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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第113話 少年は一計やらかすようです

Side ―――

魔法世界に災厄が戻ったのを感知した面々の行動は速かった。

セラスは怪我人と皇帝の乗った戦艦を全速で下がらせ、戦乙女兵が主戦力となるまでに

減った兵と数艦の駆逐艦級を伴い、宮殿へ突撃を敢行する。

残り二体となった守護獣も、残存魔力を使い果たしてでも増援を送るべく、最後の力を

振り絞り、眼前の敵を屠らんとする。

焦りと共に文字通り、決死の突撃を掛ける魔法世界軍に対し、クルトとデモゴルゴンは

結界と思しき魔法陣を展開。


「残念ですが時間切れです。あと少しだったのに、ねぇ?」

【ホザケェ!!】
ゴォウ!!

炎凰と融合した嵐虎が吐いた息吹は、炎の虎の姿となってクルトの乗る"コード・P"に

踊り掛かり、抵抗しない巨兵の上半身を蒸発させた。

瞬間、数十万の紐状の補助術式が下半身から溢れ出し、ドーム状に宮殿を覆う。

罠と気づいた樹龍が蔦を伸ばすも時既に遅し。蔦は弾かれ、次の攻撃を放つ前に、先ん

じて展開されていた魔法陣が更に発動してしまう。

即座に高度を上げた樹龍は、雲の上から一つの種子を落とす。


【芽吹ケ――!】


解放と共に芽吹いたのは世界樹の槍。しかし、その大きさは宮殿とほぼ同じだ。

圧倒的質量と重量の力業で、最悪破れずともダメージは与えられると確信出来る程の

物だったが、結界に触れた途端、桜のように散った。


「これは……!造物主の初源魔法!?」

「その通りです。あなた方は勿論、魔法も触れればご覧の通りですので、無駄な神風は

控えた方が懸命だと思いますよ。」

「フン、こちらからも手が出せぬのが業腹ではあるがな。」


守護を命じられた二人は、開戦後初めて敵を完全に止めたのが自分達の力でなく、主の

愁磨が用意した最終手段によるものである事を悔やみ、苦々しく思う。

残った指揮官のセラスは残存戦力を鑑み、完全に手を失った事を悟る。


「全員、後退!障壁に触れない位置まで下がって!」

【小娘!キサマ臆シタカ!?此処デ退イテハ、犠牲ガ無駄ニナルデアロウ!!】

「ここは兵力を温存するしかないのよ!いいから大人しく退きなさい!!」

【グ、ヌ……。】


セラスの年齢からは想像出来ない強烈な感情が溢れる一喝を受け、樹龍と炎虎は素直に

殿として後退する。

残された手は、宮殿内の主戦力が事態を動かす事だけ――

Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

Side ネギ

ドンッ!!
「お、どうやら戻った様じゃの。」

「あー……ついに戻って来ちまったか。」


重力が増えたとすら思える魔力の重圧がかかった瞬間、アリカさんと千雨さんが

同時に帰還を告げる。

ここから動けず、ラカンさん達も動けず、外からの援軍も無い。最悪の状況であの

三人を好きにさせるなんて。一体どうすれば・・・!


「ああ、愁磨達が先に帰って来てしもうたから、主らは好きに動くが良い。」

「……成程、名目上の条件はあくまで五分で戦いたいと。」

「そういう事じゃ!そら、行った行った。妾らと紅茶を飲みたいというのであれば

残っても構わんがな。」


倒すべきかと覚悟を決めかけると、結界が解かれると共に自由にされた。

千雨さんは何事もなかったように納得して頷いてさっと席を立ったのに続き、部屋を

出ると『千の雷』を遅延させる。


「てかどうすんの!?最上階はあの様子だし……!」


と、少し走った所で明日菜さんが叫んだので、慌てて止まる。

意識共有をしていなかったとは言え、分かって欲しかった所はあるんだけれど・・・。

敵の動きに合わせる作戦が、引っ掻き回されて完全にご破算になってしまっている。

かと言って今更変えられる訳でも無い。


「こうなれば仕方ありません、全員で最下層に向かいましょう!」

「ここは行ても無駄と言うか、出入りもご自由にと言う感じでござるからなぁ。」

「中途半端に分散するよりゃいいが……おっさん達はまだ生きてんのか!?」

「あいつ等の実力は拮抗してる。そう簡単にゃやられねぇだろうよ。急ぐぞ!」


ジオンさんの言葉に、僕らは頷く。少なくとも、今は間に合う可能性が―――


「思うのは勝手だが、人様の庭でいつまで喋っているつもりだ、貴様ら?」

『『『―――ッ!?』』』


呆れ声が聞こえた瞬間、『雷天双壮』化して距離を取る。

発声源を振り返ると、目の前に紅い瞳が迫っていた。反射的に『天掴む雷神の双手』を

纏い、繰り出される攻撃をなんとか逸らす。


「ぐっ……!」
ガッ!
「ち、痺れるじゃないか。姉様に遊んでもらって腕を上げたな。」


当たり前の様に雷化した僕と同等の速さで攻撃して来たのは、エヴァンジェリンさん。

遂にぶつかってしまったけれど、この人数差だ。『雷天大壮』だけでも十分・・・!


「あらぁ、私達がお仕事している間にこんな所まで入り込んでいたのね。」

「やれやれ。君達は少し不作法が過ぎないかい?」


と、僕がフラグを立てると、エヴァンジェリンさんが通って来たと思われる影の

転移門から龍宮さんとしずな先生が現れた。

・・・近中遠距離全て揃っているこのパーティは拙いと気づいたこちらの殆どが、

本気の迎撃の準備を整える。


「ふむ、まぁ勘の良いのが殆どで一安心と言う所だが―――」
キキンッ!
「私に気付き、対応できたのは二人だけとは。愁磨さんに褒めて貰えますよ、刹那。」


その一級警戒線の後ろを難無く取り、二刀で放たれた剣戟を、刹那さんとジオンさんが

受け止めた。


「それは本当に嬉しいですね。皆さんを這いつくばらせて、頭を撫でて貰いましょう。」

「ハハハ!少し見ない間に随分言うようになったじゃないか!」


刹那さんは楽しげに笑っているけれど、全く気配が読めなかった・・・!

それどころか、攻撃が終わって初めて気づいた。愁磨さんが影として認めているだけは

ある、と言う所か。クソッ、一難去ってまた一難だ。


「察している人も居るだろうけれど、私達は『見敵必殺』の命令を受けている。

所謂、『ここを通りたくば、私を倒して行け』というやつだね。」


さっきは戦闘出来なくて時間を稼がれたけれど、今度は強制戦闘か。

・・・最悪の一手だけれど、この場は、誰か残って貰う他ない。


「……俺達が時間稼いでおく、行け。」

「私も残ります。ゼルク、そちらは任せます。」

「相分かった、自らの本分を忘れるな!」


目配せするまでも無く、ジオンさん達と刹那さんが殿になってくれる。

逸早く駆け出したゼルクに続いた僕らに銃弾が降り注ぐけれど、エーリアスさんの

水の防壁が防ぐけれど――。

ピチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュッチュチュチュ!
「うわわわわ、変な音するー!」
ドンッ!
「徹った!今一発徹ったぞ!?防御すんならちゃんとしろー!」

「はわわ、すいませんー!物理は二発重なられると防御出来ないんですー!」

「自分で弱点を晒していくのか……。『魔法の射手(サギタ・マギカ) 地の雨(エヴァーノ・アドル)』!」


カミングアウトせずとも分かっていただろうけれど、エヴァンジェリンさんは得意で

ない筈の砂の魔法の矢(物理攻撃)を、これも雨霰と降らせてくる。

魔力はなるべく消費したくなかったけれど、タダでは通れないか・・・!


「魔力を残して行けっての!『法も遮る鉄の檻(フーレム・カヴァーム・ウーグスタス・レイジム)』!!」

「ほう、土の最上級防御魔法か。得意でもないだろうに、良く研鑽している。」

「魔法の矢でそれを抜いて来ようとするあんたたちは何なのよ…!」


寸での所でジルダリアさんの防壁が追加され、水の防壁と合わさり、魔法の矢と銃弾を

完全に防ぎ切る。

しずな先生がそれに合わせ攻撃を仕掛けようとするけれど、その僅かな隙をついて、

階下へ続く通路に辿り着いた。同時に入口が土の防壁によって埋め立てられ、あちらの

様子を窺う事も出来なくなってしまった。・・・でもそれでいい。

前に進むしかなくなった僕達は、再度楓さんの隠れ蓑に殆どのメンバーを収容して、

来た時以上の速さで地下に向かう。


「っどぉーーーーん!!」
ゴァッ!!
「っち、"防げ"ぇ!」


進んだのも束の間、階を二つ降りた広間に入った途端、目の前に黒色の混ざる炎の壁が

襲い掛かって来た。跳ねる様なテンションの高い声は、間違いない。


「随分遅い登場でござるな、もみじ殿。」

「しょーがないじゃん、私達だけバランス悪いんだから!」

「それは認めるけど、もみじはんが突っ走らんでネカネはんの言う事聞いとれば

もおちょい早よぉ帰って来れたんやけどなぁ。」

「う、うるさいなぁ!!」


もみじさんが恥じる様に叫ぶと、炎が取り払われる。

そこにいたのは、確かにバランスが悪い三人だった。近中距離のもみじさん、回復役の

木乃香さん、そして―――


「お姉ちゃん。」

「そうよ、ネギ。………まさかここまで来て、問う事があるの?」


無意識で呼んだだけだったけれど、それを勘違いしたお姉ちゃんに言外に話す事は

無いとあしらわれる。


「敵とは言え、家族に対し辛辣でござるなぁ……なぁに、ここを切り抜けたら好きな

だけ話せる。そういう訳でネギ坊主、こ「ここは私達ニ任せて先に行くアルよ!!」

おのれ古……。」

「フッフッフ、一回は言ってみたい台詞ベスト1!ここで譲れないネ!」

「それなら頭脳労働担当は私だね。ほら、行って!」


敵の編成に合わせて、楓さん・古さん・ハルナさんが殿を買って出てくれる。

本当は僕が残りたいけれど・・・個人的な感傷は捨てなければ。

でも、この選択で本当にいいのか?ラカンさん達さえ助けられれば逆転出来ると

思ったけれど、ここまで分断されたら・・・。


「おい!悩んでる暇はねぇ、行くぞ先生!」

「く……皆さん、少しだけ耐えていてください!」

「フッ、それは構わんが……別に、倒してしまっても構わんでござろう?」

「いいから専守防衛!これ鉄則!」

「普通に返さないで欲しいのでござるがなぁ。」


またしても三人を殿として残し、隠れ蓑から出た皆を風魔法で運びながら、

宮殿を下りて行く。

そして十分もしない内に、最上階の前の広間と同じ造りの広間に出た。と言う事は、

この先の部屋に、ラカンさん達がいる!

勢いもそのままに、部屋に飛び込むやいなや構えを取り―――


「よう、やっと来たか。」

「ラカン、さん……!」


部屋の中央に佇む愁磨さんと、その細腕に持ち上げられたラカンさんを見つける。

奥を盗み見れば、後の三人も拘束はされていないけれど、倒れて動かない。

戻って来たのにこっちにこない時点で、可能性があるとは思っていた。

でも、これで、"覚悟するしかなくなった"。なら、僕は・・・!


「まだ諦めていないのか?頼みの綱にしていた"紅き翼(アラルブラ)"も"大魔導士"も

全員こちらの手に落ち、援軍も無い。対してこちらは最高戦力が揃い踏みだ。

まさか、今更帰りたいと謝るか?それはそれで面白いから良いがな。」

「彼等を転移させたら、その消費魔力で計画が頓挫してしまうよ。

まぁそんな事は彼等も分かっているからこんな凶行に走っているんだろうけれど――」


今まさに彼等を打倒する方法を考えていると、まさかの情報が舞い込んだ。

真偽も真意も掴めずポカンとしていたら、したり顔のフェイトと眼が合った。

表情を見せない彼が、驚愕・焦り・端・諦観と百面相した所で、さっき言ったことが

本当だと確信する。


「……………まぁドジっ子フェイたんは今更だからどうでも良い。

結局やる事は変わらない、だろう?」


嗤い、愁磨さんが木のような剣を出現させる。

皆は警戒して緊張するけれど・・・まだだ。今動いても逃げられる可能性すらない。


「でもこのままやってもただの苛めよぉ?」

「うーん……なら五分間待ってやろう!俺はどっかの大佐より優しからな。

その間、俺への攻撃は自由だがその他への攻撃は無しだ。無論その間はあいつ等にも

手を出させん。さぁ好きにしてみs「"解放"!!」
ドンッ!!


言質を取った瞬間、一秒でも無駄にしてなるものかと動く。

ミスは出来ない。勘違いをするな。倒す事より、現状を打破する事を考えるんだ。

五分じゃここの魔法陣を起動して上へもたどり着けない。

四人を助けて体勢を立て直し、時間内に散り散りになった皆さんを救出出来れば最上。


「"ラステル・マスキル・マギステル! 『二重詠唱(ディアブル・アザルエント)』!!

契約に従い我に従え高殿の王 来たれ 巨神を滅ぼす燃ゆる立つ雷霆!百重千重と重なりて

走れよ稲妻!!『千の雷(キーリプル・アストラペー)』『固定(スタグネット)』『双腕掌握(ドゥプレクス・コンプレクシオー)』!!」


まずは彼等と最低限渡り合う為に『雷天双壮』を発動する。

愁磨さんは腕を組んでふんふんと頷いてるし、ノワールさんはラカンさんをつついているし、

アリアさんは舟を漕ぎ始めており、フェイト達は直立不動・・・。

どうやら本当に邪魔をする気はないようだ。なら、僕の思い通りにさせてもらう!


「"ラス・テル・マ・スキル・マギステル!! 風よ 雷よ 光よ!無限に連なり其を包め

彼を焼け 我を照らせ!切り裂け 刺し穿て叩き潰せ!!"『全きこの身を剣と化し(エントーティスキス・キ・モノ・アヴトーブリオラ)』!

固定(スタグネット)』!"波源せよ 上弦の月!地上を満たせ覇軍の弓矢!皆を穿て

地を裂け 天を埋めろ!汝こそ夜の光" 『天の始原(アルファット・ルナリア・ファンタズマ)』!『固定解放・術式統合』!!

"天器『楽園を穢せし戦の徒(ベルム・ドレソーブ・クイアウテン・ベラッフェンメイヴェリット・パラディゾ)』"!!」
ズァアアアアアアッ!!

巨大化していない代わりに、"神器"を遥かに超える本数の武器群が広間に溢れ返る。

それを操作し高速回転させて、愁磨さん達を個々に、僕らを大きく覆う。

今更作戦会議がある訳ではない。でもこれを見られる訳にはいかない。


「明日菜さん、小太郎君、アーニャ。叫び声が聞こえたら、僕と一緒にラカンさん達を

救助に。夕映さん達はアシストを。のどかさんは思考を中継してください。」

「「「「フォっ!?」」」」

「……お願いします。」
ザッ!

今まで散々連れ回すだけだったから仕方ないかもしれないけれど、急に当事者にされた

夕映さん達が固まってしまった。

その間に、ある召喚陣を描く。それ自体は中級の魔法で、知る人も少なければ、使う人も

居なければ効果は最悪。ガチの嫌がらせくらいにしか使い道がない魔法。だけど・・・!!


「"『天器収拾 待機』"!!」
ヴンッ
「ん?攻撃に転じるかと思えば、何もしないd――――」


魔法陣が光った瞬間、愁磨さんの顔が真っ青になる。

流石・・・いや、彼だからこそこの魔法の事を知っていたんだろう。


「逃げられないのも分かってますよね!!」

「ま、待て!話せばわk「"魔蟲王召喚『ベルゼブブ』"!!!」」


瞬間―――"愁磨さん達"の足元から、虫と言う虫が湧き出した。

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