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風魔の小次郎 風魔血風録

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41部分:第四話 白い羽根の男その十


第四話 白い羽根の男その十

「いいか、的はあそこではない」
 今弓を放とうとする選手の耳元に近付いて囁く。
「あそこだ」
 隣の的を指差す。
「あそこを射ろ。いいな」
「・・・・・・わかった」
 その選手はそれに応えて隣の的を射る。当然点は入らない。姫子と蘭子は弓道場の外に置かれている観客席からそれを見ていぶかしむのだった。
「蘭子さん」
「はい、おかしいです」
 蘭子は姫子が何を言いたいのかわかっていた。
「あの様なことをする者ではありません」
「それでどうして」
「夜叉か」
 そこにいた項羽が呟く。彼もまた観客席にいたのだ。
「やはりな。仕掛けて来たか」
「みたいですね」
 ここで麗羅が来た。彼はすぐに項羽の隣に来てそこに座るのだった。
「けれど一人みたいですね」
「そうだ。ならば行くのは俺だ」
「項羽さんが」
「御前は次の絵画を頼む」
 こう麗羅に告げる。
「ここは俺が引き受けた」
「わかりました。それじゃあ」
「さて、御前はあそこだ」
 白虎はまた催眠術を白凰の選手にかけていた。
「的は北条姫子だ。いいな」
「・・・・・・わかった」
 彼はそれに応えて矢を姫子に向ける。その瞬間に観客席から叫び声があがった。
「まさかいつ!」
「どうなったんだ!?」
「姫様!」
 蘭子がすぐに姫子を庇い彼女の前に出た。
「動いてはなりません」
「けれど蘭子だん」
「大丈夫です」
 右手に鞭を持って姫子に告げる。
「私がいます。それに」
「それに」
「風魔の者も」
 弓矢が放たれ姫子と蘭子に迫る。観客席の叫び声は絶叫になっていた。矢はそのまま飛んで行く。しかしそれは。蘭子の目の前に止まったのだ。
「夜叉だな」
「そうですね」
 項羽と麗羅がいた。項羽がその矢を左手で横から掴んでいた。それで止めたのだ。
「白虎か。麗羅」
「はい」
「さっき言った通りだ。いいな」
「わかりました」
 項羽のその言葉に頷く。項羽は弓道場を見据えていた。そのうえで。白い羽根を周囲に撒き散らしつつその場から姿を消したのだった。
 彼が次に姿を現わしたのは弓道場から離れた森の前だった。そこに一人立っている。後ろからは蝉の鳴き声が聞こえてくる。曇りの為光がなくそれが一層項羽という男の姿をそこに浮かび上がらせていた。
 しかしやがて。何者かが彼の前に姿を現わした。それはやはり白虎であった。
「八将軍白虎」
 彼はまず名乗った。
「風魔九忍の項羽だな」
「如何にも」
 項羽は白虎のその言葉に応えた。
「さっきは味な真似を見せてくれたな」
「ほんの挨拶だ」
 白虎は自信に満ちた笑みを項羽に向けながら答えた。
「どのみち貴様が止めると思っていた」
「そうか」
「それにマインドコントロールは俺にとっては遊戯に過ぎん」
「そうだな。夜叉においてとりわけ隠密行動を得意とする者」
 項羽はそれを知っていた。
「それが貴様なのだからな」
「わかっていれば話が早い。項羽よ、覚悟はいいか」
「覚悟か」
「その首この白虎が貰い受ける」
 木刀を出してきた。それを右手で構える。
「今ここでな」
「残念だがそれはできない」
「何っ!?」
「貴様にこの項羽を倒すことはできない。俺の舞の前に倒れるのだ」
「舞だと」
「そうだ」
 応えながら左手に何かを出してきた。それは。
「羽根か」
「これがこの項羽の舞だ」
 その白い羽根を白虎に見せてまた言う。
「そら、舞え」
 その羽根を前に飛ばした。羽根はひらひらと舞い白虎の前に来た。白虎はその羽根を冷然と見ていた。そのうえで侮蔑していた。
 
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