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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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サンライト

 
前書き
ようやく決着がつきました。それにしても……なのは新作映画『Reflection』ですけど、物語の時期が下手すれば被ってしまうんじゃないかと思っています。とはいえ、この小説はかなり原作から違ってきているので、その辺りはもう気にしないことにします。 

 
新暦67年9月24日、23時11分

第78無人世界ニブルヘイム、アーセナルギア・アルカンシェル内部、中央部動力炉前。

「ん……なるほど、エナジーを纏う感覚ってこういうものなんか。まるであの子が傍にいる感じがして、心が安らぐわ……」

この淡くて白い光が、自らに巣食った報復心を鎮めてくれているのをはやては実感する。報復心……即ち怒りや憎しみで戦っていては、一応力は増すだろうが先程アギトが忠告した通り、スカルフェイスの思うつぼになってしまう。それでは勝てるはずがないのは自明の理だった。

『SOPの魔力封印が解けたか。だが少し遅かったようだな、魔力が戻った所で貴様以外の人間はまだ戦えない。……結局は死ぬまでの時間が少し先送りになっただけのことなのだ』

臨戦態勢に移行するサヘラントロプス……一人で立ち向かうには厳しすぎる状況だが、はやては一切臆することはなかった。

「生命は最後に残り香を放つ。光とは、死に行くものへの闇からの餞別。受け取った者は、それを未来に継承する役目を背負う。ならば私は運び屋となろう……明日を信じて散った者達と、生きとし生ける者達の想いを運ぶ風になろう」

『……』

「風がニオイを伝えれば、狼はエモノを食い破る。髑髏は到底食えたもんやないけど、発する腐臭はさぞ強く居場所を示すやろ。要するに……噛み砕くことは出来るやろ!」

右眼がひと際強く光った直後、はやてはサヘラントロプスに向けて飛翔する。本来、はやての魔導師適性は遠距離からの撃ち合いなのだが、先程なのはのビッグ・シェルですら破れかけていたことから防御で足を止める方が危険だと判断し、回避行動のしやすさを優先して接近戦を挑んだのだ。

しかし敵に向かうとなれば迎撃してくるのは必然、サヘラントロプスの背部装甲から大量の空中機雷、および機銃がはやてを狙って発射される。機動力がそこまで高くはないはやてにとって、その包囲攻撃はどう考えても直撃必至だった。だが……捻りこみやバレルロールを一呼吸の内に機敏に行い、はやては全ての銃撃をかわしながら機雷を一発一発的確に撃ちこんで撃破し、見事対処しきっていった。

「視える……! この体をどう動かすべきか……右眼から伝わってくる!」

先程のはやての動きは過去の彼女の戦闘記録には見られない、どちらかと言えば飛行魔法で空中戦を行っている時のマキナに近い動きだった。今のはやては危機に陥ると周囲の時間がゆっくりになっているのに思考は通常(リフレックスモード)という感覚が何度か発生しており、そのおかげで今までなら対処が間に合わなかった状況を潜り抜けられているのだ。

彼女に向けてサヘラントロプスの右腕から拳が放たれるが、素早く身を翻して上に回り込んだところで両脚を着け、逆に踏み台にしたはやては勢い良く頭部へ飛翔、迎撃されない内に先端部に魔力刃を纏わせて疑似的な槍にしたシュベルトクロイツを頭部カメラに向けてぶん投げる。なお、魔法ではなく物理攻撃を行ったのは理由がある。アーセナルギアのディストーションシールドの性質を鑑みて、サヘラントロプスにも同じシールドが用意されていると“右眼”が見抜いていた。故に魔法攻撃は吸収されると見込み、物理攻撃の威力を上げることにしたのだ。

サヘラントロプスの頭部にはやての杖が刺さった結果、視界の一部を奪われたことでスカルフェイスは管理局の持つ彼女の記録を頼ってはならないと判断、サヘラントロプスの腕から放射状の電撃(ウィース)を放つ。すぐ近くで放たれた誘導性のある電気を避けるのは難しく、はやては咄嗟に大きく回避機動を取る。だがそれを読んだ、というより誘導したスカルフェイスはサヘラントロプスの左腕を素早く伸ばし、はやての左足を掴んでしまう。

「っ……このぉ!」

即座にはやてはクルセイダーの銃口から魔力刃を展開し、サヘラントロプスの左腕の付け根に向けて全力飛行、刃を突き刺す。だが直後、サヘラントロプスの左腕から電撃がはやての身体に直接流れ込む。

「あぁあああああっ!!」

はやては全身全霊の力で腕を動かし、サヘラントロプスの左腕の付け根を、身体中を焼く電撃の痛みで叫びながらも斬り落とす。左腕が壊れたことによって電撃から解放されるが、そもそも高ランク魔導師とはいえ10代女子が電撃を直接体に受けて何ともない訳がなく、体力の疲弊は凄まじいものだった。

「ゴホッ、ゴホッ……こりゃ、内臓が少し焦げてもうたかな……」

せき込んだ際に口から黒煙を少し吐き出すはやて。当分は胃に優しい食事にしなければ、なんてことを頭の隅で考えながら、彼女は再びサヘラントロプスの頭部へ接近、回避機動の最中でシュベルトクロイツを回収しながら、単独での戦いを続けた。

『そのザマになってでも戦いに身を投じるとは、やはり私を殺したいのだな。両親を殺した私へ、怒りに任せた復讐がしたいのだな。当然だ、大事なものを理不尽に奪われれば憎しみは湧き、相応の報いを与えたいと呪うだろう。なに、否定することはない、怒れ、憎め、呪え……自らの報復心に正直になればいい』

「確かに……私はお前が憎くてたまらない、この胸の怒りを直接ぶつけたくて仕方がないわ。でも勘違いせんといてもらおうか……私はお前の思い通りにはならへん。この報復心はこの先永遠に付きまとうものやけど、決して飲まれたりはしない。もしそんな事になったら、サバタ兄ちゃんとマキナちゃんに合わせる顔が無くなってしまうからな」

『なるほど……ずいぶんと献身的だな。だが……もしこの場を生き延び、いつか世界の真実を知ったその時、果たしてその言葉を言えるか?』

「世界の真実? お前は一体何を知っとる?」

『全ては“報復”で繋がっている、“時代”は常に人の報復心で動かされている。マキナ・ソレノイドにも伝えたこの言葉こそが、世界の真実だ』

「違う! 人の世は負の感情だけで動いてはいない! 大事なものを守るために、大切なものを生み出すために、皆は頑張ってきたんや! その尊い努力が、報復心なんて悲しいものであるはずがない!」

『お綺麗な言葉だな……どうしようもなく、子供の理論だ。始まりは純粋で尊いものでも、それは知らぬ間に別の憎しみを生み、やがて報復心へと成り替わる。人間は元々救うために生み出したものを武器や兵器に転換、使用する生物だ。お前達がマキナ・ソレノイドの作り出した薬を、武器としてこの私に投与したようにな』

「ぐ…………!」

勝つためとはいえ、やらざるを得なかった業。自分達も思うところはあったそれを指摘されては、はやても反論の言葉が出なかった。

『私の植えた報復心にすら耐えた彼女のことだ。救うために作った薬が武器として使われることには否定的な感情を抱いていただろう? そう仕向けた以上、お前達も結局はそういう生物だ。自らの考えを成し遂げるために、使えるものは何でも使う存在なのだ』

「わかっとる……あの時マキナちゃんは謝らなくていいって言ってたけど、やっぱりこういう事はちゃんと謝罪するべきや。もう二度とこんな使い方はしないって……だからこそ、この一度きりでお前を倒し切って見せる!」

『吠えたな……まあいい。この戦いがいかなる結果になろうと、既に世界の運命は定まった。お前達の手では変えられない歯車が動き出したのだからな』

「何を訳の分からんことを……!」

『それがわからないからお前達は無知なのだよ。そもそも、先の言葉は人間社会のことのみを示したものではない。次元世界、世紀末世界、それらの過去、現在、未来、全てを含んだ巨視的な意味なのだ……』

「巨視的な意味……?」

『常々疑問だった、なぜ暗黒の戦士は何の取り柄もない貴様達を生かそうとしたのか。だが公爵から真実を聞いて、私はようやく納得した。彼は真実を知らずとも、自らの宿命を果たそうとしていた。彼は多くの者を救い、導き……そうやって無意識に、本能的に……真の未来を獲得しようとしていたのだ。だが、それはあと一歩の所で寿命に遮られた』

「? どういう意味や? お前や公爵……ヴァランシアのリーダーは、サバタ兄ちゃんの何を知っとる?」

『サービスはここまでだ。この先を知りたくば自力でたどり着くがいい。まあいずれ貴様達も真相にたどり着くだろう……』

ガシッ!!

「しまっ―――!?」

『生きて還れたならな』

話に意識を向けすぎて回避が間に合わず、はやてはサヘラントロプスの右腕に全身を鷲掴みにされてしまう。急ぎ脱出しようとしたが、直後、握り締められたまま床にガンガン叩きつけられる。何度も、何度も何度も何度も……振り下ろされては床に叩きつけられた。

「いぎっ!―――へぶっ!―――あがっ!―――ぐふっ!―――ガッ!!(あ、アカン……抜け、出せへん……か、身体の感覚が……)」

メタルギアの力で掴まれるだけでなくトンカチのように何度も叩きつけられてしまえば、人間の身体では耐えられないのは至極当然。苦痛の声を上げるはやては全身の骨がボキボキ砕ける痛みに襲われ、意識が急速に遠のいていく。

「主ッ!!」

その声が聞こえたと同時にアインスの治癒魔法で回復したシグナムがサヘラントロプスの右腕を一閃、斬り落とした。血まみれで放り出されたはやての身体は、シグナムと同様に回復したフェイトが飛行して受け止め、リインがすぐに彼女へ止血と治療を始める。

「遅くなってごめん。はやては休んでて……今度は私達が頑張る番だから!」

「はやてちゃん……こんなになってまで……!」

「敬愛する主を傷つけた者は……我が剣の錆びにしてくれる!」

頭や体の至る所から出血し、痣だらけの痛々しい姿で横たわるはやてを見て、一人で立ち向かった彼女の勇気を尊重するが、同時に彼女をここまで傷つけたスカルフェイスに激しい憤りを見せるフェイトとシグナム。二人ははやてと入れ替わるようにサヘラントロプスとの交戦に入った。

「主の健闘のおかげで両腕は奪えたんだ。奴の戦力は低下していると見て間違いない!」

「うん! 一気に畳みかけるよ、シグナム!」

『甘い、腕を失くした程度でサヘラントロプスは止まらんよ』

直後、サヘラントロプスは両腕を付け根からパージ、背部装甲が頭からまるで全身を覆うように変形して新たな腕となり、背部装甲に格納されていたアックスを手に持っていた。また、頭部は装甲に装飾されてより刺々しいフォルムとなり、鋭利で頑健な見た目の人型になった結果、攻撃力、機動力、防御力が向上。その上、コアも完全に装甲に覆われてアリシアの姿も見えなくなってしまった。

「そんな……まさかパワーアップしたの!?」

「怖じ気づくな、テスタロッサ! 所詮はやせ我慢に過ぎん! 行くぞ!!」

変形で警戒したものの、フェイト達はそのまま果敢に挑んでいった。だが先程とは打って変わって高機動スタイルとなったサヘラントロプスは、ミッド式ゼロシフトを使用したフェイトに匹敵するほどの機動力で翻弄しながら、人の身で喰らえば一撃で真っ二つになるアックスで断ち切ろうとする。そのためフェイト達は勇猛に挑んだものの回避に専念せざるを得ず、この限定された空間内のありとあらゆる場所で両者の激突という名の逃走劇が繰り広げられた。

彼女達が戦闘を担っている内に、アインスは広域殲滅爆撃を近くで受けたせいで疲弊しているなのは達の下へ向かい、シャマルやマキナほど効果は高くないが治癒魔法で回復を行う。即時発動させたなのはのビッグ・シェルがダメージをある程度抑えてはいたが、それでも戦闘を続けるには最低限の治療が必要だった。

「いつつ……! 今になって、治癒魔法のありがたみがよくわかるよ」

「姉御のような治癒術師が仲間にいるかどうかで、パーティの継戦能力にもかなり違いがあるからな」

「回復役がやられたらゲームでも現実でも総崩れしやすくなるもんね。そう考えるとマキナちゃんの離脱は、私達の想像以上に戦力の低下を招いていたってことみたい」

「ウゴッ、コホッ……! チッ、頭がぐわんぐわんして吐くほど気持ち悪ぃ……体も深海にいるみたいで思うように動かない……」

「ごめんね、流石にサイボーグの血液を透析する魔法は無いんだ。辛い所すまないけど、フェイトとシグナムが敵の目を引き付けている間に、どうにかしてアリシアを助け出す方法を考えたい。何か良いアイデアは無いだろうか?」

「あ~悪いがその話なら俺はパス。オリジナルを殴るならともかく、助ける気はこれっぽっちも無いからな」

「……ビーティーと言ったね。君の事情は一応知ってるけど、こんな時ぐらいは協力してくれても良いんじゃないかな?」

「ハッ! 断る! どうして殺したいほど憎くて嫌いな奴を必死こいて助けなきゃならない? ま、スカルフェイスごとフルボッコにするならむしろ大歓迎なんだがな」

「どんな状況でもビーティーは全くブレないね……一応気持ちはわかるけど」

「でもサヘラントロプスの胸部コアからアリシアちゃんを助け出すには、どうしてもビーティーの力は必要だとは思うんだよね。さっきのはやてちゃんの戦い方を見るに、外のシールドと性質が同じものがサヘラントロプスにもあるんだろうし、物理攻撃力はサイボーグのビーティーがダントツだから、シールド越しに攻撃するなら一番向いてるはず」

「だけど本人にその気が無いという、なぁ……」

やれやれと言わんばかりに両手を広げてため息をつくアギト。ビーティーの確固たる信念は大抵の時は頼もしいが、アリシア関連では逆効果となるのが今になって響いていた。

「ふと思ったんだけど、最近なんか魔法が拷問器具に近い扱いになってる気がしてきたぞ。似たような例として、非殺傷設定も相手が死なないのを良いことに、苦痛のみを与える道具として使われてたことが前にあったからな」

「そういう連中と同じ穴の狢にはなりたくないから、シグナム達もアリシアにダメージが及ばないように魔法は控えているんだ。ただ、ある意味フェンサリルのサヘラントロプス戦の二の舞になってるから、どう攻略するべきか早く決めておきたいんだ」

ということで戦闘の最中での作戦会議が始まるのだが、そもそもアインスがここまで焦っているのは、シュテルを消滅させた相転移砲が再びいつ発射されるかわからないからである。もし発射されれば、また誰かが分子に分解される……マキナの事や預言の件もあり、サバタの意思を継ぐものをこれ以上死なせないためにも、彼女は何としてもそれを阻止したいと思っているのだ。

「まず前提としてシールドがある以上、魔法攻撃はアリシア救出まで避けた方が良い。物理攻撃、および魔力を纏わせたデバイスでの直接攻撃が有効だろう」

「でもアリシアちゃんを助けようにも、さっきの変形でコアは装甲に覆われたから、他の部分より頑丈だよ。多分、生半可な攻撃じゃあ傷一つ付けられないと思う」

「かといって強引に砲撃魔法をぶち込む訳にもいかないしなぁ。トドメ刺すならともかく、シールドがある今は撃っても意味がねぇし」

「まぁ、アリシアは一応精霊だから不老不死だ。スカルフェイスの手から解放するためなら、私達の魔法で多少のダメージを負わせることも必要だと割り切らないといけないかもしれない」

「よっ……ん、良い感じだ」

「アインスのおかげで僕達も何とか戦える程度には回復したけど、一斉にかかった所でスカルフェイスもコアに集中攻撃を許すような迂闊な真似はしないはずだ」

「地道に削っていく猶予はないから一撃必殺に賭ける……私好みの戦術だけど、やっぱりシールドを先に破るか消しておく必要があるよね……」

「いっそのことアリシア救出はフェイト達に任せて、アタシ達はトドメを担当した方が良いかもしれない。要するに救出担当と撃破担当で役割分担するんだ」

「コホッ……うぁ~すんげぇだるいが、またとない機会だしな。おらよっと」

「役割分担はいいとして、さっきからビーティーは何をしてるんだい?」

アインスが視線を向けると、狂的な笑みを浮かべながら先程はやてとシグナムが斬り落としたサヘラントロプスの両腕の残骸に自らの腕を突っ込み、エネルギーを通してグローブ代わりの武器にしているビーティーの姿があった。しかも結局は諸共殴った方が良いという結論になってきたことに、自家中毒症状を意思の力で耐えながら喜んでいたのだ。

「見りゃわかるだろ、武器の現地調達って奴だ。戦術の基本だろ? あとジャンゴとペシェも準備しとけ、とびっきりの奴をな」

「とびっきり……?」

「なんだかよくわからないけど、砲撃魔法の準備をしておけばいいの?」

「ああ、最ッ高の一撃を頼むぜ。にしてもまさかプレシアだけでなくオリジナルも殴れる機会が訪れるとは、華々しい最期を飾れそうだ」

「最期……?」

その単語にジャンゴが眉をひそめた次の瞬間、彼らの近くに凄まじい勢いで何かが落下してきた。それはサヘラントロプスのアックスを受けた結果、耐えきれず真っ二つに折れたレヴァンティンを手に持ち、右肩から左脇腹にかけて大きく抉れた傷を負ったシグナムだった。

「ぐはっ! な、なんてパワーだ……防いだのに、防ぎ切れなかった……!」

「大丈夫か、シグナム!?」

重傷のシグナムに急ぎアインスが治療を行おうと駆けつけた次の瞬間、グシャッと音を立ててサヘラントロプスの足が彼女の視界を覆った。アインスのすぐ目の前に現れた鉄の塊は、シグナムの右腕を右肩にかけて完全に踏み潰していた。

「グァァァァァアアアアッッ!!!!!」

『おっと、踏んでしまったか。クックックッ……カメラアイが壊れていてな、気付かなかった。まぁ、いくら烈火の将といえど、利き腕が壊れてしまえば二度と剣は握れまい。貴様の騎士としての栄光と実力は、地に堕ちたのだ』

「な、なんてことを……騎士の生命線を絶つとは! スカルフェイス、お前には戦う者としての礼儀や誇りは無いのか!」

『そんなものが何の役に立つ? 戦場でも礼儀を守れば相手は従うとでも? 戦場にも尊いものがあると幻想を抱いているのなら、それは私以上の殺戮者だ。むしろ自覚していないだけ、私より質が悪い』

そう言い捨ててサヘラントロプスはシグナムから足をどけて戦闘を再開する。真っ二つに折れた所にサヘラントロプスの重量が掛かったせいで粉々に砕けたレヴァンティンと、ズタズタになったシグナムの右腕と右肩を目の当たりにし、悔し気に歯を噛み締めながらもアインスはすぐに治癒魔法を発動、徐々に止血していくが……シャマルやマキナほど医学の知識は無くとも、アインスは確信してしまった。シグナムの右腕は二度と剣を握れないと。

また、シグナムが撃墜したということは即ち、フェイトが一人で持ちこたえていることになる。事実、フェイトはミッド式ゼロシフトを駆使してサヘラントロプスのアックスを紙一重で全てかわしていた。しかしそれはカートリッジや魔力を一気に消耗しているわけで、彼女の表情は一瞬の気の緩みも許さない状況故に相当険しかった。だが……、

スカッ。

「カートリッジ切れ!? しまった!」

飛行魔法に注いでいた魔力が減ったことで機動力が低下したフェイトは、次の攻撃を避けられないと反射的に察し、咄嗟に敵のアックスをバルディッシュで防御する。しかしメタルギアのパワーはフェイトの身体では受け止めきれず、両腕の骨にヒビが入り……、

「ぐ……あぁあああ!!!」

ゴキッ!!

腕の骨が折れる音がしたと同時に、彼女の身体も吹き飛ばされて壁に全身を叩きつけられる。痛む体に鞭打って何とか動こうとした直後、すぐ眼前に鈍色に光るアックスの刃が迫り―――、

「おおっと、俺以外の奴にソイツをやらせるわけにはいかねぇな!」

横から雷のごとく飛び込んできたビーティーが白羽取りで防いだ。サヘラントロプスの装備同士の衝突、それを振るうのはサイボーグとメタルギア。疲弊し、骨折もしている魔導師に介入できる余地は無かった。

「ビーティー……どうして私を……?」

「オリジナルの事はガチで嫌いだ、プレシアに対する報復心も消えやしない。だがお前は違う。お前には生きてやってもらわなきゃならないことが山ほどある。俺の……俺達の同族を、生まれの束縛から解放するためにな」

「生まれの束縛……クローンの宿命……」

フェイトはかつて砂漠の廃棄都市で、彼女と言い争った時のことを脳裏に浮かべた。自分と全く違う人生を歩んだ、試作クローンの唯一の生き残り。彼女の口から放たれた、母プレシアへの報復心、クローンの社会的立場の向上。そして……自分と同じことをした上で、違う方法を選んできた覚悟。

『また貴様か。いい加減鬱陶しくなってきたが、貴様の活動時間はとうに限界を迎えている。今も重度のインフルエンザに感染した病人に匹敵する頭痛と吐き気、倦怠感に襲われているはずだ』

「その通り、今もドバァっと腹ン中ぶちまけたくてたまらないぜ。それに頭ガンガンぶつけたい衝動もなぁ! グェッハッハッハッハッ―――ゴバァ!」

「言った傍から吐いた!? ホントに大丈夫なの!?」

『人の身では味わえない、サイボーグ故の苦痛か。……まぁいい、相転移砲で消し去ってやろう。すぐ楽になれる』

ガコンッとサヘラントロプスの装甲が開き、隠されていた胸部コアが露出する。そこに触れた対象を分子に分解するオレンジ色の光が集まっていき、フェイトとビーティーをその射程に入れていた。

「フェイト、俺は破壊者だ。徹頭徹尾、何かを壊すことしかできない。未来を生み出せるお前とは根本的に在り方が違うのさ」

「え、ビーティー? 急に何を……」

「俺とお前は理不尽な運命にさらされているクローンを救うために、別々の方法を見出した。俺は力で、お前は心で、同族を救おうとしてきた。だがな、どんな理屈をごねた所で俺は所詮人殺し、それも親殺しの大罪人だ。どちらが本当の意味で同族を救えるのか、それぐらいは気づいていたさ。……だけどよ、世の中には力でしか守れないものもある。破壊しかできなくても……未来に残せるものはある! うぉぉりゃぁあああ!!」

ひと際強く声を吐き出し、ビーティーは力任せにサヘラントロプスのアックスを敵の腕ごと奪い取り、宙に放り投げる。紫電を纏いながら彼女はそのまま相転移砲の光の中へ突貫、胸部コアに向けて嵐のように黄狼拳を浴びせる。そしてそれは分子に分解される中で殴ることを意味しており、サヘラントロプスの両腕を装備したのは、分子化までの時間を稼ぐためだった。

「よぉ、オリジナル。最後の御礼参りをさせてもらうぜ! オラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」

とんでもない爆音が響き渡り、サヘラントロプスの胸部コアが掘削機で削られるように抉れていく。しかし殴っていく内にビーティーがはめていたサヘラントロプスの両腕が徐々に分子化、消滅したことで彼女本来の腕が現れた。それでも連打を続けた彼女は胸部コアを突破し、囚われていたアリシアの頭を掴んだと同時に左腕の大盾のパイルバンカーを発射、オリハルコン製の槍が轟音を立てて突き刺さった。

『ぬぅっ!』

次元航行艦も一撃で粉砕した彼女のパイルバンカーにはサヘラントロプスも耐えきれず、動力炉の前まで轟音を立てて吹っ飛ぶ。それを見届けながら着地したビーティーの左腕には、拘束していた機械やワイヤーを力づくで無理やり引き剥がされ、少し腫れた顔で頭を鷲掴みにされているアリシアの姿があった。腫れているのは、地味に拳が何発か入っていたからだ。

そして……ビーティーの腕にも分子化が及んだことで、支えを失ったアリシアは床に倒れこみ、腕が折れて動かないフェイトは下に回り込んで身体で受け止めた。

「っ……! 姉さん……!」

骨折の痛みに耐えながらも、ようやく家族を取り戻せたと喜ぶフェイト。姉妹の再会が果たせたことは確かに喜ばしいが、しかし……彼女にはどうしても訊きたい疑問があった。

「なんで……姉さんを助けてくれたの?」

「母親を殺した奴の情けで助けられたんだ、相当な屈辱を味わうはずだろ? その屈辱がオリジナルに俺が与えた“報復”だ。全て知った時のオリジナルの無様な姿を見てみたいが、残念ながらそんな時間は無いんだよな」

“姉”を救った代償は、別の“姉”の犠牲。だが胸元まで分子化が及んだビーティーは、ようやく訪れた最期をどこか嬉しそうにしていた。

「ア~ハッハッハッ……! 最高だよ……完全なる破壊ってのもイイよな……。当初の予定とは違った末路だが、まぁそこまで悪い気分でもないし、コレはコレで満足してるぜ」

「ビーティー……!」

「分子になっても、俺という質量が宇宙から消えるわけじゃない。なぁ、俺を構成していた分子を存分に呼吸してくれよ、フェイト? フッ、クッハッハッハッハッハッ!!!!」

狂的な笑みを浮かべながらそう言い残し、ビーティーは最後まで高らかに笑いながら、ついに分子となって消えてしまった。フェイトは最後まで分かり合えなかった“姉”の最期を目の当たりにし、またしても救えなかった悲しみをこらえきれず、腕の中にある“姉”の頬に涙の滴をこぼした。

憎いはずのアリシアを……助ける気なんて無かった彼女を、結果的にだが救い出したビーティー。なのはやフェイトのような根本的な善人とは全く違う、生まれの境遇故に心が歪んだ狂人、怒りに囚われた復讐者……しかし、手を汚してでも信念を貫いたからこそ彼女は成し遂げた。運命に、世界に、未来に繋がるくさびを打ち込んだのだ。そしてそのくさびで入ったヒビから、明日への希望が漏れ出してきた。

―――ドーンッ!!

アーセナルギア全体を振動させる爆発音が聞こえ、直後、艦内に警報が発令される。それは別行動を取っていたフェンサリルの兵士達がシールド発生器を全て破壊したからであった。そしてダメージ吸収材扱いだったアリシアも奪還したことによって、アーセナルギアを覆うシールドは消失、サヘラントロプスのも同様に消え去った。

それは即ち、最大威力の魔法攻撃が通用するようになったことを意味する。

「この剣は希望の結晶……明日も昇る太陽の輝き……!」

「アギト! 私達もジャンゴさんの剣に魔力を集めるよ!」

「応さっ! ありったけ注いでやらぁ!」

サヘラントロプスと動力炉を正面に捉えたジャンゴの手には、眩い極光を放つブレードオブソル……そこになのはとアギトが手を添えて魔力の集束と制御をサポート、更にファイアダイヤモンド(マキナ)の回復も手伝い、剣に途轍もない力が集まっていた。台風の如き爆風を周りに巻き起こしながら、彼らは剣を頭上に振りかぶり、有らん限りの力で振り下ろす。それは共に戦ってきた仲間達の絆が集う、最強最大の一撃……!

「「「サンライト・ブレイカーァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!!」」」

あまりに眩しい巨大な光線が津波のようにサヘラントロプスに襲い掛かる。相転移砲の光が消えた胸部コアから連鎖的に装甲に亀裂が入って、次第に耐えきれず崩壊していき、サヘラントロプスは盛大に爆発、炎と黒煙を上げた。メタルギアを超えて突き進んだ光線はそのまま動力炉に直撃し、そこからアーセナルギア全体に動力機関を通じてエネルギーの混濁、及び爆発が行き渡る。

「待て! 誘爆の影響で、動力炉が炉心融解(メルトダウン)を起こしている!? マズい、これでは―――!」

冷却装置も壊してしまうほど威力過剰だったせいで脱出する時間が無いとアインスが気づいた直後、動力炉からおびただしい光が発生……アーセナルギア全体を飲み込む大爆発を引き起こした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月24日、23時50分

ミッドチルダ北部、聖王教会最上階、執務室。

「そうですか……PMCがあのアルビオンを倒すとは驚きました。しかしこれは由々しき事態ですね……こんな事実が公に広まれば、聖王教会の力がPMCより劣るという印象を与え、信頼と権威は失墜、規模の縮小は避けられません。そして、それは同時に―――」

「闇の書の被害者達に今もなお燻る報復心、それに対する抑止力も低下する」

教皇の法衣を纏い、椅子に座って深刻な表情を浮かべるカエサリオン。疲労のせいか頬がこけてやつれている老人の呟いた言葉に、ディアーチェは警戒を緩めずにらみつけながら言葉を続けた。

「そもそも奴は過去にロストロギアの被害を受け、胸の内に抑えようのない怒りと憎しみを抱えながら、しかし報復を為せる力が無い連中の心の拠り所でもあった。自分達の怒りを代わりに晴らしてくれる存在……それが聖王教会元最強騎士アルビオン大司教。小鴉どものような“強い人間”とは違い、“弱い人間”が縋る対象だったのだ」

「ええ、彼らは正論や綺麗ごとを述べているだけでは救えない者達です。いくら加害者にやむを得ない事情や贖罪の意思があるとはいえ、被害者の悲しみは癒えません。しかし法律は復讐を禁止している以上、被害者には泣き寝入りをしろと言っているようなものです。賠償金、懲役、従属期間……法の裁きでは満足できなかった彼らはそんな“意味を見出せない贖罪”より、自分達と同じ苦痛……それこそ親しい者を失うほど明確な痛みを望んでいたのです」

「その痛みこそがアルビオンを突き動かし、マキナと小鴉どもをつけ狙ってきた悪意の正体か。だがアルビオンは倒れ、スカルフェイスも我の仲間が決着をつけている。つまり連中の報復心の預け場が無くなるのだが、聖王教会の弱体化によって連中への抑止力が低下してしまう以上、次は何をしてくるのか予測がつかなくなる。戦う力が無くとも、ゴシップなどを用いれば陥れることは容易いのだからな。現に貴様は管理局が把握していなかった過去の闇の書事件の映像を、ネットに一斉にバラまいた。それは即ち、小鴉どもへの中傷や罵倒の思考が再燃することを意味する。結局、この戦いは勝っても負けても小鴉どもの立場や安全が危うくなる……いや、初めからそうなるように仕組んだのだろう、教皇カエサリオン?」

そう言い切ったディアーチェは特別製のM1911A1の銃口をカエサリオンに向ける。

「貴様は強硬派筆頭のアルビオンと対立し、穏健派の旗頭として推薦された人望ある教皇。闇の書の被害者の不満をリンディやカリムらと共に抑え、小鴉らの立場を擁護していた。孤児院を通じて身寄りのない子供の保護や資金援助も行い、管理外世界にも積極的に歩み寄り、余計な対立が生まれないように尽力もしてきた。そう、貴様は誰がどう見ても善良で理想的な教皇だった。だが……」

一呼吸置き、ディアーチェは裏の真実を語り始める。

「その裏ではアルビオンと手を組み、強硬派穏健派どちらの派閥も支配下に置いていた。普段は教皇として穏健派の活動を行い、カリムや小鴉といった管理局寄りで正義感の強い連中の信頼も得ることで、彼女達の動向が瞬時に把握できる。そして、その情報をアルビオンに横流しすることで強硬派を動かしてきた。アルビオンとの対立構造は、周りに疑心を向けられないための表向きの姿……もしアルビオンと話している所を目撃された所で、何かしらの口論をしていると誰もが思う。……貴様は周囲が自分を善良で信頼に足る人間だと思わせるために、周到な情報操作によるマッチポンプを利用してきた。そして一度信頼してしまった相手を疑うことは、人を信じる心が強い小鴉らにはなかなか出来ないのだ……」

「ええ、正義感の強い人間を制するには、敵として正面から屈服させるよりも、味方として手綱を握ってやった方が、危険も労力も少なくて済みます。同時に報復心を抑えられない者達も、表向きは穏健派である私よりも、強硬派のアルビオンが制御した方が、彼らも納得しやすいのです」

「善は悪に強いが善に弱い。被害者は同じ痛みを持つ被害者同士のシンパシーを利用して操る。穏健派と強硬派……対立する二つの勢力は操られていることを知らず、ただ自らの思想を信じて争い続ける。貴様は裏には計画や情報を提供するだけで、いつも表の顔しか見せなかった。一瞬しか裏の顔を出さない故、痕跡が全くと言って良いほど無い……いわば幻影の如き存在だ」

「そうです。私は考えたことを伝えているだけ……物的証拠は一切作りません。管理局だろうと聖王教会だろうと、私の裏は決して見つけられません。かのエターナルエースのように、私は相手と言葉を交えているだけなのですから」

「だが我は貴様の尻尾を掴んだ。貴様は魔法も兵器も持たない無力な人間だが、言葉だけで頂点にたどり着いた。そう、貴様を捕らえるには証拠となる言葉を見つけるしかなかった。しかし貴様の慎重さ、及び用意周到さは筋金入りだ。それこそ壁の中で聞き耳を立てる(IS・ディープダイバー)ぐらいのことをしない限り、影すら見つけられなかっただろう。小鴉どもには決して到達不可能な領域だな」

「はい、私もアウターヘブン社の力を見誤りました。もはや逃げようがありません、法の裁きを甘んじて受け入れましょう」

「……む、意外だ。貴様は最後まで抵抗するかと思っていたのだが……いや、違うな。貴様は全ての計画が破られ、自分が逮捕されることも想定していた。そしてここで無駄に抵抗すれば、その後の策に支障が出る。だからこそ意味のない悪足掻きはしない……全くもって不愉快だ。勝ったはずなのに、まるで勝った気がせん」

「では最後に私の所までたどり着いたあなたに餞別としてヴァランシアのリーダー、公爵デュマからもらった情報を渡しましょう。これで少しは気分が晴れるはずです」

するとカエサリオンは机の引き出しからマイクロチップを取り出し、ディアーチェに放り投げて渡した。

「そのチップには管理局製SOPのサーバーがある場所の情報のほか、帝政特設外務省……ラジエルの者達が掴んだ真実の一部が記録されています。スカルフェイスが度々口にする、『全ては“報復”で繋がっている』という言葉。その本当の意味も、マイクロチップの記録を読めばわかります」

「そうか。だがなぜこれを我に渡した?」

「渡そうが渡さまいが、時間をかければ同じ情報は手に入ります。ならばあえて渡すことで調べる時間を無くし、別の事に時間を費やせるようにしてもらいたいのです」

「ふん、無駄に時間を使うよりはいいか。しかし……ヴァランシアのリーダーにして最後のイモータル、公爵デュマ。奴は……何者なのだ?」

「一度しか会ってないので、私も詳しくは知りません。ただ、他のイモータルと比べて明らかに年季と格が違うのと、元人間ってことまでしかわかりませんでした」

「元人間だと? そういえば教主殿から以前、イモータルには元人間もいると聞いたことがあるな。……なるほど、元人間だったからこそ、この事件はここまで複雑に入り組んだのか。そしてラタトスクと違い、もし計画が成就されても人類を滅亡させるつもりが無い違和感の理由もおおよそ察した。だが……それならば人間だった頃のデュマはどのような人物だったのだろうな?」

その疑問に、カエサリオンは何も答えなかった。それは知っていてもあえて黙っていたのか、もしくは純粋に知らないのか、ディアーチェでも彼の表情からは何も読めなかった。

ただ……赤きドゥラスロールとスカルフェイスの例で考えると、人間がイモータルになる場合は死を望むほどの深い悲しみや絶望、もしくは世界を焦がすほどの怒りや憎しみがきっかけになっている。そのパターンで行くと、デュマも人間時代の頃にそれだけの負の感情を抱いたことになる。ディアーチェは気づいた、人類の業が強く深く刻まれたせいで吸血変異したのが元人間のイモータルであると。

「極論だが……被害者の報復心こそが、彼らをイモータルに変えるのか。そしてイモータルとなった彼らが報復を行い、今を生きる者達をアンデッドにする。この負の連鎖を断ち切らねば、此度のような事件が再び起こる可能性がある。……はぁ~、悩みは尽きぬな」

そして銃口を下げたディアーチェに、カエサリオンは訝しげに尋ねる。

「おや、ここまで来たのに私を撃たないのですか?」

「貴様を撃った所で結末は何も変わらん。弾を無駄にするだけだ。……いや、貴様が牢にいる時間を消してしまうぐらいならば、あえて生かして償わせる方がよっぽどマシだ。それに何より……マキナは我の手が血に染まることを望まぬだろうからな」

「そうですか。闇の書の先代主の娘には、感謝しないといけませんね」

「ふん。貴様の礼なぞ、マキナにとってみれば赤レーション一つほどの価値も無いわ」

そう言い捨ててディアーチェが部屋を立ち去った後、入り口で待っていた地上本部の局員ティーダ・ランスターが無言でカエサリオンを連行していった。教皇カエサリオンが今回の事件に関わっていたことを聞いた時、彼を含めた局員達は天地がひっくり返るほどの衝撃を受けており、中にはまだこの事実が信じられない者もいたが……それも仕方のないことだった。

「話、終わったの?」

「ディアーチェ支社長がわざわざ来るなんて、余程大事な話だったみたいだね」

先程までティーダと共に部屋の前で待っていたレヴィの部下二人が、ディアーチェを迎える。現在疲れ切って寝ているレヴィを背負っており、ある特別な処理を施された首輪をつけて言葉数の少ないアッシュグレーの髪の少年がケイオス。ディアーチェから先程のマイクロチップを受け取り、中身をノートパソコンで確認している薄紫の髪の少女がシオンである。

ちなみに二人が救出したカリム達は蟲に喰われて負った怪我があるため、その治療や細菌の検査で局員達によって病院へ搬送された。預けられた局員達の中には、その痛々しい姿に思わず目を背ける者もいたとか。

「シオン、チップの解析はどうだ?」

「スキャンにかけた所、プロテクトはかかっていないし、コンピュータウイルスも仕込まれていません。ただの情報端末ですね」

「そうか。で、管理局製SOPのサーバーはどこにある?」

「ちょっと待ってください…………。……ありました。ミッドチルダ上空、ブルームーンのラビュリントスです」

「ブルームーン? もしやミッドの空にある二つの月の片方か? また随分と上手く隠してあるものだな……」

「ミッドの月には膨大な魔力が宿っていますが、あまりに濃度が高すぎるせいで一定距離に近寄るだけで人間にも悪影響が出ます。そんな危険な場所にどうやって設置したのでしょうか?」

「普通なら命令を受けた者が危険を承知で設置しに行ったと考えるだろうが……恐らく管理局を隠れ蓑にしていた頃のヴァランシアがやったのだろう。暗黒物質は魔力を消し去るが故に、魔力濃度が高くても奴らの身体には何の影響もないからな」

「人間以外の存在でしか行けない場所に置けば、人間に壊される心配は無い……そういう訳ですね」

「我らマテリアルズや小鴉のヴォルケンリッターのようなプログラム体でも、魔力濃度が高すぎると人間と同じようにダメージを受けるからな。恐らく教主殿やイモータルのように強い暗黒物質を体内に宿しているか、もしくは月の力で負荷を受け流せる者でないと、ブルームーンには行けないだろう。……仕方ない、当分は様子見しながら別の方法を考えよう。それで話は変わるが、ニブルヘイムからの報告は入っておるか?」

「なんにも。まぁ、便りがないのは良い便り、って言いますから。それにこのパソコン単体では受信能力もそんなに高いものでもありませんし。……大丈夫、彼らならやり遂げていますよ」

「だと良いのだがな……」

「はぁ、眠い。早く帰りたい」

「………フッ、それもそうだな。ではレヴィ、ケイオス、シオン、現時刻をもって遊撃隊の任務は完了した。帰還せよ」

「「了解」」

「りょ~か~い……むにゃむにゃ」

ディアーチェの指示を受けて、寝ていながらも隊長として返事をするレヴィ。とりあえず役割を果たした遊撃隊は帰還し、ディアーチェはラプラスでマザーベースに移動しながら、ニブルヘイムにいる者達の安否を気遣っていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月25日、5時30分

第78無人世界ニブルヘイム、アーセナルギア跡地。

「あぁ~……駆動系もシステム系も含めて、あちこち壊れちゃってます。もう修理でどうこうなるレベルじゃないですね」

全壊したRAYの肩部から降りてきたユーリは、軽く肩を落としてため息をついた。その様子にジャンゴとなのは、アギトはちょっと申し訳ない気持ちを抱いた。

あの時……アーセナルギアの相転移砲照射レンズの部分に突撃し、内部に入り込んだユーリのRAYは、動力炉が爆発する寸前にジャンゴ達の前に着地し、彼らを覆うシールドをユーリのエグザミアの魔力とRAYに残る全エネルギー総動員で展開した。その結果、アーセナルギア・サヘラントロプスが木端微塵になり、半径数キロメートルの巨大なクレーターが生じるほどの大爆発から何とかジャンゴ達を守り抜いたのだが、衝撃があまりに強すぎたせいで、ジャンゴ達はおろかコクピットにいたユーリさえもつい先ほどまで意識を失っていたのだ。
そして意識が回復した後、あまりにパワーを出し過ぎたことでRAYの耐久限界を突破してしまい、起動できないぐらい完全に壊れてしまったのを、今こうしてユーリが確認していた。ちなみに別行動を取っていたフェンサリルの兵士達は爆破工作を行った時点でゴリアテかエルザに脱出を果たしていたため、幸いにも爆発には巻き込まれていなかった。なお、現在ゴリアテとエルザは上空に待機しており、フェンサリルとアウターヘブン社への報告のほか、重傷を負ったフェイトやはやて達の回収、及び兵士達への応急処置を行っている。

「分解すればパーツ単位で使えるものは残ってるかもしれませんが……このRAYはもう動けません。後で回収してもらうとしましょう」

「ごめんね、ユーリ。僕達がちょっとやり過ぎたばっかりに……」

「何を言ってるんですか。皆さんのおかげでスカルフェイスを倒せたのに、謝る必要なんてありませんよ。それにメタルギアだろうと機体なんて消耗品、生き残れば大勝利なんです。……そうです、生き残っていてくれれば……本当に良かったのに……」

「ユーリ……その、シュテルのこと。私も悔しく思うよ……」

「シュテルは覚悟の上で戦いに赴きました。訃報を悲しむよりも、健闘を称えてあげるべきです。それに戦場に出る以上、確実に生き残れる保証なんてどこにも無いのですから」

「ま、戦いってのは本来そういうものだよな。姉御もビーティーも、その定めからは逃れられなかったんだしさ……」

アギトの言葉を聞き、ジャンゴ達はこれまでの戦いでいなくなった者達の記憶を思い浮かべる。多くの者が戦い、多くの命が散っていった。彼らの死を乗り越えて、ようやく掴んだ勝利。この事件の傷跡はとても深いが、これから頑張ってそれを治していこう……そんな気持ちを抱いた。……その時だった。

「う……うぅ……!」

「な、この声は……!」

聞き覚えのあるうめき声にジャンゴは目を見開き、声の発信源に急ぎ向かう。アーセナルギアの残骸の中で見つけたのは、壊れたサヘラントロプスの胴体が圧し掛かって身動きが取れないスカルフェイスの、瀕死の姿だった。

「……もうすぐ日が昇る。アンデッドであるお前は、その光に焼かれて浄化される。これ以上……苦しまなくて済むよ」

「そう……か……。ようやく……終われる……。……長い……長い夢を見ていた気分だ……」

「お前には文句がたくさんあるし、許せないことだってある。だけど死に逝く者に鞭打つような真似はしたくない。髑髏が土に還る時が来たのなら、僕はただ見送るまでのこと」

「……優しいな、太陽の戦士。ならば一つ、教えてやろう……。日は昇れば、いずれ沈む。沈んだ太陽は、世界を闇で覆いつくす。公爵デュマの言葉だ……」

「公爵デュマ……最後のイモータル」

「言葉の意味は、奴に訊くといい。貴様も、知っておいて……損は無い……」

地平線から太陽の輪郭が見え始め、光が徐々に辺りを照らし出す。その光がスカルフェイスの身体を浄化していき、黒煙を上げながら灰になっていく。

「少佐……私は燃えぬいた!」

その言葉を最後に、スカルフェイスの身体はこの世から完全に消滅した。彼の身体が消えたことで、その分サヘラントロプスの残骸も少し崩れ、ジャンゴの前にちょうど胸部コアの穴が見える形になった。そして……そこにはオリハルコン製の槍が綺麗なまま残っていた。

「これは……わかった、ありがたく受け取っておくよ、ビーティー」

先の砲撃でブレードオブソルが粉々に砕けたこともあり、とりあえず剣として使えるようにしてもらおうかと考えながら、ビーティーと共に在り続けたその槍を引き抜いたジャンゴは、朝日を背になのは達の下へ歩いて行った。
 
 

 
後書き
リフレックスモード:MGSVより、敵に見つかった瞬間スローになるシステムというか能力というか……。マガジン、顔にぶつけたいです。
ウィース:ゼノサーガ オメガ・メテンプシューコーシスの技。
サヘラントロプスの変形:イメージはゼノギアスでソラリス脱出時、ヴェルトールのバックパックが全身を覆っていくアレ。やっぱり変形は浪漫だと思います。
シグナムの怪我:イメージはMGR DLCでサムが最後にアームストロングに右肩を貫かれるシーン。ただ、こっちは右腕全部潰されています。
サンライト・ブレイカー:ジャンゴの砲撃魔法。勝利はしましたが、ブレードオブソルは粉々になりました。
カエサリオン:一言で言えば、動かない敵です。ディアーチェとこの人との戦いは例えるなら、はやて達が海の上でドンパチやっているとすれば、深海の中、潜水艦で戦っている感じです。
M1911A1:MGS3 ネイキッド・スネークの銃。ちなみにディアーチェの銃はユーリがカスタマイズしているので、ユーリマッチになっています。ふと思ったんですが、MGS3の銃は実はザ・ボスがスネークのために用意していたものなんじゃないかと妄想しています。ザ・ボスならスネークがガンマニアなのを知っていてもおかしくないし、あれだけのカスタマイズが可能なガンスミスの知識を持っていても不思議ではありませんから。……まぁ、オセロットによって湖に捨てられちゃいますけど。
IS・ディープダイバー:ナンバーズ6番、セインの能力。スカリエッティ陣営も一応動いています。
公爵デュマ:ボクタイDSより、ヴァンパイアのボス。
ケイオス:ゼノサーガより、名前だけ引用。ビーティーと同じ、名前が同じだけの別人です。
シオン:ゼノサーガより、名前だけ引用。ヒスったりはしませんよ。
ブルームーン:ミッドには二つ月があるので、便宜上付けました。
ラビュリントス:ゼノサーガ ダンジョンの一つ。
RAY大破:数奇な運命を辿りましたが、最後は守るために散りました。
スカルフェイスの最期:MGSVTPPと同じようなシチュエーションで、違う結末にしました。


色んなキャラが大ケガしまくりですが、大きな戦いをする以上は相応の被害だと考えています。エピソード2は全体的にシリアスだったので、バトルが終わったのもあり、コメディな話を少し書きたいです。やるかわかりませんが、例えばフェイトそんの食い道楽とか……? 
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