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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第56話『適応』

ただいまは朝のホームルームの時間。普段通りであれば幾分かは賑やかなのだが、今日に至っては教室が静寂に席巻されている。

全員の視線は、教卓の横に立つ一人の少女に集まっていた。


「三浦 結月です。よろしくお願いします!」


元気よくそう自己紹介するのは、銀髪をたなびかせ、蒼い目を輝かせる、三浦家居候こと結月だった。

もちろん、その容姿を見て驚かない人は誰一人居らず・・・


「え、ヤバくね!?」
「髪染めてるの?!」
「可愛い!」
「当たりじゃねぇか!!」
「ちょっと待って、三浦って苗字なの?」
「それって学級委員と同じじゃ……」



騒ぎ立てるクラス一同。あちこちから、結月への賞賛の嵐が飛んでくる。当の結月は、さすがに照れた様子を見せていた。


「はい、皆静かに。話すのは後からにして下さい。彼女は今、三浦君の家にホームステイという形で住んでいます。日本語の書き取りを勉強中とのことですので、是非教えてあげては如何でしょうか」

「「「はーい!」」」

「いい返事です。それでは三浦さんは三浦君の後ろの席に・・・と、ややこしいですね」ハハハ


山本の笑いにクラスも笑いに包まれる。
結月も一緒に笑っているのを見て、安心した晴登だった。

その後、結月は教卓の横から、晴登の後ろに用意された机に移動する。


「呼び方はおいおい考えていきましょうか。さて、今日の一日の予定ですが──」


山本が話を始めても、興奮冷めやらぬ、まだクラスは結月を見てソワソワしている。これには山本も、やれやれと微笑んでいた。





* * * * * * * * * *

「ちょっと晴登、私聞いてないんだけど!」


休み時間に入って早々、晴登の後ろが騒がしくなる中、一人の女子が晴登に声を掛けた。幼なじみである莉奈だ。


「いや、言ってないからな…」

「普通言うでしょ。しかもこんな可愛い娘」

「色々あってな……」


確かに色々あった。人生で九死に一生を得たランキングトップ3には入るくらいには色々なことがあった。
言えなかったのは、言いたくないという都合に過ぎないのだが。


「それにしても、ホームステイって割には日本語上手だな、あの娘」


続いて声を掛けてきたのは大地。彼は素直に驚いているようだ。無理もないだろう。
そもそも、設定が無理やりすぎたのだ。元より結月は、日本語しか話せないのだから。


「それにしても、苗字が被るって不思議ね」

「しかも同居とか。偶然にも程があるぜ」

「そ、そうだな…」


・・・言えない。晴登が身勝手に詐称したものだなんて言えない。わざわざ苗字を考えるくらいなら、と思って軽く付けてしまったのだ。
正直、問われると答えに困る。

そんな晴登の様子を見て、二人はやれやれと言及を諦めて、後ろの野次馬に混ざった。



「・・・あれさ、柊と互角の容姿だよな」

「あぁ暁君。んん…まぁそうかも」


更に、伸太郎にも声を掛けられる。彼もまた、結月の容姿に驚きを隠せない一人だった。
確かに、狐太郎も目立つ。けれども、結月も目立つ。


「波乱の予感しかしないぜ…」


彼は面倒くさがるように呟いていた。
同調するように、晴登も苦笑い。



「ねぇハルト!」

「何だ?」


最後に声を掛けてきたのは、話題の中心である結月。
彼女の表情は生き生きとしており、一体何を言うのかと晴登は問う。



「学校ってさ、楽しいね!」



満面の笑みで彼女は言った。晴登は思わず笑みを零す。

なんだ、そんな事か。それは当たり前だ。友達と一緒に話したり、遊んだりするのは楽しい。
慣れさせるため、と急遽転入させた訳だが、失敗では無かったらしい。まさに御の字。



「──気になったけどさ、二人は一緒に住んでるんでしょ? もしかして、そういう関係だったりするの?」

「っ!!」


結月の発言で気を許した直後、避けては通れないと考えていた関門が立ちはだかる。
そういう関係とは言わずもがな、恋人同士という意味だろう。晴登自身はそうではないと否定するが、生憎結月は・・・


「結月ちゃんは三浦君の事どう思ってるの?」

「え、大好きだけど?」



「……あ」


この後、クラスが騒然となったのは言うまでもない。





* * * * * * * * * *

「なぁ結月、もう少し自重してくれてもいいんじゃないか?」

「どうして? ボクは事実を言っただけなのに」

「その気持ちは嬉しいけどさ、その・・・もう少し控えていこう」


廊下を一緒に歩きながら、晴登は結月に告げた。

現在は昼休み真っ只中。結月に学校案内をしようということで教室を出て・・・というのは建前であり、クラスから一刻も早く逃げ出したかったというのが本音である。
実は、先ほどの騒動は依然終わりを見せておらず、皆が結月や晴登を質問攻めにしていたのだ。とてもだが、対応はできない。


「今ごろ捜されてそうで怖いんだけど。明日から学校行きにくいじゃん…」


好奇心は人間の(さが)。だから、彼らがクラスメートの情事を追い求めるのも仕方のないことだ。
しかし、追われる方にとっては迷惑な事であるということを忘れてはいけない。

せめて、昼休みいっぱいは逃げ切らなければ・・・!



「よう三浦」

「フラグの力って凄い」


前方から声を掛けてきたのは、魔術部部長こと黒木 終夜。狙われていた訳でもなく、ただのエンカウントだろう。運が悪い。


「ん? 三浦、隣の娘って・・・」

「はい。この前話した結月です」

「あーなるほど。生で見ると予想以上にファンタジーな見た目してるな」


結月は銀髪蒼眼という、外人顔負けの容姿。言わずもがな、廊下を歩いているだけで人の目を引いていた。
事前に知らせていた部長でさえ、驚きの表情を隠せずにいる。


「ハルト、この人は…?」

「確か話したよな? この人が部長だ」

「え!? じゃあアナタが、ハルトに魔法を教えた人ですか?!」ズイッ

「ん!? ま、まぁそうだな…!」


結月が興味津々な様子で、終夜に詰め寄る。
予想外の出来事に、晴登は驚くしかない。


「ぜひ、ボクにも魔法を教えてください!」

「わかった! わかったから静かにしてくれ!」


(はばか)らなくてはいけない内容なのに、周りに聞こえるほどの大きな声で話す結月を、たまらず終夜は制止する。
何だ何だといった様子の聴衆(オーディエンス)だが、詳しくは聞こえてないようだった。


「よし。だったら放課後、三浦と一緒に魔術室に来い」

「ボクもミウラですk──」

「すいません部長。詳しい事は後で話します」

「お、おう、わかった」


話がややこしくなりそうだから、晴登はひとまず退散を図る。

どうやら、今日は忙しい一日になりそうだ。





* * * * * * * * * *

「「こんにちは」」ガラッ

「よし、来たな」


放課後、魔術室を訪れた晴登と結月を、終夜は出迎えた。部室にはもう全員が揃っている。

とりあえず、晴登は粗方の話を済ませた。


「…見れば見るほど不思議な娘ね。そして可愛い」


今発言したのは、魔術部副部長である辻 緋翼。
未だに目を疑っているのか、時折目を擦る仕草を見せる。


「んじゃま、早速測定といきますか」


部長はそう言って、魔術測定器を用意し始める。見るのは三度目だろうか。相も変わらず地球儀の様なフォルムだ。

魔術を教えるなら、まずは素質があるかを確かめるのが鉄則。


「ほいじゃ、ここに手を・・・」


慣れた口調で終夜は説明していく。使う機会は少ないはずなのになぜだろうかと思うが、黙っておくことにした。



数十秒の静寂。機械音が虚しく響いていく。



──突如、青い光が放たれた。魔術の素質を感知した証拠だ。結月には当然有ると思っていたから、驚くことはない。



「・・・よし。それじゃあドキドキの結果発表と参りますか」


結月の魔法の事は既に皆に知らせてある。後はそれがどのようなモノかを調べるだけなのだ。


「はーい結果は如何に・・・って、は!?」


突如、部長が叫ぶ。どうやら、結月の結果に驚いているようだ。やはり、魔法の本場である異世界産だから、何かしら凄いのだろうか。


「三浦 結月、スキル名【白鬼】、レベル5…!?」

「「「えぇっ!?」」」


結月以外の全ての部員が、驚きの声を上げた。
それもそのはず、レベル5の魔術師というのは日本中でも数えられるほどしかいないからだ。

当の結月はその凄さがわかっておらず、ただただ首を傾げていた。


「魔術教えてどころか、教えて欲しいくらいだ…」

「三浦、アンタ凄い娘連れてきたわね」

「は、はい……」


レベル5というのは、正直予想外。普通に考えて、晴登よりも数倍強い能力(アビリティ)だ。
とはいえ、異世界であまり凄さを感じなかったのは、結月の求める通り、練度が足りないからなのだろう。



「・・・あ、そうだ。せっかくのレベル5なんだ。どうだ、魔術部に入らないか?」

「え?」


ここぞとばかりの唐突な部長の勧誘に、結月は目を丸くする。何を言っているのか理解できていない表情だ。
尤も、部活についての説明を微塵も結月にしていない訳なのだが。

少し説明をしないと・・・


「結月、部活っていうのはな──」

「ハルトは入ってるの?」

「…え?」

「マジュツブっていうのに」

「う、うん」

「ならボクも入る」

「即決!?」


自覚したくはないが、またも晴登の影響力だろう。
余りの早さに、部長らも驚きを隠しきれていない。

魔術部は『怪しい部活ランキング』で、間違いなくトップ3には入る。そんな部活に即決で入るのは、命知らずと言っても過言ではない。


「晴登と一緒なら、ボクはどこでも良いよ」

「だから、そういうのを自重しろって……」



「・・・結構重症ね」ボソッ

「三浦のどこに惹かれたのか詳しく訊きたい」ボソッ


なんやかんやで謎が深まる魔術部に、新たに一人の部員が加わった。





* * * * * * * * * *

「さて・・・困った」

「何が?」


帰路の途中、晴登はため息をついた。
心配になった結月は理由を問う。


「呑気で良いな。入学した以上、結月もテストを受けなきゃいけないんだぞ?」

「そもそもテストって何?」

「あ、そこからか……」


晴登は結月に軽く説明を行う。彼女は頷いて話を聞いていたが、ある事が引っ掛かったようで・・・


「ボク、言葉を覚えたのは良いけど、それ以外は何もわからないよ?」

「あ…確かに」


ここに来て重大な事実が発覚。要は、国語は覚えたけど、数学とか理科はわかんないって話だ。


「テスト受けさせない、っていうのは無理な気がするな。結月の事情を知ってるのは魔術部だけだし」

「ううん、ボク頑張って勉強するよ!」

「え?」

「書き取りだってすぐ覚えたんだ。きっと大丈夫!」


結月の早期習得には目を見張るものがあったが、さすがに勉強を一から始めるのは無理があるのではないだろうか。

・・・という事を晴登は危惧したが、口には出さなかった。彼女がやる気でいるのに、わざわざその気を削ぐつもりはない。絶対無理、とは言い切れない訳だし。


「わかった。じゃあまた勉強しないとな」

「うん!」


いつものように、結月は爽やかな笑顔を浮かべる。それを見て、晴登はまたも安心した。
結月の笑顔には、どうしても逆らえない。


「よし、家帰っても勉強頑張るぞ!」

「おー!」

「じゃあ家まで競走だ!」ダッ

「負けないよー!」ダッ


和気あいあいと二人は帰る。
忙しかったけど、今日も楽しかった。

明日も楽しく過ごせたら良いな。





「ゴール!」

「足速いなオイ!」

 
 

 
後書き
最近5000文字に達しなくなってきた。不安でしかねぇ。

でもって、次回から何をしようか悩みどころ。勉強会やっても良いし、テスト入っちゃっても良い訳だし・・・どうしましょ。

ま、細かい事は良いです。ノリで何とかなるでしょう。では、また次回で! 
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