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ハイスクールD×D 黒龍伝説

作者:ユキアン
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  4話

「匙、体育館の方が何やら騒ぎが起きている様です。穏便に解散させてきて下さい」

「了解です」

公開授業と言う外部から多くの人が、まあ悪魔も混じっているのだがトラブルが発生する確率が高いこの日の為に色々と準備していたのだが、やはりトラブルが発生したようだ。

会長はこの後、グレモリー先輩の父親と兄であり魔王であるサーゼクス様の案内があるのでオレがトラブルの処理に当たる事になる。先に透明なラインを体育館に伸ばして様子を確認する。

「えっ?」

「どうかしましたか、匙?」

「……失礼ですが会長、ご家族の方は来校されてますか?」

「……まさか、私より背が低くて、あ~、その」

「アニメの魔法少女が着ている様な服を着て色々とポーズをとっています。それを男子生徒が撮影会みたいな感じで集ってるみたいです」

会長が頭を抱えている。ということはやはり知り合いだったか。

「お姉様ですね。匙、生徒会室に案内して相手をしておいて下さい。案内が終わり次第戻りますので」

「了解です」

「あと、出来るだけ人目につかない様に」

「出来る限り努力します」

とりあえず校舎中に透明なラインを展開してルートを算出しないとな。結構きつい。それでも会長からの指示だからな、頑張らないと。




「ほらほら、解散解散。今日は公開授業なんだぞ。こんな所で騒ぐな!!兵藤達みたいに縛り上げるぞ!!」

蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く男子生徒を見送った後に会長のお姉さんに向き直る。格上の存在に会うのも慣れちまったなぁ。ルキフグスさん並の強さだよ、この人。いや、悪魔だったっけ。

「生徒会庶務の匙元士郎です。会長より生徒会室に案内する様に言われております。御同行願えますでしょうか?」

オレが話しかけると先程までの笑顔が消えて、観察する様な冷たい視線を向けられる。

「へぇ~、君が匙君かぁ。本当に人間なんだね。しかも、その歳にしては珍しいタイプの。大戦期以来かな、本当の意味で常在戦場の心構えで動いている人間なんて」

そう言って会長のお姉さんは指を何かをなぞる様に振る。背中に嫌な汗が流れる。今、なぞった何かはオレが本気で隠蔽している奥の手である合宿中に兵藤から奪い取った64倍化を保存している5本のライン。それの存在が全てが知られた。

「グレイフィアちゃんから違和感を聞いてなかったら気付けなかったから誇っていいよ。これでも私、魔王様だもん♪」

冷たい視線から笑顔に戻り、緊張が解ける。警戒は全く解けないが。

「ありゃりゃ、これでも解かないんだ。まあいいや、確認出来たし☆それじゃあ、エスコート、お願い♡」

「……こちらになります」

会長の指示通り出来る限り人目につかずに不自然ではないコースで生徒会室に案内する。会長が戻ってくるまで時間があると思うので紅茶の用意をする事にした。ポットとカップを温めてから適量の茶葉を投入。熱湯を注いでしばらく放置。その間にお茶菓子を用意して先にお出しする。紅茶の方も準備ができたので砂糖とミルクを添えてお出しする。生憎とレモンはない。

「男の子なのに手慣れてるね。時計も見てないのに紅茶も完璧にしあがってるし」

「紅茶を入れるのに時計なんて必要なんですか?」

「え?」

「え?」

「えっと、紅茶の葉が開ききってから注ぐのが良い紅茶の注ぎ方で、種類によって時間が変わるんだけど」

「臭いでなんとなく分かるんで、時間はあまり気にした事が無いです。五感で鍛えられる物は可能な限り鍛えてるんで」

「鍛えてるって、そんな所まで鍛えてるの!?」

「こっちの世界に入ってからはあまり必要性を感じなくなりましたけど、鍛えていて損は無いはずですので」

基本的にはぐれは知能を失っている事が多い上に悪魔も脳筋が多い。転生悪魔もその傾向が。そう言えば教会から送られてきていたあの二人も。あれ、脳筋じゃないのって会長と副会長以外知らないぞ!?そう、小細工をするのは力の無い者がする事だ。そう思っておこう。オレは常に小細工や一般的に卑怯と言われる行為をガンガン行っていくつもりだ。プロレスで言うヒール役だ。

「もしかして、狩りの時に役立ってる?」

その一言で思考が停止する。

「……何処でそれを?」

「ソーナちゃんに男の影が出来たって聞いた時から色々と調べさせたからね。その、最近の懐事情とかも」

「会長には内密にお願いします」

「さすがにそっち方面では頼り難いもんねぇ~。まあ、それもすぐに解決するから問題無いよ♡」

「それはどういう?」

「悪魔は成果主義な一面があるからねぇ、結果を出している以上それに対する報酬があるの☆期待してて良いよ♪」

「はぁ、分かりました」

それからしばらくはたわいもない話をして会長を待っているとグレモリー先輩の父親と兄であり魔王であるサーゼクス様とルキフグスさんと一緒にやってきた。

「やぁ、こうして会うのは初めてになるね。私はサーゼクス・ルシファー、魔王をやっている」

「ソーナ・シトリー様の兵士予定の匙元士郎です」

「本当にまだ人間なんだね。にも関わらず、聖剣があったとは言えコカビエルを単独で撃破するとは。ソーナ嬢は良い配下に恵まれたようだ」

もっと上空を飛ばれてたら負けてただろうけど黙っておこう。そのまま軽く自己紹介を終わらせた後、魔王樣方を上座の席に案内して会長は下座の席へ、オレは会長の後ろに控える様に立つ。

「楽にしてもらってかまわないよ。ここに案内してもらったのは匙君に報賞を与えるためだからね」

「オ、自分がですか?」

「そう、私的な物と公式的な物の二つだ。先に私的な方だけど、これはリーアたんの婚約を決めるレーティングゲームでの活躍とその後のレーティングゲームへの影響から君個人への寄付を合わせた物になる」

リーアたんとはグレモリー先輩の事だろうから無視して

「レーティングゲームへの影響ですか?」

「『話術も詐術も立派な戦術であり武器だ』君の戦果がこの言葉の裏付けを証明し、あのゲームを見た者から伝わり感化された者達の一部が成果を見せたんだよ。先週もランキングに大きな影響が出てね、そういった者の中から君自身への寄付と言うか支度金かな?正式にレーティングゲームに参加する様になった際に小道具に困らない様にと集められた物を日本円に両替した物を銀行に預けた通帳と、大抵の物を仕入れてくれる商人への紹介状さ」

へぇ~、悪魔でも分かってくれる人はいる物なんだな。それに支度金か。これは他のテクニックも期待されてるってことかな。期待には出来る限り応えたいな、と考えながらルキフグスさんから渡された通帳と暗証番号の書かれた紙と商人を呼び出せるチラシを受け取り、通帳の中を見る。

「うえっ!?」

「どうしたの匙?」

オレが変な声を上げたので会長が心配そうに尋ねてきた。

「えっ、これって日本円ですよね?」

少なくとも0が10個は見えるんだけど。0だけで10個、他にも数字が幾つかある。利子だけで遊んで暮らせるぞ、これ。年利が3%だとしても一年で10億越えとか恐ろしいぞ。悪魔って金持ちが多いんだな。

「そうだよ」

「……レーティングゲームのルールは読み込みましたけど、これだけの支度金を好き勝手使ってかまわないんですか?」

「それを楽しみにしている者が多いみたいでね。無論、王であるソーナ嬢の方針が第一になるだろうから場合によっては別枠でゲームを組まれるかもしれないね」

これだけの予算があれば戦争が出来るな。人間には効いて悪魔には効かないもの、悪魔には効いて人間には効かないもの。色々と調べ尽くさないとな。

「これだけ期待されている以上頑張らせて頂きます」

さてと、とりあえず危険物取り扱いの勉強から始めるか。火薬がちゃんと使えるだけで戦術に幅が持たせられるからな。

「私も楽しみにしているよ。次に公式の方だけど、コカビエル討伐の件だ」

先程とは変わり空気が硬くなった事を感じ気を引き締める。

「聖書にも書かれる程の古参であるコカビエルを討滅した報酬として幾らかだが、君に足りていない物を用意した」

「幾らかですか?」

「話は実物を見てからの方が良いだろう。グレイフィア」

「こちらになります」

ルキフグスさんが取り出したケースには厳重な封印が施されており、封印を解除して現れた中身は禍々しい空気を纏った一本の剣だった。

「魔剣アロンダイト。元は聖剣だったんだけど、今は見ての通りさ。君に足りない火力を補ってくれると思う。扱えればだけど。エクスカリバーを無理矢理使ったと報告があったから、それを少し期待している。見ての通り誰にも扱えない代物なんだ。触れるだけで傷つけてくる。他にも報酬は用意しているけど火力と言う面ではこれ以上の物はないよ」

「匙、いえ、貴方に判断を委ねます」

会長は止めようとしたが、オレに判断を任せてくれた。オレはアロンダイトを握る。同時に伝わってくる拒絶の意思と暴力的な力に全身が切り裂かれる。魔王樣方からは、ああやはり駄目かという空気が流れてくるが、会長からはオレなら物に出来るという信頼が感じられる。まあ、確かにエクスカリバーよりは分かりやすかった。エクスカリバーとは質も違う。こいつは人の手によって作られた聖剣だ。だからこそ、こいつが何を望まれて作られたのかは分かりやすい。

「オレの力を受け入れろ、アロンダイト」

ラインを展開すると同時に更に全身を切り裂かれるが、無視してラインを接続して呪詛を吸い上げる。

「これは!?」

「持ち手によって歪んだお前に罪は無い。今此所にお前は真の姿を取り戻した」

不貞の騎士ランスロットによって歪んでしまった聖剣はラインによって真の姿を取り戻す。

「その上で問う!!オレを持ち手と認め、我が王であるソーナ・シトリー様の敵を切り捨てる剣になる事に否やはあるか!!」

反応が若干鈍いな、望んでいるのは王の剣となる事のはずだ。いや、待てよ。それを一度裏切られた上で仲間を斬り殺していたな。ならばこちらのリスクを上乗せだ。

「オレもいずれは悪魔となる。過去が繰り返されるのなら、お前がオレを討て」

その言葉に納得をしたのかエクスカリバーと同様にオレを受け入れる。さてと、傷の手当てと輸血しないと死ぬな。






「お~お~、やってるな」

園芸用具を持ってグラウンド横の花壇に行くと会長から報告があったグレモリー先輩のもう一人の僧侶がゼノヴィアに追いかけ回されていた。

「おっ、匙」

「あれがグレモリー先輩のもう一人の僧侶か。なんで女装なんかしてるんだ?」

「えっ!?ギャスパーが男だって分かるのか!?」

「なんとなくな。あいつの纏う空気が嘘を言っている。大抵の者はそういう空気を纏ってるが、あいつの空気は自分の姿を偽ってる奴の空気だ。だが、その姿を楽しんでもいるな」

「そんなのまで分かるのかよ!?」

「ちなみにお前達三馬鹿は全く嘘の空気を纏ってない。もう少し空気を纏えよ」

「空気を纏うって初めて聞く言葉だな」

「おかしくもないだろうが、空気を纏うって言っても、その空気は広がりを見せるし言葉や行動なんかでも色が変わる。それを読んで合わせるから空気を読むだろうが」

「あ~、なるほど」

「オレの独自解釈だけどな」

「独自解釈かよ!?」

「気にするな。それよりゼノヴィアを止めろよ。あんなことをしても神器を制御するのは無理だ」

「なんでそんなのが分かるんだよ」

「これでも神器の扱いにかけてはお前達より上だからな。それにあいつが纏う空気で一番濃い物に心当たりがある」

兵藤がゼノヴィアを止めて、オレがグレモリー先輩の僧侶に近づく。ついでにラインを使って花壇の整備をする。

「さて、オレは生徒会庶務の匙元士郎だ。神器の制御に関しては自信がある。オレがなんとかしてやるよ」

「あ、あの、ギャスパー・ヴラディ、です」

「ギャスパーね。そんじゃあ、神器の性能の確認からするか」

兵藤達に体育倉庫からボールを大量に持って来てもらって射程距離や有効範囲などを一つずつ確認する。それをノートに箇条書きしていって事前に調べておいた情報と見比べる。

「なるほど。確かに強力だがどうとでもなる神器だな」

「はあっ!?どうとでもなるって、時間を停めれるんだぞ!!」

ゼノヴィアが驚いて声を上げるが、この程度ならなんとかなる。

「で、それだけだろうが。おい、ギャスパー」

「は、はい」

「これからオレとゲームをしよう。お前が勝ったらグレモリー先輩達にお前の事を諦める様に説得してやるよ。オレが勝ったら、そうだな、オレの話を聞いて少しは前向きになれ。それだけだ」

「それだけで、いいんですか?」

「いいぞ。なんせオレが負ける訳が無いからな」

「凄い自信だな。今度はどんなイカサマを仕掛けるんだ?」

「酷い言い草だなゼノヴィア。まだこの前のケーキバイキングのおごりを賭けたポーカーの事を気にしてるのかよ。今回は本当にイカサマはねえさ。使う必要すらない。それで、やるかギャスパー?」

「あの、どんなゲームなんですか?」

「簡単だ。お前は此所から一歩も動かずに居れば良い。オレはグラウンドの端、此所から300m程か、そこからお前に近づく。それをお前が神器で邪魔をする。オレはお前に攻撃出来ない。制限時間は30秒。それまでにオレがお前に触れればオレの勝ち、触れられなければお前の勝ち。簡単だろう?」

「ほ、本当に部長を説得してくれるんですか?」

「無論だ。力づくでも説得してやる」

「や、やります」

「兵藤、時間を計れる物を持ってるか」

「一応携帯があるから、確かストップウォッチも付いてたはずだけど」

「なら審判を頼むぞ」

グラウンドの端まで歩いて行き、靴ひもを結び直しながら財布から小銭を抜き出しておく。

「準備はいいぞ」

「それじゃあ、ようい、スタート」

合図と同時に小銭をギャスパーに当たらない様に投げつける。

「ひゃう!?」

驚いて神器が暴発し、小銭が空中で静止する。次いで目を瞑る事によって神器が停止し、小銭が再び動き出す。オレは目を瞑っているうちにダッシュで近づきながらラインをオレの背後に一つ、左右に一つずつ、前に一つ展開する。瞑っていた目を開き、半分涙目になりながらギャスパーが視線を向けてくるのと同時に新たにラインを地面に向かって伸ばし、棒高跳びの要領で上空に回避する。そのまま空中で合わせられそうになる視線を打ち込んでいた4本のラインを操作して躱しながら円を書く様にギャスパーの背後を取る。そのままラインに一つ特殊な細工を施して真直ぐ突っ込み、わざと停止結界の邪眼に囚われる。一瞬にして景色が変わり、驚いているギャスパーの顔が目の前にある。そのままギャスパーの肩をぽんっと叩く。

「兵藤、時間は?」

「えっ、あっ、18秒。18秒だ」

「ちっ、15秒を切れなかったか」

「な、何をしたんですか?停まってたはずなのに!?」

「全部説明してやる。そこで覗いてる『神の子を見張るもの』総督もどうだ?」

「ほう、気付いていたか」

校舎の影から浴衣を着たチョイワル系の男が現れる。

「アザゼル!?」

アザゼルと聞いてゼノヴィアがデュランダルを構え、ギャスパーがオレの背中に隠れる。兵藤も赤龍帝の篭手を出して構える。

「なんだ兵藤、お前は会ってたのか」

「匙も知っているのか!?」

「オレはまあ、あれだ、知っていると言えば知っている」

「何やら面白そうな事をやっていると思ってな、見学させてもらったぜ」

「別にかまわないが、来校手続きはちゃんとしてきたんだろうな」

「やってるよ。どっかの不死鳥みたいに消化剤まみれにはされたくないからな」

なるほど。こちらの情報はほぼ筒抜けか。まあ、さすがにオレがアロンダイトを持っている事までは知らないだろう。

「それで、お前さんから見た停止結界の邪眼はどうだった」

「さっきのゲームを見ても分かる通り、強力だがどうとでもなる神器だな」

「くっくっく、人間でそんな事が言えるのは恐ろしいな。それじゃあ、お前がやった対処法を説明してもらおうか」

「そうだな。ギャスパー、ちゃんと覚えろよ。自分の事だからな」

「は、はい」

「まず基本性能から説明しよう。ギャスパーの停止結界の邪眼は発動させると両目でピントを合わせた場所を基点に直径10mの球体上の停止結界を発動させる物だ。発動までのタイムラグは大体コンマ3秒だな。ギャスパーがコントロール出来ていないのは発動させる為のスイッチと有効範囲の設定だな。ちょっと驚いただけで暴発する。それから停止する物も結界の一部に触れた程度では停められない。3割から4割は最低でも結界に入れないと停める事は出来ない。目を瞑れば止まる。そして重要なのが一度停止した後に外部から力を加えれば動かす事が出来る。最後にわざと結界に捕まった後にオレが動いたのはラインに仕掛けておいたプログラムのおかげだ」

「「「プログラム?」」」

「予め指示を飛ばしておいて時限起動させただけだ。3秒後にオレを巻き取れってな。プログラムを仕込んだのはラインの先端。そこが有効範囲から逃れていたからこそオレはギャスパーに近づけた。以上、説明終わり」

「じゃあ、どうやってギャスパーの神器を躱したんだよ」

「視線の向きと最初にスペック確認したときの基点になっていた位置から大体で逆算して躱しただけだ。発動のタイミングは力むからコンマ3秒で身体の7割を逃がせばいいだけだし、何よりラインで引っ張ってる途中だからオレ自身が停まってもラインの慣性は残ってるからそのまま振られてすぐに動ける様になる」

オレの返答に三人が唖然としていてアザゼルは笑いが堪えられなくなったのか大爆笑する。

「ただの人間がそこまでの芸当をやってのけておいてそれが出来て当然の様に振る舞うとわな。聖剣があったからってコカビエルの奴が負ける訳だ。とんでもないジョーカーが悪魔の元に行っちまったな。出来ればウチに欲しかった位だ。それに随分と神器が変化してるな。そいつは一体なんだ?」

「オレの身体で、大切な物だ」

「身体ね、なるほど。面白い話が聞けた。それじゃあまたな」

ひらひらと手を振って去って行くアザゼルを見送ってから再びギャスパーに向き直る。

「ギャスパー、自分の神器が嫌いか?」

「嫌いですし、怖いです。いつか、自分以外の全てを停めてしまうんじゃないかって」

「それは能力をちゃんと知らないからだ。今日言ったことをちゃんと覚えたなら、怖くはなくなる。使う事に慣れろ。神器はオレ達の身体の一部だ。手足を動かす様に、神器も自由自在に使える様になる」

「でも、嫌なんです!!先輩には僕の気持ちなんて分からないです!!」

「……兵藤、ゼノヴィア、ちょっと離れててくれないか」

「何をする気だ?」

「ちょっとな、あんまり語りたくない昔話だ。ギャスパーにしか聞かせてやれない」

「オレも気になるんだけど、駄目か?」

「そうだな、一生涯エロを断つなら「ご免無理だわ」と言う訳だ。それ位、話したくない事だ」

「それなのにギャスパーには話すのか?」

「話しておかないと後悔するかもしれないからな」

「う~ん、分かった。匙に任せるよ」

兵藤とゼノヴィアがグラウンドを去って、ギャスパー以外オレの話を聞かれずに済む様になったのを確認してからギャスパーにオレの昔話とその結果を話す。

「だから、オレは黒い龍脈が大切で、だけど、黒い龍脈が大っ嫌いだ」






神社への階段を登りながら本を読んでいると兵藤に声をかけられる。

「なあ匙、何を読んでるんだ?」

「危険物取り扱い3種の参考書だ。火薬を扱うのに必要な奴だ」

「火薬の取り扱いって、何をするつもりなんだよ!?」

「ゲームで例えるなら、兵藤は単純に自分を強化して殴り込むだけで勝てる初心者用のキャラに対してオレは一つ一つの技が弱いけど組み合わせると酷い事になる上級者向けのキャラと言える。ただでさえオレは人間で火力や耐久力が低いんだからな、こうやって小手先の技を増やす必要があるんだよ」

「小手先って、それに火力なんて必要無いんじゃないのか?ライザーも一方的に倒してたじゃないか」

「あれはあいつが弱い上に、焦って頭が回っていなかったからなんとか出来ただけだ。冷静になってラインを無視して屋上全体を火の海に変えればオレの方が負けてたんだよ。知ってるか、兵藤。人間は身体の1割に重度の火傷を負うだけでほぼ致命傷で、身体の3割に中度の火傷を負えば死は確実だ」

まあ、屋上が火の海にされたら屋上から飛び降りてゲリラ戦に移行してただろうけどな。正面から戦うよりそっちの方が得意だ。

「火力は絶対に必要な性能だ。それが無ければ長期戦しか取れなくなる。そうなると人間であるオレは不利だ。理由は言わないでも分かるな」

「人間は弱いから」

「そういうこと」

「そういえば、匙ってなんで悪魔に成らないんだ?会長の手伝いはしてるのに」

「秘密、その内転生するとは思うけどな。姫島先輩?」

「えっ、あっ、本当だ」

階段を登った所にある鳥居の下に巫女服を着た姫島先輩が立っていた。話を聞くと、この神社は悪魔が管理している物らしく姫島先輩の実家は神社らしくこの神社の管理を任されているらしい。そしてその説明が終わるとタイミングよく空から天使が降りてくる。うん、この天使も魔王樣方やアザゼル並の強さだ。本気で勝ち目が見えないのと会いたくないです。以前、会長に話した通り嫌な予感が外れなかったけどさ。まだ嫌な予感は続いてるんだよな。

神社の中に案内されたオレ達は目の前に居る天使がトップであるミカエルであると告げられる。そして、オレたちに会いにきた理由は三勢力での停戦に向けて天使から悪魔への贈り物としてオレと赤龍帝であるイッセーに聖剣が贈ることにしたのだそうだ。兵藤には聖ジョージが使っていたアスカロンを特殊加工したもの。そして、オレには

「誰が浮気者だ!!オレが何を使おうが関係ないだろうが!!ガラティーンならともかくアロンダイトは絶対に嫌だと?あのなあ、前にも言ったがお前達は道具だ。アロンダイトは敵に回ったが、持ち手に力を貸す事は悪い事なのか?悩んだ時点で答えは出てるんだよ。それに強度では6本を束ねた今もお前は負けている。適材適所と考えろ、エクスカリバー」

コカビエルの事件の時に一時使用していたエクスカリバーが残りの2本と融合した物だった。

「本当に聖剣と会話をするのですね」

「物にも魂が宿ると考える日本人ならではですよ。それにこいつらも個性がありますからね。波長が合わなかったんでしょう、今までの使い手は」

「ちなみにエクスカリバーはどんな感じですか?」

「ツンが8にデレが2、それとは別に頑固で生真面目で寂しがり屋。そんな奴ですかね、今の所」

照れ隠しにオーラを発するな!!兵藤と姫島先輩が苦しんでるだろうが。








和平が成立し、生徒会室の空気が緩んだ瞬間に一瞬だけ違和感が生じる。この感覚は

「停止結界の邪眼?グレモリー先輩、ギャスパーは今何処に?」

「ギャスパーなら旧校舎に居るけど、どうかしたの?」

「旧校舎?射程外どころか射線が通っていない、っ、結界が切り替えられた!?」

学園を覆っている結界が書き換えられ、完全に外と中が隔離される。やはり和平を不満に思う一派が一発逆転を狙ってきたようだ。

「ギャスパーも襲われているみたいです。たぶん、無理矢理停止結界の邪眼をブーストされてます。何故か一瞬で解除されたみたいですけど」

「匙、考えられる可能性は?」

会長が尋ねてきたので可能性が高い順番に答える。

「ギャスパーに手ほどきしたのが一回だけでしたからハッキリとは言えないですけど、目を潰したか、命を絶ったか、なんとか射程をずらしたかって所ですね。兵藤、何か心当たりはあるか?」

「えっと、何か考えながらダンボールに籠ってたからあまりよく分からないけど、もうちょっとでなんとか出来るかもしれないって、ここに来る直前に言ってたけど」

「なら、さっき挙げた物意外にも強制的に停める手段を得たんでしょうね。だけど、まずいな」

「何がですか?」

「ブーストされてるってことは、傍に敵が居るってことですよ。それなのに強制的に停めたって事はギャスパーの身が危ない。すぐに向かった方がいいですね。どんな不都合が起こっているか分からないのでオレが向かいます」

「待ちなさい!!ギャスパーは私の下僕よ。私達が」

「問答する時間が勿体ない。先に行きます」

収納の魔法陣からエクスカリバーを取り出し、天閃の力で生徒会室から走り出す。先行してラインを伸ばしギャスパーの位置を探る。ギャスパーの居る部屋には三人のフードを被った魔術師が居る。そして、ギャスパーにもう一度停止結界の邪眼を使わせようと暴行を加えていた。そのままラインで魔術師達を拘束して部屋に飛び込み、エクスカリバーで切り捨てる。

「無事か、ギャスパー」

「匙先輩?」

「そうだ、助けにきてやったぞ」

暴行を受けて出来た傷を、ギリギリ息がある魔術師達の生命力を使って治療する。ついでに魔力はこれからの戦闘用に全ていただいておく。

「それにしてもどうやって停止結界の邪眼をブースト影響下で止めたんだ?」

「あ、あの、匙先輩が言ってた、神器にプログラムを、仕込むって言うのを。ずっと試してて、たまたま上手く行ったんです。有効時間が1秒未満で、再発動までに1時間必要にしたんです。停めても、すぐに動ける様に」

「それでか。とりあえずここを離れるぞ。生徒会室に行けば魔王樣方も居られるから安全だ。っと、お迎えが来たみたいだな」

グレモリー家の魔法陣が現れて兵藤とグレモリー先輩が転移してくる。

「ギャスパー!!って、無事の様ね」

「とりあえず、対処は済みました。ギャスパーの怪我も治療を済ませましたのでこのまま生徒会室に戻ろうと思います」

「そうね、分かったわ。それからソーナから追加で指示が来てるわ。貴方は校舎裏から攻めてきている魔術師を迎撃する様にって。終わったらグラウンドの方に向かう様にも言われているわ」

「了解です。兵藤、しっかり後輩を守ってやれよ」

再び天閃と、それに追加で透明の力を引き出して駆ける。







「なんだ、この状況は?」

校舎裏の魔術師と転移に使っていた魔法陣を全て排除してグラウンドに向かうと、傷ついたアザゼルを見下ろすヴァーリと見たことのない褐色肌の女が宙に浮かんでいた。

「おい、一応確認するが、オレの、会長の敵でいいのか?」

宙に浮かぶ二人にエクスカリバーを向けて尋ねる。尋ねながらも敵と判断して行動を開始する。幸い褐色肌の女は力はあるようだが、それだけの存在のようだ。ヴァーリとは違って隙だらけだ。

「ほう、もう校舎裏を制圧したか。赤龍亭よりも期待出来そうな奴だな。それにエクスカリバーか」

「ふん、エクスカリバーを持とうが祝福も契約もないただの人間ごときに私が負けるはずは無いわ」

そう言って戦闘体勢を取るが、もう遅いよ。

「敵で確定か。なら、排除するだけだ。エクスカリバー!!」

エクスカリバーの聖なる力を引き出し、更に切り札である64倍強化の一つを使用してブーストをかける。ブーストした聖なる力を既に接続が終わっている30本の透明なラインを通して褐色肌の女に直接叩き込む。

「きゃああああああああああ!!!?」

聖なる力に焼かれて落ちてきた所を天閃の力で接近して、アロンダイトで四肢を切り落とし、心臓を貫いて首を刎ねる。それからエクスカリバーに視線を向けると、刀身に微かな罅が入っていた。

さすがに64倍は耐えきれなかったようだ。擬態の力で多少の修理は出来るが、各特殊能力を引き出すだけにしておかなければ居られる可能性があるな。とりあえずはブレスレットにして左腕に装備しておく。

「ハハハ!!予想以上だ、赤龍帝を相手にするよりも楽しめそうだ」

「楽しい?お前は馬鹿か?」

「オレが、馬鹿?そんな事を言われたのは初めてだな」

「何度でも言ってやるよ。お前は馬鹿だよ。いや、馬鹿をやって目を反らしているだけだな。濁った目をしながら戦いを楽しいなんて言っても誰が信じてやるかよ。必死で一杯一杯なのを誤摩化したいんだろう?悪魔の癖して欲求を溜め込んで、現実から目を反らしてやがる」

「っ!?いつからオレが悪魔だと気付いた」

「最初に会った時からだよ。人間は弱いが、それが逆に微かな力に反応出来る。特にオレは感知に関しては徹底的に鍛えてある。一撃を貰えばあの世行きだからな。不意打ちを見抜く為に微かな違和感にも気付ける様に」

「まるで仙術使いの様な敏感さだな。素質があるのかもしれないな」

「どうでもいいな、オレの話は。今はお前の話をしている。それだけの力を持っていて神滅具まで持っているのにも関わらず堕天使の元に居るというだけで、お前の過去は丸分かりだ。それを補う様な話もアザゼルから聞いたしな。お前、そこそこ名家に生まれたのに家族から虐待を受けて逃げ出したんだろう」

オレの言葉にヴァーリが目を見開く。かなり驚いて、隠していた感情が表に出てくる。あとは、オレと重ね合わせれば簡単に濁った目をしている理由が分かる。一歩違えばオレとヴァーリは逆になっていたはずだからな。

だが、敵になったのなら容赦はしない。トラウマを抉って思考が単調になる様に誘導する為に嘲笑う。

「そんでもって虐待していた相手が憎い癖して戦いを、虐待をしていた奴みたいに弱者を嬲って慰めてるんだろう、この」

最後まで言い切る前にヴァーリが殴り掛かってくる。それを聖なる力を全開にしたアロンダイトで受け止める。

「軟弱者、嘘つき、不忠者、恩知らず。他にもお前を飾る言葉は幾らでも出てくるぞ。白龍皇よりもぴったりな物がな」

エクスカリバーとアロンダイトの力を限界まで引き出しつつ、残り四つの内の二つの64倍強化を反射と肉体に振り分ける。それでようやくヴァーリの攻撃を捌く事が出来る。

「ほらほらどうした。たかが人間に互角の戦いに持ち込まれてるぞ」

挑発を続けながらヴァーリと白龍皇の鎧の能力を見極めていく。素の戦闘能力は生徒会、オカルト研究会のメンバーのトップの部分だけで比較しても2割から8割強。戦闘経験はかなりの物でオレを遥かに超える。だが、格上との戦闘経験は少なめ。死線を潜り抜ける様な戦いは少ない。煽り耐性も低ければ、搦め手にも弱いだろう。ただし、感知能力もそこそこ高いのかラインは見破られている。総合すると真正面からやりあいたくないだけの相手だ。

問題なのは白龍皇の鎧の方が問題だ。半減はまだ良い。直接触れなければいいだけで、魔力や光力でコーティングしてヒットと同時に切り離せば本体であるオレに影響は無い。問題は吸収の方だ。効率が良すぎる。半減した物の9割強がヴァーリの物になっている。持久戦は不利な上に攻撃の半分がカットされる。

冷静に分析してオレでは白龍皇を倒す事が出来ないことが分かった。ああ、死がすぐそこまで迫っている。人生の中で二番目位に死が確実に近づいてくる。ならば、僅かな可能性にかけるしかないな。

徐々に疲れたフリをして速度と力を落としていき、腹のガードを緩める。オレの誘導に引かれて、今まで以上に早く鋭い拳が腹に向かって放たれる。タイミングを誤れば全てがムダになる。

オレの方からも拳に向かって突っ込み、ヴァーリの右腕がオレを貫く。激痛に意識が飛びそうになるのを気合いでなんとか繋ぎ止め、残りの二つの64倍強化を肉体とアロンダイトに施す。ヴァーリが腕を抜こうとするのを左腕で抱き込む様に止めて、アロンダイトを右肩関節部に叩き込み、切断する。

「ぐわああああああっ!?う、腕があああああ!!」

予定では此所までだったが、まだ身体は動く。更に追撃する為にラインでオレと繋ぎ止め、アロンダイトとエクスカリバーの聖なる力を全開にして抱きつく。

「や、やめろおおお!!放せえええええ!!!!」

それに答える力はもう残っていない。どっちが先にくたばるかのデッドレースだ。保存していた血液や生命力をガンガン費やして、ラインは拘束に使う事だけに専念して、命をつなげる。それ以外の事は何も考えない。





「ごほっ!?」

腹と頭が痛い。身体に力が入らねぇ。何があったんだっけ?

「匙!?もう気が付いたのですか?」

かなり近い距離から会長の声が聞こえてくる。咽せて苦しい呼吸を整えてから目を開くと、オレの顔を覗き込む様にしている会長の顔が見える。

「かい、ちょう?」

「まだ動いては駄目です」

起き上がろうとすると肩を持たれてそのまま寝かせられる。頭の下に柔らかい物を感じるが、まさか膝枕をされてるのか?

「おいおい、もう蘇生したのかよ。早いにも程があるぞ」

アザゼルの声がした方に顔を向けて目だけで状況の説明を求める。

「どこまで覚えてるから分からないだろうが、ヴァーリに腹をぶち抜かれて変わりに右腕を切り落としただろう?それから聖剣の力を全開にしてヴァーリを殺しにかかって、もう少しでヴァーリが死ぬって所でヴァーリの仲間に頭を殴られて吹き飛ばされて、そのままご臨終だ。死因は出血多量だな。その後は」

「会長の悪魔の駒で転生」

「怪我の手当ても現在進行形で行ってるがな」

言われて気付いたが傍には会長以外にアルジェントさんが居て聖母の微笑でオレの治療を行ってくれている。

「それからひとまず戦闘は終了した。今は事後処理中で、オレは念のためにお前達の護衛だ。だから、その神器を引っ込めろ。死んでいたはずなのに悪魔以外近寄らせない様に勝手に動いてたんだぞ」

ああ、やはり勝手に動いていたのか。また、守られてしまったか。

「匙、どうしたのですか?」

「えっ?」

「泣いていますよ」

右手に力を込めて顔に触れると確かに涙が出ていた。

「自分の情けなさの所為ですよ」

そのまま右手で顔を隠しながら答える。会長は何かを勘違いしたのか、オレの頭を優しく撫でてくれるが、セラフォルー様の物と思われる嫉妬の殺気がかなりキツい。
 
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