。
「その時は貴様が責任を取れるのだろうな」
「俺が責任を果たさなかったことがあるか」
 武蔵の目に鋭いものが宿った。
「それはどうだ」
「ないな。ではここは貴様の声を聞いておこう」
「そうか」
「しかしだ」
 また陽炎の声が剣呑なものを含ませる。
「何だ?」
「武蔵、一つだけ言っておく」
 その剣呑な光が強まっていく。武蔵に対する敵意は明らかだった。
「我等夜叉は代々上杉家に仕えている」
「それは知っている」
「いや、知らぬ」
「ああ、その通りだ」
 妖水もまた武蔵に対して言ってきた。
 
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