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怪物不在

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第三章

「それで優勝出来ないんでしょ」
「嫌なこと言うな」
「嫌なことって毎年じゃない、それに優勝はカープがするから」
「連覇かよ」
「今年こそ日本一よ」
「それは阪神がいるから無理だな」
「どうかしらね」
 最後は兄妹で睨み合うが二人共相手が巨人でないので寛大だった、それで最後は笑顔で言い合ったのだった。
「ペナント精々頑張ることね」
「甲子園で胴上げ見せてやるからな」
 二人は家ではこう言い合った、そしてここで親に買い物を頼まれて家を出た。それでその頼まれたものを買う為にだ。 
 近所の商店街に出た、だがその中を歩きつつもWBCの話をするのだった。
「大谷さんの抜けた穴は大きいから」
「だからそれは藤浪さんが埋めるんだよ」
「連投するの?」
「もう一勝を覇気でもたらすんだよ」
「それが出来たら苦労しないわよ」
「阪神魂を甘く見るなよ」
「毎年夏から負けてるじゃない」
 二人で言い合いつつ歩いている、その二人の向かい側からだ。六人の女子高生達が歩いてきていた。その中でだ。 
 咲はこの時もだ、こうぼやくのだった。
「絶対のエース不在でどう戦うか」
「また言うかよ」
「学校が終わってもなのね」
 春香と奈々瀬がその咲に呆れた顔で言った。
「今日そればっかりじゃない」
「もう野球で頭が一杯なんだな」
「だってね、いよいよはじまるけれど」
 それでもとだ、咲は二人に口を尖らせて返した。
「どうしても気になってね」
「気になっても仕方ないじゃない」
「そうよね」
 静華と凜も先の二人と同じ意見だった。
「まだはじまってもいないし」
「いよいよっていうだけで」
「だってね、大谷さん凄いから」 
 咲の言うことは変わらない、今度は真剣に考える顔で腕を組んで言った。
「あの人で一生は絶対だから」
「マー君もいないし?」
 未晴は彼の名前を出した。
「あの人も」
「そうそう、あの人もいないしダルビッシュさんもで」
「今回はっていうのね」
「正直不安よ」
「予選突破も?」
「キューバがいて苦手なオーストラリアもいるのよ」
「キューバね」
「あの王者ね」
 咲はキューバをこうまで評した。
「物凄く強いのに」
「そのキューバ相手に大谷さんがいたら」
「そうなのに」
「いないから」
「不安で仕方ないわ」
 またこう言った。
「果たしてどうなるか」
「まあ野球もいいけれどな」
「今から喫茶店行くし」
「コーヒーか紅茶飲んで忘れましょう」
「めぐりんのお店でね」
「そういえばめぐりんにも言われたわ」
 咲はこれから行く喫茶店の娘でありクラスメイトでもある彼女のことも話に出した。
「全部終わったから言えばってね」
「その通りだよ」
「めぐりんの言う通りよ」
「はじまってもいないじゃない」
「まだ一試合もね」
「それで言ってもよ」 
 五人で咲に一斉に言った。
「仕方ないから」
「だから今はね」
「コーヒーか紅茶飲んでね」
「それでそっちのお話しましょう」
「そうしような」
 五人共咲を囲んで呆れていた、とにかく咲は今は野球ばかりだった。 
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