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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第二章 Lost Heros
  銀白VS英霊Ⅱ


渓流。
両側を崖に挟まれ、その最下層に川が流れている。

崖に挟まれているとは言っても沢があり、その広さは十分にひろい。



空は晴天。
きれいな光に、美しい川。沢から崖にかけては小規模ながらも木々が生い茂っている。


そのきれいな川の水に、赤い液体が流れてきた。



見ると、川の中に誰かが入っており、どうやらこの赤はその人物のものであるという言うことが分かった。


川から上がり、傷を拭く男は蒔風だ。


濡れた体を圧水で水分を飛ばし、一瞬で乾かす。
そして掛けてあった服を取り、着替える。



「傷が多くなったな・・・それに・・・・」



そう言って、懐から懐中時計を取り出す。
しかしそれは現在時刻を示すものではないのだろうか、動いている針は一本のみ。針の動きは目を凝らして初めてわかるくらいのもので、普通の時計にして45分のところを指し、何かの経過を示していた。


「もうそんなに経ったか・・・・」


蒔風が時計をしまう。
その顔は心なしか焦っているようにも見えた。








「見つけたぞ・・・・蒔風!!」

「・・・・・・・おぉ」


蒔風がびっくりしたようなジェスチャーをして、セイバーたちに対しておどけて見せた。



「あそこから追いかけてきたのか?よく来たな。歓迎しようか?」

「そのようなものは結構だ」



そう言って、セイバーが剣を構える。
いつも通り目に見えないが、確かに存在している聖剣だ。


(清流たちは理樹との追いかけっこでこっちに来れない・・・気配からして・・・・・士郎と凛も来てるな。大方、セイバーに止められながらもランサーと来たってことろか・・・・)



蒔風がおもむろに銃を取り出し、特に見もしないで右斜め後ろの木の上に向かって発砲した。


直後、銃弾が弾かれる甲高い音がして三発の銃弾が六つになって地面に落ちた。




「気付かれてるみてぇだな・・・・」

「ランサー!!・・・やはり来てしまいましたか・・・」




蒔風の後ろで、ランサーが凛と士朗と共に茂みから出てきた。

そのランサー曰く「戦いたいならやらせりゃいい。抑え込んでも仕方ない」だそうだ。




だが、蒔風の表情は良くも悪くも変わらない。




「やんのか?やらないのか?どっちだ?」

「こちらが下がっても追ってくるくせに・・・」

「今は怪我してんだ。少し休みたいんだよな」

「だったら・・・なおのこと引けないな!!」



そうして、セイバーが剣を振るう。
が、蒔風はそれに対してまともに対応しようとしない。


スウェーで、しゃがんで、バックステップで
そんな簡単な動きでセイバーの剣を避けていく。


「この剣を見切るか・・・・!!!」

「典型的な西洋剣じゃねえか。ンなもん見切るもくそもねぇよ・・・っと」


ゲシッ、と


蒔風が剣を振るセイバーにケンカキックをかまして後退させる。
その攻撃はあまりにもあっさりと入れられ、セイバーの自信とプライドが揺れた。

彼女は最優のサーヴァントとしてカテゴライズされている。


そんな彼女が、超一級とはいえ暗殺者(アサシン)である彼にこんなにも遅れを取る。


あり得ない。が、それがまた蒔風のありかた。



「オレは真っ向からより背中からブスリが一番得意なんだよ。お前と最初にあった時の模擬戦でもそうだったろ?」

「だったらよぉ・・・・俺なんかの相手はどうだい!!!!」



ボボッ!!と、空気を貫く音がしてランサーの槍が蒔風に放たれる。
その槍はランサーを飛び越えて回避した蒔風の上着を引っ掛け、それを穴だらけにしてしまう。


ランサーの背後にまわり、「天」で突き刺そうとする蒔風だが、それはいとも簡単に止められる。


「チッ」

「どうした?もっとまじめにやれよッ!!!」


死の呪いを持つ槍を、ランサーが振るって蒔風が避ける。

と、そこに叩きこまれる凛の宝石魔術。
その目的は蒔風の気を逸らすことだが、狙いはすべて急所を的確にとらえている。


「今よランサー!!」

「オレァもうちっと楽しみたかったんだがな・・・・」

「そんなこと言ってないでさっさとする!!!」

「わぁったよ・・・っと!!」



背後から迫る宝石魔術に対し、背中に生やした翼で振り返ることもなく防御するが、目の前のランサーの動作に双眸がきつくなる。

槍の先端に魔力が回り、赤くうっすらと光って宝具が発動される。



刺し穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!」



ドスッ!!という音がして、鮮血が散る。

この宝具は決して派手なものではない。
ほかの英霊が持つ超絶的な武器に比べて、いってしまえば地味な方だ。
だがしかし、その威力はどの宝具よりも遥かに高い。放たれさえしてしまえば、必ず相手の心臓を打ち砕くのだから。


そして



「放てれば・・・・な」


その槍は蒔風の心臓を貫いていなかった。
貫いているのは、蒔風の手の平。しかもそれは槍の突出によるものではなく、蒔風が自ら手を出し、貫かせて握ったものだ。


魔力充填、宝具開放。
ならばすでにこの槍は「心臓に刺さっている」はずだ。槍を「放つ」という行動は、後付けに過ぎない。

しかし、彼は用心のために「ワールドメモリ」を起動させていた。
そして設定されていたのは、不意打ち対策のための「幻想殺し」だ。

つまり


「魔力がないんじゃ、な」

「テメェ・・・・」

「これじゃ宝具も、ただの棒だ」



《ワールド!!!》




蒔風が貫かれた右手をそのままに、左手でメモリを取り出し再起動、握りしめて腕に赤い布が現れる。



我に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)



直後、その布がランサーの体に巻きついて行き、更には離れた場所にいる士朗にまでそれが伸びていく。
そちらの方は咄嗟に掛けたセイバーによって切り裂かれたが、至近距離に居るランサーは逃げようもなく束縛される。


しかしそれでも槍を放そうとしないのはさすがだ。


が、それ以上は何もできない。




この布は「マグダラの聖骸布」
男性に対して絶対的な束縛力を持つ、カレン・オルテンシアの所有する魔術礼装だ。


「お前は最初の時にこれで仕留めるつもりだったんだよ。お前の宝具は厄介すぎる」

「ご・・・ごふぃ・・・・・」


ランサーがミイラのように聖骸布にくるまれながらも、蒔風に悪態をつく。
しかし、それが蒔風に聞こえるわけもなく。



「わかんねぇよ。バーカ」



ドンッ!!!



地面に倒れ、無抵抗と化したランサーに、蒔風が頭、喉、胸、の三点に剣を突き立てた上に引き裂いた。


「心臓貫いた程度じゃあ英霊は死なない。だからしっかりやらせてもらったぞ?」

「ランサー!!!」



ランサーが消え、セイバーが叫ぶ。
だが、この男がそれを手に入れた今、そんなことを気にすることなどなく・・・



《ワールド!!!》



もう一度メモリを使用、その手には先ほど消えた英霊の、赤き槍の宝具が握られ・・・・



「ゲ~イボ~ルグ」


ドスッ!!!



なんともおどけた、リズムにでも乗るかのような動きで、滅茶苦茶な方向に一突き突いた。
するとセイバーが目に見えぬほどの動きで緊急回避し、その肩口に穴が開く。



「貴様・・・・」

「さすがによけるかー。でもまだまだ・・・」



そう言って、蒔風が再び放とうと槍を構える。
構えると言っても、適当な方向に突き出すだけでも、すでに心臓に向かって突き刺ささっているようなものだ。彼はいちいちそんな大仰な構えはしない。



「凛!!士朗!!!私に魔力を回してください!!!」

「セイバー・・・何を!?」


「ハァァァァアあああああああああああああ!!!!」




セイバーに向かって、凛と士朗の魔力が流れ込んでいく。
蒔風がそれを面白そうに眺めながら、槍を首の後ろに回して両肩に担いだ。


直後、白い羽根が散って、セイバーの姿があらわになった。
その姿は先ほどの甲冑が青だとしたら、今のは白と呼ぶべき姿だ。

まるで花。ドレスのような外見に、その装甲は幾分か少なくなった。



ある世界では、セイバーリリィと呼ばれる姿―――に近い形態の彼女がそこにいた。
速度にすべてを置いた、彼女の別形態が二人の魔力を吸い取って今ここに現れた。




「ほう・・・・・・」



それに、蒔風が感心したように言葉を漏らす。

その姿は、ただ美しいものだ。とても戦闘のできるような、否、戦闘など出せば崩れてしまいそうなほど美しいものだった。


しかし

「行きます・・・・・」



セイバーのその掛け声と



「覚悟ッ!!!」



速度によってその考えは改めさせられる。





まるで視認できない。

蒔風は一瞬自分に迫ってくるセイバーを見たが、次の瞬間には脇腹が切られていた。
そこを押さえ、血を止めようとする蒔風だが、セイバーの攻撃は止まらない。

肩を、足を、少しずつ切られていく。
蒔風はそれに対し、何とか身をよじって避けている。だからこそこの程度。本来なら既に足の一本でも切り落とされて当然だ。



(クロックアップに慣れてっからいいけど・・・これはいささかきついぞ!!!)



蒔風の感想はこんなものだ。
そう、彼女の速さに、蒔風は追い詰められつつある。

それを見る士朗と凛にしてみれば、ただ白い亡霊が蒔風を通過して切り刻んでいるようにしか見えない。


が、その現象は蒔風にも発生した。




加速開翼。





超高速移動についていくため、蒔風が獲得した方法だ。
その速度はクロックアップや風足に匹敵し、彼らの動きについて行くことができる。

だが、それでもセイバーはなお速い。下手をすれば全力を出したフェイトよりも早いのではないだろうか?


まあ、実際には蒔風のコンディションが悪いためにそう感じているだけなのだが。





ともあれ、勝負は一瞬で終わる。



「ゲイボルg「風王鉄槌(ストライク・エア)!!!」」




ドバッ!!と




風の奔流に殴られ、同時に吹き飛ばされた蒔風が沢の砂利の上をジャラジャラと転がり、すられ、身体の半分が水に沈む。


その蒔風に向かって、セイバーが超高速をやめて蒔風の元に走る。
もう彼は動けまい。このままでも十分に勝てる。早くしないと二人の魔力も危ないのだ。



しかし、瞬間その槍が光って蒔風の手から飛び出した。



「ッッ!!まず・・・・」





そうしてその場から動いて回避しようとするセイバー。
彼女はこの攻撃を、本家本元のランサーからくらったときにそのスピードと幸運ランクでなんとか避けた(肩には当たったが)経験がある。

故に、今のこのスピードならば避けられると思ったのだ。


しかし、彼女には読めなかった。否、読むことなどできないと言うべきだろう。


なぜならば彼女は「王」だ。しかも、その中でもことさら誇り高き「騎士王」である。
そんな彼女が、卑怯な手、外道な行いをする蒔風の思考など読めるはずもなく・・・・




ドンッ!!




その槍は手首のスナップ程度に「放たれ」、凛の心臓に突き刺さって彼女を消した。


「凛!!」

「リン!!!!・・・クッ・・・魔力が・・・・!?」


カランと、赤い呪槍が地面に落ちる頃には、魔力の供給のなくなったセイバーはいつもの姿に戻っていた。


「圧水」



そして直後、蒔風のつぶやきと共に川の水がセイバーを包み込んで水球に閉じ込める。


彼女は水の上を歩ける。これは湖の精霊の加護によるものだが、それゆえに彼女は泳ぐという事を知らない。
最近は士朗とプールに行って練習していたらしいが、今の甲冑姿で泳ぐほど出来るわけがない。

その水の中で、セイバーがジタバタと暴れるが、圧水からは逃げられない。


そしてその中から見える光景に絶句した。




士朗が、投影した「干将莫邪」を振るって蒔風に向かって行ったのだ。



士朗は半人前だ。
しかし、彼の持つ固有結界「無限の剣製」は絶大な威力を誇るものだし、それを全開させれば蒔風を止めることはできる。

しかし、先ほども言ったように彼は半人前だ。
何らかのバックアップもなしに固有結界は展開できないし、そもそもリリィへの形態変化のために、魔力をかなり使っている。


果敢に蒔風に攻め込み、攻撃をかわしていく士朗だが、あえなく蒔風の刃に倒れる。



それを見て、セイバーの脳内で血管が切れた気がした。




蒔風は士朗の始末を終え、セイバーを包む圧水を絞って彼女を潰すか、と振り向いて腕を出す。
直後、その水が弾けて爆散した。



周囲を雨のように水が覆い、一瞬で地面に落ちる。



そこに立っていたのは漆黒の甲冑に身を包んだ暴君がいた。





「貴様・・・死んだぞ」

「それはおかしいねぇ。まだ生きてるわけだが?オルタさん?」



セイバーオルタ。
彼女が反転し、その属性が「秩序・善」から「秩序・悪」へと変わり果てた暴君だ。


その力は―――力だけは通常はもちろんリリィも凌ぐ。



「必ず殺す。どんな手を使っても殺す。命乞いしたらその瞬間に首を切り落としてやる」

「だからやってみろっての。暴君様はいちいち相手に了解取らないと殺戮もできないのかよ」




「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」





蒔風の言葉に、ついに理性を飛ばしてセイバーが駆ける。


死を、死を、死を!!!



相手に「死」のみを要求する失効の力が、漆黒に包まれた聖剣と共に突っ込んできた。




それを見て、ニヤリと笑う蒔風。





いくらこの形態だろうとも、勝負など見えているからだ。
彼女の魔力はもう持たない。



勝負は五分もかからず付いた。





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理樹がもう二日連続で青龍たちを追っている。
その間の食事などは一切ない。

しかし、その体を流れるエネルギーを変換し、体の健康を保っていた。


「本気で化け物じゃの・・・・・」


現在逃走中の玄武が呟きながら、この男からあと三十分は逃げなければならないと考えるとうんざりしていた。
無論、これは両者ともにメリットがある。


理樹からすれば蒔風に近づけるし、彼の戦力を削れる。
青龍たちからすれば理樹を蒔風の向わせずに済む。


一体が逃げ続けることは不可能だが、こうして交代ならば青龍らにも逃げるだけなら可能だ。



しかし、ここで獅子が何かを感じ取って叫んだ。




「まずいぞ・・・クラウドが接近している!!」

「翼人二人かよ!!」

「・・・・玄武、聞こえましたか?」

『ああ、ああ!わかっておる!!厄介極まりないのぅ!!』


「今から合流しましょう。そして、再びシャッフルを」

「とはいってもクラウド殿は理樹殿と違って召喚獣を使いなさる・・・・これはまずいのでは?」

「・・・・我々はとにかく逃げるのみ。召喚獣が来たら撃墜しよう」




そうして、玄武が見えてきて同時、漆黒の翼を視界にとらえた。


「逃げるぞ!!」




七つの光が交差し、バラバラに逃げる。
案の定クラウドが召喚獣を放ってきたが、それでも逃げるばかりだ。


それでいい。
否、むしろそうするしかないだろう。


七獣には、翼人に勝つ力はない。








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蒔風が渓流――両側を崖に挟まれ、その最下層に川が流れている――で身体をこすっている。
崖に挟まれているとは言っても沢があり、その広さは十分にひろい。


空は晴天。先ほどよりも太陽が上昇し、少し気温が上がっている。
きれいな光に、美しい川。沢から崖にかけては小規模ながらも木々が生い茂っている。





そのきれいな川の水に、赤い液体が流れてきた。




蒔風が身体の血を流したのだ。
そうして再びさっぱりしてから、その場を去った。



そこに残ったのは、戦闘の跡のみ。
川を流れる赤い液体は、もう薄まって見えなくなってしまっていた。






to be continued
 
 

 
後書き

そろそろ終わっちゃいそうで「あれ?」な武闘鬼人です。
第二章、五十話も行かないで終わっちゃいそうだぞ?



「人間に宝具なんて・・・敵うわけないじゃない!!」

ランサー
「あの野郎オレの宝具好き勝手に・・・」

セイバー
「さすがにもう無理・・・」

士朗
「料理あるからみんなで食おうか」



御疲れですたー



第一章が長かったせいで終わりが速いと感じる。


なお、セイバーリリィの設定は作中にあるようにしました。
厳密にはリリィっぽい、だけですがね!


「リリィ可愛いんだもん。出したかった!!」
というのが当時の私の言い分です。


なぜかマスター陣が全く活躍しない。
とくに士朗。どうしてこうなった・・・・・

そして追いかけっこ翼人。
化物か!?




セイバー
「次回、私が倒れ、そしてあの男が・・・」

ランサー
「あの野郎今まで何にもしてこなかったくせによ・・・」


ではまた次回







リスト残り


長門有希
クラウド・ストライフ
小野寺ユウスケ
海東大樹
野上良太郎
モモタロス
ウラタロス
リュウタロス
ジーク
デネブ
直枝理樹
乾巧
ギルガメッシュ
剣崎一真
左翔太郎
フェイト・T・ハラオウン
シグナム
ヴィータ
リィンフォースⅡ

 
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