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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第69話 道筋

 
前書き
遅くなって申し訳ありません!

いよいよ最終戦が近づいてきました
最後まで走り抜けますので頑張りますね! 

 
常盤台中学で身体計測の為特別に許可が下りているサソリは白衣を着た研究者から渡された紙に目を落としながら白い曲線を描くベンチに腰掛け、静かに考えて事をしていた。

「......」
夏の陽光がサソリの脚部に強く照りつけるが貼りつく影は濃く反映されている。
これからの茨......いや、そんな生易しい道ではないだろう。

未だにゼツの企みを暴けず、無常に過ごしている自分の力の無さを嘆いた。
更に新たな新勢力である輪廻眼を所有した者達と最強の能力を有した一方通行の身体を奪ったトビがこの先は容赦なくサソリだけでなく佐天達を襲いに来るだろう。

客観的に分析しても勝てる保証は無いに等しく万華鏡写輪眼を持っていても傀儡の術を持っていても護りきれる自信は無かった。

サソリは呼吸を早めた。
吐き気にも似た恐怖が押し寄せて、身体が硬くなり冷たくなっていく。
バラバラに引き裂かれて黒い壁面に飛び散る赤錆の血泥を想像して身を硬くした。
独りの時は痛みだけを克服すれば恐怖感は無くなり化け物クラスの人柱力に挑めた。
だが、今は違う......
オレだけの問題ではなくなる......

サソリの脳内にかつての弟子であるミサカがフラッシュバックした。
初動が遅れて呪われた身体に堕としてしまった罪の重さがのし掛かる。

怖い......
選択を間違えばまたしても大切な者を喪うのかオレは......

初めてサソリは弱気になった。敵の強大さを知り、大切な人を喪う恐怖が脳髄の奥まで染み渡り、口を覆った。
真っ青な顔をして紙をチャクラで燃やした。

「情けないな......考えただけで震えがくる......」
それだけ御坂達がサソリの心の中で深く掛け替えないのない存在になっているのを確認しながら拭い切れない不安が強くこだまする。

オレは弱くなったのか?

かつて天才傀儡造形師として名を馳せた過去を持つサソリの手は冷たくなり、自分の身体が遠くに感じた。

何が天才だ......
多くの命を奪っておきながら、いざ自分に矛先が向くとこの体たらく......

燃えていく紙の発生した空気の流れにユラユラと揺れて灰となっていく。

一部だけだが書かれていたのは
『......したら貴方の大切なものを奪います』

埃と間違うような黒い灰は掻き消えてサソリは目を閉じた。
身体がグニャグニャとなり自分の身体が自分では無いような錯覚を覚えた。
感覚が遠く鈍くなる。

するとそんなサソリの背後から黒い影が出現してキンキンに冷えたオレンジの缶ジュースをサソリの頬に付けた。
「!?」

そこには目元が隈だらけで謹慎中の木山が心配そうにサソリを見降ろしている。
考え事に集中していて気配に気づけなかった

「酷い顔をしているな......何かあったのか?」
「いや、考え事をしていただけだ」
サソリは気取られぬように歪んだ表情で俯いた。
「?そうか......」
木山はサソリにオレンジの缶ジュースを渡すと隣に座り、脚を組んで天井にある電灯を見上げた。
同じ缶ジュースを持っている。
「レベル5昇格おめでとうと言った所か」
測定員で同行していた木山はサソリの能力値を知ったが、彼と一戦交えた事がある木山は別段驚くことはしなかった。

「......木山」
「なんだい?」
サソリの弱々しい声に軽く戸惑いながらも木山はプルトップを開けて少しだけ飲んだ。
「......お前は教え子を奪われたんだったよな?」
「?ああ」
「敵対する相手が強大だと思った時にどう感じた?オレはアイツらを護りきる自信がない......」

サソリの質問の意図は掴めそうで掴めないでいた木山は僅かに見える缶ジュースを眺めながら軽く回した。
自分の身体を顧みずに血を流しながら向かってサソリ。
不利な状況をひっくり返してきた明晰な頭脳が初めて悲鳴を上げている。

あの子達を使い捨てのモルモットにしてね
23回
あの子達の恢復手段を探るため、そして事故の究明するシミュレーションを行うために......『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の使用を申請して却下された回数だ
あんな悲劇二度と繰り返させはしない
そのためなら私は何だってする
この街の全てを敵に回しても止まる訳にはいかないんだっ!!!

約1ヶ月前にサソリに語りかけた木山の魂の叫びであり、覚悟の表れであった。
木山はカチカチとプルトップを弄りながら、少しだけ思案した。

「君と私では違うと思うが......」
「!?」
「君には頼るべき仲間が居るじゃないか......私はそんな仲間が居なかった」
「......なか......ま?」
「君は私が道を踏みはずそうとしたら、傷付きながらも全力で止めた。そして私の過ちに向き合ってくれた」

木山は続けたこの1ヶ月に起きた事を思い出すようにボサボサの髪を掻き上げる。
「私は君が圧し潰されそうなら全力で助けるし、君の為なら君の業を背負う覚悟だってある」

君だって失敗するかもしれない
道をつまずきそうなら迷わず私は助ける
自分をブレさせずに現実を直視続ける君のまっすぐな生き方が私も含めて彼女らに伝わっている

「ずっと独りだった私と違ってね。彼女らも同じだと思う」

つまずきそうなら助けたくなる
全力で君は走って良い......

サソリの眼は写輪眼になっていた。
何故か自分の眼に張り付いていた呪われた眼。

はっきりとは分からないが......『眼』をこらして見ようとすると何かが溢れてくる。

独りじゃない......か

サソリは覚悟を決めて万華鏡を作り上げて美しく整った校舎を見渡した。
そして、木山にいつもの調子で言った。

「まだあの取引は生きているからな」
「っ!」

その様子を扇子を音も立てずに畳み、困惑したような表情を浮かべている婚后が曲がり角で身を隠しながら図らずも盗み聴きをしてしまった。

******

水泳部の部活でクロールの練習をしている湾内。
能力を使い身体についてくる水を操り、障壁となる水着との摩擦を最小限にしながらペースを上げていく。
常盤台に来てから毎日のように編制されている能力開発のカリキュラムをこなすことで湾内の能力は入った頃と比べても格段と上達している。

プールの端まで着くと一息入れてプールから一気に這い上がるように出るとズレた水着を直していく。
能力が使いこなせればこのようなズレも生じない。
「おつかれさま」
泡浮が湾内のタイムを記録しながら労った。
「随分上達なさいましたね」
「いえ、まだまだですわ」
水泳技能と能力の上達は本人にとってみれば喜ばしい事なのだが何処か寂しげで不満げに水泳キャップを外した。
固まっていた髪が解放されてややオールバックになっている。

「はぁ、サソリさんとどのように進展させたら宜しいですの」
恋多き乙女の悩みは尽きない。
「ら、ライバルが多そうですわね」
「こんな程度でサソリさん事に関しては負けませんわ!」
グッと拳を握りしめるが不安感が取れないのか少しだけ落ち込む。

口が達者でもなければ、悩殺出来るようなボディでもないホニャララな体型に自信を消失して足先だけで立つような体育座りをしていく。
「げ、元気を出してくださいな!まだチャンスがありますわ」
泡浮が慌て身振りで元気を出させようとしていると

「あー、ちょっと良いかしら?」
水泳部の先輩が湾内と泡浮に向かって手を振りながら近づいてきた。
手には何やら説明書のような物を持っている。
「はい?」
「......はい?」
「大丈夫?調子悪いですの?」
「いえ、大丈夫ですわ」
今にも魂が抜けてしまいそうに脱力している湾内に先輩が心配そうに覗き込んだ。
「ちょっと悩んでいまして......どうかなさいましたか?」
泡浮が簡単に説明すると先輩は少し困ったように頬を掻いて説明書を読んでいた。

「えっとね、水着のスポンサーから新作水着のプロモーションを取りたいらしいのですが、湾内さん達なら丁度良いと思いましたのに」
「水着のプロモーションですの?」
「女性だけではなく男性の方のモデルも探しているらしく、湾内さんには男性の知り合いがいるらしいですから。他のご友人を誘っても宜しいですわ」

ピクピクと湾内の耳が動くと身体を震わせながらスッと立ち上がった。
「む、無理に出なくても宜しいですわよ......わたくしの方で断っ」
「やりますわぁぁー!!」
間髪入れずにこの日一番の湾内の張りのある声が響き渡り先輩のみならずその場に居た全員が何事かと嵐を呼ぶ一年生に怪訝そうな顔を浮かべた。

え?
何事ですの!?

ヒソヒソと話し声が聴こえて来て泡浮が気まずそうに周囲をキョロキョロしているが、湾内は恋は盲目とは言わんばかりに熱心に見せられている説明書と先輩の話を聞いていると、突風が吹いてプロモーションの説明書が風に飛ばされてプールの水の上に着水した。

「「あ!」」
「サソリさんとの思い出ー!」
湾内は人目を憚らずに足を踏み切ると幅跳びをするかのようにプールに足から飛び込んだ。
訓練を受けた飛び込みではないため間欠泉のように水柱が上がる。
「こ、コラー!ちゃんとキャップを被りなさいですわー」

******

「という訳ですの!!」
昼下がりのラウンジで御坂と白井に合流した湾内が興奮したように濡れて脆くなった紙を自慢げに渡した。
「うわぁ......見事にびっしゃびしゃね」
渡された紙を指先で潔癖症のように摘みながら御坂が苦笑いを浮かべた。
文字は滲んでいて判読するには骨が折れそうだ。

「それで行きますの?」
「はい!もちろんですわ」
ニコニコとしている湾内にやれやれと言わんばかりに白井は複雑そうな顔をした。

「どうやって誘うんですの?」
「わたくしと水着のモデルになりましょう......ですわ」
「はぁ......それでサソリが来るとは到底思えませんわね」
白井が否定的な言葉を呟いた。
「同感ね。いつも何考えているか分からないけどこればっかりは」
「そ、そうですの!?」
「全く......サソリの事を知っているようで知らないんですのね」
「??」
首を傾げる湾内。

ったく
そんなんでホイホイ付いて来ましたらどれだけ楽になりますの

白井もなかなかサソリとの仲が進展しない事に軽く苛立ちと焦りを持っていた。

「ではどのようにすれば宜しいですの?」
困ったように泡浮が御坂達に質問をした。
「うーん、そこよね......湾内さんと二人っきりだと抵抗あるみたいだし」

湾内と聴くだけで苦手意識があるみたく、少しだけ逃げるからから......
あ!しまった......

「て、抵抗ですの!?サソリさんが!?」
驚愕の事実を知ったかのように口を開けて目を見開き、お嬢様とは到底しないような反応をして少しだけ涙ぐんだ。

「ああぁー違う違う!二人っきりだとサソリも照れるっからって話よ」
濡れた紙をテーブルに置きながら手をブンブンに振り回して慌て否定する御坂。
「そうですの!」
一気にほんわかした表情になる湾内に妙な気遣いをしなければならない御坂はまるで自分が悪役になったように胃のキリキリ感を覚えた。

座っている椅子を逆に座り背中側を湾内達に見せながらお腹を抑える。
白井が耳打ちをするようにやってきてヒソヒソと話しをする。
「いっそ話した方が楽ではありませんの?」
「で......出来る訳ないでしょ!」

すると頭を抱えている御坂達の目の前に黒い外套を着たフウエイが「?」と首を角度を急激にしながら見上げている。
「あひゃ!?フウエイちゃん!」
「どうしましたの!」
「ママ達元気ないね~。だいぞうぶ?」
やや舌ったらずの声で質問してきたので幾分か癒された。

「湾内さんに御坂様?」
常盤台のラウンジに神妙な面持ちの婚后が重い足取りで近づいてきた。
「あら、婚后さん」
「......ご機嫌ようですわ」
「元気と高飛車がウリの貴女がどうかなさいましたの?」
「......その......あの方の事を聞きたいのですの」
「あの方?」
「はい、サソリさんについてですわ......あの方は一体どういう方ですの?」

木山との話を聴いてしまった婚后に取っては気にならないはずのない情報だった。
「まあ、婚后さんは最近会ったばかりだからね。簡単に言うとここに居る全員はサソリに助けられたのよ」
「助けられた......!?」

「そうですの!素行の宜しくない方からわたくしを守ってくださいましたわ」
「あら私もですわよ!貴女よりも前にですわ」
「時系列は関係ありませんわ」
言い争う湾内と白井、そしてサソリの事が話題に上がると何処か誇らしげになる御坂達に羨ましさを婚后は感じた。

「あのどのような幼少を?」
「サソリの?」
「はい......」
「んー、あたし達も詳しく知らないのよねぇ。でも両親はどちらも亡くなっているのは聞いたわよ」
「亡くなった!?本当ですの!?」
「ええ」
興奮してテーブルに手をついて前のめりに聴き込む。
「!?......その後は転々としてたみたいである組織に所属していたみたいだし」
驚きながらも説明をする御坂だが、御坂達もサソリの奥底まで知らない事を強調されていく。

助けて貰ってばかりでサソリの事をあまり知らない......

決して恵まれた環境ではない事は容易に想像がつく。
「?」
サソリが助けたかつての弟子のミサカ人形の頭を撫でる。
「どうしましたの?サソリの事を急に訊きまして」
「そ、それは......」

先ほどの会話を思い出して、婚后は迷った。
話や言動を聴く限りでは尊敬に値する人物であり、御坂達に慕われている彼の知られざる一面を知ってしまい頭をもたげて苦悩した。

言うべきなのか?
言わない方が良いのか?

「婚后さん、サソリさんに関する事ですの?」
泡浮が真剣な目付きで質問した。
「......はい、しかしプライバシーに関する事かと」
「!あたし達に話せる範囲で良いから聞かせてくれるかしら」
「は、はい」
泡浮が持ってきた椅子に腰掛けて婚后は指と指を弄りながらゆっくりと皆の反応を伺いながら話し始めていく。

「あの......さきほど聴いてしまったのですが......サソリ様が震えていましたの」

背後から見たサソリの姿は小さな子供のように怯えているような感じだった。

「「「「!!?」」」」
「ど、どういう事かしら!?」
「その......詳しく聞いてないのですが......圧し潰されそうだと......守りきれないだとかですわ」
婚后の言葉に御坂達の表情が強張った気がした。
「っ!!?」
御坂は静電気よりも強力な電撃を反射的に頭から迸らせ、テーブルを叩いて立ち上がった。
「み、御坂様」
「何処?」
「はい?」
「サソリは何処に居たの?!」
「い、一階の休憩所ですわ」
凄まじい剣幕に婚后は押されながらも絞り出すように答えた。

白井や湾内達も察したように立ち上がると焔を宿した瞳でランチの後片付けをし始める。
「湾内さんごめんね。その水着モデルにあたし達も行って良いかしら?」
「はい!もちろん」
「ありがとう。黒子悪いけど初春さんと連絡取ってみんなを集めてくれる?」
「分かりましたわ」
白井が携帯を取り出して初春と連絡を取り始めるのを確認すると御坂はフウエイの手を優しく掴んだ。

「フウエイちゃん。パパの事好き?」
「?うん!大好きー」
「そう、じゃあ迎えに行こっか」
フウエイの満面の笑みの見て御坂は静かに心を決めた。

「あ、あの......わたくし余計な事を」
「そんな事ありませんわ婚后さん。教えて頂かなかったらきっと後悔してましたし」
泡浮が優しく困惑している婚后に付き添いながらゆっくりと確かめるように歩みを進めていく。
「それにサソリさんを助けたいと思っている人はまだまだ居ると思いますわ」

柔らかな物腰ではあるがその視線は別の場所を見つめていた。
引かれるままに婚后は泡浮の真っ直ぐな背中を追いかけるように一緒に走っていく。

これが派閥というものですの!?

こんなに力強くみなさんに働き掛ける心の一致感に婚后は思わず頬が緩み、拍動が強くなっていくのを覚えた。
湧き上がるなんとも形容し難い感情が頭を揺さぶり高揚していく身体は疲れ知らずだ。
初めての仲間
初めての友達
初めての他者との繋がり

全ての人生はこの一時の瞬間に存在していたと表現してもおかしくない。

優秀な成績を修めたよりも
自分の誕生日を祝われたよりも
常盤台中学校に編入が決まった時よりも遥かに強い充足感が満ちていく
瞬きするのも惜しい 
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