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風魔の小次郎 風魔血風録

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64部分:第六話 霧の中でその十一


第六話 霧の中でその十一

「項羽と林彪がいないのは痛いがこれで一気に優勢に立ったな」
「そうですね。じゃあ戦線離脱している八将軍が戻らないうちに」
 麗羅も笑顔になっている。
「一気に決めちゃいましょうよ」
「そうだな。今のうちにな」
 小龍もそれに頷く。
「決めてしまうか」
「それはそうとしてだ」
 蘭子がここで言ってきた。
「どうしたんだよ、蘭子」
「霧風はここには顔を出さないのか」
 彼女が言うのはそれだった。
「折角勝ったというのに」
「ああ、あいつ付き合い悪いんだよ」
 蘭子の疑問に小次郎が答えた。
「悪い!?」
「ああ、遊んでいても一人先に帰ってるような奴さ」
「そうなのか」
「だから気にしなくていいんだよ」 
 笑ってこう告げる小次郎だった。
「そういうことでな」
「そうか」
「それで小次郎さん」
 今度は姫子が小次郎に声をかけてきた。
「何でしょうか、姫様」
「これから祝勝のパーティーがあるんですけれど」
「姫様も出られるんで!?」
「はい、それで小次郎さん達も」
「それじゃあ是非」
 姫子が出ると聞いて動かない小次郎ではなかった。すぐに満面の笑顔で答えてきた。
「兄ちゃん、俺も出ていいよな」
「好きにしろ」
 竜魔は無表情であったがそれでも小次郎のその行動を認めるのだった。
「俺は先に屋敷に帰っておく」
「何だよ、付き合い悪いな」
「小次郎君が楽しめばそれでいいじゃない」
 麗羅が笑顔で小次郎に告げる。
「まあそうか。それならよ」
「ではこれで」
 竜魔は姫子に一礼してからその場を後にする。そうしてそのまま屋敷に帰るのだった。屋敷に着くと。そこにはもう霧風がいた。彼は軒先に腰をかけて一人庭を見ていた。
「御苦労だったな」
「いや」
 竜魔のねぎらいの言葉に首を静かに横に振るのだった。
「どうということはない」
「闇鬼を倒したことは大きいが」
「また戻って来る。雷電もな」
「そうか」
「勝利は収めたが。夜叉はまだまだ力がある」
 霧風の顔は余裕のあるものではなかった。厳しい顔で庭を見続けている。
「次の戦いも厳しいものになるぞ」
「それはわかっている」
「早いうちに項羽と林彪が復帰すればいいがな」
「項羽はおそらく次の次だ」
「そうか」
「その時に戻る筈だ」
「ならばいいがな」 
 霧風は項羽の復帰の話を聞いてもまだ表情を綻ばせない。厳しいままである。その顔でさらにその言葉を続けるのだった。
「それでだ」
「今度は何だ?」
「小次郎はどうだ」
「見たままだ」
 竜魔はこう答えた。
「一見すると明るいがな」
「まだ二人が死ななかっただけでもましなのだがな」
「それでも衝撃を受けているのだろう。俺達の戦いは命を賭けたものだ」
「そうだ」
 竜魔のその言葉に頷く霧風だった。やはり前を向き背中から竜魔の言葉を聞いている。竜魔は彼の背のところで立って話をしている。
「忍の戦いは命を賭けたものに他ならない」
「あいつは今までそれがわかっていなかった」
 これは霧風も知っていることであった。
「それが変わってきているな」
「大きな成長になればいいな」
 竜魔は言った。
「あいつにとってな」
「それであれば二人の負傷も意味があるか」
「こう言えるのも二人が無事だからだ」
 竜魔の言葉は本音だった。彼等にしろ仲間達を失うのは辛いのだ。
「ここで命を落としていれば」
「とてもそうは言えないな」
「そういうことだ。では」
 竜魔はすっと霧風の背から離れた。そうして廊下を先に進もうとする。霧風はその竜魔に対して問うた。やはり彼に背を向けたままで。
「何処に行く?」
「林彪のところだ」
 こう霧風に告げた。
「様子を見にな」
「少しずつ起きれるようになっている」
「そうか。無事回復しているのだな」
「戦いは当分無理のようだがな」
 霧風は一つ言い加えた。
「それでも起きれるようにはなった」
「いいことだ。では行って来る」
「ああ」
 霧風は目を閉じて頷いた。竜魔はその頷きを受けて先に進む。風魔の者達も今は静かな世界の中にあった。これからの戦いという嵐を前にしていても。


第六話   完


                2008・5・13
 
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