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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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1期/ケイ編
  K epilogueⅠ この世界には歌がある

 “八千八声 啼いて血を吐く ホトトギス”

 その小さな鳥は、血を吐きながら、唄い続けるという。

 わたしの大切な親友も、唄を歌い続けた。
 血を流しながら、歌い続けた。

 わたしの大切な親友は、戦場で、歌を唄い続けた――

 そして、今。
 彼女たちの唄を継いで、歌っている人がいる。






 あの日から3週間。
 小日向未来は、学生鞄と小ぶりのキャリーケースを持って、駅前のロータリーにいた。

 ――リディアン音楽院は休校。学生寮は学舎ほどひどく破壊されてはいなかったが、好んで寮生活を続ける生徒はそうはおらず。未来もまた、親に言われて小日向の実家に一時帰宅することになった。
 身の回りの荷物を必要なだけまとめて、こうして迎えを待っている。――ちなみにその「迎え」は絶賛遅刻中である。

 手持ち無沙汰だった未来は、スマートホンを取り出して、画像フォルダをタッチした。

 ――いつの日だったか。ノイズの囮になった未来を、響が間一髪で救出した時に撮った写メだ。

(逢いたいよ。もう逢えないなんてやだよ。響)

 涙がこみ上げるのは、まだ親友の死を受け入れられないから。

 外であるにも関わらず、今すぐ泣き喚きたい衝動に駆られた未来だったが――周囲の人々が上げた悲鳴で我に返った。

 ――ノイズ。
 ロータリーを囲むようにノイズが列を成している。ヒトを殺すことのみに特出した知能は、未来やこの場の人々が逃げる道を的確に塞いで、出現を続けている。

 未来は迷わず荷物を捨てて、大声で叫んだ。

「落ち着いて! みんな駅舎の中に入ってください! 急いで!」

 恐怖で混乱した場にあって指針となるかけ声があったことで、人々は駅舎へと駆け出した。
 逃げ込む人たちを、未来は避難誘導した。もちろん未来自身も最後には駅舎に逃げ込むつもりでいる。自分が死んでは意味がないと知っていた。


“生きるのを、諦めないで”


 小日向未来は、親友の遺した言葉を、まだ覚えているから。

 ノイズはとろとろと、しかし確実に包囲を狭めてきている。焦る。早く、早く――()()()()()()()()()()()()

「―― 『supernova 広い宇宙 小さな星が生まれる瞬間』 」

 碧のレーザーサーベルが、未来を囲んでいた何十もの球体ノイズを斬り払った。
 花道のように開いた道路を、一人の武装した青年が歩いてくる。

「 『降り注ぐよ 君に一直線に』…………ケガはないか? 未来」

 そんなおよそ人間業ではないことをして未来を救った彼が、未来の義兄で特別な人、小日向ケイである。バイザーで顔を隠していたとしても、未来は、彼の歌声を聞き間違えない。

「うん。ケイが来てくれるって信じてたから」
「何だそれ」
「わたしとの待ち合わせに遅刻したんだから、埋め合わせはこれくらいしてくれなくちゃでしょ?」
「ハイハイ、俺が悪うございました。バイト先でトラブって上がるのが遅れたんだよ」

 ――響たちの捜索が打ち切られて、実質、ノイズと戦えるシンフォギア装者はケイ一人になってしまった。

 櫻井了子ことフィーネがいなくなっても、ノイズの脅威が尽きることはない。それらの脅威に、ケイは今日まで独りで立ち向かってきた。
 戦場から響たちの歌が絶えてからずっと、小日向ケイだけが歌い続けた。

「さて。ここからは俺の仕事だ」
「大丈夫なの?」
「さすがに数が多い。未来も隠れててくれ。異相差障壁は俺の歌で無効化する。籠城は可能なはずだ。――大丈夫。無茶はしない。装者はもう俺しか残ってないんだから」

 ケイの手にあったプリズムレーザーがキャノン砲に変形した。

 未来は避難をためらった。今、ケイから離れてしまったら、響のように二度と会えなくなりはしないか不安で。響がいなくなって、ケイまで戦いの内に命を落としたら、きっと自分は二度と立てない――

「! 未来ッ!」
「え?」

 ケイが未来を――未来の頭上を見て蒼然としている。手を伸ばそうとしている。
 未来もまた頭上を仰いで、まさに、自分の直上からノイズが落ちてきているのを視認した。反射的な回避さえ追いつくには遅い。このまま炭に――

 そのノイズが、黄金の光に消し飛ばされた。







 ケイはひたすら唖然とした。

 未来を襲ったノイズは炭になって吹き飛んだ。
 それだけではない。ロータリーを包囲していたノイズの群れも、蒼と赤の機影が全て斬り捨て、撃ち抜いて、全滅させた。

(おい。まさか。嘘だろ?)

 3色の光は、ケイと未来の正面に降り立った。彼らがよく知る少女たちのカタチをして。

 立花響が。
 風鳴翼が。
 雪音クリスが。
 ――帰ってきた。

「ごめん。いろいろ機密を守らなきゃいけなくて……未来にはまたホントのことが言えなかったんだ」

 未来は泣き笑いで走り出した。一直線に、響を目指して。そして、二人の少女は抱き合った。

(ちとばかし妬けるけど、まあ――よかったな。未来)

 ケイはその場に身を投げ出すように座り込んだ。ギアも解除した。緊張の糸が切れたのだ。この3週間、一人で、一度の失敗も許されない「仕事」に一区切りついたことに、腰を抜かして安心した。

「小日向」
「風鳴か。また会えて嬉しいぜ。おかえり」
「ただいま。装者のお前にまで隠していてすまなかった」
「正しい判断だよ。知ってたら未来にバラさずにはいられなかった」
「兄バカ。シスコン」
「そこは恋愛脳かスイーツと呼んでくれ。雪音も、おかえり。――これからは風鳴と雪音も一緒に戦ってくれるのか?」
「あたしは不本意なんだけどな!」
「頼もしいよ。まったく」

 ノイズの脅威は尽きることなく、小日向ケイの戦いが終わる時は見えない。
 未だ世界は災害が闊歩し、友に贈られたシンフォギアの真意は分からない。

 ――だとしても、確かなことが一つ。
 戦場に響く歌声は、もう一人分だけではない。 
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