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風魔の小次郎 風魔血風録

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103部分:第十話 小次郎と姫子その一


第十話 小次郎と姫子その一

                  小次郎と姫子
 風魔九忍のうち八人がまた揃い夜叉八将軍は全員が戦線を離脱した。戦いはその中で新たな局面を迎えようとしていた。しかしであった。
「問題はあれだな」
 柳生屋敷において。項羽が仲間達と庭で相変わらず素振りをしている小次郎を見つつ言った。
「飛鳥武蔵だ」
「あの男か」
「そうだ、最強の傭兵だ」
 林彪に対して答える。
「あの男をどうするかだ。八将軍も戻って来るしな」
「けれど数では今は互角ですよ」
 麗羅は少し楽観的にこう述べてきた。
「それだったらこっちには竜魔さんもいますし小次郎君の風林火山も」
「さて、それはどうかな」
 だが今の麗羅の言葉には劉鵬が懐疑的に言葉をかけてきた。
「あの陽炎だ。本当に戦線離脱したのか?」
「それか」
「竜魔も言っていたが俺も信じられん」
 劉鵬は言う。険しい顔になっている。
「夜叉随一の策士だからな」
「しかしだ。伏兵をしているとしても」
 林彪が言う。
「まさか向こうも俺達がそれを見抜いていないとは思わないだろうな」
「そうだな。それはまずない」
 小龍が林彪の今の言葉に頷いた。
「陽炎はまず健在だ。そして何か己で動いている」
「己で、か」
 兜丸の目が今の小龍の言葉で鋭くなる。
「だとすると。夜叉姫や一部の者だけだな、それを知っているのは」
「夜叉一族の結束は固い」
 竜魔が言う。これは彼等も非常によく認識していた。
「それを鑑みれば陽炎は何か夜叉全体の為に今潜伏しているな」
「それが何かは俺達にはわからないか」
「うむ。俺達は俺達で備えるべきだ」
 これが彼の結論だった。劉鵬に応えたうえで述べたのだった。
「俺達でな」
「そうだな。しかし小次郎の奴」
 劉鵬はここであらためて小次郎を見たのだった。
「よくもあれだけ毎日毎日振れるな」
「風林火山をだな」
「ああ。手なんかもう血だらけなのにな」
 見れば小次郎の手には包帯がある。その包帯も血だらけになっていてほつれて風に流されてさえいる。壮絶な有様になっていた。
「それでも振るか、あいつは」
「おい劉鵬」
 ここで林彪が笑いながら劉鵬に声をかけてきた。
「御前にならあの風林火山は振れるんじゃないのか?」
「俺がか」
「ああ、風魔一の剛力」
 これが劉鵬の最大の特徴だった。完全に八将軍の黒獅子とは対極の位置にある。
「その力でならどうだ」
「ああ、駄目だった」
 だが劉鵬はその問いにこう答えるのだった。
「俺じゃな。とても駄目だった」
「駄目だったか」
「あれは力だけで振るものではないらしいな」
 また小次郎を見つつ言うのだった。
「俺でも持つのが精一杯だった」
「そうだったか」
「そういう御前はどうなんだ?」
 項羽はその林彪に尋ねてきたのだった。
「風魔一の剣術の腕前ならな」
「いや、俺でも無理だ」
 しかし林彪はこう項羽に答えるのだった。
「御前も駄目か」
「俺はああした剛刀は持たない」
 これが返答だった。
「合わないと言おうか。俺の技にはな」
「それもそうだな」
「つまりだ。あれを使えるのは小次郎一人だな」
 霧風はこう結論付けた。
「あの男だけだ」
「けれど小次郎君」
 麗羅は小次郎の素振りを見て言う。
「持ち方おかしくなってるし」
「何かあれって木刀の持ち方じゃねえだろ」
 兜丸もこう評した。
「どでかい斧か何かみてえだぞ」
「そうだな。そういう感じだな」
 小龍もそう見ていた。
「あれはな」
「斧か。その斧で」
 竜魔は斧に例えて述べる。
「あの黄金剣を持つ壬生と飛鳥武蔵を倒せるか」
「それはあいつが一番よくわかっている筈だ」
 霧風がその竜魔の言葉に応える。
「だからあそこまで振っているということだな」
「そうだな。左足を貫かれたあいつがな」
「飛鳥武蔵か」
 劉鵬の目があらためて鋭くなる。
「あの男を何とかしないとな。我々の勝利はないな」
「その通りだ」
「おろっ!?」
 ここで小次郎は。庭の廊下のところに座っている仲間達に気付いた。それで素振りを止めて彼等に対して顔を向けるのだった。
「何だよ、皆何時の間に集まってるんだよ」
「最初からだ」
 項羽が小次郎のその言葉に対して答えた。
 
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