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ハイスクールD×D 黒龍伝説

作者:ユキアン
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  13話


「うわぁ~、全身刺青、しかも悪魔や悪を示す物ばかりを複雑に絡められてるのか」

鏡に映る自分を見て状態を確認する。

「能力に変わりはなし。肉体はまんま英霊か。魔力ラインが無いのは会長が魔術回路を持たないからか。とりあえずは肉体は器を作って憑依する形でいいな」

自己診断を終えて魔力で服を構築する。標準装備が蛇龍のコスチュームというのがオレ自身をよく表している。ゴーグルを首にかけて、口元を覆っているマフラーを下ろし、フードを外す。

「あ~、刺青が目立つな。しばらくは隠しておくか」

ゴーグル類を再装着し直してから部屋から出て会長達の元へと向かう。部屋に入ると同時にレオとオーフィス、それにスコルとハティが飛びかかってきたのでオーフィスを背中に抱きつかせ、レオを抱きかかえ、スコルとハティを両脇に侍らせて頭を撫で回してやる。

「ご心配をおかけして申し訳ありません」

「許す許さないは一先ず脇に置いておきます。まずはお帰りなさい、匙」

「はい、ありがとうございます。なんとか戻りました」

頭を深く下げて謝罪する。今回の件は完全にオレのミスと油断からきているからな。修学旅行の後に地獄の果てまで追いかけて狩り殺しておけばよかった。

「体の方は無事なのですか?」

「それなんですが、全快ってわけじゃないんです。いや、ある意味では全快?」

「サマエルが現れる直前と比べるとどうなんですか」

「異常の一言ですね。なんと言えばいいか、あ~、今のオレはマテリアル体を持たない存在になってます」

「もっと分かりやすく」

「一番近いのが幽体離脱状態?でもアストラル体とエーテル体だけでマテリアル体に干渉可能ですね」

「後半をもっと分かりやすく」

「幽霊なのに触れるし触られる状態です」

「全然無事じゃないですか!!」

会長が投げてきたカップを一瞬だけ実体化を解いて回避して、抱きつくものがなくなり落ちそうになった二人をキャッチする。

「見ての通り、意思一つで完全に幽霊状態に」

「元に戻れるんでしょうね!!」

「材料さえあれば。マテリアル関係のストックが空なんでどうしようもないんですが、材料さえあれば元の体を再構成できます」

「その材料は?」

「水35L、炭素20kg、アンモニア4L、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素。最低限これだけあればなんとか。むしろ多ければ多いほどいいですね」

修復材のストックとして。

「すぐに用意させます。他にサマエル現れる前と比べて違うところは?」

「令呪。使い捨ての絶対命令権に関しては理解されてますよね」

「ええ」

「ならそれを省けば、ヴリトラが死にました。魂の一欠片も残さずに消滅してしまいました。どうすることもできません」

ヴリトラは最後までオレに付き合い、全ての力をオレに託し、龍の属性を出来る限りオレから奪い取った。それでも、オレの存在はチリのような残滓しか残らなかったが、それを利用して逆召喚してあの世界から帰ってこれた。オレが今ここにいるのはヴリトラのおかげだ。

「だから、ヴリトラがこの世に存在していたことを証明するために黒蛇竜王の名を引き継ぎます」

ヴリトラの生きていた証を少しでも残すためにオレは黒蛇竜王を引き継ぐ。

「そうですか。それに関しては匙の判断に任せます。それから、何故顔を隠しているのですか?」

「刺青、魂に刻まれてるみたいで消せないんですよ。利用方法は模索中です」

「いえ、利用しなくていいですから」

だが断る。こっそり裏で研究・開発するか。










「匙!?もう大丈夫なのか」

「すまんな。世話になった、兵藤、ヴァーリ」

「たいしたことではない。むしろすまない。オレたちがもっとしっかりしていればあのような状況に陥ることはなかったのだが」

「いや、オレも残党狩りを放ったらかしにしていたからな。修学旅行の後に追撃をかけておくべきだった」

「いつもなら否定するところだけど、今回のことを考えるとな」

「ああ、そう言えばお前たちに問題は?とりあえずオレの問題はある程度は片付けたが」

「「ある程度?」」

「また身体も魂も神器も変化したからな。それの調整とか限界を調べたりするのがまだでな」

「また変化してるのかよ!?どこまで変化するつもりなんだよ」

「あと2~3回で済むといいなぁ。会長とセラフォルー様からの説教とその後の説得が辛いから」

「怖くねえのかよ。変わっちまうことに」

「今更だろ?人間やめて転生悪魔になって、よく分からない器みたいな存在になって、幽霊になって、ダークマターみたいな存在になって、今は人形に憑依してる形になるからな」

「ごめん、オレも付いていけないわ」

オレも自分で言っててちょっとだけ引いた。ヴァーリも顔をしかめている。

「それで世話になったついでなんだが、ヴァーリ、頼みがある」

「今回はオレたちの失態でもある。何を望む?」

「残党狩りだな。情報が入ってな、まだ英雄派が5、6人生き延びている。そいつらの排除だな。オレはしばらく動けん。というか、動かしてもらえない」

「会長たちに?」

「それもあるが、冥界の老害共がな、オレを危険視して存在ごと封印しようとしてやがるらしい。オレとしては強引にやってくれれば反撃して殲滅できるんだが。被害が大きすぎるからと却下された。無念だ」

「ヴァーリ、急げ!!これ以上匙を暴れさせたら本当にどうなるかわからないぞ!!」

「分かってる!!日常の方は任せるぞ!!」

慌てて駆け出すヴァーリにこの話をした途端にオレを取り押さえた生徒会のみんなと同じ必死さが伺える。












久しぶりに猟に出かけた結果、そこそこ大きい猪が狩れた。とはいえ、ストックも多いので少し処分に困る量ではある。さてと、どうするか悩むな。生のままで配るのはアレなので加工するのが一番だろう。

「よし、全部ベーコンに加工するか。ついでに色々と燻製するか」

「「燻製?」」

「そういえば見せたことはなかったな。たまに黒歌がつまみにしていたぐらいか。簡単だし作ってみるか?」

「「うん」」

さて、どのタイプの作り方にするか。やはり家庭でもできるやり方かが一番か。え~っと、桜チップは残ってるな。なら土鍋と網とカセットコンロとアルミホイルを用意してっと、庭で作ればいいか。材料は肉は下処理に時間がかかるから鶉の卵とチーズでいいか。まずは土鍋の底にアルミホイルを敷いてその上にチップを置く。蓋をしてから、カセットコンロの火をつける。その間にチーズは底側のアルミを残して剥いて網の上に並べ、鶉の卵もゆで卵にしたあとに網から落ちないように並べる。

「ちょっとだけ離れてろよ」

二人を鍋から遠ざけて、右手に網を持ち、左手で蓋を開けて素早く網を蓋で挟み込む。そしてアルミホイルで密閉して火を止める。

「あとはこのまま1時間ほど放置で完成だ。その間に肉の方の下準備をしようか」

キッチンに戻り、しっかりと手を洗ったあとに肉の下準備を始める。二人にブロック肉とフォークを渡して均等に穴を開けてもらっている間にスパイスを調合する。まあ、スパイスといっても塩と砂糖と胡椒だけのシンプルなものだ。見た目通り子供っぽい舌をしているオーフィスやレオでも食べやすいように胡椒の量を減らして砂糖の量を若干だけ増やしておく。それとは別に胡椒や刺激が強いスパイスをたっぷりと使った物も用意しておく。どこぞの黒猫か猿が引っかかって痛い目にあうだろうが、知ったことではない。

穴あけの途中でレオがギブアップしたのでラインを使って一気に穴あけを終わらせる。それが終わったブロック肉に先ほどのスパイスを擦り込み、大量のジップロックにローリエの葉と一緒に空気を抜いて密閉していく。とりあえずはこれで終了だな。あとは、一週間ほど地下の冷蔵庫に放り込んで熟成させる。後片付けを済ます頃には庭の燻製が出来上がっている時間になっていた。

庭に出てアルミホイルを外して蓋を開ければ綺麗に燻製された卵とチーズが現れる。網をテーブルに置いて、土鍋をラインで片付けておく。

「ほら、これが燻製だ。煙で燻す、煙を擦り込む?まあ、そんな感じの調理方法だ」

チーズを手に取って千切って口に放り込む。うん、桜の香りがマッチしてるな。さてと、食い終わったらダンボールを切り張りして巨大な燻製機もどきを作らないとな。チップも買いに行かないと。いや、小屋の方に置いてたな。取ってきて砕けば良いだろう。

「あ~、ずるいにゃ!!三人だけでそんな物を食べて」

黒歌が帰ってきたか。網の上を見れば既に何も残っていなかった。二人とも気に入ったのか、黒歌が帰ってきた途端、急いで口の中に詰め込んでいたな。

「ほれ、食いさしで悪いがこれしか残ってねえよ」

手元に残っていたチーズを投げてやるとオーフィスが飛びついて口に入れてしまった。ため息をひとつついてからオーフィスにゲンコツを落とす。

「痛い」

「行儀が悪い。手でキャッチしてからにしなさい」

ゲンコツを落としたところを手で押さえながらオーフィスが答える。待て、痛いだと?

「オーフィス、それは本当に痛かったのか?それともそういう風に真似をしているだけなのか?」

「本当に痛い。びっくりした」

つまりはオレの力がオーフィスの力に干渉できるというか、まさか、『無限』すらも吸収したのか!?黒歌も理解したのかかなり嫌そうな顔をしている。

「黒歌、黙ってろよ。巻き添えをくらうぞ」

「分かってるわよ。なんでそんな面倒事を引っ張ってこれるのよ」

「知るか!?いや、知ってるわ!!」

「知ってるの!?」

あれしかないだろうな。オレの唯一固定されるステータス。

「オレの幸運値、S、A、B、C、D、Eでランク付けると最低のE+++だからだな」

「+って?」

「条件付きで+分ランクの上昇。元が低いから+でも変な方向に作用してるんだろう」

「確かにオーフィスにも対抗できるっていうのは戦力的には+、でも政治的にはー。なんとも厄介だにゃ~」

「そこらへんは諦めた」

存在自体が厄介な存在だからな。今更厄介ごとの一つや二つ増えたところでどうってことないわ。まあ、会長とセラフォルー様に呆れられると思うけど。そんで小言を貰って、他の秘密もまとめて吐かされるまでがセットだ。

「そのはずだったんだが、何がどうしてこうなった」

「匙、口答えしない」

今、オレは会長の自室に呼び出され、両手両足をベッドの足に手錠で拘束され、令呪まで使われた状態だ。

「それよりも、令呪をそんな簡単に使ってよかったんですか?」

「ああ、それなら問題ありませんよ」

そう言って、会長が左腕の袖を捲り上げる。そこにはびっしりと令呪が浮かび上がっている。ざっと数えても30以上。

「なに、それ!?」

「ふふふ、生成方法を編み出しただけです。ある程度の時間と魔力があれば量産は可能となりました。誰にも、お姉さまにも話していませんが。ああ、匙も黙っておいてくださいね。むろん、令呪をもって命じます」

拘束された時と同じように、自分の中で何かのロックがかかったのが分かる。本当に令呪を量産したのか!?

「オレをどうする気ですか?」

「ずっと考えていました。匙、貴方も分かっているでしょうけど、貴方はどうしても自分の命を他人の命よりも軽く見てしまう。だから、貴方の命を重くします。心まで令呪で縛るのはしたくありませんから」

そう言って、会長がオレにキスをしてくる。それも舌まで入れてくる。突然のことで反応ができない。

「な、なにを」

「言ったでしょう、命を重くするって」

会長が服を脱ぎ捨てて宣言する。

「匙には私の純潔を奪ってもらいます。それがどういう意味か、匙なら分かりますよね」

その言葉に嫌な汗が流れる。

「だ、ダメです。今は、まだそれは」

「ダメです。このまま放っておいては、また匙を失ってしまうかもしれない。兵藤君たちよりも、私は匙を優先したい。だからこれは必要なことなんです」

会長が、オレの服も脱がしながら首筋や鎖骨、胸へと上から下へとキスでマーキングをしていく。

「お願いです、会長。やめてくれ。だめなんだ」

「匙?」

あと少しで下着まで剥がされそうになったところで、ようやくオレの異変に気付いてくれたようだ。

「どうしたのですか!?そんなに真っ青な顔をして!?」

慌てて手錠を外してくれ、流れている嫌な汗を乱暴に拭う。

「はっ、ははは、最後の隠し事って、奴です。幼少期の、トラウマがね。あのクソ共、よくやってて、ちょっとでも気を向けられると、色々やられて。それを思い出しそうになって、昔っからダメなんです」

「匙」

会長が申し訳なさそうにしている。まさかこんなことをされるなんて思ってもみなかったから、隠していた最後の秘密を知られ、こんな顔をさせてしまった。

「情けないですよね。これだけの力を持っているってのに、未だに幼少期のトラウマを引きずってるんですよ。すみません、会長が、オレのためを思ってくれてるのは分かるんですけど、それでも」

そこまで言った所で抱きしめられる。

「私の方こそ焦っていたようです。少し考えてみれば妹さんのこと以外にもトラウマがあってもおかしいことではなかったはずです。それなのにトラウマを抉るようなことをしてしまって。ごめんなさい」

違う。そうじゃない。あえて見ないふりをしていたのだ。オレは、誰かと一緒に歩むことはないと思っていたから。でも、今は違う。オレの周りには多くの人がいる。オレはもう、一人ではない。だから、過去に決着をつけよう。

「いえ、これも良い機会なんでしょう。今まで、引き延ばしてきましたけど、決着、付けます。その、こんな身体になったってのに、それでも受け入れてくれるって、行動で示してもらえて、嬉しかったですから」

抱きしめられているのを良いことに、顔を合わせては言いにくい言葉を伝える。普段は、絶対に口にしないような言葉に会長が慌てているのが分かる。

「それと、一つだけ頼みたいことが」








「お久しぶりです、木之本先生」

「えっ、元士郎なの?見た目はあまり変わっていないけど、随分と変わったのね。立ち話もなんだから中に入りなさい。そちらの方もご一緒にどうぞ」

リビングに通され、コーヒーが入れられる。そこでようやく話が始まる。

「本当に変わったわね、元士郎。ここを出て行く前とは別人のように丸く、逞しくなりましたね。それから隣の方を紹介してもらってもいいかしら?」

「ここ1年で良い出会いと経験がありまして。こちらオレの通っている学園の生徒会長の支取蒼那先輩で、あ~、その~、あれです」

「将来が確定している仲です」

「将来が、確定している?誓いあってるとかじゃなくて?」

木之本先生の疑問はごもっともだ。普通なら誓いあってるだろうが、オレは既に外堀から本丸まで完全に落とされている。前回監禁されたのが月曜日、今日は土曜日なのだがその間に完全に封じられたと言っても過言ではない。別に構わないんだけどな。その、ソーナと一緒になれるんなら嬉しいし。

「婿入りが確定しました。籍も、来年のオレの誕生日に入れることになりまして」

「何があったかは聞かないけど、お金の問題とかは大丈夫なの?まだ学生なのよ」

「それがそっちの方にも困らないようになりまして。卒業後の内定も貰ってまして、既に働いてる状態です」

「本当に変わっちゃったのね。それで、今日は彼女の紹介かしら?」

「それもあるんですが、本題は別にあります」

緊張で喉が渇く。言え、たった一言のことだ。それなのに、体が動かない。未だに、あの二人は、オレにとっては最悪の相手だ。悪魔を滅する聖剣よりも、はるかに最悪だ。まともに対峙できるかすら怪しい。その恐怖が、オレを硬直させる。そんな時、ソーナがそっとオレの手を握ってくれる。オレなんかを受け入れてくれた最愛の人。過去に決着を。未来への、ソーナと共に歩む未来のために。木之本先生に、オレの育ての親に、恩人にオレはもう大丈夫だと安心させるために。オレ自身が親離れをするための儀式なんだ。一度深呼吸をして体をほぐす。

「オレの生みの親共と決着を、絶縁を叩きつけに行きます」

「……そう。来るべき時が来たのね」

「はい。今までは、オレはずっと後ろを、守れなかった妹を見て歩んできました。今年の夏にソーナと、そのお姉さんのおかげで妹に縛られないようになりました。そして、前を向いて歩き出すために過去の全てに決着を付けます」

木之本先生が、オレを獣から人に戻してくれた恩人が、オレの瞳を覗いてくる。そして、今だからこそ分かる。この人は超一流なんて言葉が安っぽいほどの、超越している魔術師だ。オーフィスの力を持って初めて分かった。そして、その莫大な力をほとんど封じて、一人の人として子供たちを癒している。

「本当に逞しくなりましたね。それに支えてくれる人を得られたこともよかったです。本当は、貴方を院から出すかどうかは悩んでいました。貴方は、子供達の中で一番傷つき、一番大きな力を持っていました。そして、それをコントロールするだけの心も。このまま変化させずに生涯を終わらせるほうがいいのか、それとも良い方向に行く可能性にかけて外に出すか。私は貴方自身に任せました。その判断は正しかったようです」

「木之本先生」

「本当に良い出会いだったようですね。私は嬉しく思います」

そう言って、木之本先生は書類とメモを取り出してオレに渡してきた。

「面会に必要な書類と収監されている場所のメモです。決着、付けてきなさい」

「はい。木之本先生」

書類をカバンに入れて席を立つ。書類の面会日が今日の午後からとなっていた。時間はそれほど残ってないな。席から立ち上がり、暇を告げようとして、ふとヴリトラとの最後の会話を思い出す。

「木之本先生」

「なんですか?」

「決着がついたら、母さんって呼んでいいかな?」

「ふふっ、もうそんな歳じゃないのよ」

「関係ないさ。ダメかな?」

「いいえ、いいわよ。いってらっしゃい、この後は少し忙しいから、また明日帰ってらっしゃい」

帰ってらっしゃいか。そうだな、ここはオレのもう一つの家だ。

「行ってきます」









久しぶりにオレを生んだ女を見て、怒りや恐怖よりも虚しさが胸中に広がった。何も変わっちゃいない。攻撃的で自己中心的でヒステリック。おまけに舌打ちまでしやがるか。何の進歩もない。オレは、この程度の存在に怯えていたのか。

「面会時間は10分だ」

そう言って看守が部屋の隅に移動する。

「で、誰よ、貴方は」

ダメだ。話す価値もない。用件だけ告げて二度と会わないでおこう。

「お前が生んだガキだよ。絶縁を叩きつけに来た。まっ、生んで多少は育てたかもしれねえからその分の金をくれてやる」

用意しておいた通帳と判子に暗証番号を書いた紙を取り出す。

「2000万円用意してやった。二度と会うことはねえよ!!」

看守に通帳類を渡すように頼んで面会を打ち切る。そして次に男の方との面会だが、こちらは更にひどかった。ヤク漬けで、まともに会話すらできなかった。とりあえず男の方にも2000万円を渡して面会を終える。刑務所の外で待っていたソーナが何かを言っていたが何も頭に入ってこない。家に戻り、ソファーに体を預ける。レオ達が心配そうに側にやってくるが、何も返してやれない。

大きな音と両頬に痛みが走る。いつの間にか、目の前にセラフォルー様とソーナが立っている。

「指が何本立っているかわかる?」

「右手が2、左が1です」

「うん、やっと戻ってきた」

「戻ってきた?」

「時間、もう深夜の2時だよ」

言われて時計に目をやると確かに深夜の2時だった。

「ぼうっとしていて、みんな心配してたんだよ」

「すみません」

素直に頭を下げる。

「何があったの?」

「……あの男女に会ってきたんです。酷いものでした。心のどこかで、いや、■■■■■は信じていたんでしょう。だけど、やっぱり裏切られて、何も考えたくも感じたくもなくなった。それに引っ張られてた。黄昏の聖槍に貫かれるよりも綺麗に穴が空いてる感じだ。そう、ヴリトラを失った感じに似ている」









まずい。大戦終了後にこう言う症状を発症する人を見たことがある。死人に引きずられちゃってる。多分、■■■■■君は瀕死の重傷だろう。このままだと元ちゃんまで壊れる。まずは言葉だけである程度立ち直らせる切っ掛けを与えなくては。その後は、ソーナちゃんに丸投げかな?意外と嫉妬深いからね、ソーナちゃんは。

「元ちゃん、こっちを見て」

だるそうにしながらも元ちゃんがこっちに視線を向けてくれたので、そのまま抱きしめてあげる。

「今まで頑張ったね。■■■■■君の代わりに。元ちゃんはもう十分頑張ったよ。■■■■■君も今はゆっくり休ませてあげて。これからは■■■■■君の代わりじゃなくて、妹さんの代わりでもない、元ちゃん自身が生きてあげて」

「オレが、生きる?」

「自分自身のために、誰かのためじゃなく、元ちゃん自身の心に従って」

「オレの、心。オレは、オレは、ただ会長の、ソーナの傍に」

よしよし、瞳に光が入った。これで周囲が、この場合はソーナちゃんが支えれば立ち上がれる。ソーナちゃんに目で合図だけを送って離れる。さてと、あとは若いお二人に任せましょう。ほらほら、レオ君とオーフィスちゃんにスコルとハティ、今日は二人っきりにさせてあげるわよ。こらっ、そこの黒猫も。覗きに行こうとしない。今日はパアーッと飲むから付き合いなさい。

ハァ~、妹に先を越されるかぁ~。元ちゃん、お婿さんには最適なんだけどねぇ~、姉妹で囲い込むとか悪魔的にOKだけど、ソーナちゃん嫉妬深いからなぁ~。貴女も気をつけたほうがいいわよ。迂闊に手を出すと嫉妬の炎で灰すら残らないわよ。なんか最近、元ちゃんの力を強引に自分で使えるようにしてるみたいだから。
 
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