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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督はBarにいる×熾火 燐・その4

「時に君は、複数の艦娘とジュウコンしていると聞いたが?」

 ジャークチキンをつまみながらワイルドターキーを楽しんでいた壬生森が、唐突にそんな話を振ってきた。

「あぁ、事実だよ。えぇと……指輪渡してあんのは19人だったかな?」

「昨日大和さんにも渡しましたから、20人ですよ、店長」

「あぁそうか、どうにも正確な人数の把握ってのがねぇ……」

 ウチの鎮守府は基本的に自由恋愛だ。俺が知ってるだけでも2、30人は外部に恋人が居る奴がいるし、実際はもっと多いだろう。外部の人間と結婚した奴もいるしな。そんな中でも俺を好いてくれる奴は多い。40半ばを過ぎたオヤジを好きになるとかお前ら感性大丈夫か?と尋ねたくなるが、歳の差なんぞ何するものぞ、ってのがウチの連中の共通見解らしい。

「アナタ、仮にもケッコンしてる相手の人数を把握して無いの!?それって司令官としてどうなのよ」

「手厳しいねぇ、ウチの連中は錬度頼りの戦闘力じゃねぇからなぁ。ケッコン艦を特別扱いしたりはしてねぇしな」

 叢雲の言い分も尤もな指摘だ。艦娘を管理するのは司令官としての俺の最重要任務だ、そこは間違いない。ケッコン艦は能力を更に上の段階に引き上げられる為に提督の強権発動で強制的に着けさせる事も出来るが、俺は一切それをした事はない。寧ろ本人の意思に任せて、要らないならば断ってもいい、とさえ明言してある。

 そもそも、俺は錬度の高さだけを戦闘に求めていないからだ。個人の技能も大事だが、軍としての集団戦において重視されるべきは戦略・戦術の類いだと俺は考えている。個人の技能だけで戦を進めれば、いつかどこかで破綻が来る。小さな蟻でさえ、数万集まれば巨大な象を倒し得るのだから。それに個人の能力に関しても、地力となり得る錬度の高さはある程度必要だが、それを100%扱いきれる技術と精神力が無ければ無意味だと思っている。事実、ウチの鎮守府の訓練内での話だが、錬度が90近い重巡を、錬度40代の龍田が手玉に取ったりしている。幾ら速いF1カーに3歳児を乗せても、操縦できないのだから自転車の小学生にさえ劣るのだ。地力は高くとも技術が伴わないと意味がない、という良い例だ。




「ふむ……とは言え、確か君は艦娘とカッコカリではない結婚をしていると報告を受けているが?」

「あぁ、それも事実さ。一応金剛が本妻って事にはなってるがな」

 ウチの鎮守府の男女関係はかなり特殊だと自覚している。大概の鎮守府だと提督は1人の艦娘だけに指輪を渡し、操立てしている奴が多いと聞いている。ジュウコンしている所も珍しくないが、そういう所の殆どはケッコンカッコカリを能力を引き上げる為の強化パーツのような物だと割り切って使っている。そうではなく恋愛感情を持ってジュウコンすると独占欲が増してくるらしく、艦娘同士が提督の取り合いになり、最終的には悲惨な結末に至った、なんて話もザラだ。

 一方、ウチの鎮守府はといえば、本妻である金剛は不動だとしてもケッコン艦に求められれば肌を重ねる事もある。金剛自身もそれは了承しており、曰く

『darlingがモテるのは良い事ネー!』

 だそうだ。そんなモテモテの提督のNo.1であることに多少誇らしい部分があるらしい、とは妹である霧島の分析だ。そんな爛れた関係が横行してそうな我が鎮守府にもルールがあり、『ケッコン艦以外は提督への手出し無用』と『提督もケッコンしてない艦には手出しはダメ』らしい。元々来る者拒まず……というよりは仮にとはいえケッコンした異性の相手をするのは当然の務め、と割り切って金剛以外の連中も相手はしているが、俺の方からはクラっと来たりムラっとしても、ケッコンしていない艦には手を出していない。……眠らされたりして襲われている可能性を否定できないのが何とも恐ろしい所ではあるが、そういう場面を発見されたら、仕掛けた艦娘は酷い目に遭うらしい。ケジメはきっちりしないといけない、というのが彼女らの総意である為に、やり過ぎるなと釘は刺してあるが基本的には丸投げ状態だ。父の日のパーティの日に俺を誘惑してきた雲龍も、後日加賀を筆頭にした正規空母連中にシメられた、とケッコン指輪を渡した時に苦笑混じりに語っていた。

「でも、それだけの女性を相手にするのは大変じゃない?」

「それこそ男の甲斐性の魅せ所、って奴さ。その辺の若いニィちゃんよりは、体力も経済力も劣るとは思ってねぇしな」

 呆れたようにぼやく叢雲の発言に、ニヤリと笑って返してやる。抱えきれない女を囲うのがそもそもの間違いなんだ。歴史を見れば跡継ぎを確実に残す為もあってか、王族なんかには何人もの妾や側室を持つ者が多いが、多ければ多いほど経費は嵩むモンだ。それを賄えるだけの『力』があるのなら、別にいいんじゃね?というのが個人的な意見だ。今のところ俺は金銭的に困ってもいないし、ヤりすぎてやつれたりしてもいない。至って順調なハーレム状態だ。それが問題だと言われれば問題なのだろうが。

「私はケッコンカッコカリという制度自体、艦娘を馬鹿にしているというスタンスなのだが、それについてはどう思うね?」

 壬生森の問いについて、少し唸る。ジュウコンまでしている身としては是非を問われれば是と答えるしかないのだが、内容として不誠実だと言われれば反論のしようもない。何と答えるべきかと悩んでいると、

「あの……私なりの意見を述べても良いでしょうか?」

 そう言って口を開いたのは早霜だった。




「現役の艦娘の貴重な意見だ、是非聞かせてくれ」

 壬生森にそう促され、早霜は意見を述べ始めた。

「では……私としては、ケッコンはある種の『ご褒美』だと捉えています」

「ほぅ?」

「私達第二世代の艦娘には、明確な『親』と呼べる存在が居ません。その為身近にいる艦娘ではない人……提督にどの様な形であれ本能的に繋がりを求めているのだと思うんです」

 言われてみれば確かにな、と納得出来る部分が多い。壬生森の傍らにある叢雲は第一世代の艦娘だ。元は人間である為に親や家族は存在する。対してウチの連中は第二世代型の艦娘ばかり。身体は妖精さんの謎技術で形作られており、親や家族は存在しない。姉妹艦という存在はいるが、アレはどちらかと言うと宿っている艦の魂での繋がりとでも言うべきか、血の繋がり的な物はないと妖精さん達も断言している。

「だからこそ、提督を『父親』であり『友人』であり、『恋人』や『夫』……果ては『家族』のように振る舞って欲しいと思うのだと思います、私を含め」

 そう言って赤面する早霜を、少し愛おしく思ったのは仕方ない事だよな?確かに精神年齢の幼い者は父親に対しての甘え方だし、軽巡や重巡連中は仕事以外の時間では気軽に接してくる。そして指輪を持っている者達はまさに夫婦であるかのように接する事を求めてくる。早霜の語る言葉には、実体験としての証拠が十分に揃っていた。少し大人びた早霜が、親としての振る舞いか恋人のような振る舞いのどちらを求めているかは判別が着いていないが。

「そんな相手に褒めてもらいたい……そう思うのは不自然でしょうか?少なくとも私は、提督に褒めて頂きたいと日々の業務に励んでいます。その結果が錬度であり、その終着点こそケッコンカッコカリと思っています」

「成る程、ケッコンはあくまでも結果であり、目的ではないか……貴重な意見だ、どうもありがとう」

 壬生森はそう言うと早霜に頭を下げた。その目には何か、過去を懐かしむような眼差しを見た気がした。

 結局壬生森と叢雲の2人は明け方近くまで飲み明かし、明るくなり始めた海に帰っていった。

「さぁて、店の片付けしないとな~……」

「お手伝いします、店長」

 2人を見送りに来ていた早霜と、店への帰り道を急ぐ。その道すがら、俺は早霜の頭に手をポンと置いて撫でてやる。

「いつもありがとよ、早霜」

「はい……!」

 撫でられた早霜の顔が赤かったのは、朝焼けの照り返しだけじゃ無かったハズだ。 
 

 
後書き
お楽しみ頂けたでしょうか?実はハーメルンの方にはこのコラボストーリーを壬生森サイドから描いたお話も投稿されております。そちらも合わせてお楽しみ頂くと、更に深みが増して面白いかと思います。 
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