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もう友達じゃない

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第三章

「そんなことってな」
「そうよね。彼氏ねえ」
「彼女なあ」
 二人で言い合う。お互いに。
「特にな。けれどな」
「私達そういうのじゃないからね」
「ああ、それは違うからな」
「絶対にね」
 このことも話すのだった。二人の今の関係も。
「友達だけれどな」
「そうよね」
「じゃあそれでいいか?」
「ええ。特に困らないし」
 意識もしない。それでだというのだ。
 彼等は彼氏とか彼女とかは意識しなかった。だがそれでもだった。
 どちらも高校生だ。思春期である。
 それ故にだ。この時こんなことも話すのだった。それは自由からだった。
「なあ桜庭、それでな」
「何、今度は」
「御前誰かと付き合ったことないだろ」
「中学の時そうなりかけたけど」
「ないんだな」
「そうした相手はいなかったわ」
「俺もだよ。ってことはだ」
 お互いにだというのだ。そのお互いにということは何かというと。
「キスとかしたことないよな」
「全然。夢みたいな話よ」
「だよな。そうか、お互いになんだな」
「みたいね。で、どうしたの?」
「いや、言ってみただけだよ」
 前を見ながら。列車の席なので前に見えるのは向かい側の席とその背にある車窓だ。車窓から見えるものは夜なので真っ暗だ。その夜とその中の灯りを見ながら言うのだった。
「それだけだよ」
「そうなの。それだけなのね」
「気にしなくていいからな」
「あのね。言われて気付いたけれど」 
 今度は真子から言ってきた。自由の隣から。
「今この列車ね」
「ああ、何だよ」
「いるの私達だけよ」
 本当に見事に誰もいない。静まり返ってすらいる。
「私達だけだから。だから」
「何してもちょっとしたことなら、か」
「見てないわよ、誰も」
 誰もいない、即ち誰も見ていないというのだ。
「だからね。どうするの?」
「キスか?」
「間キスしたことないのよね」
「そっちもだよな」
「お互いに。知らないけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「どう?ちょっとだけなら」
「キス、しようってか」
「普通にはじめて会ったみたいな相手だったら考えるけれど」
 しかし自由だ。いつも一緒にいる。
「間のことは知ってるから、それもよく」
「俺もだよ。そんな付き合ってちょっととかの相手だったらな」
「キスできないわよね」
「ああ、俺そういうの駄目なんだよ」
「私も。それじゃあ」
「ここでするか?」
「私はいいけれど」
「俺もだよ」
 ここでまたお互いに言い合うのだった。
「じゃあ。いいんだよな」
「そっちもよね。それじゃあ」
 二人同時に顔を向け合い近づけ合い。
 それから唇を重ね合った。それはほんの一瞬だった。
 だがキスをしてからそれぞれ顔を正面に戻して俯き気味になって。自由は言った。
「これがキスなんだな」
「そうね。これがね」
「何か。噂じゃレモンの味がしたけれどな」
「何の味がしたの?実際は」
「御前さっき苺のキャンデー舐めてたよな」
「ええ。そうだけれど」
「その味がしたよ」
 少し苦笑いでだ。自由は真子に告げた。 
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