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風魔の小次郎 風魔血風録

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148部分:第十三話 暖かい風その七


第十三話 暖かい風その七

「夜叉は敗北を認めない狭量はありません。決して」
「決してですか」
「我等とて誇りはあります」
 その誇りが忍を忍とさせている。だからこその言葉であった。
「だからこそ。ここは」
「敗北を認めるというのですね」
「二言はありません」
 姫子に対してはっきりと断言してみせたのだった。
「ですから。もう」
「わかりました。それでは蘭子さん」
「はい」
 蘭子はまだ武蔵を怪訝な目で見ていたが姫子の言葉に応えたのであった。
「ではこれで」
「小次郎さん、帰りましょう」
「あ、ああ」
「魔矢」
 夜叉姫は立ったまま傍らの魔矢に顔を向けて声をかけた。
「すぐに全軍に伝えなさい。そして」
「そして?」
「武蔵に報酬を」
 このことも告げたのであった。
「用意しておきなさい」
「宜しいのですか?」
 魔矢は今の夜叉姫の言葉に怪訝な色で返した。こう返したのには根拠がある。何故なら彼は風魔を倒すという仕事を真っ当できなかったからだ。仕事が成功してこそはじめて報酬を得られる、傭兵の世界の不文律の一つである。
「構いません」
 しかし夜叉姫は言うのであった。
「武蔵は己の責務を果たしました。だからです」
「左様ですか」
「だからこそ。いいですね」
「はい」
 ここに及んで夜叉姫の言葉に頷く魔矢であった。
「それでは」
「いや、まだだ」
 だがここで。不意に声がした。
「!?」
「誰だ」
「俺はまだ闘う」
 武蔵の声だった。彼は己を取り戻してきたようであった。
「まだだ。まだ闘える」
「その必要はありません」
 その彼に夜叉姫が告げた。
「武蔵、貴方の仕事は終わったのです」
「いえ、終わっていません」
 その夜叉姫の言葉にすぐに返してきた。
「俺はまだ。小次郎も風魔も倒してはいない」
「既に戦いは終わりました」
 夜叉姫はあくまで現実を語る。
「我等夜叉の敗北です。そして貴方にも報酬が」
「俺は戦いの中でしか生きられない」
 しかし武蔵は言うのだった。
「絵里奈も。俺がいる限りは」
「悪いがな、武蔵」 
 小次郎はそれまで身体を武蔵から見て横にしていたが首を横に向けて彼を見て言った。
「絵里奈は死んだんだ、御前だってわかってるだろうが」
「いや、死んではいない」
 しかし彼はそれを認めない。
「生きている。だから俺は」
「まだやるっていうのかよ」
「言った筈だ、小次郎、貴様を倒す」
 黄金剣を中段に構えてきた。
「例え何があろうとな」
「そうかよ、じゃあこれで最後だ」
「よせ、小次郎」
「小次郎さん」
 小次郎もまた武蔵に身体を向けて中段に構える。その彼に蘭子と姫子が慌てた感じで声をかける。無論彼を止める為である。
「御前もに闘う理由はもうない」
「そうです」
 二人は必死に小次郎を止める。彼の横顔を見つつ。
「それでどうしてまだ風林火山を持つ」
「もう止めて下さい」
「生憎だがそうもいかねえらしい」
 小次郎は二人の方を振り向かず声で応えたのだった。
「同じ聖剣を持つ者同士、いやこれは運命か」
 武蔵との出会いを運命だと感じだしていたのだった。
「こいつとこの戦いで出会ったのはよ。運命だったんだよ」
「運命・・・・・・」
「運命だというのですか」
「これ竜魔の兄ちゃんには内緒だけれどよ」
 不意に竜魔の名前を出した。
「俺、兄ちゃんが嫌いだった」
「そうだったのか」
「ああ。何かっていうと忍だ忍だって。仕事仕事でな」
 風魔の長兄として常にこう言っているのが彼であるのだ。
「何が忍なんだって思ってな。けれどよ」
「けれど。何だ?」
「今少しだけわかった気がする」
 蘭子だけでなく姫子にも答える。
「忍が何かってな。だから俺は」
「闘うのですね」
「ああ」
 姫子に対して答えた。
「心配しないでくれよ。絶対死なねえけれどよ」
「絶対ですよ」
 少し不安を抱きながらも小次郎に言う姫子であった。
 
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