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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~

作者:DEM
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第十話 激突 ―エンゲージ―

 
前書き
 さぁ、いよいよ対決開始です! 

 
 今回のデュエルの舞台となるステージは市街地。なんと前回紗那と本気の勝負をした時と同じステージである。本気のデュエルをするときにはこのステージになるという妙な法則でもあるのだろうか。そんな妙なことをふと思った自分に心の中で苦笑し、思考を切り替えて気を引き締めた。

 さておきここは見晴らしは悪いが、その分隠れたり急に現れて奇襲したりと戦術的な戦い方ができる場所だ。腕前に開きがある分、その辺りのギミックで補うのがいいだろうな、と疾風は構えながら考えた。

(とはいえ、こっちが二人を見失う可能性もあるわけだから気を付けないと……)

 さてどう動くか、と疾風は思案する。今のところお互いに構えてはいるが、どこから切り込んだものか隙が見当たらない。特にショウの方は二刀流なので、下手に間合いに入れば瞬殺されて終わるだろう。となれば、まずは間合いの外からちびちび削るのが手か。が、離れたら離れたでシュテルの炎の餌食になるのではないだろうか。

 となると、結論は……

(出たとこ勝負だな)

 深く考えるのをやめることにした。考えても思いつかないのなら、とりあえず動いてみてからアドリブで相手に合わせて対応するのが疾風の主義だ。紗那は疾風に合せるつもりのようで、こちらの様子を窺っている。

 疾風は両手のリラから魔力弾を、ショウとシュテルの顔に向けて発射した。ショウは剣で弾を切断し、シュテルは空いている手で受け止めたかと思うと軽々と消し飛ばす。が、疾風はその隙に撃ちながら紗那と共に後退した。

「紗那、一旦退くぞ! 正面切って戦ってもどうせ勝てん!」

 頷き、疾風のようにリンクから苦無を射出して二人を狙う紗那。その状態を維持したままビルの影に入り、来た方向から目を離さないようにしつつ距離を離していく。

「疾風に合わせたけど、なんで顔狙ってたの?」

「このゲームにはヘッドショット判定とかはないから、純粋に視角の攪乱を狙ってみたんだ。……が、さすがにこれで振り切れるほど甘くはねぇか」

 疾風の言葉通り、後方からショウが二人の魔力弾と苦無を最小限の動きで回避、もしくは迎撃しつつものすごい速さで接近してきていた。……が、妙な点が一つあることに疾風は気付く。

「……? 夜月くんだけ?」

 なぜかは不明だが、シュテルが追ってきていなかったのだ。確かに砲撃主体の彼女ならばスピードもそれほどではないかもしれず、近接型のショウと等速で移動できない可能性もある。しかしそれにしても、彼の後方にすら姿が見えないとは……と、訝しげに思った時。紗那が急にリンクで何かを弾いた。

「何だ!?」

「小さい魔力弾! でも、いったいどこから……?」

 周囲を警戒する紗那に、一旦疾風はショウへの迎撃を中止して彼女に合流した。どこにいるかわからない場所から魔力弾を撃ってくるにしても、その後の追撃がなく一発だけというのは理に合わない。が、今も狙われていることは明白だ……

 そう思った時。目の前のビルがマズルフラッシュのように瞬いたのが見え、疾風はそちらを注視する。しかしビルに穴などはなく、太陽の光でも反射したのか……? と、疾風はもう一度光った場所を見ようとする。が、その瞬間。

 自分に向けて炎の奔流が駆け抜けてくるのが見え、疾風は目を見開いた。

「おわぁっ!?」

 間一髪のところで疾風は紗那を突き飛ばし、直前まで自分たちがいたところを通り過ぎて行った炎熱砲撃をかわした。回避したのがギリギリだったため、肌にチリチリとした熱気を感じる。これを食らっていたら下手をすれば一発退場だったろう、と二人は戦慄した。

「疾風! 今のって……」

「おいおい、まさか……」

 と、先ほどのビルを振り返る二人。美しかった窓の輝きは見る影もなく、先ほどの砲撃によってできた円形の穴ができていた。その縁は溶解しており、先ほどの砲撃がどれほどの高温によるものだったのかを示している。そしてその向こうには、デバイスを構えたシュテルが立っていた。そう、シュテルはビルの窓を通して二人の姿を視認して、まず小さな魔力弾によって道を開けた。それが、紗那が弾いた魔力弾の正体だ。その後本命の魔力砲撃を同じ場所に正確に放ち、二人を狙撃してきたのである。あの高威力の砲撃でかつこれほどの精密射撃を行うとは、いったいどれほどの努力を重ねたのか。

 などともはや感動しつつ、なんとか回避できたとホッとしたのも束の間。風を切るような音に疾風が顔をあげると力みのないフォームでショウが剣を振りかざしていて、疾風は慌てて対応した。

 二刀と二刀のぶつかり合い。互いに直撃をもらうことなく火花が散るが、純近接武器である剣を装備しているショウの方が徐々に疾風を圧倒し始める。そこに紗那もフォローに入るが、後ろにも目が付いているのかと疑いたくなるレベルで対応されてしまい、一撃すら入れることができない。

(だが、生憎こっちは銃剣なんだよな!)

 ただの近接戦では敵わないと判断し、疾風はショウの剣を左手の刃で受け流しつつ右手のリラでさらなる斬撃を……加えると思いきや、トリガーを引いて魔力弾を発射した。

「っ!?」

 さすがのショウも驚いたのか、無理な体勢での回避を余儀なくされる。その隙を逃すまいと紗那も後方から斬りかかるが、ショウは持ち前の超反応でそれを受け流す。疾風もそう長くこの状態は続けられないと判断し、今度は紗那に当てないようにしつつ銃撃と斬撃を織り交ぜて追撃しようとした。

 が、シュテルの砲撃が接近してきているのが見えて疾風と紗那はショウから距離を離さざるを得なくなり、飛び退る。

「せあッ!」

 避けたところでショウが紗那に再び襲いかかるが、紗那はとっさにリンクをツインダガーモードに変化させて受け流していく。だが反応が間に合ったとはいえ、技量の差があるのでそう長くは持たないだろう。その間に疾風はシュテルの妨害を防ごうと、リラで魔力弾を放ちながらシュテルの方へと向かった。全て回避されてしまうもそこまでは予想の内だったので、間合いまでどうにか飛び込み、リラで斬撃を叩きこもうとした……のだが。

 ガキン! という音が鳴り響く。シュテルにデバイスの方で受け止められてしまったのだ。だが近距離ならば分があるだろうと、疾風は勢いは殺さぬまま両手で攻め立てる。

「はぁあああっ!」

「…………」

 次々と斬撃を叩き込むが、シュテルは表情ひとつ崩すことなくデバイスをまるでバトンや槍を扱うかのごとく巧みに扱って受け流し、弾き、時折虚を突いて攻めてくる。

(くっそ、マジか。だろうと薄々思っちゃいたが近接戦も行ける口かよ……っとぉ!?)

「あぶなっ!?」

 デバイス同士で戦っていたと思いきや急に裏拳が飛んできて、疾風は後ろに仰け反って鼻先でかわす。しかも避けてから気付いたが、炎をその拳に纏わせていた。

「素手での格闘もできんの!? 死角なさすぎんよ君ら、堅いにもほどがあんだろ!」

「日々鍛錬を重ねていますので」

 若干パニクっている自分と違って涼しい声で返されてしまい、手は止めないものの焦りが募る疾風。一方紗那の方も、窮地に立たされていた。

(くっ……速すぎて攪乱する暇がない……!)

 正直なところ、疾風という身近な相手もいるので紗那自身は二刀流の相手との戦闘経験は割と豊富と言えるだろう。だからこそ目では追えているし対応もできていて、時には攻めることもできているのだが……どの打ち合いも紙一重だった。剣自体が見た目よりも重いのか一撃に思ったよりも威力と勢いがあり、何よりも振るわれる速度がケタ違いに速いのである。そのスピードに翻弄されて対応に集中せざるを得なくなり、ヘタに回避もできなければ分身などを使うこともできないという、ある種の膠着状態に陥ってしまっていたのだ。

(でも近接戦の技量じゃショウさんの方が上、どうせ押し切られるのがわかってるなら……いっそ!)

 覚悟を決め、紗那は今まで受け流していたショウの攻撃をあえて正面から受け、その勢いを利用して自分から後方に飛んだ。

「くぅっ!」

 衝撃が想定よりも強かったので声が漏れるが、こらえて紗那はショウに追いつかれる前にタイミングを逃さずスキルカードをロードする。その途端、濃密な煙が紗那を中心として充満し、離れた場所にいたシュテル達をも巻き込んで視界を奪った。そう、紗那が使ったのはスキル名“スモークスクリーン”、つまり煙幕である。

(これで、疾風が合流してきてくれればいいんだけど……)

「紗那!」

 策を口頭で伝えれば当然相手の二人にもスキルを使うことが漏れる。そのため疾風にも伝えずスキルを使ったのだが、正直なところ合流できるかは五分五分と思っていた。しかしどうやら杞憂だったようで疾風は難なく紗那と合流してきたので、紗那はホッとした。

「助かった、離脱するぞ!」

「うん!」

 煙幕に乗じてその場を離れ、いくつかのビルを隔てた影に隠れた二人。そろそろ煙幕が消える時間だが、周囲を見回しても追いついてきた様子がないところを見るにどうやら撒くことができたようだ。ようやく落ち着いて作戦会議ができる、と二人はホッと息を吐き出し、しかし安心したままではいられないとすぐに話し合いを始めた。

「さーてどうしたもんかねぇ。純粋に技量で戦っても勝てねぇのは100%見えてるし……やっぱ策でどうにかするしかないか」

「うん、私もそう思う。疾風、なんか案ある?」

「一応な。お前、デッキいつものやつか? アレ入ってる?」

 策があると言われて希望を感じた紗那だったが、疾風にアレと言われて一瞬首を捻った。が、すぐに思い当たるものがあったようで首を縦に振る。

「アレって……あぁ、もちろん。まぁあの二人に食らいつくとなればやっぱりアレくらいしかないよね……でも仕込みどうする? お互いまだ大して魔力使ってないけど、あからさまだと絶対バレるし……」

「だろうな。だがまぁ、アレが入ってるんならまだ行ける可能性はあるか。よし、こんな感じで行こうぜ……」

 と、疾風は紗那に自分の考えた策を説明し始める。それを聞きつつ、紗那も頷きながら彼の作戦を頭に入れていった。







「……物好きだなお前も」

「さて……何のことでしょう」

 一方こちらは対戦相手の二人。惚けるシュテルに対してショウは小さく息を漏らす。彼ら二人は追撃することはせず、元の場所に留まっていた。これまでにも煙幕を使っているデュエリストは数多く居た。また高火力の砲撃を放つことができるシュテルならば、煙幕を吹き飛ばすことは容易だ。故に、逃亡する二人を追おうと思えばいくらでもできた。

 しかしシュテルがその選択をしなかったということは、あの二人がどのようにこの逆境に挑んでくるのか見たかったのだろう。

「まあいいさ……楽しくなってきたとこだし」

「ふふ……先ほどの言葉、そっくりお返ししておきます。あなたも私に負けないくらい物好きです」

 二人のテンションこそ普段通りだが、口元には笑みが浮かんでいる。世間的にまだあまり有名ではないショウはともかく、シュテルは全国トップとして多くのデュエリストに知られている。それだけに臆せず正面から向かってくるプレイヤーはロケテストでも上位に居たメンツくらいだ。それ故に、あの二人の存在が嬉しいのだろう。

「あの二人……どう思いますか?」

「どうって……日向さんは何というか戦い慣れてる感じだな。誤爆の可能性もあるのに躊躇なしに近接戦闘でも魔力弾を撃ち込んできてたし」

 と、作戦会議ならばいざ知らず完全に普段と変わらない空気で話し出す二人。周囲に人が居たならばデュエル中だぞ、と突っ込まれていてもおかしくはないだろう。

「そうですね。銃剣は扱いが難しい武器の部類に入りますが、それを見事に使いこなしていました。普通は遠距離か近距離、どちらかに偏るものですが」

「バランス良く使えてるあたり意識して練習を重ねてきたのか、はたまたシグナムたちみたいに現実で本人が強いタイプなのか」

「どちらにせよ、油断大敵ですね。……もうひとりについてはどう感じましたか?」

「小野寺さんか……ユウキとのデュエルを見てたからおおよそ推測はしてたが、いざ目の前にすると予想より速いな。直線的な速さだけじゃなくて切り返しとか攻撃速度もなかなか……割と練度も高めだな。正直全部受け流されるとは思ってもみなかった」

「確かに……あそこまでのスピード型でありながら小回りの利く機動性もあり、かつ魔力弾の狙いも正確でした。かなりトリッキーな動きをされる方だというのは同意します」

 様子見していたとはいえ、それでも予想よりも遥かにガードが堅い。疾風と一緒に居ることが多そうなので、それによるアドバンテージがあるのだろう。だがそれ以上にショウの印象に残っていたのは……

「……普段とのギャップに1番驚いたが」

「……今の言葉には他意を感じますね」

「勘違いするな。他意はない」

「なら良いのですが……様子見とはいえ、日向さんよりも小野寺さんの方が幾分か斬撃が弱いように感じましたが。……あぁなるほど、好み故に無意識に加減してしまったと。ロリコンの上に年上まで好きとは、あなたも守備範囲が広いですね」

 表情こそ普段通り……というか、感情のない顔をしている。だが、ショウの方を露骨に見ようとしていない。もしかしなくてもシュテルの機嫌が悪くなっているのは明白である。

「待て……仮に様子見の差があったとしても何でそうなる。そもそも俺はロリコンじゃない……というか、出会った女子全員に色目を使ってるみたいな言い方をするな」

「あれだけ女子たちで周りを囲んでおいて違うと?」

「囲まれた覚えはあったも囲んだ覚えはない」

 普通ならば修羅場のように思えるかもしれないが、ショウの周りに居る女子はある意味普通の子達ではない。まともなようで剣術道場の娘だったり、商売的なノウハウを持つお嬢様だったり、意外と腹黒いお嬢様だったり……普通と言えるこの方が少ないのではないだろうか。
 このことを疾風達は知る由もないわけだが……そもそもデュエル中だというのに緊張感のないことこの上ない。まぁ視点を変えれば、強者の余裕と言えなくもないのかもしれないが。

「……まあそういうことにしておきましょう。あのお二人もそろそろ準備が終わった頃でしょうから」

「相変わらずマイペースな奴だな……まぁいい」

 一方的に会話を切ったシュテルにショウは深いため息を吐くが、彼女の言うようにそろそろ対戦相手の二人が動き始める頃だろう。それを理解しているだけに、いつまでものんびりとしているわけにもいかない。そんな時、シュテルはふと思い出したように口を開いた。

「……そういえば、どことなく似ていますね。海鳴の彼女たちに……」

「ん? まぁ……バリアジャケットも白と黒だしな」

 思い当たる者がいたようで、あまり時間を空けずにショウは同意した。シュテルの言った“彼女たち”にすぐ心当たりが浮かぶあたり、彼の中での“彼女たち”なる人物たちはそこそこ大きな存在なのだろう。それだけにまたシュテルから突かれるかと思ったが、シュテルの表情を見る限り茶目っ気は身を潜めていた。

「偶然なのですが……ブレイブデュエルは面白い縁を運んでくれます」

 そう言うシュテルの口元は綻んでいる。まぁその気持ちもわからなくはないな、とショウもつられて少しだけ笑った。

 ロケテストからブレイブデュエルをプレイしている二人にとって、もはや全力を尽くしての敗北という言葉はほぼ縁がないものと言ってもいい。すぐ傍に全力を尽くせる相手が居ても、さらに高みへと昇ってからの再戦を願っているだけに剣を交えようとしていないのだから。

 加えてゲームにおいて強いプレイヤーというものはゲームがある程度進むと必然的に固定されていってしまうので、決まったメンバーでプレイすることも多くなっていく。つまり対戦相手に顔見知りが増えていくため、マンネリ化とまではいかないが、新鮮味を感じることは少なくなっていくのだ。強いが故の悩みの一つである。

 その点今回のデュエルは新鮮さがある。今自分たちが相手にしているタッグが予想以上の力量を持っていたのも理由ではあるのかもしれないが、もしかしたらお互いが背中を預けて戦っていることも理由かもしれない。心の内に差はあれど、少なくとも海鳴市から来た甲斐はあったと互いに思っていることだろう。

「……来たみたいだな」

 姿を隠していた疾風と紗那がビルの向こうから現れる。すぐに仕掛けてくるかと思ったが、飛翔してきた二人はただそのまま飛び続け、堂々と姿を晒して少し距離を置いた場所で静止した。

「作戦会議は終わりましたか?」

「まぁな。君たちほどの実力者に挑むんだ、さすがにノープランじゃキツいよ。……その様子を見る限り待っててくれたみたいだけど」

 問いかけてきたシュテルに飄々と返す疾風。

「別に待ってはいませんよ。うちの相方が適度に構ってほしがる甘えん坊だっただけで」

「シュテルさん……甘えん坊なんだ」

「別に甘えた覚えはないので鵜呑みにしないでください」

 高まってきていた緊張感が再び霧散していく。が、ある意味これも強者たちなりのもてなし方なのかもしれない。無駄に緊張しては本来の力が発揮できないのだから。

「さぁ、お互い体もあったまってきたところで……本気……は最初から出してたけど、ギアを上げて第二ラウンドと行こうじゃねぇか!」 
 

 
後書き
 ということで、バトルは後半戦へと続きます! どちらが勝利するのかお楽しみに!

 まぁ本来は一本に纏めようかと思ったんですが、余裕で1万字オーバー……どころか1.6万字くらいになっちゃったので分割することにw 数日後には後半戦を上げられると思います。

 ちなみに本来engageって交戦するって意味なんですが、まぁ語感が気に入ってただけなんであんまり気にせんでくださいw GODだかでバトル突入する時に入る文字がカッコいいなって思ってて、コラボキャラってことで使いたかったんですw 
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