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風魔の小次郎 風魔血風録

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1部分:第一話 小次郎出陣その一


第一話 小次郎出陣その一

              風魔の小次郎  風魔血風録
                 第一話  小次郎出陣
 その脚力は一日数千里を走りその耳は三里先に落ちた針の音を聞き分け闇夜でも遥か彼方の敵を見分け動けば電光石火、とどまれば樹木の如し。されど風の様にさすらい風の様に生きている。それが風魔であると言われている。
 今飛騨の山奥に一人の女が深く険しい山道を進んでいた。白いセーラー服に黒く長いスカートを身に着けている。長身でスラリとした身体をしている。大人びた日本人離れした美貌からは凛としたものを感じさせる。彼女は後ろに荷物を持った学生服の男を一人従えていた。その彼が危うく谷底に落ちそうになるところでその手に持っている鞭を使って彼の身体を掴んで上に引き上げるのであった。
「大丈夫か」
「は、はい」
 男は女に対して礼を述べてから何とか谷から上がる。谷の下はほぼ直角の断崖であり底は見えない。周りは欝蒼と繁った樹林であり人は二人の他は見えない。秘境と言っていい場所であった。
 その秘境の如き場所を進みながら。男は女に対して声をかけてきた。
「柳生様」
「何だ?」
 女は柳生と呼ばれ彼に応えてきた。先を進みながら。
「本当にここですよね」
「そうだ、間違いない」
 女は前を見据えながら彼に言葉を返す。
「もうすぐだ。その風魔の里はな」
「風魔ですか」
 男は風魔と聞いてまずは首を傾げた。どうにも信じられないといった顔である。
「いるとはとても」
「いる。だからそれは安心しろ」
「ならいいですけれどね」
 だがその顔はあまり信じてはいない顔であった。女には見えてはいないが。
「どっちにしても。これ以上先には」
 進めないと言おうとする。しかしその時だった。
 不意に二人の横を赤い和服を着た少女が通り過ぎた。まるで風の様な速さで。
「!?こんな所に女の子が!?」
「まさか」
 男も女もその少女を見て驚きの声をあげる。しかし驚くべき光景はそれだけではなかった。
 その後ろに学生服、ボタンがなく前が開いている長ランを着た少年が通り過ぎた。茶色の髪に精悍でありながら若々しさと均整の取れた顔立ちを見せている。制服の下は素肌で逞しい鞭を思わせる筋肉を見せている。その少年が木刀を片手に駆け抜けたのである。
「あれは!?」
「むっ」
 女はここで感じた。風を。その長い髪を風が揺らしたのである。
 その風を突き抜けさせて男は走る。そして瞬く間に消えていった。これが風魔の小次郎と柳生蘭子の最初の出会いであった。
 蘭子は程なくして風魔の里に入った。奥の屋敷に入ると長い髪を後ろに撫で付けた着物の成年と奥の間で面会した。その横にはあの少年がいた。
「小次郎といいます」
「まあ宜しくな」
 皆正座しているがその小次郎という少年だけは胡坐をかいている。随分無作法な感じに見える。
「柳生蘭子様ですね」
「はい」
 蘭子は青年に一礼してから答えた。
「お久し振りです、総帥」
「総帥っていいますと」
「この方が風魔の総帥だ」
 蘭子は道中で荷物を持っていた男に対してこう説明した。彼は蘭子の後ろにいる。
「といいますと本当にいたんですか」
「何度も言った筈だが」
「すいません、どうにもこうにも現実だとは」
「わかったのならいい。さて」
 あらためて総帥に顔を戻して話を再開した。
 
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