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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第51話『ユヅキ』

 
前書き
今回は名前回ですね。 

 
1人の少女がいた。



彼女は希少の鬼族の血を受け継ぎ、とある北国の王の娘という、大変立派な身分で産まれた。

だが言葉が話せるようになった頃、鬼という存在を、また、己の血は望まないものだと、彼女はハッキリと口にして、自分の一族を拒んだ。

両親との喧嘩の始まりは、それだったかもしれない。



少女は家を飛び出した。

もう、この街で過ごしたくないと。

当てなんてなく、無我夢中で逃げるように走った。



そして、王都に辿り着いた。

人の多さに驚き、品物の種類に驚き、何より1人の男性の優しさに驚いた。

少女が独りで王都をさ迷っていると、彼が声を掛けてきたのだ。

中々の悪人面だったので、初めは警戒していたのだが。

しかし、彼にたくさんの世話をしてもらうようになり、彼が恩人だと感じるようになった。

そのおかげで、幼かった少女は生き残れたのかもしれない。



そして、故郷より王都で暮らした時間の方が長くなった頃、少女は1人の少年に出逢った。

友達が欲しかったということもあり、少女は彼の言うことを素直に受け入れた。

すると、そこから2人が仲良くなるのに、時間はそう掛からなかった。

そして彼の優しさに触れ、少女はいつの間にか、彼と“友達”では物足りないと感じ始めていた。

彼となら、どんな困難にも立ち向かえるし、

彼となら、どんな喜びも共有できる。

彼となら……どんなことでもできる。



だから、ずっと一緒にいたいと、そう思い始めたのだ。







「いたた…無茶し過ぎたな…」


お腹を押さえながら、痛みに堪えるユヅキ。
彼女は今、とある建物の裏に身を置いている。
建物を挟んだ向こう側では、熾烈な争いが起きていることだろう。

ちなみに、こんな目に遭ったのは、自分の浅はかさが原因である。晴登を集中的に狙うヒョウを、“隙”だと判断してしまったのだ。
そして、覚悟を決めて飛び込んだ結果、返り討ち。骨は折れてないと思うけど、内蔵をいくらか揺らされていて苦しい。


「早く戻らなきゃいけないのに…」


晴登には、しっかり休めと言われている。
しかし、自分が休息しているこの間も、晴登とミライの2人は戦い続けているのだ。
1人だけのんびりしているなんて、自分で許せない。

だけど、身体の痛みは思うように退かず、苦しくも待たざるを得ない状況だった。


「ハルト…」


ユヅキは見えない彼を想う。

初めて会ったときは、何とも一瞬だった。よそ見をしていたら、急に彼とぶつかったのだ。
何とか平静を保ってその場を逃れたが、心底ビックリした。それにしても、まさか話しかけてくるとは・・・。


「思い返すと、色々あったな…」


走馬灯…ではないが、晴登との思い出が蘇ってくる。
その中でもやっぱり一番嬉しかったのは、最初に握手したときだった。
あの時にようやく、初めての友達ができたのだ。
そして、初めて・・・。


「…だから、ボクだって晴登の力になりたい」


ユヅキは力強く呟くと、治療に専念した。







ドシャッ


肉が地面に叩きつけられる、生々しい音を聞いた。
思わず耳を塞ぎたくなるが、それ以上に心配の念が強まっていく。

今しがた地面に落ちたのは、空中に放たれ無防備になった晴登の身代わりとなったミライである。彼はその際氷柱を身体に受け、大きな怪我を負った。
晴登も、空中でミライに無理やりに押されたこともあり、不安定な体勢で地面に落ちかけたが、自分だけは風で何とか着地している。


「ミライさんっ…!」


ミライは四肢を投げ出し、仰向けで地面に転がっていた。晴登はすぐさま駆け寄り、容態を診る。
だが、彼の怪我は思わず目を逸らしたくなる程のものだった。


「ハル…ト、平気…か?」

「はい。でも何で俺を・・・」

「君が死んだら…ユヅキが、哀しむ…だろ?」

「うっ……」


ミライの言葉が、晴登の胸を衝く。そこだけは晴登も最も気にしていたから、言って欲しくなかった。
守る、なんて誓っておきながら、これではユヅキに合わせる顔がない。


「それに…僕は、治癒魔法が使える…から、君と違って、生き残り…易いんだ」


力無い笑みを浮かべたミライに、晴登は笑い返すことができない。逆に、どうしてそこまで平静としていられるのだと、問いかけたいくらいだ。


「だからって俺を・・・」


晴登はもう生を諦めていた。
だから今さら助けられても、どうすればいいのかわからない。

その時、ミライは徐に口を開いた。



「諦めるな…ハルト。諦めない限り…未来は、消えない」


「…っ!」


弱々しい口調ではあったが、その言葉はハッキリと聞き取れた。


──諦めない限り、未来は消えない。


晴登は何度もその言葉を反芻し、深く噛み締めた。

自分は何て薄情な真似をしていたのだろうか。無責任で傲慢、自分勝手なバカ野郎だ。
自分1人が楽になったとして、その後はどうする?
ミライとユヅキの2人で戦わせたとしたら、勝率は3人の時よりもっと低くなる。そんな状況下に、彼らを送ろうとしたのか? 今思うと、とても呆れる。


「…すいません、ミライさん。お陰で目が覚めました。後は俺がやります」

「ぐっ……いや、僕もまだやるさ・・・」

「ミライさんも、ユヅキみたいに治療に専念してください。俺が時間を稼ぎますから。そしたらまた、戻ってきてください」


ミライは何か言いたげだったが、結局は動くことすら叶わなかった。





晴登はミライから離れ、再び戦場に足を踏み入れる。


「…待っててくれたんだな」

「その男の行動が気になっただけさ。自分を犠牲にしてまで他人を庇って、一体何のつもりなのって」


ヒョウは信じられないと言わんばかりの表情だった。
晴登はそれを見て、自分と彼との種族の差を改めて知る。


「…他人を助けたいっていうのが、そんなにおかしいことか?」

「この世は弱肉強食さ。弱い者を助けていたら、いつ足元を掬われるかわからない」

「だから見捨てるのか? “人”ってのは、人と人が支え合って生きていくから、“人”って言うんだぜ」

「何言ってんのさ?」

「所詮、鬼には解らねぇよ」


最後の言葉がヒョウを刺激したのは明白だった。
彼は額に青筋を立て、ギリッと歯を鳴らしてこちらを見据える。


「人間ごときが、ボクを見下すのかい?」

「お前みたいな心がない奴に、俺は負けない」

「……あぁ、そう」


晴登は身構える。
ヒョウが再び、右手をつき出した構えをしたのだ。

彼の掌の先、冷気が凝結していくつも氷が生成されていく。
しかし今回は、先程のような丸い氷塊と打って変わり、先端の尖った打製石器の様な氷を造り出していた。


「喰らえ」

「当たるかよ!」


槍のように射出されたそれらを、晴登は風を使って防ごうとした。しかし、


「なっ……が!?」


氷の刃は風を容易く切り裂き、そのまま晴登の身体も切り刻んだ。
皮膚や肉が抉られ、所々から鮮血が吹き出ていく。


「そういう、ことかよ…!」


晴登は、ヒョウの攻撃が変化した理由を遅れて理解する。彼はやはり、力任せの知能の無い獣とは違った。
こうなってしまえば、風で防ぐことは不可能。晴登は移動の回避を行い始める。


「さっきよりも緊張感がヤバい…」


『逃げる+風』で避けていたのが、『逃げる』だけになってしまうのは、大きな痛手。
しかし、文句は言ってられない。体力を絞り出して、足を動かさねば。


「さっきの威勢はどうしたの? 逃げてるだけじゃ勝てないけど?」

「わかってるっての…!」


飛来してくる尖った氷塊を横目に、晴登は隙を狙っていた。

その時、晴登はあることを閃く。


「これなら…!」


足に風を纏わせ、一時的に超人の脚力へと早変わり。
もはや、『走る』ではなく『低空飛行』に近い。
機動力が上昇し、いくらか避けやすくなる。魔力を多く使うのが難点だが、ここから一瞬で決着をつければそれも構わない。


「無駄だァ!!」

「な!?」


悠長に考えていたのも束の間、晴登が変化したのに合わせて、ヒョウも“あること”をした。


「寒っ…!?」


それは戦闘の始まりにも見た、周囲を極寒に変える吹雪だった。吐く息が白くなり、自然と震えが込み上げる。


「こんな中で風でも使った日には、凍え死ぬんじゃないか?」

「それが狙いか…!」


見事に相手の術中に嵌まり、苦い顔をする晴登。
もうこの場には、この天気を中和できるミライがいない。つまり、完全に奴の領土(テリトリー)に入ってしまった訳だ。


「さて、どうしてやろうか…」

「…っ、"鎌鼬"!」

「効かないって」

「くそっ!」


万事休す。
ヒョウは攻撃を止め、ジリジリとこちらに近づいてくる。その足を止めるにしても、晴登では力不足だった。


「さぁ、おしまいだよ」


ヒョウの両手で魔力が高まっていく。もしかしなくても、大技の予感だ。

このまま為す術なく受けるしかないのか。

それとも・・・


「いや、全力で抗う!!」

「…!?」


晴登は風を使って走り、ヒョウに特攻する。
身体の芯をつき抜けるような寒さを感じたが、しのごの言ってられない。彼は晴登の風を封じたつもりでいる。つまりこれは、ある意味好機なのだ。


「"鎌鼬"!」

「…ちィ!」


舌打ちと共に、風の刃が砕かれる。しかし、これでヒョウの技の溜めを解除できた。

──もっとも、狙いはそれだけではない。


「…とった!!」


猛スピードで滑り込むようにして、ヒョウの背後に回る。
彼は慌てて振り向いてくるが、さすがに遅い。


「喰らえ、烈風拳!!」


盛大な掛け声と共に、拳を放つ。
今までで一番良い場面だ。角だって余裕で狙える。


──勝った。晴登はそう確信した。


だが・・・



「素手じゃあ、無理だね」

「マジ、かよ……このタイミング、で…」


ヒョウが薄ら笑いを浮かべる意味。それを直に感じる晴登は、悔やみの声しか上げられない。


──風が止んだ。


「はッ」

「うっ……」


魔力切れによる倦怠感を味わい、足元がふらつく。それを防ぐかのように、ヒョウの右手が晴登の首を捕らえる。
苦しい。かなりの力で絞められている。
吐くつもりの息が首で抑えられ、外に出ていくことができない。


「苦、しっ…!」


魔術を使って抵抗できない以上、この苦しみからは解放されない。
薄目で見ると、ヒョウはニタリと不気味な笑みを浮かべていた。

これが鬼の本性なのだろうか。下衆め。


「今度こそ、終わりだね」

「あ、ぐ……!」


その言葉を皮切りに、徐々に意識が遠のいていく。ここまで明確な殺意をもって首を絞められるなんて、生涯で経験するとは思わなかった。
何度死にかければ気が済むのかと、自分に問いたい。もう手札は残っていないんだぞ。
さすがに、今回はヤバい・・・!



「ハルト!」


その時、懐かしい声が耳に響いた。刹那、晴登の身体が解放される。
どうやら、ユヅキの攻撃を避けるため、ヒョウが晴登を手放したらしい。


「いたっ!」

「ハルト、大丈夫?!」

「あ、あぁ……って、ゴホッ!」


乱暴に投げられたせいで、尻を強く地面に打つ。同時に、閉じ込められていた空気が一気に飛び出し、咳き込んでしまう。
おかげで、立つ気力すら大分削がれた。


「ユヅキ、どうして…?」

「いきなり周りが寒くなるんだもん。それで怪しいと思って出ていったら、ハルトが捕まってて・・・」

「なるほど…」


寒くなった、というのはヒョウのせいだろう。幸いにも、それに助けられたのかもしれない。

それより、ユヅキは大丈夫だろうか。
見た感じ、痛みを我慢している訳ではなさそうだ。
とりあえず、時間稼ぎはできたっぽい。


「けど、俺もう動けねぇよ…」

「え、嘘!?」


ユヅキの驚いた表情に、申し訳なさが募る。だが、言葉通り一切身動きが取れないのだ。
強いて言うなら、口と目だけは動く。


「魔力が切れたんだ・・・って、あれ? ミライさんは?」

「……っ」

「うん? どうしたの、ハル──」


直後、ユヅキが絶句する。晴登も、できるならば教えたくないと思っていた。
さっきまで隣で話していた人が血まみれで倒れているのだ。とても正気ではいられない。

視線の先、ミライは依然として仰向けに倒れている。が、光を灯す右手が傷痕をしっかりと押さえていた。治癒の最中なのだろう。
周囲の影響か、少し霜が降りているが、生きてはいるはず。


「あの怪我…大丈夫なの?」

「それはわからない。死んでもおかしくない攻撃だったし…」


本来ならば自分が受けていた攻撃。それを身代わりとして受けた彼には感謝してもし切れないし、同時にとても申し訳ない気持ちでいっぱいである。
晴登はそのことをユヅキには告げようか迷ったが、心に押しとどめた。

ユヅキはミライの様子に不安な表情を見せていたが、すぐに晴登に向き直り、


「心配かけてごめんね、ハルト。今度はハルトが休んでていいよ」

「な…!? 1人じゃ無茶だ!」

「ハルトだってそうだったじゃん。休んでた分、ボクも戦うよ」


ユヅキの実力を侮っている訳ではない。いや、そもそも実力をそこまで知らないのだけれども。
しかし、1人で戦わせるなんてできない。


「くそっ…この脚が動けば…」

「無理しなくていいよ、ハルト。向こうまで運んであげるから、休んでて」


ユヅキの右手が伸びてくる。晴登はそれを掴むべきか迷った。
それを掴めば、ユヅキは1人で死地に向かうことになる。それはあまりにも危険だ。かといって、晴登がここに残ったところで、何の役にも立たず邪魔な上に、とばっちりを受けるだろう。

・・・決断せざるを得なかった。

したくないけど、それを選ばなければ死ぬ人数が増えてしまう。


「何か、策はあるのか…?」

「1つだけね。あんまり使いたくないけど」

「…それで、勝てるのか?」

「勝算は……ある」


本気である。
そのユヅキの言葉で、晴登はケジメがついた。


──信じよう。


ユヅキが自分を信じたように、自分もユヅキを信じてあげよう。それが、“持ちつ持たれつ”という人間の関係だ。


「頼んだ、ユヅキ」

「ハルトの分も頑張るよ」


晴登は、ユヅキのその手に望みを託した。







「ようやく、1対1でキミと話せるね。それにしても、待っててくれたの?」

「それはさっき聞いたよ。ボクは、キミが言う『ボクに勝つ秘策』について、詳しく聞きたいね」

「ボクとしては、使いたくない手なんだよ。今のままで方がつくならありがたいけど、キミは一筋縄じゃいかないでしょ?」

「いくら実姉とはいえ、ボクはもう決めたんだ。手加減はしない」


姉弟の対立は深まる。
今のユヅキでは、間違いなくヒョウに勝てない。それはさっきの不意討ちを防がれたことからも理解できる。
かといって、策で挑もうとしても力でねじ伏せられるのがオチ。


「仕方ないか…」


ユヅキはそう洩らす。ようやく、決心がついた。

力には力でしか対抗できない。


だから、鬼には──鬼で。


「ハルトのためにも、負けられない!!」


盛大な鬼気が、ユヅキを覆った。
空気がざわめき、気温が一層下がっていく。

その様子には、さすがのヒョウも驚いていた。


「この力はボクの望んだものじゃない。これのせいで、ボクは友達が作れない・・・いや、自分が怖くて作りきれなかったんだ。けど、ハルトをあんな目に遭わせたキミを、ボクは許せない。ハルトのためにも、この力を使うよ」

「……なぜ、そこまであの人間に肩入れするんだ?」


あまりのチグハグさ。それがヒョウには謎でしかなかった。

どうして、1人の人間のために、自分の呪う力を使うのか。

どうして、鬼が人間に固執するのか。


全く、答えがわからない。


ユヅキはその問いを聞くと、一瞬の迷いを見せた。しかし、その答えはさっき既に、自分で出している。

ユヅキは大きく息を吸い込むと、ハッキリと言った。



「ハルトが…好きだから。ハルトの力になりたいの」



──少女は、初めて人を好きになった。

 
 

 
後書き
ギリギリ二週間かな?(笑) 遅れてすみません。
いや~、受験どころか卒業式まで終わりましたよ。

さて、今回の話ですが……実は途中で切ってます。
前回みたいに7000文字くらい書こうとしたんですけどね、やっぱ時間が・・・。
でもまぁ、良い感じにまとまってるんで、別に良いでしょう。

受験が終わってようやく暇になるかと思いきや、別段そんなことは有りませんでした。元々、受験を大事に見ていなかったのが原因でしょう。
よって、これからも大して更新速度変わりません! すいません!
次回もよろしくお願いします! では!(←無理やり締めてくスタイル) 
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