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風魔の小次郎 風魔血風録

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107部分:第十話 小次郎と姫子その五


第十話 小次郎と姫子その五

「御会いするならそこに行けばいいよ。ただし」
「ただし?」
「着替えている時だったら殺されるからね。注意してね」
「ああ、それはな」
 そういう場合には夜叉となるのが蘭子であった。これは小次郎もよくわかっていた。
「ちょっと障子を開けようとしただけで鞭が飛んで来るからな」
「だから気を着けてね」
 そこを小次郎に念押しするのだった。
「じゃあそういうことで。僕は」
「何処か行くのか?」
「次の試合のサポートになってるから兜丸さんと打ち合わせするんだ」
 そう言って小次郎の前から去ろうとする。
「何でも向こうは八将軍が出ずにサポートの壬生以外は一人だけしか出さないらしいけれど」
「一人っつうとつまりだ」
「そう、飛鳥武蔵」
 それまで蘭子のことで戸惑い気味だった麗羅の顔に緊張したものが一気に走った。
「あの男が出て来るからね。間違いなく」
「そうか。あいつが遂にか」
「壬生攻介と飛鳥武蔵」
 麗羅はあらためて二人の名前を提示した。
「手強いよ、二人でも」
「俺と御前等を入れて三人でもな。かなりやばいな」
「壬生は小次郎君に任せるよ」
 まず壬生はそう決められた。
「武蔵は僕達で何とかするから」
「二人でかよ」
「竜魔さんは二人でも危ないかもって言っていたよ」
 語る麗羅の言葉は真剣そのものだった。
「八将軍の誰よりも強いって」
「ああ、あいつはな」
 小次郎もそれは否定しないのだった。
「サイキックだけじゃねえ。剣にも注意しておけよ」
「飛龍覇皇剣だね」
「下手したら心臓をぶすりだ」
 言うその側から左脚の怪我を思い出す小次郎だった。もう痛みはないにしろだ。
「それで終わりだからな」
「うん、気をつけるよ」
 麗羅はここでも真剣な顔で小次郎の言葉に頷く。
「相手が相手だしね」
「できるならあいつはこの俺の手で倒してえんだがな」
 これは小次郎の偽らざる本音だった。
「風林火山でな」
「けれど小次郎君」
 しかしここで麗羅はまた言う。
「わかっていると思うけれど相手も聖剣があるから」
「黄金剣かよ」
「だからそっちを御願いしたいんだ」
 麗羅は冷静に戦力バランスを考慮して小次郎に述べていた。やはり小次郎に比べて冷静であるのがわかる。
「それは御願いするよ」
「それは仕方ねえか」
「仕方ないよ。僕達だって頑張るから」
「ああ、じゃあ頼むぜ」
「うん」
 麗羅との話は終わった。小次郎は麗羅と終わるとそのまま蘭子の部屋に入った。その時蘭子は己の机の前で教科書とノートを開いていた。しかしノートに書いているのは。
「あっ・・・・・・」
 ここで自分で気付いたのだった。ノートに書いているのは竜魔の名前ばかりだったのだ。それに気付いて閉口する他ない蘭子であった。
「何をしているんだ、私は」
 自分で自分がわからなくなり呆然となる。その時だった。
「おい蘭子」
「その声は小次郎か」
「ああ、入っていいか?」
 障子の向こうから断りを入れる。用心の為だ。
「入っていいんならよ」
「ああ、いいぞ」
 蘭子は顔を正面に向けたまま答える。すると障子がすうっと開いて小次郎がそこから顔を出してきた。小次郎はそのうえで彼女に声をかけてきた。
「聞きたいことがあるんだけれどよ」
「聞きたいこと?」
「ああ。デートのことだけれどよ」
「デート!?」
 蘭子はデートと聞いて机の上で不意に取り乱した様子になった。長い髪が乱れる。
「それは男女逢引のことか」
「また随分と古い表現だな、おい」
「そうか?だが」
「まあそこまではいかなくてな」
 小次郎は一旦はそれは否定した。
「ファーストデートってやつなんだよ」
「そうか。それなら・・・・・・」
 答えようとしたところで。何故か言葉が出ない蘭子だった。
「どうしたらいいものかな」
「わからねえか」
「あっ、いや」
 何故かまた取り乱す蘭子であった。やはり様子がおかしかった。
「何でもない。気にするな」
「そうかよ」
「とにかくデートだよな」
「ああ」
 蘭子は何とか話を小次郎に合わせる。小次郎もまたそれを聞く。
「はじめてか」
「そうだよ。御前デートとかの経験は?」
「ない」
 実はそうした経験は皆無の蘭子であった。顔を小次郎に向けての言葉である。
「やっぱないのかよ」
「私は姫様といつも一緒だったからな。そうした経験はな」
「まさか御前」
「言っておくが同性愛者でもないからな」
 それはもう蘭子の方から否定してきた。
「姫様と私はあくまでだな」
「それはわかってるさ。しかし経験ないんならよ」
「だが。御前を出していけばいいだろう」
「俺をか」
「そうだ。御前は隠し事や小細工は駄目だ」
 小次郎の性格を見ての言葉である。だからいささか戦めいた感じになっていた。
「それなら思いきり行け。自分自身を出せ」
「やっぱりそれかよ」
「そうだ。御前は御前で行け。いいな」
「わかったぜ。絵里奈にも言われたしな」
「絵里奈!?」
「あっ、いや」
 今のは小次郎の失言だった。それで言葉をすぐに引っ込めた。
 
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