| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

提督はBarにいる。

作者:ごません
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

山風のお悩み相談・その1

「ふぅん、タコを使った料理ねぇ……」

「そう、出来たら……みんながあんまり食べた事がない料理がいい……の」

 オドオドしながら俺に相談を持ちかけて来たのは白露型の8番艦・山風だった。なんでも、姉妹からだけでなく鎮守府中の皆から妹か娘のような扱いをされており、内心怒り心頭なのだとか。

「長門さんには会う度にたかいたかいされるし、加賀さんには毎回飴とかチョコとか渡されるし、五十鈴さんなんか出撃の度に付いてこようとするし……」

「Oh……」

 正直、俺は頭を抱えた。長門のはいつもの病気だから仕方無いと割り切れるが、加賀の奴は過去にMIの時に護衛を務めて貰った縁から、五十鈴の心配性は恐らく山風の最期による物だろう。何せ、東京湾の沖合いで敵潜水艦に撃沈されているのだ、娘の様に庇護欲を掻き立てられる山風が潜水艦に苦手意識を持っていると知れば、面倒見の良い五十鈴ならば付いて行こうとするのもまぁ、解らんでもない。何せ、山風は他の白露型の姉妹と比べても背が小さく、知らない奴が見れば末っ子に見えなくも無い……何と無くだが頼り無さげに映ってしまうのだ。

 しかし、山風もウチに在籍している以上はそこいらの駆逐艦よりは鍛えているのだ。ウチの恒例と化している1ヶ月の新人しごきにも耐え抜いているし、着々と戦果を伸ばしている。それこそ、先に着任していた妹2人に追い付け追い越せと言わんばかりの勢いで。過保護も度が過ぎれば相手の心を傷付ける刃となるのだ。

「だからね、私も一人前だっていうのを……見せたいの。ダメ?」

 その小さな身体を震わせながら、涙を目一杯に溜めてこちらを見上げてくる山風。止めてくれ、俺は女の涙に弱いんだ。

「解った、あいつら戦果で見返そうとしても有能な連中ばっかだからなぁ。それ以外の分野で認めさせるしかねぇだろう」

 タコで馴染みの薄い料理か……。俺も少し頭を捻らんといかんな、こりゃ。とにかく、食べながら教えるという約束をして、その日は別れた。タコの仕入れからメニューの選定も考えるのに時間が欲しいからな。





 山風が相談に来てから3日後、ある程度メニューが絞り込めたので店に呼び出した。

「おう来たな……とりあえず、何か飲むか?」

「じゃあ……タコを一杯食べるから、和風のカクテル。甘口のを」

 おっと、まさかカクテルを所望されるとは思わなかった。てっきりソフトドリンクかと……って、こういう子供扱いが嫌だって本人は言ってんだからな。気を付けにゃ。

「あいよ……早霜、任せた」

「了解です……」

 そう言って早霜はフルート型のシャンパングラスを用意し、梅ワイン30ml、グリーンティ・リキュールを5ml、ZIPANG(ジパング)という名前の発泡清酒を60ml注いで軽くステア。

「『月知梅(げっちばい)』です。どうぞ」

 俺も試飲させて貰った事があるが、梅酒ではなくワインだからか、梅の酸味と香りが強く、そこにグリーンティ・リキュールの仄かな苦味と甘味。そしてZIPANGのスッキリとした味わいと炭酸が弾ける。和風の味わいが強いながらも、飲みやすく、食事にも合わせやすい。山風も気に入ったようで、コクコクと小さく喉を鳴らしながら飲んでいる。さて、俺も手軽で美味いタコのツマミを作るとしよう。


《手軽で美味しい!ねぎタコ》

・茹でタコ:200g

・小葱:1束(長ネギなら1/2本)

・塩:小さじ1/2

・鶏ガラスープ顆粒:小さじ1/2

・おろしにんにく:1/2片分

・ごま油:大さじ3~4

・粗挽き黒胡椒:適量



 先に言っとくが、某有名たこ焼きチェーンのメニューじゃあねぇぞ?茹でタコは薄く削ぎ切りにし、葱は小口切り。葱と塩、ガラスープ、ごま油、おろしにんにく、黒胡椒を合わせて5分程置き、葱がしんなりしたらタレの出来上がりだ。

 後はタコとタレを合わせて冷蔵庫で冷やしながら寝かせ、仕上げに味見をして辛味が足りなければ更に黒胡椒を追加。少し位ピリッと来る方が美味いぞ。




「あいよ、『特製ねぎタコ』だ」

 茹でタコのクニュクニュとした食感に葱とにんにく、黒胡椒の辛味がパンチを加える。タコってなぁ噛めば噛むほど味が増す。似たような生物のイカよりも味が濃いからな、負けないように味付けも強めだ。タコの旨味と薬味の辛味が入り交じった所に、酒を流し込む。今回はカクテルだが、白ワインとか日本酒、焼酎。ウィスキーなんかも合うだろうな。

「ん、美味しい……」

 言葉は少ないが、チビチビと口を細かく動かして食べていく様は何だかウサギかリスのようだ。

「山風は辛い物もイケる口か?」

「うん……カレーも辛口が、好き」

 成る程、ならタコを使った簡単に摘まめる料理をもう1品。




《ピリリと辛い!タコのホットサラダ》

・茹でタコ(足):2~3本

・にんにく:1片

・ピーマン:1個

・パクチー:2~3本

・スイートチリソース:大さじ1

・レモン汁:大さじ2

・タバスコ:適量(辛味が足りない時に!)

・オリーブオイル:大さじ1



 さて、作っていくぞ。タコは一口大にカットし、にんにくパクチーはみじん切り、ピーマンはヘタと種を取り除いて1cm角に刻む。

 先にホットチリソースを作っておく。スイートチリソースとレモン汁、刻んだパクチーを合わせておく。

 フライパンにオリーブオイルを熱し、にんにくを炒めて香りを出したら、タコを入れてよく絡める。仕上げにチリソースと絡めて刻んだピーマンを散らしたら完成だ。




「『タコのホットサラダ』だ。食べてみて辛味が足りなけりゃ、タバスコで調整してくれ」

「……いただきます」

 フォークに突き刺してタコとピーマンを一緒に口に放り込めば、生のピーマンならではのシャキシャキとした歯応えとタコの弾力、そこにチリソースの辛味が味を引き締める。少し辛味が足りなかったのか、タバスコを振り掛ける山風。再び口に放り込むと、

「っ!……ケホッケホッ」

 どうやらタバスコをかけすぎたらしい。うっすらと涙目で噎せている。

「おいおい、気を付けて食えよ?」





「店長」

「あん?」

 こちらに話しかけて来たのは早霜だった。

「私も一品ご披露しても良いでしょうか?」

「あぁ、構わんぞ。山風もいいよな?」

「うん……早霜の料理、食べてみたい」

「では、失礼して」



《早霜特製!タコのマリネサラダ》

・タコ:200g(刺身用でもボイルでもOK)

・ピクルス:1本

・玉ねぎ:1/2個

・オリーブ:6粒

・アンチョビ:2切れ

・オリーブオイル:大さじ2

・レモン汁:大さじ1.5

・塩:小さじ1/2

・胡椒:少々


「提督、私は野菜を刻みますのでタコの薄切りをお願いしても?」

「あぁ、やっとく」

 どうやら早霜はソースを作るようだ。玉ねぎ、ピクルスは細かくみじん切り、アンチョビとオリーブは粗めのみじん切りにして調味料と混ぜ合わせるようだ。

 こっちはタコを薄切りにしていく。ボイルでもいいが、今回は生のタコでいこうか。刺身にするように薄切りにしたら、早霜の作っていたソースと和えて完成だ。



「どうぞ、『タコのマリネサラダ』です。白ワインがオススメですが、日本酒等も合いますよ」

「じゃあ……『キール』下さい」

 早霜がにこやかに頷き、『キール』の支度を始める。その間に俺もマリネサラダを味見させてもらう。ピクルスの酸味と玉ねぎの辛味、そしてアンチョビの塩気がタコを引き立てていて、酒が欲しくなる味だ……早霜め、また腕を上げたな。俺もうかうかしてられんぞこれは。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧