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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第82話:郷愁味、母の手料理、懐かしむ?

(グランバニア城:食堂)
アルルSIDE

雰囲気の悪い城下巡りを終え、グランバニア城へ戻ると既に夕食の時間になっており、ビアンカ様がメイド等と共に大量のご馳走を作ってくれていた。
王妃様自ら食事を取り分けたりする姿は、王族である事を伺わせない。

皆に食事が行き届き、ビアンカ様も席へ着いたところで「あ、紹介が未だだったね……この美女が私の妻、ビアンカ王妃だ」と絶妙なタイミングで発言。
ホザックの方々は100%メイドだと思い込んでいたらしく、全員腰を浮かせるほど驚いてました。

先刻(さっき)(晩餐会前)私の妻のことをメイドだと思ってナンパしてた奴が居るって聞いたけど……誰?」
柔やかなままの笑顔で追い打ちをかける爆弾発言をするリュカさん。
相変わらず性格が悪い。

「陛下……あのひょろ長面でおかっぱ頭の男です。俺、見てましたから」
見てたなら止めろよ……と言うツッコミは無意味なのかと思えるウルフの態度。
大物になったわ。

「ま、また貴様かパンタリオン!!」
ホザックのギルバート殿下が物凄い勢いで立ち上がり、パンタリオンと言う名の男を怒鳴り出す。
他国の晩餐会で怒鳴るのは如何な物かと……

「まぁまぁギルバート殿下、私は気にしておりませんから」
「し、しかし……いえ、お気遣い痛み入ります。大変申し訳ございませんでした」
本当に気にしてないのか、この場を取り繕う為なのか、ビアンカ様のお言葉に取り敢えずの落ち着きを見せるギルバート殿下。

このまま晩餐会を進めたいところですが、それをしないのが我が国王陛下の存在だ。
「ビアンカはそう言うけどさぁ……ちょっと疑問に思うね“立場解ってんの?”ってさ」
そんな疑問は誰もが承知してることなのに、わざわざ声に出して言うのがリュカさんの悪いところだと思うわ。そこが良いと言う者も居るが、あの人は国王なのだから、認めてはいけないと思う。

折角の料理が冷めてしまうし、ネチネチ嫌味を言ってないで食事を始めれば良いのに、偉そうな人種(貴族や他国の王族)に対する何時もの態度を改める気配がない。
ウルフも取り成しをすれば良いのに、リュカさんの態度にニヤニヤするばかり。一緒になって楽しんでいるわ……

「さ、さぁ……そんな事よりも……食べましょ! 折角作ったのに、冷めてしまったら勿体ないわ。ティミーも久しぶりの母の手料理だし、沢山食べてね」
あぁビアンカ様、心中お察し致します。周囲がトラブルメーカ達だらけで、さぞかし大変でありましょう。

「お義母様の仰る通りですわアナタ。久方ぶりの母の手料理なのですから、冷めてしまわぬうちに味わいましょう」
私も可能な限りビアンカ様の援護をするべく、夫に場の雰囲気を変えさせようと試みる。
さぁ凄く美味しいと言うのです!

「そ、そうだね……僕には久しぶりの母さんの手料理だし、皆さんも召し上がって下さい。とても美味しいですから」
本来なら上座に座る国王陛下の一言があってから開始する晩餐会なのでしょうが、いつまでも始める気が無さそうなので王太子殿下の一言で始めることになった。

「アア、トッテモ、オイシイデスヨ、オカアサン」
気まずい雰囲気が蔓延してる中での食事であり、流石のティミーも味なんか分かる訳も無く発言が棒読み状態だ。兎も角、雰囲気だけでも変えようという心遣いは伝わってくる。

「この悪い雰囲気で味なんか分かるモノか! 嘘吐いてんじゃねーぞティミー」
その雰囲気を悪くした人間が偉そうに言う事ではないでしょう、リュカさん!
何かないのですか……リカバリーの方法は!?

「雰囲気は関係ないのよお父さん……お兄ちゃんがビアンカさんの料理を美味しく感じてない理由は(笑)」
そうか、この娘が居た! 場にそぐわぬ発言をしても、その可愛らしさで周囲の男共を騙くらかす魔性の女リュリュが居たわ!

「ちょっと、如何いうことティミー? 私の料理は美味しくないの?」
「い、いえ……美味しいですよ本当に。ですが我々外遊に行ってた者達は、道中にラングストンの手料理をご馳走になったのです。それが余りにも美味しくて……」
あら? スラスラ淀みなくコメントしてるから嘘を吐いてる訳じゃ無さそうね。

「何よぅ……母の手料理より、男の大雑把料理の方が好みなワケ?」
「いやビアンカ。アイツは幼い頃、懐かしむべき母の手料理を味合わないで成長した。つまり懐かしい味というのがサンチョの手料理になる。言わば男汁の混じった食い物が好きなんだよ」

「嫌な言い方するな! 本当にラングストンの料理は美味しかったんですよ。僕にとっての懐かしい味である、サンチョの料理より……」
そうなんだ……あの男は、他人の神経を逆撫でする事以外も出来たんだ。

「何だラング……お前は他人を小馬鹿にする以外に誇れる才能があったのか?」
「そうなんですよ陛下。他人を小馬鹿にする才能は、如何足掻いても陛下に及ばないので、他の分野で才能を伸ばし始めたんです。なので料理に目覚めたのは、私がこの国に来る少し前からです」

流石というか何というか……
簡単な受け答えの中にでも、相手をディスる言葉を織り交ぜてくる。
ある意味天才なのかしらね?

「グランバニアに来る少し前って事は、5年くらい前って事ですよね隊長?」
リュリュが疑問に思ったことを素直に問うてきた。
これで多少は雰囲気改善を行えるかもしれないわ。

「あれは私が別の国に仕えていた時の事です。その国の王で、その頃の私の主より『大切なゲストを城下に迎えに行け』と命令がありまして、私はとある大物を迎えに城下へと赴いたのです」
以前使えてた国って事はロマリア王国よね……

「城下で探し出したとある大物さんに私は『我が国の王が貴方様をお呼びです。一緒に城まで着て下さい』と伝えたのですが、その方は城に行くのが不本意みたいで中々了承してくれなかったのです」
何処にでも居るのね……お偉いさんからの命令を嫌がる人間って!

「主の命令を違える訳にもいかず……その大物ゲストの機嫌を損なう訳にもいかず……私は困り果てまして、ある提案をしたのです」
「ある提案?」
リュリュの小首を傾げた問いかけに、この場に居る父親以外の男共は胸をときめかせている……私の夫も然り!

「はい。丁度昼時であったことから、城で昼食を振る舞わせてもらうと言ったのです」
「わぁ、お城での料理となれば凄く美味しいご馳走が出てくる訳ですよね?」
……あら? 何だか聞いたことのある話だわね?

「私もそのつもりでしたが、その大物ゲストが『シーフードピザを食べたい。でも魚介類にアレルギーがあるから魚介類を入れるな』と仰りまして……」
「は? 魚介類の入ってないシーフードピザって何?」

「えぇそうなんですよリュリュさん。私も大物ゲストの無茶ブリに頭を悩ませまして……城のコック等にお願いしても『そんな物出来るか!』と一蹴。とは言え大物ゲストの機嫌を損なう訳にもいきませんし、私も考え抜いて完成させたのです。そうシーフードピザ魚介類抜きを!」

「それってどんな料理?」
不思議そうに問いかけるリュリュに対してホザックの方々の視線は集中するが、私とティミーとビアンカ様だけはリュカさんへと視線を向けている。

「想像して下さい普通のシーフードピザを……普通のシーフードピザは、ピザ生地の上にトマト風味のピザソースが掛かっており、その上に新鮮な魚介類が並び、そしてチーズを掛けて焼き上げた物です。この行程の中から魚介類を取り除けば、その大物ゲスト様限定のシーフードピザ魚介類抜きが完成します。お味は如何でしたかリュカ陛下?」

「てめぇ……あの嫌がらせが原因で料理に目覚めたって、更なる嫌がらせじゃねーか!」
「じゃぁ何? ()の手料理はアナタ()の嫌がらせに負けたの!?」
「そう……言えなくもないですかねぇ」
「ティミー殿下、それを認めちゃ拙いんじゃないですか?」

過去の行いが嫌がらせだったことを認め、奥方に詰め寄られるリュカさん。
それを聞いたティミーも、ここぞとばかりに嫌がらせ歴の一つを強調する。
そんな雰囲気に付いていこうとギルバート殿下も参戦を試みている。頑張って欲しいわ。

「ご安心下さいビアンカ様。私の料理の腕前は愛するリュリュさんにのみ全力で振る舞うモノでして、ティミー殿下が欲してもお父上と同様の物しか作るつもりはございません」
「まぁ、それなら安心……しないわよ! 結局私の料理はラングストンに劣るって事でしょ! 母として哀しいわよ……」

「そうだよラングストン。僕が望んでも例のピザみたいのしか貰えないなんて酷いじゃないか! 僕も哀しいよ」
……ビアンカ様へのフォローをした方が良いのではないですか?

「そうは言われましても、リュリュさんが私と結婚してくれて、ティミー殿下が義理のお兄さんになってくれれば、尊敬する義兄に料理を振る舞っても良いんですが……」
「……リュリュ、僕は兄としてラングストンと結婚するのが良いと思うな!」

「うっわ……あんだけ変態チックに妹が好きだった男が、簡単に食い物で心を変えた」
「はっはっはっ、何を言われます父上。食べ物になんかつられてませんヨ。ラングストンの人柄に心揺さぶられたんですヨ」

「嘘くさいんだよ馬鹿。ラングの料理云々って(くだり)が無くても、其奴の人柄に心揺さぶられる奴が居るかよ!」
「そうですよティミー殿下。私が言うのもアレですが、ラングストンの人柄はちょっと……」
この外遊中どんだけラングストンに苛つかされてたのか分からないが、ギルバート殿下も頑張って結婚妨害を試みている。

「それに私はリュリュの手料理こそ食べてみたいですね」
……知らぬと言う事は時として罪な事もある。
何も食事中に彼女の料理を思い出させなくても……

「ギル君……胃腸は丈夫? 多少根性があっても追いつかないレベルよ、私の料理は」
「はぁ? 何が追いつかないんだい……?」
リュリュも自覚してるのか(まぁ当然だろう)ギルバート殿下の身体を心配している。

「激不味って事だよ青年」
「げ、激不味って……父親がそんな事を言ってよろしいのですか?」
よろしいも何も、本人が認めてるんだから……

「いやぁ~コレが凄く不味いのよギル君。ど~して不味くなるのか解らないんだけど、食べれたモノじゃないのよ」
「えぇぇぇぇ……そ、それは何というか……」
絶句! その言葉が当て嵌まるギルバート殿下の表情。

「まだティミーが若かった変態的シスコン男の時は、大量に食って死相が出てたよな」
「そうですね……あの頃はリュリュに好かれたい一心でしたから、無理して食べ続けましたね。今はもう食べませんけどね……食べるに値する価値が無くなりましたから」

「お兄ちゃん酷い」
「ティミーは酷くない。お前の料理の方が酷い」
「あぅ……お父さんも酷い」
「僕は食べるよ、不味くても娘の料理は……」

「父さんは凄いですよ。何でも食べますもんね……好き嫌い無く」
「僕だって好き嫌いはあるよ。椎茸とか食感が嫌いだ……」
初耳ね……リュカさんに嫌いな食べ物があったなんて。

「……リュカ。今日の料理にも椎茸は入ってるけど……大丈夫?」
「大丈夫だよ。アレルギーとかでは無く食べても害は無いから」
いや、そういう事ではなく。

「いや……だって嫌いなんでしょ?」
「嫌いだよ。でも食べても害は無いよ」
食べ物の好き嫌いって、食べられるか否かって事じゃない?

「僕はホラ……何でも食べなきゃならない状態に陥ったことがあるから……ね」
あぁそういう事か……
余り語ってはいけない、リュカさんの過去の出来事か……

ホザックの方々も我が国の王の事を多少は勉強してきたのだろうか、リュカさんの言った事を聞いて暗い表情で視線を落とした。
彼等の国は未だに奴隷制度を強いてるのだし、この話題は回避したいのだろう。

折角明るきなってきた場の雰囲気だったけど、惜しくも逆戻りしてしまった様子だわ。
しかし気になるわね……
ウルフが殆ど喋らず、様子を覗っている事に……

アルルSIDE END



 
 

 
後書き
リュカ伝2で書いたシーフードピザ魚介類抜きエピソードに、まさかの後日談!
ラングストン……侮れぬ。 
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