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決して折れない絆の悪魔

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白と竜

「な、なんなんだよあの戦い方!?」

ピットへと戻って来たバルバトスを解除しながらオルガに労いの言葉を受けているミカに放たれたのは非難に近い百春の物、彼の目に映ったのはまるで容赦など知らぬ凶悪なダーティファイトに感じられた。百春もISバトルの映像を見た事があるがそれらとは全く違う、相手を倒す事に特化された戦いが受け入れられない。特に最後のメイスの攻撃が最たるものだった。

「あんな戦い方していいのかよ!?男として恥ずかしくないのかよ、あんな勝ち方して!!」
「別に。なんとも」

ドリンクを喉に流し込みながら呆気らかんとした受け答えをするミカ、そんな姿に百春は怒りが沸いて来た。こいつには正々堂々と戦うという意識すらないのか。握り締めた拳に力が入る、我慢出来なくなった百春はそのまま走り出しミカ目掛けて拳を振るった。がミカはそれを容易く受け流しつつドリンクを上へと投げつつ空いた手で百春を地面へと組み伏せ、落ちて来たドリンクをキャッチした。

「ぐっ離せよ!!この卑怯者が!!あんなのは戦いじゃねぇ!」
「じゃあ何、お前の言う戦いって何?」
「互いが正々堂々やるのが戦いだろうが!!」
「それ、唯の試合じゃん。俺は戦いが何かって聞いてるんだけど」

片腕で組み伏せられた百春は唯々喚くだけしかしていない。唯綺麗事を宣っているだけの甘ちゃんだ。如何するかと思ったミカにオルガが任せろと声を掛けた、オルガは百春のISスーツの首元を掴み思いっきり持ち上げた。

「ぐっ離せよ!!」
「戦いってのはなそいつの誇りや命を守る為にするもんなんだよ。あの女は俺達の誇りである"未来院"を侮辱した、それを晴らす為の戦いだ」

聞けばこの百春はかなり自分勝手な持論を持っている、しかもそれは限りなく甘くどうしようもない。他人を容認しきれぬ甘さと若さがオルガを腹立たせていた、加えてミカに拳を振るってきた。それが一番気に食わない、俺たちの家族に力を振るった、ならばそれを返さなければならないと思える。

「だからって、相手は女の子だぞ!?男があんな事して言い訳が……!!」
「いいかよく聞けよ甘ちゃんのお坊ちゃんよ!!俺たちはてめぇみたいに恵まれた環境で生まれてねえんだよ、院長たちのお陰で漸く人間らしく生きられてんだ!!!それを、未来院を侮辱すんのは俺達の親父の愛を、精神を汚ねぇ足で踏みつける様なもんなんだよ!!!」
「オ、オルガさん落ち着いてください!!お願いですから!」
「っ……ちっ」

箒の宥めるような声に思わず我に返る、気づけば相手の首を絞める一歩手前まで踏み入れていた。箒は唯状況的に危険だから手を離してと言っている、オルガはキレていた自分に嫌気を感じながら手を離した。百春は漸く離れた事で苦しさから解放され苦しげに息をする。

「オルガお前らしくねえな、もっと冷静なのがお前じゃなかったっけ?」
「悪かったな一夏。俺だってあんな事言われて静かにしてるボンボンじゃねえ……一夏、団長命令だ。あいつを……潰せ」
「了~解ぃ」

間延びした声と適当な敬礼で答える一夏だがその瞳には嬉しさが滲んでいた。

「私は管制室に行く。一夏、お前は別のピットから出てやれ」
「解ったよ母さん」
「オルガ、ミカ。一夏の応援しっかりな」
「ああ当然」
「うん」

いい子だ、と言って二人の頭を撫で一夏の頬にキスを落としたサムスはそのまま管制室へと歩みを進め一夏たちは別のピットへと向かう。

「くっそっ!!!あいつらのせいで、一夏兄は可笑しくなったんだ!!俺の事を忘れさせられたんだ!!絶対に、絶対に許さねえ…!!」
「百春、あの人は一夏じゃ……」

言い切る前に箒は言葉を飲んだ、その言葉を言ったらお前も許さないと眼光を飛ばしてくる百春の顔があった。怒りを超えている感情に箒は何も言えなくなった。百春は漸く届いたISを展開しカタパルトに足を乗せた。

「俺が……一夏兄を取り戻す……!!」

カタパルトが動きそのまま射出されていく百春を見送る箒の表情は酷く悲しげで、泣きそうな表情だった……。


アリーナへと射出された百春、明るい太陽の光に照らされているその機体はまだ完全な設定が終わっていないのか鉄の塊が人に纏える状態のような色だ、メタリックカラーという物があるが完全に鉄本来の色だ。どこか美しさも感じさせられるがまだ鍛造の最中というイメージが頭に入ってくる。

百春のIS、"白式"と銘打たれたISはまだ初期設定の途中である一次移行《ファーストシフト》という使用者本人に合わせられる調整が終わりきっていない、千冬に終わるまで待てと言われていたが怒りのままに飛び出してきてしまった。そしてそれが試合準備完了の意図と解釈されたのか向かいのピットからISが飛び出して来た。

「織斑来い、俺達鉄華団の戦いを教えてやる」

肩に大きく彫られている赤い花のようなエンブレム、心を一本突き通すような硬い鉄の華。決して散らない鉄の華、それを三日月と同じように身に刻んだ悪魔が現れた。バルバトスと共通の白い身体、左半身は何かを隠すかのような蒼色に染まっている。そしてバルバトスとは違う大きな何かを背負っている姿は戦闘準備をした軍人を思わせる。

「―――Wake up《起きろ》、Astaroth《アスタロト》」

名を告げる。バルバトスと同じくソロモン72柱の魔神の1柱、悪魔の名を冠する者、その名もアスタロト。紅いツインアイが輝きアスタロトに(一夏)が宿る。機体が一瞬震えるように出力が上がる、百春を確認した途端の事だ。倒すべき敵を確認し早く倒させろとISが叫んでいるかのようだ。

―――否、俺はIS《アスタロト》だ、IS《俺》があいつを倒したいんだ。

「一夏兄……どうしてさ、何であんな奴らと一緒にいるのさ!?」
「あ"っ?」

ブザーの音と共に武器を構えようとする一夏に百春は声を上げた、そしてそれは彼の逆鱗に触れる言葉だった。

「どうして俺と千冬姉の所に帰って来てくれないのさ!!?昔みたいに一緒に暮らそうよ!!兄弟仲良く三人で!!あんな奴らと居る事なんてないよ!何か理由があったんでしょ!?いなきゃいけない理由が!!」

必死に呼びかける、あれは紛れもない自分の兄で千冬の弟。でもなんで自分の所に戻ってきてくれないのか解らない、あのずっと話したかったのに居なくて話せなかった、漸く話せると思ったら未来院という所に居て、同じところにいる奴は暴力的に卑怯者。あんな奴らの所にいる必要なんてない、だから戻ってきてほしいと心から叫ぶ。

「ねっ千冬姉にお願いして一緒に暮らそっがっ!!?!」

最後まで言葉を発する事無く百春の腹部にアスタロトの拳が突き刺さった。全身が装甲で覆われていて聞こえない筈の歯ぎしりが聞こえてくるようだった。突き刺さった拳はそのまま振り抜かれ百春は地面へと叩き付けられる。オープンチャンネルが開かれ周囲へと一夏の声が聞こえだすが激しい息遣いがただ聞こえてくる。

「黙って聞いてりゃふざけた事ぬかしやがって……学習能力ってもんがねえのか、あ"あ"っっ!!!?未来院を侮辱すんじゃねえってオルガに言われたばっかりじゃねえのか、ええっ!!!?」

表情こそ見えないが、声はドスが利きまくっている怒りの声。度重なる未来院への、家族への侮辱、もう我慢など出来ない。ミカが居たならば彼を抑える為に必死に怒りを抑えただろうがもう抑える事など無い、オルガもミカも言うだろう、あいつを潰せと。背中のバックパックが稼働し装備されていた武器が手渡された、大剣にも見えるメイスである。

「い、一夏兄……」
「俺はてめぇの兄貴じゃねえんだよ!!もういい、てめぇは此処で果てろッ!!」

勢いよく大剣を振り下ろしてくる一夏に対して百春必死に回避行動をとった、猛攻を仕掛けてくる一夏に対してはとにかくの逃げの一手を取り続けていた。

「何時まで、逃げられるかぁあああ!!」
「一夏兄……そんな……」

『おい百春何やってんだそこ怪我してるぞ?ほら手当てするから来いって』
『今日の晩ご飯何が良い?』
『テストで100点取ったお祝いだ!今日はご馳走だ!!』

思い起これば直ぐに出てくる一夏との思い出、優しくて暖かかった兄。だが今目の前にいるのは怒りに身を任せる悪魔の姿、あれは……違う、自分が大好きだった兄ではない……!そう思うと同時にISの最適化が終了しISが一次移行した、白。どこまで白い純白の機体、悪魔を討ち果たす騎士に百春には映った。そして武器には嘗て世界の頂点に立った姉と同じ武器、雪片の名があった。

「これが俺のIS……千冬姉と同じ……そうか、これでぇえ!!!」

雪片を展開した百春は真正面からソードメイスを振りかぶる一夏へと打ち合った。凄まじい衝撃と威力に抑えるが必死に食い下がる。

「千冬姉と一緒に、一夏兄を連れ戻すぅ!!」


「す、凄い……三日月君も凄かったですけど、一夏君も凄まじい……」

アリーナの状況を確認できる管制室では千冬と真耶が試合の審判役も兼ねて機器のチェックなどをしつつ試合を見ていた。真耶は一夏の操縦技術とその気迫に驚きを感じていた、鬼気迫る迫力は正に鬼神その物だった。百春もなんとか雪片で対抗はしている物の得物の大きさと勢いの違いに押され続けている。

「百春、一夏……」

千冬は戦っている二人を余り見る事が出来ない、確かに一夏は自分の弟ではない、未来 一夏だ。その筈なのに……どうしても自分の弟のように映ってしまっている、弟たちが争っている。片方は戻ってきてほしいという思い、片方は家族を侮辱した怒りで。そんな光景が痛々しくて見てられなかった。

「目を瞑るな、確りと見続けろ織斑」
「っ……サムス・アラン……」
「旧姓で呼ぶな、私は未来だ」

管制室へと入って来たサムスは千冬の言葉を訂正しながら中へと入りズームアップしているモニターをしげしげと見つめている。

「ここは、関係者以外立ち入り禁止だ。出て行ってくれ」
「出て行くともお前に質問をしてからな」
「質問……?」
「織斑、もう一度言うぞ。私の息子はお前の弟ではない」

その言葉はずっしりと心に圧し掛かって来る。解っているのに、自分は弟の姿を、未来 一夏に重ねている……。

「解っている……!!」
「なら何故織斑 百春は兄と呼ぶ、弟の誤りと正すも姉の役目だぞ」
「っ……!!」
「織斑、お前にとって弟は何だ?」

家族だ、愛する家族だ。強く叫ぼうとするが何故か声が出ない、心に重くのしかかっている感情と思いが言葉を邪魔している。何時まで待っても言葉を出さないサムスは溜息を付いた。

「邪魔したな」
「ならっ!!お前にとって家族とは何なんだ!!?」

答えてみろと声を強くしていった、お前は何というと、サムスは愚問だなと言い放ち直ぐに答えた。

「決まっている。生きがいだ、家族の笑顔を守り愛情を注ぐのが私の生きがいだ」


「オラァァアアア!!」
「ぐぅぅぅぅっ!!」

戦う姿勢を見せた百春は必死に前に進み、声を発し続けている。兄に対する言葉、だがそれは拒まれ続ける。受け取る者が居ない、全て突き返されている、一夏は受け取る気などない。全て、怒りを持って接している。大剣の重さによる破壊力抜群の一撃を必死に防いでいるが、衝撃によるダメージは百春の意識にストレスと疲れを焼き付けて行く。

「一夏兄!」
「うるせえんだよ、お前はぁああ!!!」

地面に這わせるように大剣の刃を置きそのまま地面を抉るように掬い上げる、その一撃は雪片を大きく弾き百春の手から離れさせた。

「しまったっ!!グッ!!」

思わず剣を目で追うがその隙が命取り、突然の衝撃に両腕が動かなくなる。何かと思えばアスタロトの背中から巨大な竜のような頭が腕に噛みつき動きを封じていた。

「な、なんだこれ!!?」

竜は食い込むように腕を拘束し横へと広げていく。両腕が一直線に開かされた百春は身動きが取れなくなった、どうにか動こうとしても目の前で大剣を振り上げているアスタロトの姿に言葉を失う。限界まで高く振り上げられたソードメイスは、今か今かと振り下ろされようとしている。

「思い、出して……一夏、」
「兄貴じゃねえっつってんだろ、織斑」

振り下ろされた剣は百春の肩を捉えながら地面へと叩き付けながら爆発にも近い衝撃を発しながら土砂を大量に巻き上げた。何も見えなくなる中唯、ブザーだけが現実を突きつけた。

『試合終了―――勝者、未来 一夏』

あの一撃で勝負は決したと、察した。煙が晴れて行くと土に塗れながら肩の装甲が粉砕されているISと気を失っている百春の姿があった。一夏は既に百春から大きく離れ出て来たピットへと戻るように歩いていた。

―――この日、これら以外の試合は行われなかった。 
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