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感傷旅行

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第一章

                 感傷紀行
 一つの恋が終わった、私は学生時代から三年交際していた彼の前から去った。
 理由は自然とだ、お互いに仕事が忙しくなってすれ違いばかりになって疎遠になってしまってだ。
 感情が向かわなくなった、それでだった。
 私の方から別れ話を出した、すると彼もあっさりとしたものだった。
「じゃあね」
「いいってことね」
「僕もそうなっていたから」
 素っ気ない顔で私に言ってきた。
「忙しくてね」
「そうだったのね」
「言おうかなってね」
 彼の方でもというのだ。
「思っていたし」
「私が先だったっていうだけね」
「そうなるね」
 やはり素っ気ない返事だった。
「じゃあそういうことで」
「終わりね」
「そうしよう」
 別れ話の為に呼んだ喫茶店の席でだ、彼は素っ気ないままだった。
「それなら仕方ないよ」
「そうね、こうした別れ方はあるって聞いていたけれど」
「僕達もだね」
「ええ、何か本当にね」
「感情が沸かないね」
「全くね」
「自然消滅っていうんだね」
 彼は淡々とした口調で私に言った。
「これは」
「そうなるわね」
「じゃあもうこれでね」
「ええ、お別れね」
「そうしよう、ただね」
「ただ?」
「三年付き合っていたし」
 それでとだ、彼はここでこんなことを言ってきた。
「少し別れる前に何かしない?」
「何かって?」
「お別れの為にね」
「デートかパーティーでもするの?」 
 私は彼を見て問うた。
「そうするのかしら」
「そうだね、旅行かな」
「旅行?」
「お互いに時間があればだけれど」
 二人共社会人になって時間がないけれども、というのだ。そもそも別れる原因がそうなって疎遠になったことからにしても。
「旅行に。一泊でも行って」
「そうしてそれで」
「最後にしないかな」
 私を見て言ってきた。
「それでどうかな」
「そうね」
 彼の言葉を聞いてだ、私は少し考えてから答えた。
「それもいいかも知れないわね」
「最後にね」
「それで最後ね」
「別れるってことでね」
「いいわね」
「じゃあ旅行ね」
「一泊、何処に行こう」
「じゃあ季節外れだけれど」
 頭の中で東京から軽く一泊で行けるところを探してだ、私はそのうえで彼に対してこう言った。 
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