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恋女房

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第二章

「最近身体の調子がおかしいわ」
「そういえば咳多いな」
「ちょっとおかしいわ」
「風邪か?」
「ちょっと病院行った方がええか」
「というか風邪からや」
 まさにそこからとだ、ふぐも言う。
「あらゆる病気がはじまるからな」
「風邪は万病の元やな」
「そや、そやからな」
「病院行った方がええか」
「今から行くんや」
 思い立ったらというのだ。
「ええな」
「わかったな、ほな行って来るわ」
 あんこうは相方の言葉に頷き実際にだった、病院に通った。彼もあんこうも最初は軽い気持ちであった。だが。
 診察の結果を聞いてだった、あんこうはがっくりと肩を落としてだった。そのうえでふぐに対してこう言ったのだった。
「わしもうあかんわ」
「何や、風邪やったんちゃうんか」
「そんな甘いもんちゃうかったわ」
 まさにというのだ、落ち込んだ顔で。
「結核やったわ」
「おいおい、ほんまか」
「ほんまや」
 まさにというのだ。
「結核って言われたわ」
「結核って」
「入院せなあかんようになったわ」
「入院か」
「命に別状はないそうや」
 かつては死に至る病だった、だがそれは医学の進歩によって克服された。
「それでも一年はな」
「入院か」
「困ったわ」
 あんこうは肩を落としたままふぐに言った、二人は喫茶店で話をしているがどちらもコーヒーには手をつけていない。
「これは」
「入院せなあかんからか」
「一年やで」
 あんこうは項垂れて言った。
「どないすんねん」
「仕事のことか」
「わしが入院するからな」
「漫才は出来んな」
「どないすんねん、御前は」
「それはな」
 あんこうに問われてだ、ふぐは答えた。やはり彼も項垂れている。だがそれでも言うのだった。
「待つしかないわ」
「待つって」
「そや、御前が退院するのをな」
 その時をというのだ。
「待つか」
「一年か?」
「一年でも二年でも待つわ」
 それこそという返事だった。
「わしはな」
「ええんか?」
 あんこうはふぐのその言葉を聞いて彼に顔を向けて問うた。
「わしはそうするしかないけど御前は」
「ピンでやらんか、か」
「漫才でもバラエティでもな」
「漫才は二人でやるもんやろ」
 ふぐはあんこうに対して言った。
「一人でやったら漫談や」
「漫談はやらんのか」
「わし等は漫才師やろ」
 漫談家ではなく、というのだ。どういう訳か漫談をする者は漫談家になるが漫才になると漫才師となる。
「漫才は二人でやるもんや」
「そやからか」
「一人で出られるバラエティは出てもな」
「漫才はか」
 彼等にとっての本業、生きがいと言っていいそれはというのだ。
「せんのやな」
「そや」
 はっきりとだ、ふぐはあんこうに答えた。
「待つで、御前の退院を」
「別の相方とか見付けへんのか」
「何で探さなあかんねん」
 実にあっさりとだ、ふぐはあんこうに返した。 
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