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Fate/PhantasmClrown

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MySword,MyMaster
Act-3
  #2

 摩天楼を舞台とした、ランサーとアーチャーの戦闘。それにセイバーが介入して、黄金の聖剣を振るう。
 アーチャーは逃走。ランサーとの戦闘は、初日のそれと同じように、何時まで経っても決着が尽きそうになく。グレーシャが撤退の指示を出したのと、ランサーのマスターが、ランサーに退却を指示したと思しきタイミングはほぼ同時。お互いに戦闘を切り上げた。

 ランサーが霊体化し、何処かへと完全に消えたことを確認すると、セイバーがまたしても膝をつく。初日の混戦の直後と同じだ。

「セイバー!」
「う、ぐ、うぅううう……」

 何かを堪えるように唸る騎士の王。どちらも共通項としては、あのまるでバーサーカーの様な唸り声と共に、恐るべき戦闘能力を発揮した後である、ということだ。
 マスターであるグレーシャの指示を無視するようになるわけではないので、セイバーに【狂化】スキルやそれに類するもの、あるいはそれらを付与するようなスキルや宝具はない、と思われるが……事実上の制御が効かなくなる、というのも確かだ。

「……落ち着きましたか」
「……ああ。……すまない。どうにも、ああなると、な」
「分かっています。あれ程暴れたのですから、ある程度の負担はサーヴァントと言えどあるでしょう」
「俺の霊基は少々不安定でな……ああいう風に軋む」

 霊基が軋む。なるほどそれは、彼があのような狂戦士(バーサーカー)もかくや、という動きをすることにも一応の理由を与える。霊基というのはサーヴァントの魂魄そのもののことであると同時に、サーヴァントの性格や基本骨子の事まで指す。性格が不安定だというのならば、あの様な行動に説明がつけられなくもない。

 だが――本当に、それだけなのだろうか? そもそもどうしてセイバーの霊基は軋みを上げているのだろうか。グレーシャの実力不足か。それとも、召喚に何か問題があったのか。
 そう問うと、セイバーはどちらでもない。俺の生前の問題なんだ、と返した。

 だがそれはある意味では異様だ。生前の問題だというなら、アーサー王伝説の一体何が、彼にその霊基の歪みをもたらしているのだろうか。
 特に先ほどの戦闘は異様だった。グレーシャが特に指示を出すこともなくセイバーは槍兵と弓兵の二基が繰り広げる剣舞に介入し、その互いの宝具(ノウブル・ファンタズム)をキャンセルした。理由や思考が全く読めない。それどころか、何だ、あの戦い方は。己の傷をまるで気にしないどころか、なんと傷を受けてもすぐに再生する。加えてそれに伴うグレーシャの魔力の消費はほぼゼロだ。
 今更ではあるが、グレーシャがセイバーを維持できているのは、彼女にそれなりの魔力量があるから、というだけではない。セイバーが吸収する魔力が、()()()()()()のだ。まるで、自前で回収しているかのような。

 アーサー王に、これらのような伝承はあっただろうか?
 まるで狂戦士の様な破壊的な戦い方や、亡霊の如き挙動ならば、アーサー王がその一角としてたかられることもある『亡霊旅団(ワイルドハント)の王』としての側面――嵐の王としての姿が現出したものか、と推測できるのだが……あの回復力の由来は、想像がつかない。

「……俺の鎧が不思議か?」
「あ……はい。顔に出ていましたか?」
「いや。何となくだ」

 グレーシャの内心を汲んだかのように、セイバーは問う。実際のところはかまかけだったようだが、顔に出ていたというなら少し問題だ。これまで、裕一に考えていることを読まれていた可能性もある。

 そう言うわけじゃないから安心しろ、恋する乙女よ――などと詩的な口調で笑うセイバーは、ふと、真剣な調子に戻る。

 そうして彼の口から語られた情報。グレーシャを、大いに驚かせる、それ。

「この鎧は……というより、『俺のありよう』は、俺のもつ宝具の一つ……その効果によるモノだ。『無窮の栄光(レジェンド・オブ・ブリテン)』と言ってな……まぁ、ざっくり言えば俺の状態を『アーサー・ペンドラゴン』として固定する、というモノなんだが……これは即ち、俺はどれだけ傷ついても姿が変わらないし、状態も変わらない、ということを意味する。『アーサー・ペンドラゴンがそこにいる』ということが変化しないから、俺を現界させるための魔力もほぼ必要ない――と言ったところか」

 宝具。
 ノウブル・ファンタズム。
 人々の願いや祈り、英雄たちに対する『かのごとくあれ』という幻想が、形となったモノ。常時効果を発揮し続けるタイプと、『真名開放』と呼ばれる手段によってさらなる効果を発揮するタイプとに分かれる、とされる。もちろん、そのどちらもを併せ持つ宝具も存在すると推測できる。

 大抵の場合は、その英霊が生前有していた武器や武功、造り上げた建物などが宝具に昇華されて具現化することが多い。まさしくセイバーの『聖剣』がそうであり、恐らくはあのランサーの槍もそうであろう。
 しかしそれだけではない。宝具は、人々の幻想、と言った。それはつまり、後世の解釈によって創作された伝説もまた、彼ら彼女らの宝具となり得る、ということだし、もともとの宝具がさらに強化されることまであるだろう。例えば三国志演義に描かれた呂布将軍の武器として良くあげられる方天画戟だが、三国時代にはまだ存在していなかったとされる。けれども、サーヴァントとしてもし呂奉先が顕現したのであれば、その手にはかの戟が握られているに違いない。
 
 セイバーの『無窮の栄光(レジェンド・オブ・ブリテン)』なる宝具は、恐らく後者――人々の幻想によって、後から付けられたものだろう。(アーサー王)に対する人々の信仰の結晶が、常に彼を『常勝無敗の騎士王』と定義し続けているのだ。彼はその幻想(ユメ)をくべることで燃料とし、グレーシャの魔力に頼らずとも動いているのだろう。

 このように宝具の成り立ちは大別して二つに分けられるが、もちろんそのどちらもを兼ねる宝具も存在する。
 過去の聖杯戦争では、最初のそれにおいてライダーのサーヴァントが有していた最大の宝具は、彼が生前建設した、とされる神殿であったとされる。しかもそれだけではなく、生前の「この世の全ての神殿は余が造った」という彼の発言に人々の幻想(ファンタズム)が集まった結果、彼が建設した物では無いモノも含めるあらゆるエジプトの神殿を融合させた光輝の複合神殿(ラムセウム・テンティリス)として顕現した、と伝え聞いている。
 
「まぁ、本来ならば宝具については、召喚後すぐに説明しておくべきなんだろうがな」
「いえ、問題ありません。貴方の性能に曇りが無いのであれば、私はそこには頓着しませんから」

 それは本心だった。
 グレーシャにとってセイバーとは武器。剣の代わりである。意思疎通をまるで図らないのは敗退の原因となるが、あまりセイバーの性能を知りつくして、それを過信してもいけない。二度目の聖杯戦争においてセイバーを召喚したマスターは、セイバーの強さを過信した故に、アーチャーとバーサーカーに遅れを取りかけた、と聞く。

「聖剣は使えるのですよね?」
「ああ、問題ない。真名開放も間違いなく行える。状況によっては、この街をも焼き払えるだろうさ」

 確かな自信をにじませるセイバー。
 当然だ。星々が鍛え上げた、この地球上に於いて最強の聖剣。神造兵装たる聖剣エクスカリバーは、過信してはならないが、それを誘発するほどには強力な宝具だ。何よりグレーシャにとっては、裕一の象徴でもある。

「ならば問題ありません。存分にその力を振るってください。我が王に勝利を」
「了解した」

 会話を切り上げる。
 まだ、聖杯戦争は始まったばかりだ。 
 

 
後書き
 セイバーの宝具が開帳されましたね。これが騎士王の謎挙動と無限回復の原因です。

 ところで話は変わってFGOのことになりますが、昨日ですね! ついにですね! ブリュンヒルデの絆が10になりまして! いやー長かった! 嬉しいなぁ、これでブリュジャン共に絆10レベル100オールスキルマですよ! 課金不可能の拙者にとっては宝具マだけが不可能そげなのが唯一辛い……。
 ……はい、黙ります。

 というわけで次回はライダー戦のはずです。明日18時に更新します。 
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