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風魔の小次郎 風魔血風録

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144部分:第十三話 暖かい風その三


第十三話 暖かい風その三

「その目だよ、その目で何をするんだよ!」
「また何か壊すのか!?それとも俺達を殺すっていうのかよ!」
「それは・・・・・・」
「だからこっち見るなよ!」
「化け物!消えちまえ!」
 ここでバケツから水をかけられる。水は冷たかった。だがそれ以上に。心が冷たかった。こうしたことが一度や二度ではなかったのである。
「飛鳥武蔵よ」
 夜叉姫だった。彼女が武蔵に微笑みつつ語り掛けてきていた。
「私は貴方のその力を高く買っています」
「高くですか」
「そうです」
 こう武蔵に語るのだった。
「貴方のその化け物の様な力を。買いましょう」
「有り難き御言葉」
「飛鳥武蔵か」
 壬生もいた。彼もまた武蔵に顔を向けて微笑んでいた。
「話は聞いている」
「そうか」
「普通の世界でも生きられず忍の血筋でもない。そしてその剣の腕は比類なきものだとな」
「少なくとも腕には自信がある」
 静かにこう述べたのだった。
「それ以外の。力もな」
「私は壬生攻介」
 己の名も告げる壬生だった。
「この世で最も鋭い剣を持つ者だ」
「この武蔵よりも上だというのか」
「ふっ、面白い」
 武蔵の今の言葉に不敵に笑ってみせた。
「御前とは心を割って話せそうだな」
「そうか」
「どちらにしろこれから御前の力使わせてもらう」
 既にこのことは決まっているのだった。
「わが夜叉の為にな」
「わかった」
 二人は頷き合いこの場は終わった。この日から夜叉での彼の戦いがはじまったのだ。
 多くの戦いを経てきた。その時ある噂も聞いた。
「伊達総司か」
「名前は聞いたことがあるな」
「ああ」
 壬生に対して答える。
「確か傭兵だったな。特別な力を持つという」
「貴様と同じか?」
「かも知れんな」
 自分でもそうではないかと思っている部分が確かにあるのだった。
「噂に聞く強さだとな」
「特別な剣も持っているらしい」
「剣?」
「そうだ。しかしその剣を見た者はいないという」
 伊達総司については多くの謎があるということであった。
「何故ならあの男と対峙した者は皆」
「死ぬのだな」
「そうだ。おそらくその強さはこの壬生や八将軍達にも匹敵する。
 こうまで言うのであった。
「飛騨の龍王院狂須、そして風魔九忍よりもだ」
「いずれも忍の中でも最強と謳われる者達だな」
「戦ってみたいか?」
 探るようにして武蔵に問うてきた。
「その伊達と。どうだ」
「生憎だが俺は契約以外では戦うことはない」
 しかし彼はこう答えて動こうという考えは見せなかった。
「生憎だがな」
「そうか」
「残念か?」
「いや、そうだと思っていた」
 だが壬生はこのことを当然と見ていたのであった。武蔵の今の言葉を聞いてすっと落ち着いた笑みを浮かべてみせたのがその証拠である。
「御前ならばそう言うと思っていた」
「俺ならばか」
「御前は確かに傭兵だ」
 このことは否定できない事実であった。
「しかしだ」
「しかし?」
「無闇に血を好む男でもない」
 壬生は既に武蔵のこうした性格を見抜いていたのであった。今それを彼に言うのだった。
「違うか」
「そう思うのなら思えばいい」
 肯定も否定もしない様子であった。
「御前がそう思いたいのならばな」
「そうか。ではそうさせてもらう」
「好きにしろ」
「しかし武蔵よ」
 背を向けてその場を去ろうとした彼の背中に対して声をかける。
「御前は本来は戦いたくはないな」
「俺は傭兵だと言った筈だが」
 あくまで本心を隠す武蔵であった。
「それでもだ。傭兵だからといって必ず戦いを好むとは限るまい」
「傭兵が為すことはわかっている」
「そうであってもだ」
 壬生の言葉は続く。
 
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