| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ナンパは危険

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章

「ですからそうした場合も」
「逃げられますか」
「そうします」
 実際にだ。彼はその場合も想定していた。
 それで何時でも逃げる心構えをしていた。だが、だった。
 美人はその彼に微笑んでだ。こう告げたのである。
「ご安心下さい。私はです」
「暴力もドラッグもですね」
「そして悪質なこともしません」
 美人局やボッタクリの類もないというのだ。繁華街の裏にはよくあることも。
「真の。最高の快楽をです」
「俺に紹介してくれるんですか」
「はい、そうです」
 まさにだ。それをだというのだ。
「ですから御安心下さい」
「真の快楽ですか」
「一度それを知れば離れられなくなります」
 美人は思わせぶりな笑みになっていた。そしてその笑みで。
 小泉の目を覗き込んで言ってくる。その覗き込みはまるで夜の世界の住人が獲物を魅了するかの様だった。そしてその魅了に対して。
 小泉は受けることにした。それでだった。
 美人に本当についていくことにした。やがて案内されたのは。
 ホテルだtった。そういうことに使うホテルだ。ついでに言えば小泉もよく使うホテルだ。
 その外見は西洋の宮殿か城を合わせた様な十階はある建物の前に来てだ。美人は言ってきた。
「ではここで」
「真の快楽をですね」
「二人で味わいましょう」
 美人からの言葉である。
「そうされますか」
「喜んで」
 色事師としてだ。小泉も返す。
「そうさせてもらいます」
「では。入りましょう」
「実はですね」
 不敵、いや余裕のある笑みでだ。小泉も美人に言う。
「このホテルのことは俺も知っていまして」
「ではどの部屋がいいかもですね」
「はい、知っています」
 共に快楽を味わうのならばだとだ。こう返してみせたのだ。
 そのうえでだ。あらためて美人に言う。
「ではここからは俺が案内させてもらいます」
「その部屋まで、ですね」
「空いているかどうかわかりませんが」
 目当ての部屋が空いていないなら別の部屋にする、そう心の中で決めながらだった。
 美人をホテルの中にエスコートした。ロビーは狭く正直ロビーになっていない。目の前には部屋のパネルが映し出されている。その中でだ。
 十階のある部屋が空いているのを見つけてだ。彼はこう美人に言った。
「この部屋がいいです」
「そこですか」
「はい、この部屋にしましょう」
「確かこの部屋は」
 美人も知っている感じだった。この返事は。
「あれでしたね。このホテルで一番いい部屋でしたね」
「はい、そうです」 
 ラブホテルの部屋にもランクがある。その部屋はだというのだ。
「だからです。貴女の為に」
「選んで下さったのですね」
「はい、そうです」
 あえて美人を美女として見ての言葉であった。実際に彼はそう確信していた。
「バスもベッドも全てが充実していて。では」
「このお部屋で朝まで」
「そうされますか?」
「貴方がいいというのなら」
 そうするとだ。美人も返してきた。
「共に朝まで楽しみましょう」
「では。今から」 
 小泉は内心今日は最高の結末になると喜びながら美人と共に十階に向かった。四人目まででも充分満足していた。しかしである。
 最後が最高の相手ならばさらにいい。有終の美だ。それを飾れるからだ。
 喜びを胸にエレベーターの中で美人と共にいた。美人の身体からは濃厚な香りが漂う。それは香水のものだけではなかった。その香りは。
 美人自体からの香りもあった。まるで薔薇の香りだ。しかも野薔薇の。
 これだけの香りを放つ相手は小泉もはじめてだった。エレベーターの中のその香りにすら喜びを感じながら十階に着いてであった。
 その部屋に入った。そして。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧