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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督はBarにいる×熾火 燐編・その1

 
前書き
 今回はハーメルンに連載中の熾火 燐さんの作品『航海日誌』の主人公と秘書艦が来店します。ただし、本作に登場する主人公は提督を引退してから数十年後という特殊な登場の仕方です。その辺をご留意頂きましてお楽しみ下さい。 

 
「内務省のお役人が、ねぇ……何しにウチなんかに」

 元帥のジジィの奴からそんな一報が入った。何でも『軍閥化や非合法な活動が疑われる鎮守府への査察官』だそうで、お前はそんな事しておらんじゃろうな?というジジィからの牽制球まで頂いた。非合法な集団との付き合いが無いとは言わんが、それでも目的は鎮守府の自営戦力の強化の為のみの繋がりであり、後ろ暗いような仕事などはしていない。そこを突つかれると苦しいが、その他は健全経営そのものだ。

「店長、まぁそう固くならずに。案外染嶋大佐のように、査察名義で飲みに来ただけかもしれませんし」

 早霜は悠長にそんな事を言っているが、俺としちゃあ気が気ではない。それに、先方から事前に連絡が入っていたのだ。

『来訪当日にはとある積み荷を積んでいくので、港湾部に艦娘を数名待機させておくように』

 何を積んでくるつもりなのやら。今から戦々恐々としている。まさかの始末書の山……?まさかな、この間連載が終わった某漫画の主人公の警官じゃあるまいし。と、そんなアホな事を考えていると港湾部で待機させておいた明石から通信が入った。

『提督?此方に向かってくる輸送船を発見、味方の識別信号を出しています』

「了解、そのまま誘導して港湾部に接舷。後は乗員の指示に従い、積み荷を確認しつつ荷降ろしと運搬を行え」

『了解でーす』

 ブツッ、という音と共に通信が切れる。さてさて、此方も準備しますかね。


 明石からの通信が入って30分もしない内に、その来客はやって来た。一人はグレーの背広を着た30代半ば位の男。もう一人は俺達もよく知る叢雲改二だった。その後ろには、何やら樽のような物を抱えた高雄が控えている。

「お初にお目にかかる。内務省統合分析室・分析官の壬生森だ」

「秘書の叢雲よ、宜しくね」

「そりゃどうも、ご丁寧に。この鎮守府の提督の金城だ。生憎と堅苦しいのが嫌いでね、言葉遣いが荒いのはご容赦願いたい」

「構わんよ、此方もその方が話が早い」

 そう言いながらカウンターに腰掛ける壬生森と叢雲。二人は自然体の様にしていて、隙がない。この男はともかく叢雲は間違いなく手練れ。事と次第によっちゃあ荒事になるかもしれないという懸念がある上で、この二人を相手取るのは中々に手厳しそうだ。そんな警戒感を強める俺の緊張をへし折ったのは、まさかの高雄だった。

「あの……この樽は何処へ…?」

「あぁ、そうだった。その樽はカウンターの隅にでも載せてくれたまえ。すっかり失念していたよ」

 では此方に、とカウンターの上にドスン、と樽を置く高雄。チャプンと音がしたのを見ると、中身は液体らしい。

「お~、流石高雄、馬鹿力だなぁ」

 早霜も素直に感心したのか、パチパチと拍手している。

「ちょ、女性に対してその言い方は酷くないですか!?」

「まぁまぁ、馬鹿力は昔からだろうに。酔っ払ってグラス握り潰したのは一個や二個じゃねぇだろが」

 そう言って高雄の前科を並べてやると、真っ赤になって逃げていってしまった。フォローは後にしよう。

「……で、これは?」

「他人の城にお邪魔するんだ、手土産のひとつも準備しないと失礼かと思ってね」

 そう言って目の前の男ーー壬生森は不敵にニヤリと笑った。




「ちょいと、失礼」

 早霜に目配せしてとある物を準備させる。それは簡易な蛇口。しかしそのすぐ後ろには木ねじが付属している。これは酒樽等にねじ込んで、そこから注げるようにしてあるコックだ。中身が液体であり、Barに持ってきた事から恐らくは酒だろうと当たりを付けた。樽にコックをねじ込み、栓を開ける。

『さて、ワインかビールか、はたまたウィスキーか?』

 俺はジョッキを蛇口に当てて、液体の登場を待つ。溢れて来た液体の色は琥珀色……それも鼈甲に近い鮮やかな琥珀色。スンスンと匂いを確かめ、ぐいと煽って口に含む。少し口の中で転がし、飲み込む。

「『ワイルド・ターキー』とはまた貴重な物を。密輸品かい?」

「まさか。政府が扱いに困っていたアイオワを此方で引き取ってもらったと聞いた。その迷惑料も込めて、だ」

 淡々と語る壬生森に俺は鼻をフンと鳴らす。迷惑料も何も、こっちは戦力増強してもらってんだ。運用コストは大和型に近い物があるが、そこは大した問題ではない。

『……ん?壬生森、壬生森…どっかで聞き覚えが……』

 朧気な記憶の糸を手繰る。どこかで見聞きしたのは確実だ、それが一体どこだったか……やがて1つの答えに至った。

「アンタもしかして……『蒼征』の壬生森か?」

「その名前も既に懐かしいな。その通り、私がその壬生森だ」

 通りで覚えがあったハズだ。国内の四大鎮守府、横須賀・呉・佐世保・舞鶴。その中でも壊滅の危機に瀕したのが佐世保鎮守府。その当時の提督であり今の国防圏を取り返した最初期の提督の一人であり、三笠教官の現役時代を知る数少ない証人だ。そんな伝説的な人物が今、目の前にいる。

「そんなすげぇ提督が俺みたいなチンピラ崩れに何の用だい?」

「私は既に提督の職は辞した身だ、それに今の仕事の方が本職でね……しかし、チンピラ崩れとは卑下し過ぎではないかね?」

 こう言うのを端から見れば、『狐と狸の化かし合い』とでも言うんだろうな。俺は心の中の警戒レベルを最大まで引き上げた。




「ここに来た理由?酒を飲みに来ただけだが?」

「……は?」

「だから、私達二人はこの店の噂を聞き付けてね。それで是非そのお手前を味わいたいと、横須賀からここまで来たのだよ」

 なんとまぁ、早霜の予想が大当たりかよ。ってか早霜、小さくピースとかしない。お前はエスパーかよ。

「三笠に聞いたのよ、アナタ、とっても料理が美味しいらしいじゃない?期待してるわ」

 なんだ、手練れかと思ってた叢雲の方はただの食いしん坊か?口から出る言葉は高圧的だけどすんげぇ期待の眼差しだし。実力は確かなんだろうが、性格がポンコツ過ぎねぇか?オイ。……まぁいい、酒飲みに来ただけだってのは嘘でもなさそうだし、飲みに来たなら客だ。

「まぁ、何でもいいさ。ウチは基本メニューは無し、材料さえありゃあ大概の物は何でも作るってのが俺のポリシーだ」

「ふむ、メニューが無いのか。では、先程の『ワイルド・ターキー』に合う肴を。……あぁ、なるべく会話を邪魔しないような手軽な物にしてくれ」

「私は……そうね、何かカクテルを。出来れば甘口の物を頂戴。肴はとりあえず適当でいいわ」

 中々に難しい注文をしてくれる。バーボンに限らずウィスキーってのは、実は料理には合わせにくい酒だ。最近流行りのハイボールならば料理に合わない事も無いのだが、それでもスコッチやアイリッシュ、バーボンに代表されるアメリカンウィスキー等は日本のジャパニーズウィスキーよりもクセが強く、料理に合わせにくい。その辺の関係性やその上で合わせると良いと思われる組み合わせ等を、次回にみっちり解説したいと思う。 
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