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エンジェルクライ

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第一章

                          エンジェルクライ
「天使の叫びってやつだな」
 ドイツ軍の将兵達は列車砲が巨大な弾を撃ち出すのを見ながら呟いた。
「この砲撃はな」
「ああ、でかいだけはあるな」
「本当に凄い叫び声だよ」
「雷みたいだな」
 巨大な砲弾は空に舞い上がる。そのうえで。 
 目標を撃つ。その先には敵の軍需工場がある。レニングラードの中にある工場だ。 
 兵士の一人が双眼鏡で着弾をチェックしている。見れば。
 その砲撃で工場が爆発した。それを見ての言葉は。
「命中しました」
「そうか。やったか」
「はい、まずは一発ですね」
 こう少尉の男に告げていた。
「そしてこれからも」
「ああ、どんどん撃ってな」
「あの工場潰しますか」
「列車砲は最強の大砲ということを見せてやるんだ」
 少尉は強い声で双眼鏡を持っている兵士に言った。
「いいな。そうしてやるんだ」
「撃って撃ってですね」
「あの工場を潰してそれからは」
 まだあった。巨大な、何と複数の線路を使う列車砲の攻撃対象は。
「他の工場も攻撃するぞ」
「あと空港もですね」
「列車砲は他の大砲とは違うんだ」
 少尉は胸を張って兵士に告げた。
「線路を使って動けるんだ。しかもな」
「普通の大砲よりもですね」
「大きいですね」
「ああ、そこも違うんだ」 
 確かにだ。その砲身の口径は大きかった。しかも尋常ではない長さだ。
 砲身以外の列車自体もだ。複数の線路を使っている。
 その巨大な、戦艦にさえ思える巨体を見ながらだ。少尉は言うのだった。
「口径八十センチの大砲なんてな」
「まず普通では無理ですね」
「普通の重砲では」
「威力が違うんだよ、列車砲は」
 大きさ、それ故にだった。
「まさに最強の大砲だからな」
「動くうえに巨大」
「それ故に」
「列車砲に勝てる大砲はない」
 また言う少尉だった。実に誇らしげに。
「そしてその大砲であらゆるものを破壊してな」
「ええ、戦争に勝ちましょう」
「この戦争に」
 こんなことをだ。ドイツ軍の将兵達は話していた。レニングラードを包囲するドイツ軍はこうした巨大な列車砲も使い攻撃を行っていた。その中で列車砲は輝いていた。
 移動できる巨大な大砲はまさに重宝するものだった。それはドイツ軍の主戦場となった東部戦線でも同じだった。そしてその中でだった。  
 この列車砲部隊を指揮するハイネセン少将にだ。こうした命令が来た。
「クリミアにですか」
「そうだ。向かって欲しいとのことだ」
 レニングラードを攻めている北方軍集団の司令部から一人の中将が来てだ。ハイネセンに司令部となっている仮設の大きなテントの中で話した。
「これは総統からのお言葉だ」
「何と、総統からですか」
「クリミアといえばわかるな」
「はい、あの要塞ですね」
 ハイネセンは鋭い顔になって答えた。
「セバストポリ要塞ですね」
「あの要塞を攻めることは容易ではない」 
 その要塞はソ連にとって戦略上の要点の一つであるクリミア半島を守る要塞だった。十九世紀、まだロマノフ朝だった頃にはこの要塞を巡ってクリミア戦争が行われた。
 その時代に堅固さを知られた。そしてその要塞をだというのだ。
「その攻略の為にだ」
「我々がクリミアに赴きですか」
「指揮官はマンシュタイン大将」
 ドイツ軍きっての知将と言われている彼だというのだ。 
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