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Re:ゼロから始まる異世界生活

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二日目 馬鈴薯の嵐、巻き起こる旋風

 
前書き
前回の続きです。うん、久々の投稿ですん。
読んでくれると嬉しいどん! 

 
せっせっせっと。
 運べど運べど終わらない。
 余計な事を考えず、ただただ料理を運ぶ簡単なお仕事です。
 だが、運ぶ量はとてつもない。
 行って帰って。
 行って帰ってを繰り返す。
 厨房→豪華な客室→厨房……。
 これを幾度となく繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し────あれ?
 俺、今何やってるのる?
 と錯覚するくらい絶賛お仕事中です。
 流石のラムも息を切らしている。
 レムなんて「ハァァァァッ!!」なんて雄叫びを挙げながら馬鈴薯を調理してたからな。
 扉は常時、開いている。
 料理を持ち運びする時、邪魔になるからだ。
 俺がささっと空になった皿を片付け、ラムがせせっと料理を置いていく。
 
 「う~ん、美味しいです♪」
 
 幸せそうな顔だなおい。
 それほどレムの作った馬鈴薯料理が美味しいのだろう。
 うん、それは嬉しい事だ。
 でも、お仕事してる使用人の事も考えてほしいな?
 
 「おかわ────」
 
 言わせない。
 おかわりなんて言わせない。
 言い終える前に準備する、場を整える。
 職人じみた動きだ。
 なんの職人かはご愛嬌。
 ただ、この光景を見れば俺達の動きは職人!?……なんの職人か解らないけど職人みたいな動きしてる!
 と評価されるだろう。
 そして俺は全速力で走り出す。
 向かうは厨房、作り終えた料理を一分一秒でも速く運び。
 戦況を整えなければ負ける。
 何に負けるの?
 と言われたらどう返せばいいのか分かんねぇけど。
 とりあえず負けだ、負けになるんだ。
 自然といつの間にか出来ていた定義。
 笑顔でレムの作った料理を平らげている雷祈が「おかわり」の単語を言い終える前におかわりの料理をテーブルに並び終えれば俺達の勝ち。
 だから何の勝負なの!?
 って聞かれても困る。
 これはやってる本人達にしか味わえない暴食魔神と使用人のガチンコ勝負なんだから。
 この勝負に明確な勝利はない。
 それは敗北も同義だ。
 勝っても負けても得られる物は何もない。
 この勝負自体なんで始まったのかすら俺達は理解していない。
 ただ、俺達使用人は。
 雷祈の口から「うぅ……もぉ、お腹いっぱいですぅ」と言わせたいだけなのだ。
 その為だけに俺は、『俺達』は戦っている。
 まぁ、実際そう思ってるのはナツキ スバルだけなんだが。
 勘違いは時に強い団結力を生む。
 その力は計り知れず、普段のスバルでは出しえない力を発揮していた。
 勘違い乙とはまさにこの事だろう。
 思い込み、勘違いだけでこれだけ本気になれるんだ。これはもう才能と言っていい。
 
 「レム、次の料理を!」
 
 「ス、スバル……君」
 
 緊急事態発生。
 レムが口を開く前に俺は危機を察知してしまった。
 
 「……まさか」
 
 「はい、材料が底を尽きてしまいました」
 
 思考停止。
 昨日、レムがあんだけ頑張って仕込みしてたのにそれを全部アイツは食っちまった────?
 
 「嘘だろ……アイツどんだけ食ったんだよ」
 
 「この屋敷で貯蔵されていた分の食料と村からの調達を合わせて。
 ざっと計算すると四年と三ヶ月分ですね……あ、これはスバル君の一日に摂取するカロリーを基準に計算しました」
 
 「どんだけ食ってんだ!?
 てか、カロリーって……」
 
 「以前、スバル君から教えて貰った言葉です。
 使い方……間違っていたでしょうか?」
 
 「いや、間違ってない。
 寧ろここでは適切な言葉だったと思う」
 
 レムが俺の元居た世界の言葉を使ったのには驚きを隠せなかったが、今はそれより上の驚きを対処しなければならない。
 
 「さて、どうする」
 
 おかわりは絶たれた。
 今から村まで走って食材調達『馬鈴薯のみ』に行っても雷祈の「おかわりですぅ♪」には間に合わない……。
 いや、そもそも村の馬鈴薯はあるだけ貰って来たんだった。
 どの道、GAME OVERかよ。
 ────ぐっと何かが重くのしかかってきた。
 疲れがピークなのだろう。
 昨日の馬鈴薯の皮むき地獄がお遊びに感じられるほど動いたからな……。
 
 「スバル、大丈夫ですか?」
 
 「んっ。
 あぁ、なんのなんのこのくらい」
 
 弱ってる所なんて見せられない。
 なんとか虚勢の偽りの元気を見せつけ。
 
 「雷祈におかわりは無理って伝えてくる。レムも疲れたろ洗い物は俺がするから休んでてくれ」
 
 「でも、スバル君……」
 
 「いいからいいから。
 昨日からあんだけ頑張ったんだ。流石のレムも疲れたろ?
 俺はまだまだ元気だから少しは手伝わせてくれ」
 
 そう言って厨房を出るとそこにはラムが立っていた。
 
 「あ、ラム。
 悪ぃ……もう、食材が底を尽きたからおかわりは無理だってさ」
 
 「ふんっ」
 
 あれ、まだ怒っていらっしゃる?
 あんだけナイスなコンビネーションしてまだ怒ってる?
 
 「レム、雷祈様から言伝よ。
 ご馳走様でした。とても美味しかったです、だそうよ」
 
 「え?」
 
 ……ご馳走様?
 って事はお腹一杯って事だよな?
 
 「良かった……私の料理、全部、食べてくれたんだ」
 
 それはとても小さなレムの声だった。
 その表情は微笑んでおり。
 ────涙を零していた。
 
 「泣くほど嬉しかったのか?」
 
 俺にはその涙の意味が解らなかった。
 出した料理を全部食べて貰えた。
 作った側、調理した側からすれば嬉しい事だろう。
 だが、泣くほど喜ばしい事とは思えなかった。
 
 「はい……とても。
 とても嬉しいです」
 
 ────解らない。
 謎は深まるばかりだ。
 あの女の子は何者なのだろう?
 ロズっちの友人の娘ってこと以外は何も解っていない。
 ラムの言葉を思い出す。
 午後になれば分かるわよ。
 さっきまで忙しくて聞けなかったけど今なら聞いてもいいよな。
 
 「なぁ、ラム」
 
 「ふんっだ」
 
 可愛らしい怒り方だ。
 どうやら先程よりは機嫌はいいらしい。
 さっきまで話し掛けても無視だからな。話し掛けて反応してくれるだけ随分マシになった。
 
 「午後になれば分かってるって言ってたじゃん?
 そろそろ教えてくれても……」
 
 「え、お姉様。
 まだスバル君に伝えて無かったのですか?」
 
 「そうなんだよ。
 なんかさっきまで機嫌悪くてな口すら聞いてくれなかったんだ」
 
 ホント困ったよ。
 何が悪いって俺が悪いらしいけど俺は何をしたのか解らないってのが一番の難問だ。
 俺はラムに対して怒らせる事をしました。さて、なんでしょう?
 ラムはその答えを知っているだろうけど俺には解らないよ。
 
 「レム。
 ちょっとこっちに」
 
 ひょいひょいっとラムはレムを誘う。それに釣られレムは「なんでしょう」とレムはラムの元まで近付くと。
 
 「ゴニョゴニョ。
 ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョ」
 
 ラムはレムの耳に手を当てこしょこしょ話を始めた。
 
 「フムフム」
 
 「で、」
 
 「なるほどなるほど」
 
 「そういう事よ」
 
 「解りました……。
 スバル君、すみません。
 私、今回はお姉様を味方します」
 
 「はい?」
 
 「そういう事よ」
 
 「いや、どういう事!?」
 
 全く理解出来ないんですけど?
 
 「ごめんなさい、スバル君。
 私は解っています。スバル君が悪気があってそんな事をしたなんてありえませんから」
 
 「お、おう。なんかありがと……って違う! 」
 
 どういうこっちゃ?
 俺が悪気があってそんな事……?
 言葉からするに俺は悪気はないけど悪い事をしたって事は理解したけど。
 思い返す、ラムの態度が変わった時点、ラムが怒り始めたと感じ始めた頃を。
 ────やっぱり、駄目だ。
 思い返しても結論は出ない。
 やっぱり俺には悪い事をした、という認識が無かった。
 いや、別に善悪の区別が解らない人間じゃないぞ俺。
 本当に解らないのだ。
 俺が俺自身が悪い事をしたって事が。
 怒ってる本人に聞ければ……もしかしたら納得のいく答えが得られるかも知れないけど。
 当の本人は────。
 
 「おお、そのゴミを見るような目を止めろ」
 
 「別に、バルスをゴミだなんて思ってないわ。害虫くらいにしか思ってないわ」
 
 「おいおいもっと酷でぇじゃん!?」
 
 「生きているのだからマシじゃないかしら」
 
 害虫とゴミを比べても対して変わらない評価……寧ろ、ゴミ扱いされてる方が俺の硝子のハートにダメージが。
 
 「はぁ、もぉいいよ。
 ゴミでも害虫でもさ。やっと口聞いてくれたら」
 
 「ゴミ蟲が私に話し掛けないでくれる?」
 
 「前言撤回!
 コイツは悪魔だ、ピンクの悪魔だッ!」
 
 「失礼なゴミ蟲ね、そんな虫にはお仕置きよ」
 
 ラムは手の平に氷の結晶帯を出現させ────って……あれ?
 
 「あれ、ラムって氷の魔法使えたの?
 いや、それよりも……なんか小さくね?」
 
 手の平サイズのお手軽サイズ。
 ちっちゃ……雪玉のゴツゴツVerかよ。
 
 「────やっぱり、今は無理か」
 
 ……そう言えばラムの奴、魔法がどうちゃらこうちゃら言ってたような。
 確か、詳しくは知らないけど魔法が使えないようだ。
 本来なら一一人程(調整すれば更に大きくする事も小さくする事も可能)の大きさの氷の塊。
 今、ラムの手元で浮いている氷の結晶はレムのに比べると一回りも二間回り小さく……攻撃に使うとしても防御に使うにしても心許ない。
 だが、一応形を成している。
 魔法は一応使える様になった。
 
 「レム、食後のお茶の準備は出来てる?」
 
 「はい、ここに一式揃えてあります」
 
 ズラーッと並べられた茶葉の入った容器にこの屋敷でも一二を争うティーカップ達。
 こ、これはほ、本気を感じるぜ!
 
 「これってラムのお気に入りの高級茶葉……普通のお客様用の茶葉が見当たらないのは俺の目の錯覚かな?」
 
 「もしあったなら貴方の目は節穴ね。まぁ、仮にあったとしたら処分するけど」
 
 「なんでさ!?」
 
 「あのお方に相応しくない茶葉なんて必要ないわ」
 
 なんか言ってる事、無茶苦茶なんだけど……。
 あの雷祈を慕ってる────いや、違うなこれは崇拝してるレベルだな……。
 やっぱり気になる。
 雷祈は何者なんだ?
 ロズっちの友人の娘……それとレムとラムの異常な行動と反応。
 昨日からラムとレムの行動は奇妙だった。
 料理の仕込みに張り切り過ぎたレム……まぁ、そのお陰で雷祈の胃袋を満たせたからこれはOKなんだけど。
 ラムの場合は本当に奇妙で────仕事をサボらなかった……。
 今、思い返せばそうだ。
 サボり魔のラムが真面目に仕事をしていた。最初は明日は雨かなぁーって思ってたけど……いや、今現在、雨降ってるから本当にそうだったんだけど。ラムの野郎……サボらず、仕事してたんだ。
 破壊工作の間違いだったか。
 それでも昨日の惨劇はラムなりの配慮だったのだろう。
 まぁ、それのせいで昨日は余計に疲れたんだけどな。
 
 「じゃあ、私とレムで雷祈様にお茶を淹れてくるわ。バルスは後片付けしてて」
 
 「おう、任された」
 
 もともと俺がやろうと思ってたしな。
 量は凄いけど、レムの働きに比べればなんのなんの。
 ジャージの裾を捲り。
 いざ、始めようと積み重なったお皿の山に手を指し伸ばそうとすると。
 
 「お姉様、私はスバル君を手伝ってもよろしいですか?」
 
 「……え?」
 
 それは間抜けたラムの声だった。
 
 「この量は如何にお仕事熱心のスバル君でも流石に多過ぎます。
 このお皿のお山の片付けは私も手伝います」
 
 「……バルスならこの程度、問題ないはずよ」
 
 「お姉様」
 
 普段通りの姉妹の会話。
 するとラムは「はぁ……」と溜息を付き。
 
 「解ったわレム。
 じゃあここはバルスとレムに任せるわ」
 
 「はい、お姉様」
 
 そう言ってラムはティーカップと高級茶葉の載ったトレーを持って行った。
 ────さっきのラムの顔……。
 怒ってるようには見えなかったけど驚いていた様な。
 
 「じゃあ、始めましょうかスバル君」
 
 「あ、あぁ……」
 
 結局、ラムのお怒りの真意も意味も解らず。目の前に並べられた皿の山を片付ける。
 その量は途方もなく。
 先程の『おかわり』に比べればこんなの屁の河童なんだが……余り気は乗らなかった。
 ────────。
 特に難なく時間は過ぎてゆく。
 本来なら俺一人でやろうと思っていた後片付けは万能妹レムさんのお陰でテンポよく進み、残るは洗い終えた食器を乾かし片付けるだけになってしまった。
 本来なら魔法、或いは魔力を使って動く食洗機の様な物で乾かすのだが。
 今は大気のマナが不安定らしく使うのは不可能らしい。
 そこら辺の事は無知なので詳しくは知らはいけど……なるほど、だからラムは魔法が使えなかったのか。
 いや、使えないというよりも使いづらいの方が正しい。あの時、ラムの手元には魔法で作られた氷の結晶(無茶苦茶小さい氷の塊)が浮遊していた。
 あの時、俺をお仕置きしようとして魔法を使ってたけど大気のマナの流れが不安定な状態にあり、魔法は発動したけど不完全な状態で効果を発揮したって所だろう。
 なんでもレムとラムが使う魔法は『外界』この世界で生成される『マナ』に形を与え、それを術者の体内、魂の力『オド』で固定する事により現界で形を形成する様だ。
 異世界事情もややこしいな。
 なんて思いながら俺は椅子に座る。
 
 「ふぅー。疲れた~」
 
 「お疲れ様です、スバル君」
 
 「なんのなんのレムさんに比べれば俺の疲労なんて燕の涙ってね。
 他にやる事はないか?
 あれば俺がするけど?」
 
 「今の所は大丈夫です。
 それにしてもスバル君、今日はいつになく張り切ってますね」
 
 いや、それ君が言う?
 
 「それはこっちの台詞だよ。
 なんだって昨日からそんな張り切ってんだよレム?
 いや、これは馬鹿姉様にも言える事か」
 
 先日からのレムとラムの働きっぷりは異常だった。
 ラムは……まぁ、それなりに。
 普段より働いてたな。
 普段から働き者のレムは何時も以上に普段以上に仕事に専念していた。
 
 「昨日からおかしい……。
 いや、おかしいっては変か……その、なんだ────」
 
 上手く言葉に出来ず、息詰まる。
 
 「そんな事ありませんよ。
 お姉様も私も普段通りです」
 
 「普段通りって。
 普段以上に頑張ってじゃん」
 
 やっぱり、変だ。
 何が変かと聞かれると言葉にできない。
 だが、何が変なのか俺には解らない。
 
 「その……なんだ。
 話せる事なら教えてくれないか?」
 
 ────なんで昨日からそんなに『そよそよ』しているんだ?
 昨日から二人は『そわそわ』していた。
 例えるなら……そう。
 明日は待ちに待った遠足の日。
 明日の準備をしないと、今日は早めに寝て明日に備えねば!
 って感じだった。
 レムはちょっと恥ずかしそうな表情を見せ────。
 
 「そ、そんな大した話ではありませんよ?
 こ、これは私達の問題ですから。
 でも、スバル君なら話してもいいですよ」
 
 そんな事言われるとこっちまで恥ずかしくなるんですけど……。
 ふぅ、と一度深呼吸し。
 俺はラムの秘蔵コレクションの茶葉の入った容器を取り出す。
 それと茶菓子っと。
 ……うーん、茶菓子になりそうなのはないな。
 なら作ろう。
 フライパンと今朝、村から貰ってきた卵を取り出し、小麦粉とバターに蜂蜜っと。
 隠し味にこの前、拾ってきた薬草も加えてみよう。
 
 「あ、あのスバル君?」
 
 「話すなら座ってゆっくり話そうぜ。昨日から働き詰めなんだからさ」
 
 「私も手伝います」
 
 「いいよいいよ。
 別に1人で出来るし、それにレムばっかりに料理させるのもな」
 
 「私は好きでやってるので……」

 「まぁまぁ。
 今回は俺一人で作らせてくれ。
 ずっと働きぱっなしの美少女は座って待っててくれよ」
 
 「び、美少女……!?」
 
 「そうそう、美少女様は休んでてくれー」
 
 顔面赤面のレム様はようやく折れてくれたのか椅子に座ってくれた。
 だが、視線を感じる。
 いや、別に見られてるから気が散るって事はないよ?
 でも、ずっと後ろ姿を見られながら料理するって恥ずかしいな。
 
 「よっ。はっ、せう」
 
 ふふふっ。
 俺の料理スキルもなかなかのもんだぜ。こっちに来てからは料理する機会はあんま無かったけど衰えてないな。
 自身の腕『料理の腕前』を再確認し、焼き上がったパンケーキを皿に載せる。
 
 「ほらよ、一丁上がりっと」
 
 イイ焼き加減だ。
 モンハンなら「上手に焼けましたー」コールを貰えるレベルだぜ。
 
 「先に食べててくれ。
 俺は自分のを焼くから」
 
 「いえ、スバル君の分が焼き終えるまで待ちま────グゥーっ」
 
 それはとても可愛らしい腹の音だった。
 カァーッと先程より更に真っ赤な顔のレムはアタフタワタフタと自分のお腹に手を当て。
 
 「こ、これはその……」
 
 「腹、減ってるんだろ?」
 
 「…………はい」
 
 「正直でよろしい。
 あ、蜂蜜はお好みで。焼く前のパンケーキの生地に少量だけど蜂蜜を練り込んでるからそのままでもいけるけど足りなかったら足してくれ」
 
 「………………はい」
 
 あ、フォークとナイフ出してなかった。
 サッと棚からフォーク&ナイフを二本ずつ取り出し一本をレムに差し出す。
 
 「出来立てだから気を付けてな」
 
 「はい、ありがとうございます」
 
 笑顔でフォークとナイフを受け取るレム。
 そしてナイフで一口サイズに切り分けフォークで一口サイズに切り分けたパンケーキを一口。
 
 「どうだ?
 美味いか?」
 
 「はい、とても美味しいです!」
 
 「そりゃ良かった。
 おかわりが欲しかったかっら言ってくれよな」
 
 はむっとまた一口。
 レムはとても美味しそうに食べてくれていた。
 さて、早く俺の分も焼き上げないと。
 あ、自分の焼くついでにあと数枚焼いておこうか。
 高級茶葉をパッパッとティーカップに容れてパンケーキを焼くと同時に沸かしておいたお湯を注げば完成。
 うん、いい香りだ。
 流石、高級茶葉だけの事はある。
 ……後でラムに少し使わせてもらったごめんね(笑)って誤っておこう。
 
 「よし、これでOKっと」
 
 いい感じに焼けたパンケーキを皿に置き、残りのパンケーキは別の皿に分けておく。おかわり用も焼いたしこれで問題ないだろ。
 
 「まずは俺も一服」
 
 自分で焼いたパンケーキを一口。
 ……流石、ナツキ スバルだ。
 自分で言うのも何だけど俺って料理の才能あるね、これは隠し切れない俺のアピールポイントだわ。
 
 「急拵えのお茶請けにしちゃ上出来だ。紅茶も……うぇっ。
 やっぱり葉っぱの味しかしない」
 
 この香りは好きなんだけどな。
 味はどうしても慣れない。
 何度、飲んでも葉っぱの味しないんだから俺の味覚にも困ったもんだぜ。
 ここにきて結構、飲んでるけど(安物が大半)どれも苦手だったからな。
 お茶に関しては元居た世界の方が断然旨い。
 まぁ、結局所慣れなのかも知れない。
 
 「よし、準備は整った。
 お茶会を始めるとするぜ」
 
 「はい、スバル君」
 
 ニコやかな笑顔で頷くレム。
 何度見ても思うけど可愛い過ぎだろ。
 
 「ゴホンっ。
 まず、『ライキ』について聞かせてくれ」
 
 そして俺とレムのお茶会は始まった。
 
 「……雷祈様。
 あの方は神の巫女です」
 
 「神の……巫女?
 そう言えばラムもそんな事を言ってたような……確か、神になる前のなんとか」
 
 「そこまではお姉様から説明されたのですね」
 
 「いや、アレを説明と言うのはちょっと。ラムは端折って話してきたから全然解んねぇんだ。余計に混乱するぜ、神の巫女やら、姫様やら」
 
 今の所、解ったのは神関連って事だ。
 ホントこの世界はなんでもありだな。神様もこの世界じゃあ本当に実在する人物なのかね?
 
 「で、神の巫女ってなんなんだ?」
 
 「名の通りです、あの方は雷神の一族『雷鬼』の末裔です」
 
 「らいき?」
 
 「雷と鬼を合わせてライキです」
 
 雷鬼でライキって読むのか。
 ────うん、待てよ?
 
 「らいきって鬼なのか?」
 
 「はい、厳密に言えば鬼の亜種。
 人を超えた人の形をした『神様』です」
 
 ……尽きぬ疑問で頭一杯なんだけど。『雷鬼』は鬼の一族でその亜種って事は何となく理解した。
 
 「って事はレムとラムの親戚って事?」
 
 「鬼の分類で言うなればそうなりますね……と言っても私達『森の王』に比べると天と地の差がありますけど」
 
 ────森の王。
 亜人種の中でも最上位『鬼族』の種族特性。
 強靭な肉体、マナを従える『角』を持つうんたらかんたら……で。
 簡単に説明するなら鬼は怪物級の戦闘力の持ち主って事だ。
 人の形をした人ならざる魔人。
 そんな一族の生き残りがレムとラムである。
 
 「雷鬼ってそんなに強いのか……レムとラム以上って想像出来ねぇ」
 
 「あの方は特別ですから。
 そうですね、雷祈様の実力を例えるなら『龍』でしょうか」
 
 「龍……?
 それってルグニカ王国と盟約で契約してる、あの龍じゃないよね?」
 
 「そうです。
 あの方は神龍ボルカニカと同等の力を有しています」
 
 ……想像を絶する。
 なるほどだから雷鬼はラムとレムに崇められているのか。
 そりゃ神様レベルだよ。
 一応、ある程度納得した。
 鬼の一族の生き残りであるラムとレム。そして鬼の一族の親戚『雷鬼』
 あの龍と同等の力を持ってるんだ、そりゃ神様扱いされる筈だ。
 
 「ははぁん。
 レムとラムが雷鬼を崇めてる理由は解った」
 
 だからレムとラムは昨日から張り切ってんだな。
 自分の尊敬する、自分の憧れた人が屋敷にやって来る。それは緊張するし、接する態度もキョドる筈だ。
 だか、それにしても神経質過ぎる気がするんだが。
 
 「特に姉様は雷祈様の事を慕ってますから昨日は大変だったでしょうスバル君」
 
 「それな、昨日から振り回されて無茶苦茶疲れたよ。まぁ、俺は疲労よりレムとラムの挙動不審な行動の方が気になってたけど」
 
 「わ、私……そんなに変でしたか?」
 
 「見てる側からすればな。
 永遠と馬鈴薯を調理してる後ろ姿なんかヤバかった」
 
 とても楽しそうに愉しそうに馬鈴薯を切ってり、茹でてり、煮たり、焼いたりとそれを繰り返すレムの姿は本人の前では恥ずかしくて言えないけど綺麗だった。
 あんな一生懸命に料理してる姿は初めて見た。
 ……あれ、もしかしたら俺って妬いてるのかも知れない。
 
 「あれ、お茶……もう無くなったのか」
 
 そんな飲んだつもりはないけどティーカップの中身は空だった。
 
 「私が淹れましょうか?」
 
 「お、じゃあ頼む」
 
 レムは笑顔で「はい」と頷き席を立った。
 ううーんと身体を伸ばし座りながらできるストレッチで身体をほぐす。
 もう少しゆっくりしたらラムにちゃんと誤りに行こう。レムから詳しい事情は聞けたから今なら許してくれるだろう。
 その前にもう少し、ほんの少し休憩……。
 朝から働き詰めで疲れた身体は全身クタクタでもっと休ませろと要求してくる。
 もう、今日は眠りたい。
 ベッドにダイヴして眠りにつきたい。
 ────えっと、あとする事ってなんだっけ?
 庭の掃除は……雨降ってるからしなくていいんだった。
 屋敷内の掃除もラムが念入りにしてたから今日はいいだろう。
 大浴場の掃除……いや、朝入った時ついでにしたじゃん。
 洗濯物もこの湿度だと当分は乾かないだろうし、する事は────。
 
 「スバル君、お茶のおかわりです」
 
 「お、おぉっ」
 
 一瞬、寝てた。
 おい、寝るな俺。
 今にでも閉じそうな瞼……そして薄らと見える注がれたお茶。
 湯気が立っていてとても熱そうだ。
 これなら目覚ましになるだろう。
 俺は眠気を覚まさせるように淹れたて熱々のお茶を一気に飲んだ!
 
 「うぉッ、熱!?」
 
 「す、スバル。
 だ、大丈夫ですか?」
 
 
 「だ、大丈夫……No problem.」
 
 舌がヒリヒリする……。
 全然大丈夫じゃないけどとりあえず大丈夫と言っておく。
 ……眠気は覚めた。
 逆に今は無茶苦茶冴えてる。
 先程の睡魔が嘘のようだ。
 
 「よし、」
 
 スッキリした脳内でこれからする事を模索する。
 掃除は終わった。
 なら、今日の晩飯だ。
 雷祈は昼食であんだけ食ったんだ生半可な量では足りないだろう。
 うんでも、あんだけ美味そうに食ってる所を見ると見てるこっちも腹が減るんだよな。
 あ、俺……今日昼飯、食ってなくね? そりゃ腹も減るわ。
 妙にパンケーキを美味しく感じたのもそのせいかも知れない。
 
 「じゃ、レムさんや。
 そろそろお仕事再開しますか」
 
 「そうですね、私は夕食の準備に取り掛かります。スバル君は?」
 
 「俺も晩飯作り手伝うぜ
 一人でやるより二人でやった方が早く終わるだろ」 
 
 だが、いや、待てよ。
 
 「あれ……そういやレムさん?
 昼飯で屋敷の食料全部使ったって言ってなかったけ?」
 
 料理する以前の問題だ。
 先立つもの無ければ料理は出来ない。
 
 「その事なら問題ありません」
 
 心配ご無用っと笑顔で。
 
 「食材はロズワール様の方で手配するとの事です。そろそろ送られてくると思うんですけど……」
 
 「おぉっ。それなら大丈夫そうだな」
 
 食料面に関しては問題なさそうだ。
 あとは何を作るかだな。
 送られてくる食材にもよるけど作る料理の目安は付けておいた方がいい。
 
 「一応リクエストでも聞きに行くか」
 
 何を作るか明確に決まらない時は食べてもらう方に聞いてみるのがベストだ。
 
 「レム、作る料理は決まってるのか?」
 
 「いえ、まだです」
 
 「なら、御本人に直接聞くのが良さげだな。なら、雷祈の所に行こうぜ」
 
 どうせ食材が届くまでは暇なんだ。
 雷祈の所に行って世間話でもするかな、ついでにラムの奴にも謝っておかねぇと。
 
 「そうですね、御本人の食べたい料理を振る舞うのも、使用人の務めですから」
 
 「いや、それは料理人の務めだと思うけど」
 
 使用人兼料理人(万能メイド)ことレムは食器棚からトレーを取り出し、高級茶葉を乗せ。
 
 「では、行きましょう」
 
 「おぉ、行くか」
 
 その頃、ラムと雷祈は────。
 
 窓の外、雨雲を眺めていた。
 雷祈の来訪によって破壊された結界は張り直されているので雨の影響は少なく、屋敷周辺の空はそれほどてもない。
 「……」
 「……」
 「……」
 「……」
 二人の会話は皆無だった。
 何を話そう……雷祈は色々と話題の種を考えるが、それを口に出せずにいて。ラムはただ、雷祈を見続けられればそれでいいと思っていた。
 ただ、時間だけが過ぎていく。
 
 「なに、あの空気……近寄りにくいんですけど」
 
 なんで二人とも無口なんだよ?
 少しは会話してくれよ、近付きにくいだろうが。
 
 「レムさん、レムさん。
 貴女ならこの状況、どうなさいます?」
 
 「そうですね、普段のスバル君みたいに「よっ」と話し掛けるのはどうでしょう」
 
 「いやはや、いやはや。
 流石にあの空気の中を普段通りのテンションで行くほど俺はコミュ力高くないぜ?」
 
 どちらかと言えば俺は根暗な方だしな。
 開いた扉の隙間から、無口なラムと空を眺めるライキを覗き見して出るタイミングを見計らってるけど、なかなかそのタイミングはやってこない。
 
 「もう少し、出方を見るとするか」
 
 「はい、スバル君」
 
 と、その時。
 
 「そのぉ、ラム……さん?」
 
 沈黙に耐え切れなくなった雷祈は少し困った表情で口を開き。
 
 「────……ぉ、お、お茶の、お代わりを、貰えます……か?」
 
 本来、言いたかった事とは違うが、勇気を振り絞ってようやく言えた第一球。
 それをラムは────。
 
 「かしこまりました。それと雷祈様」
 
 「ひゃ、ひゃっい?」
 
 「私は使用人、使用人に対してお客様が敬語を使うものではありませんよ」
 
 …………ん?
 普段のラムなら言わないセリフランキング3位に入りそうな言葉に雷祈はポカーンと唖然している。
 うわぁ、これは緊張しちゃってますね。ラムのあの態度は雷祈とどう接すればいいのか解らず、使用人モードで対応している。そして、その対応に慣れていない雷祈はどうやって言葉を返せばいいのか困っているようだ。
 さて、この状況はどうしたものか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「成程、これは興味深いね」
 
 「でしょ。だから私は飽きることなく『これ』を観察できたんだ」
 
 色彩の魔女は「まぁ、彼とはそういう契約だしね」と呟きながらお手製クッキーを一口。
 
 「でも、これはナツキ・スバルの断面を繰り返す呪いなんだよね」
 
 「あぁ、彼が真の意味で答えを見つけるまでのね」
 
 「ということは彼が答えを見つけ出せばこの世界は消えてしまうと」
 
 「そうだよ。綺麗さっぱり、何もかも消えてここは無かったことになる」
 
 「姉さんはそれでいいのかい?」
 
 「変なことを聞くね。
 それでいいに決まってるじゃないか。この世界はナツキ・スバルの断面を映し出す鏡。彼が、彼自身の意味を見出せばこの世界に意味は無くなる。なら、消えるしかないじゃないか」
 
 それに、それも彼との契約に含まれてるからね。
 
 ラードンは今を楽しんでいる。
 それが、何度繰り返された偽りの日々でも。彼女はそれを観続ける。
 彼との約束を果たすまで、ラードンは契約を果たすだろう。
 例え、何度、ナツキ・スバルが死に戻りしようと構わない。
 何時か、彼が約束を果たしてくれるまで彼女は初対面の振りをする。そして最後は彼女自身の手で、最愛の彼を殺すのだ。
 
 ────じゃあ、また会おうね。
 
 
 
 


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
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