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隠れた趣味

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第三章

「それは絶対に駄目だ」
「お金は少しなのね」
「かけてな」
「よくても悪くてもよね」
「恨みっこなしだ」
 あっさりとした口調での返事だった。
「すぐに忘れることだ」
「勝っても負けても」
「どっちもな」
 こう妻に言うのだった。
「そうなってもな」
「それだけなのね」
「ああ、割り切らないとな」
「駄目なのね」
「さもないと身を持ち崩すさ」
 彼のその趣味はというのだ。
「だから僕もだよ」
「わかっててやっているのね」
「そうだよ、それで楽しんでいるんだ」
「成程ね」
「じゃあ今から勉強するな」
 彼は新聞と鉛筆を出した、そしてネットでも検索して調べつつだった。何かと勉強をはじめた。だがそれは彼の仕事のそれではなかった。
 とにかくだ、彼は仕事と家庭の合間にその趣味を楽しんでいた。しかし学校では至って真面目で人のいい先生として知られていた。しかし。
 高校を卒業してだ、就職した濱田雄太郎はその職場で彼を見て驚いていった。
「先生じゃないですか」
「ああ、濱田君か」
 大場は笑ってだ、自分を見て驚く濱田に笑顔で応えた。
「元気そうだね」
「はい、卒業してさらに太りました」
 見れば顔も身体も丸々としている、丸眼鏡がよく似合う温和な顔立ちで黒い髪の毛はやや縮れた感じだ。
「五キロ」
「そうなんだね」
「はい、ただ」
「ああ、僕が何故ここにいるかだね」
「だってここは」
 濱田は大場に言った。
「あれですよ、競馬場ですよ」
「うん、わかってるよ」
「何で先生がここに」
「それはもう決まってるじゃないか」
「まさか」
「そう、競馬をしに来ているんだよ」
 実際にというのだ。
「いつも通りにね」
「いつも通りですか」
「そうだよ」
「あの、僕ここで働いてますけれど」
 競馬場でというのだ、実際に彼はここで勤務している。
「先生にお会いするなんて」
「ははは、思わぬ再会だね」
「思わぬなんてものじゃないですよ」
 それこそというのだった。
「というか先生競馬が」
「そう、趣味だよ」
「そうだったんですか」
「いや、これが楽しくてね」
「先生がギャンブルするなんて」
「他はしないけれどね」
 ギャンブルの類はというのだ。 
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