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IS―インフィニット・ストラトス 最強に魅せられた少女Re.

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第四話 漆黒と蒼の舞踏

第三アリーナ Aピット

「…………」

「………………」

「…………二人とも、表情が固いですよ?」

無理もない、とは思いますが。織斑さんと篠ノ之さんはひたすら険しい顔で無言を貫いています。

理由は……織斑さんの専用機が一向に到着しないこと。

……まあ私は、下手にいきなり専用機を扱うよりは一度でも動かした事のある打鉄の方が勝機はあると思うんですが……。

そんな仏頂面していても、為るようにしか為りませんよ。

……私ですか?私は玉鋼の調整です。どんな見落としがあるのか分かったものではないですから。

そんな時です。搬入口の方から山田先生が慌ただしく走ってきました。

肩で息をする山田先生に織斑さんが深呼吸させます……が、あまり余計な事をしていると、ほら。

「教師で遊ぶな、馬鹿者。」

やはり怒られました。あの学習能力の低さは何なんでしょうか?IS関連の呑み込みは早いのに。

「まあいい……山田先生。」

「は、はい!届きました!織斑君のIS!」

……ようやく倉持が仕上げて来ましたか。正直あそこの開発遅延は日本のIS産業全体にとって洒落にならないのでどうにかして欲しいんですよね。尤も、三枝博士が自衛隊に入ったお陰で技術力の差は埋まってきてるんですが。

搬入口にあったのは純白のIS。シンプルな外装と背面のウィングスラスターが特徴的なその機体を、私は良く知っている。

「これが、織斑君の専用機の「白式……。」そう、白式です!……ってなんで神宮司さんが知ってるんですか!?」

いけませんね、つい声を出してしまいました。

白式は、玉鋼を設計母体に開発された機体。いわば姉妹機です。そんな存在があればとっくに調べています。それに、

「私はテストパイロット上がりの候補生なので、開発方面には顔が利くんです。」

日本のIS産業の開発状況はほぼ把握出来ている。搭乗者未定のコアを使用した第三世代ISは現在白式しか存在していない筈です。

「織斑、時間が惜しい、直ぐに準備しろ。……神宮司、先に行けるな?」

問いではなく、確認。それくらい当然だろうと、そういう事ですか。

「勿論です。」

確認できる範囲では玉鋼にも私にも支障は無い。直ぐにでも始められる。

着ていたジャージを脱ぎ、ISスーツ姿になる。私のは自衛隊からの官給品で、全身を覆うような長い丈が目立ちます。

玉鋼を展開する。闇色の装甲が全身を包むと同時に視界が拓ける。

SE(シールドエネルギー)SB(スキンバリアー)AG(絶対防御)HS(ハイパーセンサー)FCS(火器管制)異常なし(オールグリーン)。〉

視界の端を横切る文字列。私にはまるで、玉鋼が早く戦いたいと、急かしている様に思えます。……考え過ぎ、ですかね。

PICを起動して若干浮き上がると、そのままピットの射出ゲートに向かいます。

「行きましょう……玉鋼。」










遡る事数分ーーーー

「へぇー、あなたがオルコットさんね?」

第三アリーナのBピット。機体の最終チェックをしていたセシリアにいたずらっ子の様な軽い声が掛けられる。

「………そうですが、貴女は?」

「アタシ?アタシはジルベルタ・オルランド。長いからジルでいいよ。」

赤毛の少女、ジルは軽快に笑う。

「それで、ジルさん。私に何か御用ですか?」

「うーん……用っていうか……楓の対戦相手を見とこうと思ったんだけど。」

「……あの方のお知り合いですの?」

「うん、ルームメートだよ。」

そう言ってジッとセシリアを見つめるジル。どうやら本当に用らしい用は無いらしい。

「そうですか……今日は大変でしょうけど頑張って下さい。」

「??どうして?」

「どうしてっ……て、無様に敗けた神宮司さんと同室では色々と大変でしょう?」

何の事か分からなかったジルだが、数秒かけてその意味を咀嚼する。

「ああ………そーゆー事ね……。あなたじゃ楓には勝てないよ。」

「…………はい?」

突然の一言に固まるセシリア。

「あなたじゃ勝てないって言ったの。」

聞こえてないの?とでも言いたげにもう一度繰り返すジル。淡々としたその態度にセシリアの顔が徐々に赤く染まっていく。

「誰が、誰に勝てないと?」

セシリアの怒気を孕んだ問い。しかし、ジルは馬耳東風とばかりに聞き流す。

「楓は本気だよ。本気であなたを叩き潰しに来てる。……あなたはどう?そこまで本気になってる?」

「……どちらが正しいのかは終われば分かります。」

「……楽しみにしてるよ。あなたがどこまで“素”の楓を引き出せるのか。」

「………?まあ、いいですわ。ブルーティアーズ!」

セシリアが自身の愛機をコールする。蒼天を思わせる鮮やかな装甲に包まれ、ピットを飛び出した。










「逃げずに来たようですわね?」

「逃げる理由もありませんから。」

開戦前から火花を散らす楓とセシリア。蒼穹を映したかの様な蒼い機体と、闇夜を凝縮したかの様な漆黒の機体が20m程の距離を空けて対峙する。

「最後のチャンスを差し上げますわ。今すぐに私に土下座して謝罪なさい。そうすれば、赦して差し上げない事もありません。」

「それはそれは……申し訳ありませんでした。何分私ごときのセンスではあの程度の皮肉が精一杯で。」

「退く気は……無いようですわね?」

「あるとでも思ってたのですか?」

最早刃を交える事無く解決など有り得ない。楓が近接刀【彩葉】を、セシリアが光学狙撃銃【スターライトmkⅡ】を展開。右腕を肩の高さまで水平に上げるその姿は、何の因果か、殆ど同一のモーション。

「……では。」

「ええ……、」

〈敵性ISの安全装置の解除を確認。初弾エネルギー装填、ロックオンされました。〉

〈目標の該当データ無し。特殊兵装の起動を認識。系統不明。〉

互いのISが搭乗者に彼我の情報をタイムラグ無しに伝える。

シグナルが点灯。カウントが始まり、ほぼ満員の会場の熱気が、急速に遠ざかる。

カウント0

その瞬間には、楓はスラスターを点火して全速力で離脱行動に移っていた。

「この距離でレーザーを……ッ!?なかなかやりますわね。」

セシリアの驚きと称賛の混じった声。レーザー系統の射撃武器における最大の特徴は火力ではなく到達速度だ。実際の光速程では無いが、20mでの発射から弾着までは0.1秒を切る。

恐らく、セシリアにとって必中の一撃。それを楓は完璧に避けてみせた。

「初弾から精密狙撃。お見事ですが、想定の内です。」

漆黒の機体がスラスターの尾を引いてアリーナを駆け抜けていく。その軌跡を追って蒼い閃光がブルーティアーズから次々に放たれる。

(鋭く正確な射撃……ですが、素直に過ぎますね。)

確実に楓を捕捉しているセシリアだが、トリガーを引く瞬間には楓が回避行動に移っている。正確故に楓には、セシリアがどこを狙っているのか、いつ撃つのかが手に取るように予測出来た。

「【AEDS(エイドス)】起動。」

回避を続けながら、楓は玉鋼に搭載された特殊兵装を発動する。肩の装甲がスライドし、その隙間から深紅の粒子が散布される。

そして、回避を続け、ジグザグ飛行を続けていた楓が突然、軌道を変え、セシリアのブルーティアーズ目掛けて真っ直ぐに突進していく。

戸惑いつつも反射的に狙いをつけ、トリガーを引くセシリア。その蒼い光芒は、紅い粒子と衝突し、火花を散らす。減衰したレーザーが漆黒の装甲に弾けるが、ダメージらしいダメージは無い。

「な……AEWですって!?」

AEWーーーーAnti Energy Weaponの略称ーーーーとは、ISが世界に知れ渡った以降、急速に発展していったカテゴリの兵装だ。

白騎士の出現の後、最も問題視されたのは、既存兵器ではISにダメージを与えられないこと……ではなく、ISの攻撃、特に荷電粒子砲に対して、既存の防御手段の一切が通用しない事だった。

各国は相手を倒す為の剣よりも先に、身を守る盾や鎧を産み出す事を余儀なくされた。そうして発達したのがAEWだ。

最もポピュラーな対ビームコーティングに代表される塗布型は、殆どのISの装甲に施されている他、戦車や戦闘機、艦船といった、通常の正面装備にも備えられている。

その他にも熱量吸収型や、電磁障壁型など様々なタイプが研究されており、その内の一つが玉鋼に搭載されたAEDSの様な、【減衰型】と呼称される物だ。

原理は単純、空間中に散布した水蒸気や金属粒子により、散布空間中におけるエネルギー兵器の減衰率を大幅に増大させるという仕組みだ。

安定して高い防御性能を持つが、自身のエネルギー兵器の使用も阻害する欠点を持つ。が、玉鋼にプリセットで搭載されているのは近接ブレードのみ。デメリットは最低限に抑えられる。

さらに、このAEDSには只の減衰型AEWに留まらない追加の効果が存在した。

「レーダーが……!?なるほど、粒子が電荷を……。」

減衰に使われる金属粒子は電荷を帯びており、レーダーをある程度欺瞞するジャミング効果があった。

あっという間に距離を詰めた楓は、勢いのままセシリアに斬りかかる。咄嗟に機体を滑らせ、回避するセシリアだがそれは悪手であった。

「……捕まえました。」

中途半端に躱した事で、セシリアはバランスを崩し、距離を開くことが出来ない。依然としてそこは楓の間合いの内側である。

ここまで来ると銃身長2mオーバーのスターライトmkⅡでは邪魔なだけである。セシリアもそれは理解しているのか、ライフルを投げ捨て、近接用の格闘ナイフを展開する。が、使い慣れていないのか展開に時間がかかっている。

「ハアアアァァァッ!!」

「ッ、ああっ!?」

烈迫の気合いと共に放たれた楓の一撃を、どうにか展開の間に合った短剣【インターセプター】で受け止めるセシリアだが、充分な体勢ではないままでは、まともに堪える事が出来ない。

「まだ終わりませんよっ!」

「させませんわっ!ブルーティアーズ!!」

追撃を必死に受け止め、どうにか鍔迫り合いを耐えるセシリア。そのままでは押し切られてしまうが、背面のバインダーに接続されていた四基の第三世代兵装【ブルーティアーズ】のビットを展開して反撃、至近距離での砲撃に、さしものAEDSも完全には減衰しきれず、回避を余儀なくされた。

「仕留め損ねた………」

「もう近付けませんわっ!!」

ブルーティアーズ四基による包囲射撃。AEDSにより減衰するが、それを飽和させる勢いで次々とレーザーが殺到する。こういった飽和射撃に対し、至近弾でも防御が働いてしまう減衰型は効率が悪い。

さらにセシリアは、レーザーの着弾点をピンポイントで揃える事で、AEDSの一点当たりの減衰効果を越える攻撃を織り混ぜている。

「何を考えているのか分かりませんが……剣一本で私に挑もうだなんて、無謀もいいところですわ!」

「それは…どうでしょうか、ねっ!!」

突然、楓が凄まじい加速力で突進した。余りの速度にレーザーの照準が置き去りになり、楓の後方で虚しく空を切る。

瞬時加速(イグニッションブースト)と呼ばれる加速テクニックで、スラスターが垂れ流す余剰エネルギーを再度取り込み、爆発させることで膨大な推進力を得る技術だ。厳密には違うが仕組みの上では航空機のアフターバーナーに近い。

発動を読まれない限り分かっていても追い付けない程の速度。楓のそれは、徹底した訓練の果てに、チャージも加速も相手に一切の前兆を読ませない。

「【彩葉】出力60%で起動。荷電粒子ブレード展開。」

長刀【彩葉】を包むように、秋の紅葉を思わせる真紅の高エネルギー励起状態の荷電粒子が展開。その刃はAEDSを巻き込み、赤と黒が鮮やかなコントラストを映し出す。

ビームソードの研究過程で産まれたこの彩葉。荷電粒子を纏うその特性上通常の対IS近接刀よりも高い硬度と融点を持つ。荷電粒子ブレードを展開した彩葉の斬撃は、現存する全IS中でもかなり上位に食い込む攻撃力を発揮する。

「セェェェイ!!」

一閃

間一髪躱したセシリアだが、スターライトmkⅡは両断。楓の攻撃はそこでは終わらない。

「ブルーティアーズッ!!」

「同じ手は食いません!」

楓を引き剥がす為に再び至近距離からの砲撃を行おうとするビット。そのうち手近な一基に向けて彩葉を振るう楓。纏った荷電粒子が三日月型の刃となって飛び、ビットを切断する。

「なっ!?」

「もう一つ!」

動揺したセシリアは慌ててビットを退避させようとするが、焦った人間の動き程読みやすいものはない。中距離にも対応可能な彩葉の斬撃でさらに二基のブルーティアーズが墜ちる。

「クッ!?……こうなったら、ブルーティアーズ!」

四基目のブルーティアーズでセシリアがとった行動は、回避でも射撃でもなく、突撃。体当たりだった。

「そんな苦し紛れ……通用するとでも!」

斬撃を飛ばすのではなく、刀の間合いまで引き付けてから斬り落とす。四散するブルーティアーズには目もくれずに、楓はセシリアに向き直る。

「もう攻撃手段は……!?」

ない、と言いかけて楓は固まる。

「油断しましたわね!!」

ブルーティアーズのサイドアーマーから切り離された二基の円筒状の物体。それが何なのか、楓には容易に想像がついた。

「ブルーティアーズは六基ありましてよ!」

放たれたのは二発のミサイル。セシリアの思念によって誘導されるそれは、楓が迎撃に繰り出した斬撃を潜り抜ける。

「!?しまっ……」

楓の声は爆音に掻き消され、発生した爆炎に呑み込まれた。

「……私の、勝ちですわ!」

「………違います。」

勝ち誇ったようにセシリアが声を上げた瞬間。その()()から掛けられる声。弾かれたように振り返ったセシリアの目に写ったのは、翡翠色の光の中から現れた、刀を振り上げた楓の姿だった。

「【彩葉】出力最大……ハアアアア!!」

「くっ……キャアアア!?」

咄嗟にインターセプターを展開したセシリアだったが、楓はそれすら意に介さず、ただ彩葉を振り下ろした。

出力リミッターを解除された彩葉はブルーティアーズをインターセプターごと斬り裂いた。

さらに二撃。稲妻の速度で振り抜かれた刃は、蒼き射手のシールドエネルギーを残らず喰らい尽くした。無機質な合成音声が勝敗を告げる。

『戦闘終了。勝者、神宮司楓。』 
 

 
後書き
どうも戦闘は視点を固定しない方が書きやすいな。なんだか説明文調になるのはひとえに作者の文才の低さ故ですが。
次回は、皆大好き千冬先生(!?)の解説とVSワンサマーです。お楽しみにー! 
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