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風魔の小次郎 風魔血風録

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57部分:第六話 霧の中でその四


第六話 霧の中でその四

「私もそれが気になっています」
「そうですか。やはり」
 霧風はそれを聞いて納得した顔になる。彼の予想通りだった。
「そうだと思っていました」
「どうしたらいいでしょう」
「無理にでも食わせることです」
 霧風の出した答えはそれだった。
「何事も食べないとはじまりません」
「そうですよね、やっぱり」 
 そういうことだった。やはり食べないとどうにもならないのだ。
「ぞれじゃあ」
「あいつは今まで忍のことは何もわかっていませんでした」
「何もですか」
「誰でもそうなのです。最初は」
「そうなんですか」
「かつては私も」
 ここで霧風は顔を少し上げた。そうして空を見るのだった。晴れた青い空を。
「そうでしたしね」
「霧風さんもですか」
「そういうことです。けれど今を乗り越えたら」
「今を乗り越えたら」
「あいつはもっと大きくなります。もっと遥かに」
 小次郎を見ている言葉だった。それは今までよりも遥かに温かい。霧ではあっても暖かい霧になっていた。
 小次郎は絵里奈と会っていた。病室のベッドに並んで座って話をしている。
「小次郎暗いよ」
「そうか?」
「笑顔じゃないじゃない」
 絵里奈はこう小次郎に語る。
「笑わないと駄目だよ」
「あれ、笑ってるけれどね」
「笑ってないよ」
 しかし絵里奈は小次郎にまた言う。
「ほら、こうして」
「こうして」
 絵里奈はここで自分の両手の人差し指を小次郎の口の両端に付けた。そうしてそれで口を思いきり上にやるのだった。そのうえでまた言う。
「笑わないと」
「笑うんだな」
「笑わないと幸せになれないよ」
「そうか」
「それに人として大きくなれないよ」
 随分と大人びた言葉だった。
「それじゃ駄目だよ」
「絵里奈、御前って随分凄いこと言うな」
 小次郎は今の絵里奈の言葉に素直に感嘆する。
「そんなこと言う娘なんて俺はじめて見たぜ」
「そうかな」
「そうだよ」
 それをまた言う。
「御前、きっと凄いいい女の子になるぜ」
「有り難う。これお兄ちゃんにも言ってるんだ」
「ああ、御前お兄ちゃんがいたんだよな」
 前に話したことを思い出す。
「仕事してるんだよな」
「最近お仕事が忙しくて滅多に来てくれないの」
 そのことを話すと寂しい顔を見せてきた。
「それにいつも顰めた顔をしていて」
「ふうん」
「だからお兄ちゃんにもこうしてるんだ。笑ってって」
「お兄ちゃんにも笑って欲しいんだな」
「何かわからないけれどお兄ちゃんの仕事って辛そうだし」
 彼女は兄が何をしているのか知らない。無論小次郎も。
「だから。何時もそう言ってるんだよ」
「御前って本当に偉い奴だよ」
 小次郎はそれを聞いてまた絵里奈を褒める。
「そうだよな、笑わないとな」
「そうだよ、小次郎も笑ってね」
「ああ」
 久し振りに笑うことができた。小次郎は絵里奈と別れると笑顔で林彪のところに来た。彼は屋敷の一室で布団の中で静かに寝ていた。
「傷はどうだい?」
「ああ、かなりよくなった」
 枕元に来た小次郎に顔を向けて答えてきた。
「もうちょっとしたら起き上がれるな」
「そうか、ならいいがな」
「項羽も戻って来るんだろう」
「ああ、項羽の兄貴は少し時間がかかりそうだがな」
「そうか。その間苦労をかけるな」
「いいってことさ」
 絵里奈に教えられた笑顔で林彪に答える。
「俺も怪我していたしな」
「ははは、そういえばそうだったな」
 笑って小次郎に言うのだった。
「それはもういいのか」
「もう充分だぜ。任せておきな」
「御前に任せたらどんな馬鹿するかわからんがな」
「林彪までこう言うのかよ」
 馬鹿と言われて顔を顰めさせる。
 
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