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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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MR編
  百四十四話 一知半解

 
前書き
はい、どうもです。

アニメの影響で、Vividの方を投稿したりなんだりしている間に、すっかりご無沙汰となってしまいました。申し訳ない。

相変わらずアスナとリョウを中心に据えた回となります。

では、どうぞ!! 

 
ケットシー領、《アルテミロポス》
猫妖精、ケットシーの領内に存在し、背丈の短い草に包まれたこの見晴らしの良い巨大な四つの丘(というか殆ど山だが)からなるフィールドは、肉系食材をポップする複数種のアクティブモンスターが生息する、別名「肉林の丘」だ。
それぞれの丘によってポップするモンスターと取れる食材の種類が分かれているこのフィールドでは、丘の上に行けば行くほど良質な肉をドロップする、しかし強力なモンスターが出現する。

「ほーれほれどしたどしたぁ、その立派な角は飾りかオイ」
揃えた五指をちょいちょいと挑発するように動かしながら、リョウコウは目の前にいる巨大な双角を持つウシ型のモンスターに呼びかけた。モンスターの名は、《マーブルド・デュアルホーン》分かり易い姿をしたMobだが、攻撃の殆ど全てに強い「吹っ飛ばし」の効果があり、そのくせ自分はほぼ常にスーパーアーマー、つまり怯まない状態なのでクロスレンジでの連続した攻撃によって一気に体力を削り切るという戦術が取りにくい相手だ。とはいえ、攻略法が無い訳ではない。
例えば自分の後ろにわざと岩や壁を背にして挑発し、突進を軽く躱してその巨大な角を壁に突き刺さらせてやって、後方から切りかかる方法。或いはフィールドに時折存在するくぼみにモブを誘い込み、転ばせてやる方法、単純に、複数人で広域に展開し、一人がタゲを取って近くに来たものが攻撃するのでも良いし、手っ取り早い方法なら魔法や弓などの遠距離攻撃手段を用いても良い。またそれ以外にも……

「ンモォォォォォ!!」
「おっし……せぇ、のっ!!」
正面に居たデュアルホーンが突進の体制に入るのを見て、リョウが斬馬刀を振り上げる。大きく足を開いて踏ん張り、待ち構える姿勢から……

「──奮ッ!!」

薙刀 重単発技 《剛断》

赤黒いライトエフェクトを纏った斬馬刀の切っ先が、すさまじい迫力で突進してきた二本角と激突する。二つは一瞬の均衡もなく、次の瞬間強い光を発したかと思うと……

「ン″モォォォォォォォ!!?」
「……へっ」
強烈な突進の勢いを無理矢理押し止められたデュアルホーンの巨体が、慣性の法則にしたがって止まり切れずに後ろ半身が跳ねあがって空中へと打ち上げられる。周囲に居た他の男子から、オォッ!と声が上がった。と……

「おっしゃあ、行くぜテツ!!」
「ウッス!!」
「おっ?」
突然勢いよくクラインの声が上がったかと思うと、彼はテッチが頭の上に構えた盾を踏み台にして、空中へと身を躍らせる。なんでもあの方法でユウキが手の届かない位置に有ったボスの弱点を切りつけたらしい。まぁ、あれは完全に思いつきだろうが……

「うおぉぉりゃぁあ!!」

カタナ 三連撃技 《雪月花》

勢いよく振り抜いたカタナは上手い具合にデュアルホーンの身体に三本の傷を残す。周囲の歓声と共にクラインが豪快な笑みを浮かべたがしかし、一つ、彼には計算外のことがあった。切りつけたホーンのHPが、それだけでは削り切れなかったことだ。

「ん?」
結果……

「ふげっ!!?」
切りつけられた衝撃で空中で体制がが割ったホーンの角が、クラインの鼻っ面を直撃し……

「テッチ、アブねぇ!!」
「?」
ジュンの警告に反応する間もなく、デュアルホーンの巨体がテッチの上へと落下した。

「「「て、テッチ―!!」」」
絵面的に明らかに潰された形になったテッチに向けて、頭から着地したクラインを含めた周囲の全員がその名を叫ぶ。次の瞬間にはテッチのリメントライトが出ることを覚悟しながら、落下ダメージによって、ホーンの巨体が消滅する地面を全員が凝視した。
と……

「……ふぅ、驚いたっス……」
「「「て、テッチ―!!」」」
相変わらずの細目で盾の陰からテッチが姿を現す。どうやら衝突時のダメージを断てと防具で受けきったらしく、特にHPの減少もないその姿に無事を確認した仲間たちから先ほどと全く同じ内容に歓声上がった。肩に斬馬刀を担いだリョウも一つ安堵の息を吐くと、不意に後ろから高い声がする。

「何してるのよ貴方達……」
「お、よぉ、休憩か?」
「男どもがさぼらないように発破かけに来たのよ、ほらアンタたち!いつまで奇跡の生還やってんの次に行く行く!!時間限られてるんだから!!」
怒鳴り散らしながら、アウィンはしっかりとテッチの様子を確かめ、特に問題なさそうだと判断すると、クラインやジュンたちの下へと行くように促す。元々、アウィンはリアルでもそうだが、生粋のリーダーシップを持っている。しかし反動のようにVRでは効率を重視する時と程度の野良パーティで、それ自体も組んでいる事はそれほど多くはない……何方かといえばソロのプレイヤーなので、実は彼女のこういう姿をVR(こちら)で見れる機会は少ない。

「張り切ってんなぁ食材屋」
「“元”よ。モタモタされるとノルマが終わらないのよ。人数が人数なんだから」
「そらそうだわな」
苦笑して肩をすくめ、リョウは斬馬刀を担ぎなおす。

「そんじゃ、俺もさっさと戻りますかね」
「あ、ちょっと」
「あ?」
不意に呼び止められて、眉をひそめてリョウは振り返る。アウィンは彼の顔を数秒眺めると、ふん、と少し意外そうな、思い過ごしを確認するような顔をした。

「ふぅん?今日はしゃんとしてるわね、貴方」
「あぁ?」
何を言ってるんだお前はとでも言いたそうな顔で首を傾げるリョウに、アウィンは髪おうっとおし気に払いながらいった。

「この前の、普段の倍くらいうっとおしい顔じゃないわねって意味よ」
「……その口ぶりだと、お前が普段から俺の顔にイラついてた事しかわかんねーんだが」
「あら、そんな風に聞こえた?ならごめんなさいね」
「気にすんなお互い様だ」
「はぁ?」
「あぁ?」
この場に余人が居れば、バチバチと二人の間に火花が散っているのがわかったかもしれない。が、幸か不幸か、この場に彼ら以外の人間はいない。本当はアイリが居れば最高だったのだが、生憎と彼女は今別の場所で素材集めをしている。
が、普段ならここから言い争いに発展する二人はしかし、今回はそうなるより早く、アウィンの方が表情を緩めた。

「ま、いいわ。隣で辛気臭い顔し続けられたら溜まらないって思っただけだし」
「……微妙に皮肉っぽい言い方になんのどうにかなんねーのかお前」
「それこそお互いさまよ」
「はっ、そりゃそうだ」
鼻で笑ってリョウはアウィンに背を向けて歩きだす。と、今度は彼の方から振り向いた。

「あぁ、でもまぁ、御心配には感謝しとくぜ会長」
「は……?」
完全に不意打ち気味に放たれたその言葉に、アウィンが呆けたような顔をする。

「お気を使わせましてどうも申し訳ない。お優しい上司でおりゃ幸せだぜ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!私が心配?貴方を!?なんで!?」
「あ?」
「そんな事一っ言も言った記憶ないんだけど!?」
慌てた様子で喚く彼女に、リョウは首を傾げながら頭の後ろを書いた。何をいまさらと言わんばかりに軽くため息をついた。

「いや、天ま……アイリが言ってたぞ。「ああいうのはアンなりに心配してるんだよ。だから嫌っちゃだめだよ?」とかなんとか」
「……!……!」
「?」
何かを怒鳴り散らそうとするようにアウィンは何度も口をぱくぱくと開閉する。が、何も言わない彼女に特にそれ以上話すことはないと感じたのだろう、リョウは再び踵を返すと、片手をヒラヒラと振りながら狩へと戻っていった。
その様子を見送って数秒の後。

「どこからみてたのよ……!」
頭を抱えて、彼女はその場にうずくまった。

────

「しゃんとしてる、ね」
ぽりぽりと頬を掻きながら、リョウは周囲に獲物がいないかを探しつつ、一人他のメンバーがいない丘を登っていく。以前の自分よりも自分がしゃんとしているというのなら、それはそのままズバリ、杏奈にきっぱりとしたことを言われたからであり、和人にも心配をかけてしまったからだ。正直あまり自覚はなかったのだが、二人のどちらからもああ言われてしまっては、自分が相応にしょげた顔をしていたらしいと認めざるを得ない。
和人にはああいわれたが、流石に家の外でまでいつまでもそんな重い表情をしているわけにはいかないし、自分で原因を作っておいて、今更割り切れずにうだうだしているのでは女々しい事この上ない。

「意地張ってカッコつけてってか……?ったく、どっちがガキっぽいんだか」
普段、割と器用に立ちまわっているつもりだったのだが、いざ本当に火中に入ってしまうと、中々いつも通り小器用にとはいかないなと感じながら、ちょうど目の前にポップした巨大な怪鳥に笑いかけた。

「バーベキューにとり肉ってのもどうかとは思うが、まぁ、ちょいと気分転換も今日はかねてっからな……どれ、付き合ってもらおうか?小鳥君」
ニヤリと笑って、彼は斬馬刀を担ぎなおす。甲高い怪鳥の鳴き声が、緑の丘に響き渡った。

────

同じ頃……

「なるほどねー、珍しくリョウも微妙な顔していると思ったら……」
「えっ、リョウもそんな顔してた?」
背中合わせに木になったオレンジを観察しながら、背中合わせのリズがそんな事を呟くのに、アスナは驚いたように振り返った。あれから少しして、彼女達はメンバーを入れ替えつつ収穫を続けていた。と言っても、もともとバーベキューのための材料集めだ。野菜類はそれほど必要量も多くないので、後は4人一組でまとまっての、のんびりとしたデザート採集タイムである。

「そう言うってことはアンタ、ホントに最近リョウの顔見てなかったのね。正直珍しいくらい悩み顔してたわよ、彼奴」
「えぇ……」
「ま、正直喧嘩してる相手の顔が見難いっていうのは、っと、分かるけど……お姉ちゃん、これは平気?」
「えっと……うん、大丈夫」
リズよりは少し離れた場所に居たシノンが取ったオレンジを、サチに見せて同意をもらう。そんなことには全く気が付いていなかったアスナとしては、なんとも微妙な気分になっていた。

「それにしても、ほんと珍しいわよね、アスナもそうだし、リョウ兄ちゃんが喧嘩するのも。キリトが相手なら、接してる時間が長い分分かるんだけど?」
「うーん、喧嘩って訳じゃないんだけど……でもそんなことないよ?、私、昔はリョウと喧嘩してばっかりだったもん」
「あぁ、うん確かにそうねー」
「そう言えば……時々アスナの話、聞いてたなぁ」
「へぇ……それは初耳」
苦笑気味に言ったアスナの言葉に、意外そうな顔をしてシノンが言った。しかしリズとサチはというと、やや納得したように何度か頷いて言う。

「昔はアンタもとがってたもんねぇ」
「ちょっとリズ、変な言い方しない!」
「尖ってたって……何、アスナってSAOで不良だったの?」
「不良だったのはリョウとかキリト君の方だよ!!?」
シノンのなんてことのない発言に思わず全力で突っ込むアスナに、面白がるようにリズが笑った。

「そうそう、不良っていうよりは逆よ。この子、真面目すぎて昔は「鬼」とか言われてたくらいなんだから」
「確かに、指揮をしたりしてるときは結構真面目な顔、よね?」
「あれがもっっと凄かったの!自由人のリョウやキリトとじゃ、基本的に馬が合うタイプじゃなかったのよ」
「もー!昔の話を蒸し返さないでよー!」
むくれたアスナをなだめるように、リズがその肩を苦笑してポンポンと叩いた。

「まぁそう言うわけだから、喧嘩自体は久々だけど、珍しくはないのよね」
「だから、喧嘩じゃないのよ。ただちょっと、意見が行違っちゃって……それに私が冷静さを失っちゃって……」
「まぁ、話を聞いてた限り、どっちが悪いとかそういう話じゃないわよね」
少し真剣な表情になったシノンが、目の前のオレンジを見定めつつそんな風に呟いた。実の所彼女としても、それなりにこの話題を真面目なものとして認識している。少なくとも彼女が知る限りにおいて、リョウがそこまで不躾な物言いをすることは珍しいからだ。

「うーん、でも正直、これに関してはリョウの方がどうかと思うわよアタシ」
「え?」
「だってそうでしょ。言い方はあれだけど、リョウの言ってる事って、アスナにとっては余計なお世話じゃない」
「そ、そんな……」
若干憤慨したように言う彼女の事を慌ててなだめようとするが、リズはその反応を予想していたように彼女を手で制する。

「まぁ、最後まで聞きなさいよ。だってアンタだって、リョウに言われた事がその……分かってなかったわけじゃないでしょ?ただ、納得できなかっただけで」
「それ、は……」
その問いへの回答は、既に自分の中で出ていた。答えはイエスだ、あの日から数日経った今ならばはっきりと分かる。自分の中でも、その結論に行き着いて居ない訳では無かったのだ。ただ今でも絶対に、それを認めるわけには行かないと思うし、認めるつもりもない。何故ならその結末を認めることは、「ユウキの人生がそれまでの物である」という事を認めることに他ならないからだ。そんなのは絶対に嫌だし、その為に諦めることを容認できるはずもない。

「……分かっては、居るつもり……でも!」
「はいはい、それ以上言わなくていいわよ。もう泣きそうだし、見てられなくなるから」
よしよしとするように、リズが困り顔でアスナの頭を撫でる。その仕草に、自覚しないまま緩みかけていた涙腺から溢れそうになる物を何とかこらえて、続きを促す。

「とまぁ、こんなフラフラだけど、この子も分かっては居るわけよ。そこに態々言うあたり、今回の事って、なんていうか、リョウもおせっかい?それこそ、余計なお世話というか……」
「まぁ、確かにちょっと余計かもっては思うけど……」
「……そ、その……」
と、それまで黙っていたサチが、不意に遠慮がちに手を挙げる。それを見てリズはコクリと頷いた。

「ごめん、好き勝手言ったわ。リョウの事、サチはどう思う?」
「あ、うん……その、リョウはね?絶対、アスナの事を責めるためにそういう事を言ったんじゃないと思うの……ただ……」
そこまで言って、美幸は不意に口をつぐむ。その様子に、アスナはどこか、言い知れぬ違和感を覚えた。というのも、此処の所美幸/サチは、この話題になるとやたらと口が重くなる。とても慎重に言葉を選んでいるような、何かに触れないように話しているかのようなそんな様子で、発する言葉のテンポが遅い。

「……?サチ?」
「……ッ、うん。ただ……心配してるだけだと思うの」
「心配……か」
「きっと、リョウも上手く言えないだけで、アスナが思ってる事、何も分かってない訳じゃないって、そう、私は……思う……」
最後の方は、どこか頼りない、尻すぼみな言葉だった。自信がない為か、あるいは他の理由があるのか、しかし何にせよ、アスナはその内容を真剣に考えてみる。
確かにあの時、リョウはアスナに「欠点を上げている」と言っていた、きっと彼は、その欠点によってアスナが何かしらの不利益を被ることを防ごうとしていたのだと、美幸が言いたいのはつまりはそう言う話なのだろう。しかし……
ふと、そこでアスナは疑問を持った、しかし、あのリョウの事だ、あるいは……と、そこまで考えたところで、その疑問はくしくも、シノンの口から言葉となって出た。

「ねぇ、リョウ兄ちゃんは、初めからアスナがユウキがその……どうなるか理解してるってこと、分かってたと思う?」
「それは……」
「んー、それはアタシも思った。いつもなんでもかんでも見透かしてるような奴だし、ホントは分かってたってこともあるかもってね?でも……そうだとしたら、わざわざ本人が分かってる事、アスナに言う?それってつまり、リョウは余計なお世話だって分かってたってことになるのよ?」
そこまでするほど性格のひねくれた奴じゃないと思うんだけど……と、腕組みしてリズは首を傾げる。アスナ自身も、どうにも違和感をぬぐえないでいた。今になって考えてみると、確かにあの時のリョウには普段の彼の飄々とした感じが全く感じられなかった、むしろ、それを一切抜いて、真正面からアスナに対して逃げ道の無い現実を無理矢理押し付けようとするような……そう、強いて言うならば、伝え方に器用さが足りていないような……

「……っと、あ、向こう終わったみたいよ?」
言いながら、リズがメニューウィンドウを表示する。それに合わせて、彼女は入手したオレンジの量を調べ始めた。

「こっちはオッケー、サチたちは?」
「あ、うん、私もノルマは大丈夫……」
「私もよ。けど……」
先に確認をした三人がそろって、アスナの顔を見る。まだ疑問に対する回答は出ていない。しかし……

「みんな、ありがとう。もうちょっと自分で整理して考えてみる。なんだか、まだ、リョウが本当に言いたかったことが見えてないような気がするの……」
「……ん、そっか。なら、また悩んだら言いなさいよ?」
「一緒に考える事位なら、出来るから」
「うん!」
あぁ、自分は本当に、良い友人を持った。気が滅入るばかりだったこの問題を、こんなに冷静に、じっくりと考える余裕が持てたのは紛れもなく、彼女達が自分の悩みやユウキの事を受け止めてくれたからだ。

「ありがとう、リズ、シノノン」
「なーに言ってんの。この位とーぜんよ、とーぜん」
「そうね……まぁ、友達……な、わけだし?」
あっけらかんと言うリズと、なぜかやけに恥ずかしそうに顔を少し赤らめるシノンに微笑み、最後にアスナはサチを見る。

「サチも、ありがとう。色々困らせてるよね……ごめんね?」
「……ッ」
アスナが言ったその言葉に、サチは一瞬なんとも言い表しにくい表情をした。まるで胸の奥につかえたなにかに苦しむような、息苦しそうな表情。しかしそれはほんの一瞬で、彼女は首を横に振ると、普段と比べて幾分が覇気のない微笑でアスナを見た。

「うぅん……そんなことないよ」
「…………」
一瞬見えた表情が何だったのか、正直にそれが気になりはしたものの、彼女の様子からも、どこかそれを聞かないでほしいと言われているような気がして、彼女は口をつぐんだ。

「アスナーっ!」
「あ、ユウキ!」
遠く、シリカと共に、ブドウをつまみながらやってくるユウキの声がして、彼女は手を振り返した。

────

「それじゃあ、戻ろっか!!」
「そうですね。たっぷり果物も集まって、デザートも充実です」
「ふふふ……シウネーさん、私達のパーティのデザートの準備は、まだここからなんですよ?」
ウキウキとした表情でそういったシウネーに、得意げに胸をはったシリカが言った。

「ここから、集めた果物をアスナさん達か、おいしいお菓子にしてくれるんです!」
「なんでアンタが胸張ってんのよ」
「ホント、アスナ!?」
突っ込んだリズが笑いを取るのもそこそこに、その話に真っ先に食いついたのはシリカと共に余ったブドウを食べていたユウキだった。身を乗り出すようにしてアスナに尋ねると、彼女は身を逸らし苦笑してうなづく。

「う、うん、そのつもり。まだ、お肉を取りに行った人たちが戻ってくるまでに時間があるから、その間に下ごしらえと、あと、パイ生地とか、砂糖とかを補充したいから、ユウキたちにはお使いをお願いしたいの」
「わぁぁ!!お菓子づくりかぁ!!」
興味深々といった様子で表情を華やがせるユウキの後ろで、集まった女子たちは一斉に色めき立つ。元々皆甘いのが好きなのもそうだが、特にこの世界では事カロリーの事を気にする必要が無いので、素直に喜べるというものだ。

「……それじゃあ、此処にとりあえずの必要なものを書いておくわ。足りないものがあるようなら、メッセージ送るから。お使いよろしくね?」
「分かりました!!それじゃ、行ってきまーす!」
一分ほど後、簡単に買うものと買える場所を記したメモを渡して、買い物組が空へと飛び立つ。残ったメンバーはサチとアスナ。合流すれば他のメンバーにも簡単なものを手伝ってもらうつもりだが、とりあえずは、最も時間のかかる物に取り掛かれるこの二人だ。

「じゃ、いこっか、サチ!」
「……あ、アスナ!」
飛び立とうと羽を広げたアスナの事を、不意にサチが呼び止めた。

「?どうしたの……?」
サチは、ひょっとすると今までみたどの表情よりも、真剣な、けれど、苦しそうな顔をしていた。相変わらず、言葉を選ぶように少しタメを作ると、彼女はゆっくりと話し出す。

「ごめん……私、やっぱり……アスナに、話さなきゃいけない事があるの……」
「…………リョウの事?」
察しを付けるのに、時間はかからなかった。この状況と今までの彼女の様子ならば、そうだろうと思ったのだ。予想通り、サチはコクリと一つうなづく。しかし続いた言葉は……

「アスナには、ホントはもっと前に話さなきゃって、思ってたの……」
「話すって何の事を……?」
「……私の……私が、リョウに、気を遣わせちゃった理由……多分、それが今度の事の原因だから……」
少しだけ、予想の範疇の外になる言葉だった。

「私の……昔話なの」
「……サチの?」
その時唐突に、アスナは思う事になる。自分は案外、この大切な友人たちの事を、それほどよく知っているというわけではないのかもしれない、と。
 
 

 
後書き
はい、いかがだったでしょうか。

人間、どんなに付き合いが長くても、他人の事を完全に理解できるなんてことはまぁ、ありません。と言うより、自分の事すらよくわからないことばかりな昨今、それを理解するためには、他人の事も自分の事も、よく考えて分析してみるしかない、そんな回でした。

大まかにリョウとアスナ双方に分かれて書きましたが、全体的に、中心となっているのは「リョウが何を考えているか」という部分。自分自身の視点、他人の視点双方からの印象で、彼が考えていることを探っていきます。

登場人物の心情を探るのは本を読むときの醍醐味の一つですが、今回の場合、少し意地悪で、出す情報を絞っているので、どちらかというと、読者の方にとっての見え方はアスナのそれに近いかもしれませんw

なのでまだ「パズルのピースが足りない」状態の皆さんが、次回で少しは合点がいくように頑張ろうと思いますw

ではっ! 
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