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提督はBarにいる。

作者:ごません
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長芋でスタミナを・その2

 さて、お次の長芋料理は何にするか。出来れば飲んでいる酒に合う物がいいだろうな。阿武隈が飲んでいるのは『屋守(おくのかみ)・純米中取り 無調整生』。「米所の日本酒が美味い」という俺の固定観念をぶち壊した東京にある蔵元の地酒だ。その中でも米の味わいが一番凝縮されている中取りのみを瓶詰めした純米酒を出してやっている。甘口がいいというリクエストに応えての物だったが、フルーティーな甘さと米の旨味のコラボレーションはもはやフルーティーを通り越して『ジューシー』と言い換えても過言では無い程の米の甘味と旨味を感じさせる。辛口端麗、キレの良さを信条としてきた日本酒とは対極にある味わいだが、極上の一本である事は保証する。辛口以外認めん!という頑固な好みの人にこそ薦めたい、俺の甘口の概念をも変えられた……そんな酒である。甘口の酒に合わせるならば、やはり甘辛い味わいのツマミだろうな。



《甘辛い味付け!山芋ステーキ》※分量3人前

・長芋:250~350g

・塩、胡椒:少々

・片栗粉:適量

・砂糖:大さじ2~3

・醤油:大さじ2~3

・味醂:大さじ2~3

・黒胡椒:適量

・すりごま:適量


 お次は長芋を焼いて出してやろう。長芋は他の芋類に比べて繊維質が強く生で千切り等を食べるとシャキシャキという食感のイメージがあるが、火を通すと他の芋同様にホクホクとした食感とあの粘りが合わさって独特の味わいがあってこれまた美味い。そこに甘辛いタレを絡めてステーキに仕立て上げるとしよう。

 まずは甘辛のタレを作る所から。砂糖、味醂、醤油を小鍋に入れてとろみが付くまで煮詰める。それが面倒なら耐熱容器に入れてレンジで1分程加熱して、砂糖を溶かしてからかき混ぜておく。

 長芋は皮を剥き、4cm位の厚さにカットする。あんまり薄いと長芋独特の食感が損なわれるんでな。分厚いと思っても最低4cm位は厚みがあった方がいい。カットし終わったら全体に塩、胡椒をまぶしてから片栗粉をまぶす。

 フライパンに少し多めの油を引き、温まったら長芋を並べて焼いていく。表面がサクサクになるように狐色になるまで揚げ焼きにし、いい焼き色が付いたらバットに上げて軽く油を切る。

 油が切れたら熱い内に、タレにサッとくぐらせて味付けをする。タレに長時間浸けると、せっかく揚げ焼きにしてサクサクにした表面がフニャフニャになってしまうので本当に軽く潜らせるだけでOKだ。味見をしてみて味が薄いようなら、もう一度潜らせる位までなら食感を損なう事もないだろう。仕上げに黒胡椒とすりごまをたっぷり振り掛ければ完成。

「へいお待ち、長芋ステーキだ。食ってみて胡椒が足りなけりゃ自分で足してくれ」

「いただきま~す♪」

 食べやすいようにピックが刺してある為、そのまま1つ摘まんで齧り付く。ホクホクとした中に長芋の繊維質が混じった独特の食感に、甘辛いタレの濃い味が絡む。そしてそれを引き立てる黒胡椒のピリッとした辛味とすりごまの香ばしい風味。口一杯にその味が拡がった所に、屋守を流し込む。甘口の屋守が引き立てられる、いい組み合わせだと思う。

「美味しいぃ~っ!」

 阿武隈は頬を抑えながら、イヤンイヤンと身体をくねらせている。そんなに美味かったか。

「だってだって!遠征の間他の皆が騒がしくて、静かにご飯も味わえなかったんですよ!?」

「そ、そうか……因みに遠征の面子は誰だったんだ?」

「えぇと、旗艦が私で……大潮ちゃんに、時津風ちゃん。卯月ちゃんに島風ちゃんに雪風ちゃんに……あ、それに初風ちゃんです」

「お、おぅ……」

 予想以上に五月蝿そうな面子が勢揃い。もうちょっとマシな奴等は居なかったのかと尋ねてみたが、非番だったり他の任務に就いていたりで急遽掻き集められた6人だったらしい。

「すまんな、恐らくは飛び込みの仕事だ」

「別にいいんですけどねぇ……地獄の1週間でした」

 そう言って呟きながら遠い目をする阿武隈。飛び込みの仕事というのは、当初頼んでいた護衛が何らかの理由で外れてしまい、どうしようもなくなってウチに泣き付いてきた緊急の依頼の事だ。当然ながら予約スケジュールに割り込む上に此方は何の支度も整えていない状態での出撃になる。危険度もその分跳ね上がるが、支払われる報酬もデカイ。恐らくは俺が寝ている内に大淀辺りが支払い額との折り合いを付けて捩じ込み、急いで支度をさせて出発させたのだろうな。ある程度の裁量は認めてはいるが、せめて俺位には話を通すべきだったろう。

『ま、それは大淀に厳重注意だな……』

 なんてボンヤリ考えていると、

「提督?大丈夫ですか、ボーッとして」

「あぁ、大丈夫だ。ちと仕事の事を考えててな」

 等と、早霜にいらない心配をされてしまった。……まぁ、緊急の依頼を受けて報告書は出したものの、俺が斜め読みしてて覚えてないだけという可能性も往々にしてあるんだが。というか、その可能性が高くて迂闊に大淀に問い質せない。ちゃんと報告書読んでないのがバレたら、何を言われるやら。




 さて、焼き物の次は揚げ物かな。豚の小間切れ肉を使って見た目も楽しい『拳骨揚げ』を作るとしよう。

《ガッツリ満足!豚こまと長芋の拳骨揚げ》

・豚小間切れ肉:150g

・長芋:100g

・大葉:3枚

・味醂:小さじ2

・酒:小さじ1

・醤油:小さじ2

・おろし生姜(チューブでOK):少々

・片栗粉:大さじ3~


 さて、作っていくぞ。長芋は1cm角の角切りにしておく。大葉は細かく千切るか刻んでおくように。

 豚小間の大きい塊を千切って小さくしてから、醤油、味醂、酒、おろし生姜、片栗粉で下味を付けながら衣をまぶしていく。ある程度混ざった所で長芋と大葉を加えて混ぜ、全体を纏めていく。上手く纏まらない時にはつなぎの片栗粉を適宜追加して様子を見よう。

 全体が混ざって纏まったら、食べやすい大きさになるように当分して丸める。この時に角切りにした長芋が混じると拳骨みたいだったから拳骨揚げって名付けたんだけどな。

 後は中温に熱した油で揚げ、狐色になったら完成。




「ハイよ、『豚と長芋の拳骨揚げ』だ。多分日本酒よりもビールがオススメだぜ」

 いそいそと受け取った阿武隈は、その武骨な拳骨を1つ摘まんで齧りついた。ザクザクというハードな歯応えと長芋のホクホクとした食感。そこに染み出してくる豚の旨味と、衣の生姜醤油の塩気。

「うん、これはビールですね。提督、大ジョッキ!」

「おいおい、随分飲むなぁ。大丈夫か?」

「うん、へーきへーき!」

 ホントかよ。なんか物凄く解りやすいフラグが立った気がするぞ、今。
  
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