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Fate/Heterodoxy

作者:RIGHT@
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S-5 騎士/因縁

 セイバー(竜殺し)セイバー(邪悪なる竜)が死闘を繰り広げていた時、砂漠の地で二人のセイバーが出逢った。

「手筈通りです。()()()

 黒髪のセイバーのマスターは相対したセイバーのマスターに無機質な声でそう告げる。
 そのマスターは心底嬉しそうな顔をして高笑いする。

「フハハ!そうか!遅かったが予定通り脱落の準備は出来たようだな!!褒めてやろう!」

 少し白髪混じりの「父さん」と呼ばれた魔術師が手の甲に宿る三画の令呪を見ながら、息子の方は見ず、名前も呼ばずそう大声で言った。
 黒髪のセイバーはその反応に顔をしかめながらも、もう一人のセイバーの方を見つめていた。
 そのセイバーの容姿からの印象は「美人」だった。美しく輝く金色の髪を後ろで結い上げ、透き通るような碧眼。凛とした空気を纏った、青と銀の甲冑を着た見目麗しい背の低い華奢な少女だった。
 そのセイバーも静かに黒髪のセイバーを見据えている。

「手順は覚えているな?」

「はい。でも、本当に良いのですか?やはりアレは二回戦に持ち越しても……」

 右手の残り1画になった令呪を隠しながら応える。「手順」に反論しようとするが言い切る前に、白髪混じりの魔術師がそれを遮る。

「くどい。既に二名のセイバーと対峙して効果的なダメージは与えられなかったお前とその使えない英霊なんぞに価値はない。負け犬は処理すると決めたのだ」

「俺のサーヴァントは支援でも力を発揮します!どうか考えをグゥ……アア……!?」

 そう、反論したその時、黒髪のセイバーのマスターが頭を押さえ、嗚咽する。胃の中のものが無理矢理逆流して口から吐かれた。

「主!?」

 流石に黒髪のセイバーが(マスター)である魔術師──ローグ・バラッドの容態を確認する。生前、ある程度魔術の知識を得ていた黒髪のセイバーはローグを苦しめているものは魔術であると理解する。
 視線はすぐに金髪のセイバーのマスター──(マスター)の父であるケーダー・バラッドの方に移る。見ると手を突き出して何かブツブツと呟いている。黒髪のセイバーはロードが原因と確信を得た。

「いくら主の父上でもそれ以上魔術を継続するのならその首を飛ばすぞ」

 英霊独特の迫力、その言霊がケーダーに刺さるが効果は薄く、魔術の行使を止める気配は無い。
 その間にもローグは嗚咽を繰り返している。血も混じってきてこのまま続けられたら十数分で死亡してしまいそうな事を直感する。

「止めろと……!」

 黒髪のセイバーの()がケーダー目掛けて翔る。紅の輝きが一直線の軌跡を残し、数メートル先に居るケーダーの喉元を貫かんとする。
 しかし、ローグは避けようとはしない。否、避けなくてもいいから予備動作を起こさない。
 乾いた金属音が響く。金髪のセイバーが不可視だった得物を振り、マスターの首を貫こうとした凶槍を弾き飛ばしたのだった。
 一瞬だけ不可視の得物は金色の剣身を顕にしていた。しかしそれも直ぐに風が纏い、再度不可視にする。

「くっ……」

 黒髪のセイバーの槍は弾かれた直後に粒子となり消え去る。自身の槍が弾かれた事を予想していたかのように冷静な表情だが、つい悔しさの混じった声が漏れる。
 金髪のセイバーは通常ならばこんな事はしないだろう。しかし、そうしなければならない理由がある。そのため非道な事をするマスターを守ったのだ。


 ────ゲーダーがローグに命じた作戦は作戦と呼ぶには拙いものだった。父と子と言う立場を利用し、ゲーダーはローグに他のサーヴァントと戦い消耗させろと命じた。しかし結果は振るわず、ジークフリートを少しは圧倒したものの乱入したファヴニールに返り討ちにされてしまった。
 それに失望し、ゲーダーは最後のセイバーの姿や相性を確認しないまま、ローグにこう命じた。

「令呪を使ってその使えない英霊を自害させろ」

 幼い頃から半ば洗脳されてきたローグは直前までその命令に従おうとしてきた。だが、その際にローグが思ったのは自身を主だと慕ってくれ、信頼を置いてくれたセイバーの事だった。
 「彼の願いを叶えてやりたい」
 セイバーが漏らした本音を、願いを持たない彼は──正確に言えば願いは持っているが、それは聖杯で叶えるようなものではない──自分の人生の中で最も短い期間で最も信頼した友の願いを叶えたい。それがローグの唯一の願いだった。


 ──────────────────────────────────────
 ローグ・バラッドは魔術師の技量としては超一流と言っても過言ではない物を持っていた。しかし、それを許さなかったのが父親であるゲーダーであった。
 それまでは常に上位の実力を示していたプライドを息子に砕かれ、向上させようともせず、息子の才能を潰そうと考えた。
 ゲーダーが行ったのは自分の最も得意である制御魔術をローグに少しずつ、まるで癌のようにかけ続けた。尤も、元々ローグら自らの実力を尊敬する父親であるゲーダーより下に見ていて常に目標として来たのだがそれこそがゲーダーは気にくわなかった。
 長年かけ続けた制御魔術は入力するだけでローグの肉体を、精神を傷つけるまでの凶悪なモノへとなり、ゲーダーは初めて反抗した息子へ躊躇なくソレを入力した。

──────────────────────────────────────

「……れ、い……じゅを……ガッ……以で……め、いず……る……」

 激痛の中、ローグは最後の1画を使おうと必死に声を絞り出す。ゲーダーは魔術を緩め、ローグが声を出せるようにするが、依然として無表情のままだ。
 一方でセイバーは穏やかな笑みを浮かべている。セイバーはこれからの自分の末路を思い浮かべたが直ぐにそれを自分の意識から消す。

「主よ、願わくば……また貴方と共に……」

 セイバーは短い記憶を思い返していた。召喚されたその時、お互いの奥の手を見せ合い戦略を練った夜、共に戦闘訓練をした時……本当に短い記憶だったがセイバーにとっては濃密な時間だった。あとは令呪による自害命令を待つのみ。これが初めてではない気もするが、死ぬ間際でこの感情は感じたことが無かっただろう。
 ローグが立ち上がり、右手を突き出す。最後の令呪が紅に光輝き魔力が満ち溢れる。

「……最後の、令呪を以て我が最高の友に頼む!戦え……そして、勝て!自らの望みを叶えてくれ!」

 その行動を誰が予想しただろうか。セイバーの身体にオーラが宿る。ローグは『友』と呼んだセイバーの強化された姿を確かに確認し、笑いかける。しかし、そこで限界だった。ローグの身体が、精神が、そしてゲーダーのプライドが……
 ローグが前傾姿勢で倒れようとする所をセイバーが支える。ローグの意識が殆ど無い事をセイバーは確認する。息はか細いが適切な処置を施せば治るとセイバーは感じた。
 先程までのセイバーなら随一の敏捷値を駆使して直ぐ様戦線離脱しただろう。しかしいまのセイバーには令呪の力が宿っている。絶対命令権()()()には逆らえる筈もなく、セイバーも『友』の頼みを逆らおうとはしなかった。

「セイバーよ、貴様と闘い、決着をつけたい」

 セイバーが、金髪のセイバーに語りかける。
 お互いに確かな記憶ではないが二人は一度出会っており、決闘をした。しかしナニカがありそれが双方不服な結果となってしまった。
 それを覚えていたセイバーはただ1つの願いとして再会したセイバーと再び戦いたいと思った。
 まさかその願いをマスターが令呪を以てしてでも叶えたいと思っていたとは思わなかったが……どういう形であれ、セイバーは最高のコンディションで再戦に臨めることとなった。

「……いいでしょう。私も貴方と剣を交えたかった……」

 金髪のセイバーは凜とした表情だったが美しい声で応え、得物を構える。

「そんな……こと許さないぞ!セイバーよ!マスターを殺せ!!」

 ゲーダーが金髪のセイバーに命令をするが金髪のセイバーがそれを聞き入れようとする素振りすら見せない。

「セイバー!早く殺れ!!ここで殺っておけば!後々有利になるだろ!!」

「断る。誰が貴様のような下衆の命令を聞くか。それにセイバーを無視してそのマスターを殺すなど不可能にも等しい。それすらも分からなければ私に無駄な命令をするな」

 自らは手を出そうとしないマスターへ、怒りの混ざった声で金髪のセイバーは振り向かずに答える。男の口調にも寄っているがその凜とした声質に変わりはない。
 英霊(サーヴァント)のその圧倒感にゲーダーはそれから一言も発しなかった。

「さぁ、始めましょう、セイバー……いえ、()()()()と呼んだ方がいいでしょうか?」

 その言葉にセイバーは軟らかな笑みを浮かべる。

「いや、セイバーで頼もう。今の俺は『友』に召喚された剣士(セイバー)英霊(サーヴァント)だ。それか……真名でもいいぞ、誇り高き騎士の王よ……!」

「そうですか……分かりました。では、行きますよ……ディルムッド・オディナ!」

 その声が合図となり、いつか夢に見た対決が幕を開ける。
 初撃の速さではディルムッドの方が圧倒的だった。ステータスだけを見ればこの戦闘……否、騎士王との闘いのみ、ディルムッドの敏捷値はA++からEX(規格外)へと上昇する。それも全てローグによるディルムッドへの思いを形にした令呪と魔術の力だった。
 音すら凌駕しそうなディルムッドから放たれた紅槍の一撃は騎士王でも反応することは出来るはずない。……そう、出来るはずは無かったのだが騎士王はその一撃を間一髪の所で弾いて見せた。

「自信はあったんだがな……読んでいたのか?」

 弾かれた瞬間に後方に跳躍したディルムッドが驚きを口に出す。無論、顔は冷静そのものである。

「いや、その一撃は速すぎて見えて居なかった……だが、私のスキルが間一髪の所で助けてくれただけだ」

 騎士王……かのアーサー王、アルトリア・ペンドラゴンの数個あるスキルのうちの一つ。「直感」が彼女の言っていたソレである。
 _「直感」その名の通りあらゆる物事に自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力である。アルトリアのようにAランクの「直感」スキルはもはや未来予知に等しく、また視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
 召喚からあまり時間が経っていなかったからか間一髪のタイミングで「感じ取る」事になったがこれによりディルムッドの音速刺突をかすり傷さえ負わず弾くことが出来た。

()()()は披露していなかったな」

「ええ、その時は痛手を負いましたね……」

「今回はそう上手く行かないだろうな」

「同じ手は……二度と喰らいませんよ……!」

 アルトリアが地面を蹴り、駆ける。真正面からの突撃、しかし何の細工も無い訳ではない。
 かなり早い段階でアルトリアは剣を振るう。剣は不可視だが、ディルムッドはソレの間合いを知っている。身構えはするが迎撃しようとはしない。

「《風王鉄槌(ストライク・エア)》!」

 彼女の口から告げれらるソレはまたしてもディルムッドが知っているものだった。しかし、ソレを使うなどとは予想すらしていなかった。
 彼女の手に握られた不可視の剣にさせる風が凄まじい程の勢いで吹き荒れる。振るった剣の形をするように暴風がディルムッドを捉え、後方に吹き飛ばす。

「グアッ……!?」

 うなり声を上げ、木にぶつかるディルムッド。その視線の先には既に黄金の剣を振りかぶったアルトリアが居た。どうやら作り出した暴風に乗って瞬時に移動したようだ。
 黄金の剣がディルムッドを肩から斬り裂こうと迫る。
 当たる瞬間に聴こえた音は、肉を断つ音でも、血が吹き出す音でもなく、甲高い金属音だった。

「その剣は……!」

 アルトリアが驚き、後退する。ディルムッドの左手には小剣が握られており、その攻撃を防いだ。
 いつのまにか暴風も止んでおり、その一瞬で小剣を取り出したのだろう……と、アルトリアは考える。しかし実際は違っていた。
 確かに小剣を出したのは一瞬だったが暴風が止んだのもその小剣の能力だった。出した瞬間に暴風は強制的に止み、自由となった腕でディルムッドは黄金の一撃を防御した。

「これはお返しだ!」

「!?」

 ディルムッドは即座に近づき、右手に握られた長剣を振るう。
 今度は「直感」が働くよりも速く、アルトリアに迫る。アルトリアは黄金の剣でガードしようとする。
 _今回も俺が上手だったな、騎士王よ!
 ディルムッドは微笑み、全力で剣を振るう。
 アルトリアの黄金の剣で防がれたら並大抵の宝具なら防がれるのがオチだろう。ジークフリートの長剣でも、ファヴニールの細剣でもそう成りうるだろう。しかしディルムッドの持つ長剣はその限りではない。
 防御しようとしたアルトリアの黄金の剣を透過し、魔術によって練られた鎧を斬り裂く。
 その一撃は鎧を半壊させ、アルトリアの細い身体から鮮血が噴き出させた。紅の長い槍はその能力により無力化させるが、白の長剣の能力は剣の透過まで、そこからは純粋な力で鎧を砕いた。
 令呪による強化がかかっているのもそうだが、白の長剣の持つ純粋な力が凄まじいと言う事がアルトリアは理解した。
 アルトリアは即座に後方へ跳躍、その際魔力放出も併用して直ぐに詰められないほどの距離を取る。

「騎士王よ、俺はまだまだ行けるぞ。騎士の闘いを続けようではないか」

 ディルムッドは剣を向け、心底楽しそうな笑みを浮かべていた。心から望んでいた闘いが今のところなんの邪魔も無く続けられているのだ。そうなっても仕方がない。

「そうですね……続けましょう……!」

 お互いの得物を改めて構え、二人のセイバーはその因縁の闘いを続けようと地を蹴り、跳躍する。
 闘いはまだ、始まったばかりだ。


 
 

 
後書き
ジークフリートとファヴニールの決戦は一先ず置いておいて、黒髪のセイバーことディルムッドと金髪のセイバーこと騎士王アルトリア・ペンドラゴンの決闘です。今回はアルトリアさんの方のマスターが無能だったけどなんとかちゃんとした決闘になってよかったね。
zeroを読んでからずっとディルムッドVSアルトリアを書きたかったのでそれが叶い、満足です(まだ決着なんてついてませんが) 
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