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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第二十八話 模擬戦 ライトニング

分隊に分かれての隊長模擬戦当日。

アスカはティアナとの話し合いができないままこの日を向かえた。

模擬戦を終えてからティアナと話し合おうと考えるアスカ。

気合いを入れ直して挑むが、エリオとキャロの様子がおかしい事にアスカは気づいていなかった。





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





アスカside

さてと、どうしたもんかね?

オレは準備運動をしながらティアナの事を考えてた。

お前、劣等感あって隊長の教導に不満あるだろ?なんて聞けないしな。

まあ、アグスタからの日にちを考えて、付け焼き刃の近接戦は今回はやらないでしょ?

時間がなさ過ぎる。

簡単に近接戦をモノにされたら、こっちの立場が無くなるしな。

どのみち、今日の模擬戦が終わらないと話もできないか。

オレは意識を切り替えて、訓練モードになる。

今回の隊長との模擬戦は、今まで習ってきた事をぶつけるチャンスだ。

何回、オレがシグナム副隊長やシスターに泣かされてきたと思ってる!

あれ?オレ、ハラオウン隊長や高町隊長との直接の絡みって少ない?

………やべ…涙出そう…

いかんいかん!これから模擬戦だってのに、沈んでどうする!

ここは一発かましておくか!

「よし!気合い入れて行くぞ、エリオ、キャロ!」

オレは頼もしきライトニングメンバーに向かって、グッと拳を突きだした。

「「……」」

あれ?どうしたんだ?返事がない。

「どうした?どっか痛いか?」

いつもなら元気に返事を返してくる二人が、なんか今日は沈んでいるように見える。

「い、いえ!何でもないですよ。ね、キャロ」

「う、うん。大丈夫です」

何か、慌ててると言うか……ちょっといつもと違うな。

「そう?ならいいけど」

まあ、模擬戦とは言え、ガチンコで隊長と戦う訳だから緊張しているんだろう。

オレはしゃがんで二人の目線に並ぶ。

「大丈夫だよ。普段の練習通りにやればいい。今までの訓練の成果を隊長に見せるんだ」

なるべく落ち着いた声で二人に話す。

「「はい!」」

少しは緊張が解れたのか、エリオとキャロは元気に返事を返してきた。

「よし、大丈夫だな!」

ポンポンと二人の頭を撫でてオレは立ち上がった。

その時、遠目から見ているティアナと目が合う。

僅かなきっかけだが、オレは念話で話かけた。

『ティアナ。今日の模擬戦が終わったら話したい事がある。少しでいい、時間を作ってくれ』

『……』

返事はない。

まあ、しょうがない。今はまだそれでいいや。

とにかく、今は目の前の模擬戦だ。





outside

「じゃあ、そろそろ始めようか」

なのはがフォワードを集める。その後ろでは、フェイトとヴィータが何やら話をしていた。

「そうだね。じゃあ、最初はライトニング。私が相手をするよ」

そう言って前に出てきたのはフェイトだった。

「「え……」」

エリオとキャロが戸惑った表情を浮かべたが、アスカはそれに気づいていない。

「フェイトちゃん、いいの?」

「もちろんだよ。って言うか、なのはは今日は模擬戦ダメだよ。昨日も遅くまでデータまとめていたんだから」

注意するようにフェイトが言うと、なのはは苦笑した。

心配性だなぁ、なんて言っている。

「さて、いつも通りに一生懸命やるぞ!」

「は、はい…」「わ、わかりました…」

気合いが入っているアスカに対し、エリオとキャロは、やはり元気が無い。

「本当に大丈夫か?」

さすがに心配になったアスカがエリオとキャロを見る。

「だ、大丈夫です!」

エリオが答えるが、どこか無理をしているように見える。

「ならいいけど、体調悪い時は早めに言うんだぞ?」

アスカがそう言った時に、なのはの号令が掛かる。

「では、ライトニングはバリアジャケット装着!こちらの合図で模擬戦開始、いいね!」

「「「はい!」」」

声をそろえて答えるライトニングメンバー。

(うん、大丈夫だな)

ようやく安心したアスカは、アーマードジャケットを展開した。





スターズの面々は、離れたビルの屋上からライトニングの模擬戦を観戦する事となった。

「さて、連中がどの程度までできるのか、見物だな」

ヴィータが腕を組んで、準備をしているアスカ達を見る。

「そうだね。ちゃんとやってくれると嬉しいな」

なのはは笑ってライトニングの準備が終わった事を確認する。

「それじゃ、模擬戦ライトニング、開始!」





アスカside

さあて始まりました本気(マジ)模擬戦。

ハラオウン隊長はリミッターがついているとは言え、ぶっちゃけ戦力差は歴然。

どこまで食いつけるか、やあってやるぜ!

「キャロ、全体指揮を頼む。オレが隊長を引きつけるから、エリオはキャロの指示でアタックだ!」

バリアを張ったオレはハラオウン隊長に向かって走り出す。その後ろからエリオが続く。

作戦なんて無い。いつも通り、オレが攻撃を引きつけてエリオが打ち込む。それだけだ。

「いきますよ、ハラオウン隊長!」

張っていたバリアを飛ばして隊長の隙を作ろうとしたけど…

そう簡単にはいかないよ!」

アッサリと交わされてバルディッシュさんを…ヤバッ!

「なんの!」

その一撃をラピで受け止める!

ギン!

鈍い金属音と同時に、オレは弾き飛ばされてしまった!

受け止めるたつもりだったけど、難なく押し込まれてしまった。

すげぇ!あの細身でこのパワーって。シグナム副隊長といい勝負だ。

でも、これで一瞬の隙ができた筈。

ならエリオの一撃が決まる。一本は取れないまでも、主導権が握れる……筈だった。

だが、エリオは動いてなかった。キャロからの指示も無い。

「どうした、エリオ!」

オレの声にハッとしたエリオが慌ててハラオウン隊長に斬りかかるが、隊長は既に体勢を立て直している。

「エリオ、遅いよ!」

ストラーダをバルディッシュさんで受け止めた隊長は、そのまま力比べに入る。

「うぅ…」

当然、子供と大人の女性じゃ話にならない。

「下がれ、エリオ!」

オレが前に出て切りかかるが、ハラオウン隊長はバックステップで間合いを空ける。

あっという間に数メートルの距離が空く。

ただのバックステップであれかよ!参ったね。

「エリオ、一旦下がって態勢を立て直す、いいな?」

「は、はい!」

空いた間合いを更に広げる為に、オレとエリオは後退した。

しかし、どうしたんだ?エリオとキャロの様子がさっきから何かおかしいな?





outside

「なんだか、チグハグだな?」

今の戦闘を見ていたヴィータが呟く。

「うん。エリオの動きがぎこちないし、キャロが指揮官としての働きをしていない。アスカ君の動きは良いんだけど」

なのはも同意見のようだ。

「もしかして……」

エリオとキャロの動きに精彩が無い事に、なのはは心当たりがあるようだった。





一方、ライトニングはフルバックの位置まで後退していた。

「どうした、二人とも。いつも通りでいいんだ。特別な事をするんじゃないんだからさ」

「「は、はい」」

そう返事をしてきた二人に、アスカは頷く。

「よし、じゃあ仕切り直しだ。オレがハラオウン隊長を引きつけるから、キャロはフリードの炎撃でフォロー。エリオはキャロの指揮でサイド、もしくはバックからの斬撃。いいな!」

「は、はい、やってみます!「わ、わかりました。フリード!」

返事をして、いきなりキャロはフリードに指示を出した。

「くきゅー!」

フリードが炎を吐き出してフェイトを攻撃するが、距離がある為に易々と避けられてしまう。

「キャロ、まだだ!オレがハラオウン隊長に張り付く時にフォローしてくれ」

「ご、ごめんなさい!」

慌て過ぎたキャロが謝る。

「落ち着けばできるよ、キャロ。じゃあ行くぞ、エリオ!」

二人に声を掛けて、アスカはフェイトとの間合いを詰める為に走り出す。

(ヤッパリ、エリオとキャロの様子がおかしい…いつもの動きじゃない。なんでだ?)

間合いを詰めつつ、アスカはエリオとキャロの様子をみる。そこに…

よそ見していて、いいのかな?」

「え?うわっ!」

いつの間にか、間合いを詰めていたフェイトがバルディッシュを振るう。

間一髪よけたものの、アスカはバランスを崩してしまう。

「隙あり!」

フェイトが追撃をかける。

(このタイミングだ、エリオ!)

フェイトの注意がアスカに向かっている今がチャンスだった。が、エリオは動かなかった。

「な、なんで!」

アスカはラピッドガーディアンをクロスにしてバルディッシュを防いだが、そのまま呆然としているエリオの所まで飛ばされてしまった。

「え?うわ!」

エリオと衝突してしたアスカは、もつれるように転んでしまった。

(どうしたんだ、二人とも…あっ!)

アスカは肝心な事を忘れていた。否、忘れていた訳ではない。

エリオとキャロなら、言わなくても分かっているだろうと勝手に思っていた事があったのだ。

(今それを説明している時間は無い…って、隊長キター!)

地面でもがいているアスカとエリオに、フェイトが迫る。

終わらせるつもりだろう。

バルディッシュを振り上げるフェイト。

(こうなったら!)

避ける事も、防ぐ事もできないと悟ったアスカは、最終手段を使った。

バッと右手を上げて叫ぶ。

「タイムッ!」

「「「「は?」」」」

見学組が思わず声を上げる。

ピタッ

今まさにバルディッシュを振り下ろそうとしたフェイトの動きが止まった。

「「「「え?」」」」

思わぬフェイトの行動に、見学組はまたしても声を上げる。

「まさか本当に止まるとは……」

自分で言っておきながら、アスカは信じられないと首を振る。

『フェ、フェイトちゃん、なんで止めたの?』

なのはが念話で聞くと、

『え?だってタイムって…』

と、あまりにも素直すぎる答えが返ってきた。

「タイムをかけるヤツも大概だけどよ、普通それを聞き入れるか?」

ヴィータが額を押さえる。

「あ、あはは…」

その言葉に、スバルは引き吊った笑い声を出す。

その隣では、ヴィータと同じくティアナが額を押さえている。

「はいはい、ちょーっとスミマセン!すぐに終わりますんで!」

立ち上がったアスカは、エリオとキャロを小脇に抱えて、フェイトから遠く離れた。





「さてっと。どうした、エリオ、キャロ。いつもと違うな」

アスカの問いかけに、二人は俯いたまま答えない。

(やっぱり、か)

アスカは両膝を地面につけて、目線を二人に合わせる。

「ハラオウン隊長と……お母さんと戦うのは、怖いか?」

なるべく優しく、怯えさせないように語りかけるアスカ。

その言葉に、二人はビクッと身体を震わせた。

「お母さんと戦うのはイヤ、だよな。当然」

それを聞いたエリオが顔を上げる。

「ボクはフェイトさんと一緒にいたくて六課にきたんです!フェイトさんと戦う為じゃないんです!」

叫ぶエリオの目には、涙が浮かんでいた。

「私もそうです!少しでもフェイトさんの側にいたくて…少しでも役に立ちたくて…心配かけないようにしたいだけなのに、何でフェイトさんと戦わないといけないんですか!」

キャロも泣きながらアスカに叫ぶ。

「そう、か……」

もっと早く気づくべきだった。二人は悩んでいたに違いない。

エリオとキャロは優秀ではあっても、まだ10歳の子供なのだ。

アスカは後悔した。

ここ最近はティアナの事で手一杯だったので、エリオとキャロの事を殆どみてやれてなかったのだ。

そのせいで、二人を追いつめる結果になってしまった。

「ごめん、エリオ、キャロ」

「え…」「あ…」

アスカは、エリオとキャロを抱き寄せた。

「オレがちゃんと、この模擬戦の意味を話していたら、こんなに苦しまなくてよかったんだよな…ゴメン」

強く、アスカは抱きしめる。それは、二人に懺悔するようにも見えた。

「今回の事は、オレの責任だ。お前達はここで見ていてくれ」

「「え?」」

「今から模擬戦の意味説明する時間はない。だから、ここから先はオレ一人でやる」

「……」「あ、あの…」

「オレは六課で、いま自分がどの位置にいるのか知りたい。隊長を通して、オレの実力がどれくらいあるかを知りたいんだ」

アスカはそう言って二人を離す。

「エリオ、キャロ。ごめん、お前達を苦しめて。後で、ちゃんと話をしよう」

アスカはそう言い残し、フェイトの元に向かった。

「ども、おまたせさまです」

おどけた風に、アスカはフェイトの前に立つ。

「えーと、エリオとキャロは?」

離れた場所にいる二人に目を向けるフェイト。

「お母さんとは戦えないそうです」

「そっか……」

アスカの答えに、フェイトは少し寂しそうな目をした。

「申し訳ありません!オレが二人にちゃんと今回の模擬戦の意味を教えていなかった所為です!エリオとキャロに責任はありません!全てオレの責任です!」

アスカは深々と頭をさげて謝罪する。

「そんなに謝らなくていいよ。でも、そうなるとライトニングは棄権って事でいいのかな?」

フェイトが言うと、アスカはバッと顔を上げた。

その顔には、まだ闘志がある。

「ハラオウン隊長。オレは六課に来てデバイスを変えて戦闘スタイルが変わりました。それに、今日までシグナム副隊長やシスターシャッハに散々絞られています。オレはどれだけ強くなっているか知りたいんです。おつき合い願いませんか?」

ここで終わられたら困る。アスカはそう思った。

ただ強さを見るだけでは意味がない。

エリオとキャロに、今回の模擬戦の意味を教える為にも、是が非でもフェイトと戦わなくてはいけなかった。

『なのは、どうするの?』

フェイトは念話で確認をとる。

『個人戦も見てみたかったし、それにアスカ君に何か考えがありそうだから、やっていいよ』

なのはの返事を聞いたフェイトが、バルディッシュを構えなおした。

「いいよ、アスカ。思いっきりぶつかってきて」

「はい!」

アスカは今一度、間合いを空けてラピッドガーディアンを構えた。





ティアナside

あの二人に何があったのかは分からないけど、なんで個人戦になるのよ。

どう考えても無謀だわ。

「アスカ、一人でなんて無茶だよ」

スバルが呟く。アタシも同意見だ。

「エリオとキャロがいたって厳しいのに、アイツの攻撃力じゃとてもフェイトさんに勝てる訳がない」

「バカタレ、どこを見てるんだ?」

アタシの独り言に、ヴィータ副隊長が口を突っ込んできた。

「え?どこって…」

スバルが戸惑う。アタシも、ヴィータ副隊長の言葉の意味を捕らえかねている。

「アスカは勝ち負けを競う為に個人戦を挑んだ訳じゃねえぞ。よくヤツを見ておけ」

そう言うと、ヴィータ副隊長は再び模擬戦に目を向けた。

どう言う事?

確かに実力差を考えれば、勝ち負けは決まっているけど、勝つ努力をしないんなら意味なんて無い。

じゃあ、なんの為に模擬戦をやるって言うのよ?





outside

アスカは双剣を構えて、身を低くした。

「行きます!」

叫ぶと同時にエリアルダッシュで間合いを詰める。

フェイトに肉薄するアスカ。

だがフェイトは冷静にアスカの後ろに回り込もうとする。

アスカは旋回してフェイトを正面に捕らえた。

バックステップで再び間合いを空けるフェイト。

まだ、どちらも初弾を放ってはいない。

「やるね、アスカ」

「まだまだッスよ」

一定の間合いを保ちながら、アスカはフェイトを見る。

(攻撃してきたらカウンターを狙おうと思ったけど、そう簡単にはいかないか)

まともに行っては歯が立たないのは分かっている事だ。

高速戦ではフェイトの方が数段上。リミッターを掛けられていても、魔力値もアスカより遙かに上だ。

バカらしくなるくらいに戦力差がある。

「今度はこっちから行くよ!」

フェイトがバルディッシュを水平に構えて踏み込んでくる。

「上手くいけよ!」

襲いかかってくるバルディッシュ。瞬時にバリアを張るアスカ。

「ハァッ!」

フェイトはバリアにかまわず、バルディッシュを横に凪ぐ。

アスカの目の前でバリアが砕ける。

「ぐっ!」

かろうじて、アスカはラピッドガーディアンでバルディッシュを受け止めるのに成功した。

「とりあえず、一つクリアだな」

歯を食いしばりながらも、アスカはふてぶてしく笑った。





「ギリギリ受け止めた、って感じね」

今の攻防を見たティアナの感想はそうだった。

「それだけか?」

「え?」

ヴィータが模擬戦から目を離さずに言う。

「分からねぇか?最初、チーム戦の時にフェイト隊長の攻撃を受けてアスカは弾き飛ばされたんだぞ。なのに、今回はバルディッシュを受け止めたんだ」

「「あ!」」

ヴィータの説明を聞いて、ティアナとスバルは声を上げた。

戦闘中で急に実力が上がるなんて事はない。

だとしたら、アスカは何らかの工夫をしてフェイトの攻撃を受け止めたと言う事だ。

「ボーっとしてんじゃねぇぞ。仲間がこの模擬戦で何をしているか、何を理解しているかを考えて見ろ」

「「……」」





アスカはバルディッシュの軌道を見切ってバリアを張った。

いくらフェイトがバリアを切り裂いても、攻撃そのものはラピッドガーディアンに全て防がれる。

「なるほど。バリアを防御で使うんじゃなく、クッションとしてつかってるんだ」

フェイトがアスカの手を読む。

バルディッシュの一撃は確かに重い。それでも、バリアを破壊した分、勢いは殺される。

リミッターが無いなら話は別だが、今のフェイトは能力制限つき。影響は出る。

「シグナム副隊長との模擬戦の時に気づいたんですよ。AAクラスまでなら通用する防御テクニックです」

肩で息をしながらアスカは答えた。余裕は全然無い。

(体重移動とインパクト時の力の入れ方だけで破壊力を増しているのか!魔力強化してないのに、こんなに重いとはね)

冷静を装いながら、内心舌を巻くアスカ。

「じゃあ、これならどうかな!」

魔力反応!強化した!

アスカが感知した時には、フェイトはすでにバルディッシュを振り下ろそうとしていた。

「速い!」

バリアを展開する間も無い。

ガキッ!

アスカは前に出てラピッドガーディアンで十文字受けでバルディッシュを防いだ。

「よく前に出てこれたね!」

「こういう場合は前に出ろって、副隊長とシスターに叩き込まれましたからね!」

上からの圧力に耐えながら、アスカは叫ぶように言った。

長い武器の場合、取り回しが難しい為、間合いを詰めて根本を抑えればダメージは受けない。

(理屈は簡単だよ!でもね、すげぇ怖い!)

冷や汗を流しながら、アスカはフェイトとの力比べに入る。

「さすがに、力じゃ負けちゃうかな?」

「よ、よく言いますね…」

ジリジリと押されるアスカ。

アスカも魔力強化はしているが、元の魔力が違いすぎる。

このままでは、押し負けてしまう。

「でもね、オレのデバイスは双剣なんですよ!」

十文字で受けから左腕一本でバルディッシュを受け止めると、空いた右腕で攻撃を放つ。

「インパルスナイフ!」

ラピッドガーディアンから突き出た魔力刃がフェイトに迫る。だが、

「ソニックムーブ!」

瞬時にフェイトが消える。

そして、数メートル先に姿を現すフェイト。

「いいね、アスカ。その調子だよ」

「その調子って…」

フェイトの余裕を奪えずに苦笑するアスカ。

(でも、ソニックムーブは出させた。じゃあ、次の仕掛けだ)

アスカの攻撃を回避する為に、フェイトはソニックムーブを使った。

確実にアスカがフェイトに迫っているという事だが、その分不利にもなる。

これでフェイトは、ソニックムーブを使用する事を躊躇しないだろう。

「こんなのはどうです!」

アスカはラピッドガーディアンを振り上げ、自分の周りにバリアを多数張り巡らせた。

「あれは…」

アスカとフェイトの模擬戦を見ていたエリオが、その光景を見て思い出す。

「夜中にやっていた魔法の練習で、最後の仕上げのヤツだ」

確か、強度に問題があって実戦ではまだ使えないと言っていた魔法だ。

アスカはそれを使っている。

「ちょっと攻めづらいかな」

アスカの意図が分かったフェイトは、思わず苦笑いを浮かべた。





「まったく、脆い防御魔法でソニックムーブを封じようなんて、よく考えつくよ」

なのはも、アスカの考えが分かったのか、呆れたような笑みを浮かべた。

「ど、どういう事ですか?」

まったく状況が理解できないスバルが、なのはに聞いてくる。

「よく見ろ。アスカは自分の周りにバリアをたくさん展開している。あのバリアは脆いが、自在に動かせるようにしている」

なのはの代わりにヴィータが答えるが、スバルには何の事だかさっぱり分からない。

「なのは隊長やアタシなら何の問題も無いが、超高速戦を得意とするフェイト隊長だと、あの布陣は厄介だ。まだ分からないか?」

ヴィータの説明に、アハハと頼りない笑いで答えるスバル。まったく分かってない。

「高速移動であのバリアに衝突したら、フェイトさんは大ダメージを受ける?」

不意にティアナが呟く。

「スバル。訓練校の時にやったでしょう?ビルの3階の高さから水面に落下した時のダメージ」

「うん、コンクリートに激突するくらいのダメージがあるってやつだよね?それがどうかしたの?」

スバルのピントはまだ合わないらしい。

「ソニックムーブであのバリアにぶつかれば、コンクリどころの騒ぎじゃないわ。たとえバリアを破壊したり回避したりしたとしても、アスカなら次々にバリアを展開できる。強度を気にしないのなら、かなりの数を出せる筈」

「あ!」

ようやく合点がいったスバルが声を上げる。

「分かったか?この模擬戦はお前達にとって勉強になるからな。スバルはアタッカーなんだから、よく見ておけよ」

ヴィータの言葉にスバルは、はい!と答えて集中して模擬戦を見る。

だが、ティアナは悔しそうに唇を噛んだ。

(アスカはヴィータ副隊長にも認められている…アタシだって!)





高評価を受けているとは知らずに、アスカは冷や汗を流していた。

(これでソニックムーブを封じた……わけないよな?ハラオウン隊長にこんな浅知恵が通用する筈がない)

アスカの考える通り、フェイトにとってスピードを落とさずにバリアを破壊して近接戦に持ち込む事など朝飯前だろう。

次の一撃を押さえられるか。

「ラピ、ブリッツアクションをフラッシュムーブでやる。演算よろしく」

《了解です》

次の一手が、事実上アスカの最終手段だ。

ブリッツアクション。動作の加速魔法だ。

ソニックムーブのような移動の速さではなく、腕を振り上げたり足を出したりする動作を加速させる魔法に、フラッシュムーブの加速を使うという事だ。

アスカの仕掛けに、フェイトが引っかかるかは別問題だが、彼には他に手はなかった。





キャロside

アスカさんは、できる事の全てを使ってフェイトさんの攻撃を何とか防いでいた。

「エリオ君」

私は隣のエリオ君に目を向けた。エリオ君はジッと模擬戦を見ている。

「私たち、何か勘違いしていたのかな?」

アスカさんが頑張っているのに、私は何をしているんだろう。

「ボクも、考えていたんだ。アスカさんが言いたかった事」

「うん」

「この模擬戦を見て、かなうはず無いのにフェイトさんに向かっていくアスカさんを見て、模擬戦の意味って…」

エリオ君も多分同じように思っているんだと思う。

そして、フェイトさんは今どう思ってるんだろうって考える。

「今の私たち、フェイトさんに心配かけちゃってるのかな?」

「うん…」





outside

フェイトがアスカのバリアを切り裂いてバルディッシュを振り上げる。

アスカが張り巡らせたバリアは意味が無かった。が、

「これで!」

《ブリッツアクション!》

振り下ろされる前に、アスカはブリッツアクションで動作加速させてラピッドガーディアンでバルディッシュを押さえつける。

「それなら!」「させません!」

バックステップで間合いを空けようとするフェイトの背後にバリアを張ったアスカ。

ドン!とバリアに退路を阻まれ、フェイトは背中を打ち付けた。

フェイトに初めて焦りに色が浮かんだ。

「インパルスナイフ!」

アスカの一撃がフェイトに迫る!が、

ガキッ!

フェイトが目の前から消え、インパルスナイフがバリアに突き刺さる。

「お見事。凄いよ、アスカ」

上空からフェイトが賞賛する。

逃げられないと判断したフェイトは、それまで使用していなかった飛行魔法を使ったのだ。

「追いつめられたか」

アスカは冷静に今の状況をそう判断した。

バルディッシュの一撃を防ぎ、ソニックムーブ、飛行魔法を使わせた。

今の一撃で決められなかったのは痛い。

「どうする?まだ続ける?」

フェイトの言葉には、今の条件でやるかと言う意味が含まれている。

つまり、ほとんど手加減無しでやるのかと聞いているのだ。

「ここでやめる訳にも、です」

頭上のフェイトに言うアスカ。

「うん。じゃあ、行くよ?」

フッとフェイトの姿が消えると同時に、ラピッドガーディアンが警告を発する。

《マスター、下です!》

ラピッドガーディアンの声に反応したアスカが下段の十文字受けで防御する。

気がついた時には、フェイトがアスカの前でしゃがんでいた。

そして、伸び上がるように踏み込んでバルディッシュを振り上げた。

「ぐあっ!」

アスカは受けきれず、両腕を弾かれてしまった。

強制的にバンザイをしている格好になった。

「しまっ…」

胴体がガラ空きになる。それを見逃すフェイトではない。

「ハアァァァァッ!」

フェイトはそのままバルディッシュを横になぎ払う。

(ここまでか!)

アスカは覚悟した。だが、

ガキィッ!

激しい金属音が響きわたり、バルディッシュの斬撃はアスカに届かなかった。

「え?」

2、3歩くよろめくように後ずさるアスカ。

目の前には、フェイトの攻撃をストラーダで防ぐエリオの姿があった。

「エリオ?どうして…」

フェイトとは戦えない、そう言っていたエリオがフェイトを押さえ込んでいる。

「アスカさん、ごめんなさい!ボク達、間違ってました!」

エリオがフェイトと鍔迫り合いをしながらアスカに謝る。

「フェイトさんと戦うのは嫌ですけど、この模擬戦はそういう物じゃないって、さっきキャロと話し合ったんです。フェイトさんと一緒に居たくて、少しでも手伝いたくて、心配かけたくなくて。でも、今のボク達を見たら、きっとフェイトさんは心配するって思ったんです!」

「そして気づいたんです!この模擬戦が、私やエリオ君が六課にきてどれだけ成長したかを見るものだって!」

キャロもフリードを従え、臨戦態勢を取った。

「「だから、模擬戦をやらせてください!」」

迷いのないエリオとキャロの言葉に、フェイトは嬉しそうに微笑んだ。

「当たり前だろ!オレ達3人でライトニングだ!」

アスカもニッと笑って二人を迎え入れる。

フェイトが一旦エリオから離れた。

「じゃあ、仕切り直しだね」

再びバルディッシュを構え直すフェイト。それを迎え撃つアスカ達。

本当の模擬戦が始まった。





「もう、勝手にやっちゃうんだから」

再びチーム戦に戻ったライトニングを見て文句を言うなのはだったが、その顔は微笑んでいた。

ちゃんと模擬戦の意味を理解してくれた事が、やはり嬉しいのだろう。

「そんな顔で言っても説得力ねーぞ」

ヴィータがツッコミを入れる。

「でも、いいんですか?」

あまりにもフリーダムな展開に、スバルがオズオズと聞くと、

「フェイト隊長がいいって言ってんだ。いいんだろ?」

ヤレヤレと、ヴィータが小さい肩を竦めた。





チーム戦に戻ってからのライトニングは、徐々にフェイトを追い込んでいった。

アスカが囮になり、キャロがフリードの炎撃でフェイトの隙を作り、そこにエリオが突撃をかける。

いつも通りの攻撃だった。だが、かみ合った3人は息継ぐ間もなくフェイトを攻め立てる。

「くっ!」

フェイトがソニックムーブを使おうにも、アスカがバラまいたバリアが邪魔をし、フリードの炎撃を捌いた瞬間にエリオが斬り掛かってくる。

それを避けたと思ったら、今度はアスカが攻撃を仕掛ける。

「これは…キツイね!」

たまらず空中へ逃げるフェイト。だが、じつに嬉しそうに笑っている。

模擬戦の意味を理解したエリオとキャロが思いっきり向かってくるのだ。

フェイトは遠慮なくきてくれるのが嬉しいらしい。

(それもアスカのおかげだね)

エリオとキャロを、本当によく見てくれているアスカに感謝する。

だからと言って、簡単に勝利を献上する訳にもいかない。

気合いを入れ直すフェイト。

そして、終わりは唐突に訪れた。

フェイトがバリアの隙間を縫ってソニックムーブでアスカに迫る。

エリオがそれを防ごうと、同じくソニックムーブで追いかけるが、フェイトは上手くかわして、エリオをアスカにぶつけた。

「ぐぇ!」

エリオを受け止めたアスカが変な声を上げた時には、フェイトはバルディッシュで切りかかっていた。

「なんのぉ!」

アスカはそれを読み切り、バリアを発生させてラピッドガーディアンで受け止めようとしたが……

「え?」

バリアは発生しなかった。

「え?え…ぐあっ!」

まともにフェイトの攻撃を受けたアスカがそのまま轟沈する。

あまりに呆気ない展開に一瞬惚けたフェイトだったが、返す刀でエリオにも一撃をくわえる。

「うわっ!」

アスカに次いでエリオも撃沈。

それを確認したフェイトがソニックムーブでキャロの目の前に立つ。

「はぅ!」

「はい、これで終わり」

チョン、とキャロのオデコを軽く指で突くフェイト。

「はわわ!」

ビックリしてキャロは、ペタンと尻餅をついてしまった。

「あ、ごめんね、キャロ」

フェイトはバランスを崩したキャロの手を取って起きあがらせる。

「だ、大丈夫です」

キャロはすぐに起きあがってフェイトに言った。





「どうしてアスカは、あんなにアッサリ墜ちたんだ?」

それまでの戦闘を見ていたヴィータはそんな疑問を口にした。

いくら相手が本気のフェイトでも、防ぐなり弾くなりはできたんじゃないかと思ったのだ。

「あー、魔力切れだね」

それまでのデータを見ていたなのはが、気の毒そうに呟く。

「なに?」

「前半の個人戦でかなり魔力を消費したから。もし初めっからエリオとキャロが参戦していたら、一本取っていたかもね」

その説明を聞いたヴィータがジト目をアスカに向ける。

「運のないヤツ」

ヴィータの一言に、思わず吹き出すなのはとスバル。

ただ一人、ティアナだけはアスカを睨むように見ていた。

(アタシは負けない。今までそう思って生き抜いてきた。今度だって認めさせてやる!隊長達にも、アンタにも!)





「あー!悪い、エリオ、キャロ!ドジっちまった!」

パン、と手を合わせて二人に頭を下げるアスカ。

「そんな!アスカさんは悪くないですよ!」

キャロが慌ててアスカに駆け寄る。

「そうですよ!ボク達がいけなかったんですから!」

エリオもアスカに駆け寄る。

その様子を見ていたフェイトは、優しい笑みを浮かべている。

『アスカ、ちゃんと二人のお兄さんをやれてるね』

フェイトが念話でアスカに話しかけた。

『頼りない兄貴ですけどね。よく慕ってくれてますよ』

『頼りがいがあるんだよ、アスカは。エリオもキャロも、アスカの事が大好きなんだよ』

フェイトにそう言われ、アスカは赤くなる。

「さ、さて!次やる時は、最初っから全力全回でいこうな!」

照れているのを隠すように、アスカが声を張り上げる。

「はい!」「分かりました!」

模擬戦で負けたのにも関わらず、ライトニングメンバーは明るく笑っていた。
 
 

 
後書き
えー、相変わらずの長文になってしまいました。申し訳ありません。
章もなんか、ダメですね。どうすれば表現が上手く書けるのか?残念な感じです。
こんな残念な文書を読んでくださり、感謝しかありません。ありがとうございます。

さて今回、模擬戦でフェイト相手にどう戦うか、と言うのを書きたかったのですが、
いかがだったでしょうか?
フェイトとの模擬戦なら、エリオとキャロはきっと嫌がると思ってこういう展開にしてみました。
一方、アスカはいつも通りを貫いてます。珍しく戦闘で頑張ってました。

いよいよ、次はスターズの模擬戦です。
えー、早いとこ終わらせたいですね。修羅場展開になりそうです。 
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