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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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美保鎮守府NOW-Side B- PART10

 
前書き
 金城提督が更迭された。正式な書類がやって来ると共に時を同じくしてやって来た、不穏な雰囲気を纏った加賀。まず間違いなく刺客であると当たりを付けた提督は、最終打ち合わせを行う。 

 
「ちょっと俺達だけで打ち合わせをしたいんだが……」

 美保提督にそう告げると、彼は快く執務室を貸し出してくれた。念の為にクリーニングを行い、青葉がPCを起動する。

『提督、そちらは大丈夫ですか?』

「あぁ、何とかな。大淀、そっちはマニュアル通りに動いてるか?」

『えぇ、電話の相手に驚きましたけど……』

「そうか、ならいい」

 手短に交わした会話。金剛をはじめとする視察メンバーには何のこっちゃ?な会話だったが提督と大淀にだけ伝わる内容だったのだろうと無理矢理納得して、打ち合わせを続ける。

「さ~て、と。皆解ってるたぁ思うが……」

「暗殺者はあの加賀、だよね」

「だろうなぁ。あんな絶妙のタイミングで、それも辞令が後から来るなんて臭すぎる」

 大淀にも提督が刺客に狙われている事は話してあり、提督自身を餌にしてその身柄を抑える作戦であるという事も。

『では、作戦とおり?』

「あぁ……そっちから迎えの二式大艇を寄越してくれ。金剛、青葉、川内はそれに搭乗。一旦美保を離れる」

 護衛と提督を引き剥がす事で刺客を油断させ、アクションを起こさせる為だ。


「ブルネイに向かうと見せかけ、近くの港湾に着水。そこから美保鎮守府に帰還して潜伏。加賀に動きが見られたら俺の側でいつでも飛び出せるように待機だ」




「敵の武器は何でしょう?銃ですかね」

 青葉は提督を単独で狙う加賀の暗殺方法に、疑問を呈していた。1対1の対人戦ならば艦娘ですら圧倒しかねない提督をどうやって害するつもりなのか。

「銃は確かに強力だ。だが、接近戦においてはナイフの方が圧倒的に早い」

銃は抜いて、狙いを付け、引き金を弾くという3アクションを必要とする。それに対してナイフならば居合い抜きの要領で抜くと同時に斬りつける事が可能な為に1アクションで済む。その事から考えてもナイフのような小刀が現実的だろう。

「でも……ナイフだけじゃdarlingはやられないと思うヨ?」

「確かに。……となると、毒物を刃に塗って使って来るかも」

「毒か……有り得るな」

 即効性の毒ならば神経毒か、筋弛緩系の毒物が挙げられる。特に神経毒は生物由来の物もあり、その致死量は極めて少ない。有名な物としては

・ニコチン

・テトロドトキシン

・バトラコトキシン

等が挙げられる。

ニコチン……言わずと知れた煙草の葉に含まれる成分。精神を毒する事は無いが、即効性で強い神経毒性を持つ。ニコチンを血中に過剰投与すると身体の痙攣や嘔吐を引き起こし、最悪の場合死に至る。その致死量は0.5~1mg/kgと青酸カリの数倍の毒性を誇る。

※mg/kgとは、生物1kgに対して何mgの毒物で致死量に達するか、という指標

テトロドトキシン……フグ毒として有名。最近だと九州の近海等でテトロドトキシンを持つヒョウモンダコが見つかり、話題となった。何と言ってもその特徴は解毒剤が存在しない事。更に致死量も0.02mg/kgという猛毒。呼吸困難に繋がる麻痺や痙攣を引き起こし、酸欠を引き起こして死に至る。今の所、人工呼吸等による延命措置で毒物を体内で分解してくれるのを待つ位しか治療法がない。

バトラコトキシン……ヤドクガエル科のカエルが持つ毒物。その名の通り、毒矢に使われる程強力な毒物を有する。致死量は0.005mg/kgと、テトロドトキシンよりも更に強力。神経毒だけでなく、心臓に直接影響を及ぼす心毒性をも併せ持つ。


「テトロドトキシンを使われると打つ手が無いけど……他の毒物なら解毒剤は何とかするよ」

「まぁ、油断しなけりゃ刺される前に取り押さえられんだろ。念の為に準備しておく保険だが、準備だけは頼むぜ?」

 軽く言ってのける提督に、神妙な顔で頷く川内。一般的には死亡フラグとも取れる発言なのだが、何だかんだ何とかしてしまいそうな頼りがいがあるせいであまり深刻に捉えられないのだ。その油断が命取りになりかねないので、川内は改めて気を引き締める。まぁ、結果的にこの用心が提督の命を救う事になるのだが。

『それで、待っている間提督はどうされるのです?退屈で仕方ないでしょうに』

「退屈ぅ?まさか。目の前にオモチャが沢山居るじゃねぇの」

 大淀からの問いに不敵な笑みを浮かべている提督。

「まさか……」

「おうよ。ただ居るだけじゃあ俺も鈍っちまうしな。美保の連中を鍛えて遊ぶ事にするわ」

 『やっぱりか……』と金剛を含めて皆が心の中で溜め息を吐き、心の中でそっと美保の艦娘達に合掌する。その数時間後、ブルネイからやって来た二式大艇によって金剛を達は美保鎮守府を発った。





 その日の午後の事である。美保鎮守府の艦娘達(どうしても外せない任務の娘を除いて)全員が鎮守府裏手の運動場に集められた。艦娘達の目の前には金城提督が腕組みをして仁王立ちしている。だが、それよりも珍妙なのはその服装である。普通の提督が着ている白い軍装ではなく、白いランニングに青地に白いハイビスカスの染め抜きのアロハ、七分丈のカーゴパンツにサングラス。そして足下は雪駄。どう見ても提督というよりも縁日にいるチンピラである。

「こんな格好してるが、ブルネイ鎮守府提督の金城だ……おっと、今は“元”提督か」

 その言葉にざわつく艦娘達。ざわざわとうるさいのを、パァン!と柏手を鳴らして黙らせる提督。

「ちょいとばかし問題が起きてな。しばらくここに厄介になる事になった……だが、タダ飯喰らうってのも都合が悪いんでな。何日いる事になるかは解らんが、お前さん達を鍛えてくれるように美保提督に頼まれた。宜しくな」

 ポカーンとした顔の艦娘達の中、何人かは金城提督を睨み付けている。この四十を半ばにした中年の男に、私達が今更何を教わる事があるのか……そんな表情だ。

「今更貴方に教わる事は無いと思いますが?」

 挙手してそう言い放ったのは、霞だった。上官に対して敬語を使っているのはまぁ合格点。しかしその表情は不満ありありで、ウチの訓練前の霞を思い出して少し懐かしくなる。

「大体、何故軍装ではないんですか?それにその格好で訓練だなんて私達を馬鹿にしているとしか思えません」

「ふむ、成る程な。まぁその発言にゃあ筋道が立ってる……俺の服装の理由は2つ」

 ビシッ!とVサインをしてみせる。

「1つは、さっき言った通り俺はとある厄介事に巻き込まれて現在無職。パンピーなワケだ。そんな俺が軍装に袖を通す訳にゃあいかねぇ……それともう1つは」

 チョイチョイと霞に手招きする。何の疑いもなく近寄って来る霞の手首を瞬間的に掴み、そのまま引き寄せて足払いを仕掛ける。ズデンと地面に転がされた霞の顔面目掛けて下段突きを放つ……勿論、鼻先で寸止めにしたけどな。

「こんなふざけた格好でも、お前さん達には負ける気がしないからだ」

 顔面の前でピタリと止まる拳を見て、青褪める霞。

「跳ねっ返り?反抗?文句?大いに結構。俺は見た目や口の悪さで人を評価しねぇよ。ただ、叩いた大口に見合うだけの成果を見せれば、な。さぁ~て、まずは軽ぅ~く5kmのランニングにしようか?ただし、俺に追い付かれたらどうなるかは保証しねぇ」

 途端に青くなる美保の艦娘達。

「位置について……用意!」

 俺が叫んだのを合図に、バタバタとトラックに出てくる艦娘達。

「ドン!」

 一斉に走り出す艦娘達。さてと、軽く身体をほぐしたら、楽しい楽しい追いかけっこ(ウォーミングアップ)の時間だ。ミッチリ鍛えてやるから覚悟しろ。 
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