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機動戦士ガンダム SEED C.E71 連合兵戦記(仮)

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第8話 廃墟の宴


「ハンス隊長から支援要請です!」
「了解!弾は…白だな」
都市内のゴミ捨て場と化した公園に配置されていた155㎜榴弾砲 ロングノーズボブの砲手 
ダン・マクガイヤー少尉は、部下の報告により、上空に撃ち上げられた信号弾を確認していた。

周囲に先程展開していたゴライアス部隊は、都市内に侵入したザフト軍を迎撃する為に出払っていた。

「ファイア!」
155㎜榴弾砲が火を噴き、砲口から噴出した衝撃波と爆炎が、周囲のゴミを瞬間的に吹き飛ばし、燃焼させた。
同時にハンスらの付近に展開していた迫撃砲部隊も支援砲撃を開始していた。
彼らは、ハンスの部隊が出撃すると同時に地下通路を利用して、ザフト部隊がいる地点の近くのビルに到着していたのである。
一部は、地下通路に侵入していたザフト軍と交戦し、全滅、後退を余儀なくされた者達もいたが、多くは、無事に予定の場所に展開していた。

「味方ごと砲撃する気か…?」一瞬ケヴィンと部下達は、地球連合軍が味方の弾着観測班ごと
自分達を集中砲撃で撃滅することを図ったのだと考えた。

だが、その予想とは裏腹に無数の砲弾は、彼らに命中する前に上空で一斉に破裂し、煙幕を噴き出した。

瞬間的にハンスのゴライアス部隊とケヴィンの率いる部隊は、白い煙幕に包まれた。


「糞!なんだこの煙は!?センサーがっ」
ケヴィンは、モニターに映し出される映像だけでなく、レーダーすら使い物にならないことに苛立った。
彼と彼の部下、そして敵部隊を包み込むように展開する牛乳を溶かした様な白い煙、その中に銀色の粉末が煌いていた。

煙幕には、チャフと同じ効果を発揮する微粒子が含まれていたのである。
この視界ゼロの中、ハンスらは、ゴライアスの肩に装備されたライトによる発光信号で連絡を取り合うことで白煙の中でも連携可能であった。
これは、NJ災害以前のレーダー等の電子兵器に頼った戦争が主流とされていた地球軍では、誰にでも簡単に行えるものではなく、ハンスと部下達の訓練の賜物であったと言える。

「そこだ!」
白煙の向こうにいるザフト歩兵目がけ、ゴライアス部隊は攻撃を開始した。
ゴライアスの14.5㎜重機関銃が歩兵を薙ぎ払い、グレネード弾が、ジンの脚部に着弾した。

重機関銃弾を浴びたザフト兵の肉体はズタズタに引き裂かれ、飛び散った鮮血が白煙を束の間、鮮やかな朱に染めた。
「くっ、どこにいる」
ケヴィンは、レーダーも目視が信頼できない為、索敵手段を熱センサーに切り替えていたが足元で、小虫の如く動き回るゴライアス数機の動きを捉えるのは容易ではなかった。
バースト射撃で撃破しようにも、味方の歩兵の生き残りが足元にいる以上それは不可能であった。

ケヴィンの僚機を務める部下のジンの背後に攻撃が命中する。


「後ろにもいるのか!?」包囲されたと考えたケヴィンは、一瞬正面の敵への警戒を薄くしていた。
その隙を突きハンスのゴライアスを敵指揮官のジンの真下まで接近した。

ハンスのゴライアスは、グレネードランチャーをケヴィンのジンの頭部に向けて発射した。
白煙の中で輝くジンのモノアイは、まるで人魂の様に不気味だった。

「アンテナが!やってくれるっ」
グレネードを受け、ケヴィンのジンの頭部の大型ブレードアンテナが砕け散った。
それは、指揮官であるケヴィンと離れて突入し、市内で地球連合軍部隊と交戦していた部下達との通信が、困難になることを意味していた。
尤もはるか前に中継役の通信車両の大半が撃破されていたが。

「こいつ!」
ケヴィンのジンが重突撃機銃を放つ。
ハンスは、即座にゴライアスを横に跳躍させて回避する。
だが、ハンスの後ろにいたゴライアスが被弾し、爆散する。 

「バークっ」
煙幕が晴れ、ハンスが、廃墟の影に身を隠したのと同時に、鉛色の雲が立ち込める上空に赤い星が生まれた。

「信号弾、ザフトのものか?」
「信号弾!今度は何処だ?」
その信号弾は、彼らと同じく都市内で戦闘しているMS部隊からでなく、安全なはずの後方に展開していた車両部隊から発射されたものであった。

「中隊長!敵の攻撃です!」
生き残っていた装甲車のクルーの報告がコックピットに響いた。

「何!一体何処から!?」
ケヴィンは、予期せぬ敵の出現に絶句した。
「やってくれたか!ディエゴ曹長!」
対するハンスは笑みを浮かべた。

「敵は姿を消す魔法でも使ったとでもいうのか?」


この時、ザフト軍に対して逆襲に出たのは、ディエゴ曹長率いるゴライアス2個小隊を主力とする機械化歩兵部隊だった。
彼らは、都市郊外へと繋がる下水道の一つから進軍してきたのであった。

まず陣地構築の際に用いられる瞬間硬化剤と瓦礫でコーティングすることで封鎖し、ザフト側の歩兵部隊が侵入できない様にした。

そして自分達が利用する際に備え、予め内部に工兵用爆薬をセットし、通路を開削できる様にしていた。
無論その際の爆発音は、ザフト側のセンサーにも感知された。

だが、近くで戦闘が行われている状況では、機械は感知しても人間の側は、問題なし、と判断してしまっていた。

「野郎ども!つっこむぞ!!」
ディエゴ曹長は、ゴライアスの右手に保持した20㎜チェーンガンを掃射した。

その攻撃は、ザフト軍のトラックの荷台に命中、直後中に搭載されていた弾薬かバッテリーが爆発し、
トラックごと周囲にいたザフト兵を吹き飛ばした。

「敵襲!」
ザフト歩兵部隊も自動小銃で反撃するが、それらの銃弾は、殆どが、地球連合歩兵部隊を殺傷する前に前衛に立つ機甲兵の着用するゴライアスの装甲に弾き返された。

逆にゴライアスの装備する火器は、20㎜チェーンガンや14.5㎜重機関銃であり、機甲歩兵や装甲車にもダメージを与えることが可能な火器であった。
満足に反撃することも出来ずザフト歩兵は、鋼鉄の驟雨を受けて引き裂かれていった。


ザフトの車両部隊の周囲にいた歩兵部隊を全滅させたゴライアス6機と連合歩兵部隊は、側面を曝すザフト車両部隊に襲い掛かった。

「敵!どこからっ!」
メイは、突如自身がいる場所が前線となったことをまだ理解しきれていなかった。

「メイ!機銃を撃て!」
車長を務める長身の白人男性、レイモンド・ホワイトの命令が狭い車内に木霊する。
同時に索敵車両の隣の地面にグレネード弾が着弾し、土砂を巻き上げる。

恐怖に体を震わせつつもメイは、索敵車両の車体上部に装備された20㎜機銃の遠隔操作用銃座に座った。
モニター上には、周囲に展開するザフト歩兵を蹴散らす、パワードスーツ ゴライアスが表示されていた。

照準をろくに見ずに、彼女はトリガーを引いた。

索敵車両が車体上面の旋回機銃を掃射した。
20㎜弾の連打を受けたゴライアスは装着者ごと蜂の巣にされ、肉片と金属片を撒き散らして爆発した。

「やっ、やった!」
次の瞬間別のゴライアスの放ったグレネード弾が索敵車両に命中、車体側面に穴をあけた。

「アルベルティっ 糞宇宙人が!」
ディエゴ曹長は、戦友が砕ける瞬間を見た。


そしてそれは彼の両足がこの大陸の大地を踏みしめて以降、何度も経験したことであった。


地球連合の機甲兵と歩兵部隊の攻撃を受けて、ザフトの装甲車両部隊は、まるで的の様に撃破されていった。
突然の予期せぬ攻撃にザフト側は、戦力差もあって効果的な反撃が出来ず、付近のザフト部隊にモビルスーツの支援を要求し、モビルスーツが到着するのを待つことしかできなかったのである。

「曹長!敵が!」
ディエゴ曹長の部下の一人が、指差す。

「ちっ」
指差した方向には、ザフトのトラックがあった。
そして荷台に搭載されたカタパルト、その上には、UAV(無人航空機)が乗せられていた。
黒い鳥の様なUAVの胴体上部に搭載された樽状の物体…ジェットエンジンの後部噴射口が、青白い炎を吹き上げているのが見えた。

UAVが発進しようとしていた。

それは、制空権を持たないこの都市の地球連合軍にとって憂慮すべき事態だった。
携帯式の対空ミサイルは、なるべくディンやげた履きのモビルスーツ用に温存しておきたかった。またNJ下では、対空火器には、命中率の問題もあった。

「行かせん!」
ゴライアスの20㎜チェーンガンがそこに浴びせられた。

UAVは、銃撃が降り注ぐ寸前でカタパルトから発進した…かに見えたが、数発の銃弾が、ジェットエンジンを貫いていた。
推進器を破壊されたUAVは、機首を地面に向けて落下し、地面に激突、爆発した。

胴体に搭載されていた燃料と爆弾が炸裂する轟音と共に、弾け飛んだ左右の翼がそれぞれベニヤ板の様に回転しながら、吹き飛んだ。


「ジンが接近してきます!」
「よし、ここまでだ!全員撤収!」
5機のゴライアスが、前方に向けてグレネードを一斉に発射した。

グレネードは地面に着弾すると同時に白い煙を撒き散らした。
煙の壁が形成され、ディエゴ以下、地球連合軍部隊の姿を追い隠した。

「貴様らよくも!」
怒りに燃えるジンのパイロットは、白い煙の向こうへと重突撃機銃を乱射した。

だが、それらの攻撃は、煙の中の地球連合軍部隊を傷つけることなく、空しく爆炎を吹き上げただけに終わった。
煙が晴れた後、そこに残されていたのは、燃え盛る装甲車両の残骸と、人形の様に転がる両軍の兵士…多くがザフト側…の遺体だけだった。

「…」
撃破された車両からはい出た若い女性のザフト兵は、眼の前に飛び込んできた凄惨な光景とそこからあふれ出る肉やプラスチック、金属が燃える異常な臭いに絶句し、茫然としていた。
今までも、実戦は何度も経験した。だがそれは、狭い車内のモニターから経験していたことであり、その全ては、自分達の勝利という結果で終るものであった…そう、これまでは…

彼女を含め、突然の襲撃を生き延びることが出来たザフト兵達は、同じ様な気分になっていた。


「くっ!連合め、今まで我々のみを攻撃し、郊外にいる部隊には手を出さなかったのは、我々の眼を誤魔化す為だったのか…」
敵のマットブラックに塗装されたパワードスーツ部隊からの攻撃を回避しながら、ケヴィンは歯噛みした。
彼のジンの後方用のモニターには、背後…郊外に立ち上る幾つもの黒煙が鈍色の空と共に鮮明に映されていた。

「中隊長!どうします!郊外の車両部隊が敵の襲撃を受けています!」
ケヴィンの僚機を務めるジンのパイロットが言う。
郊外で待機していた車両部隊は、索敵車両と歩兵部隊を中核とする部隊で、本来の作戦ではウーアマン中隊が市街地に突入し、市内の地球軍部隊に壊滅的打撃を与えた後にウーアマン中隊に代わって残敵掃討を行う予定だった。

だが、現実はケヴィンらの予測を完全に裏切り、彼らに壊滅的打撃を与えられ、この廃都を墓標に果てるはずだった地球連合軍部隊は、未だに高い戦意を持ち、十分な戦闘能力を保持して激しく抵抗していた。

そして車両部隊は、比較的安全であると判断され、最前線の間近に配置されていながら、手薄の状態に置かれていたのであった。

護衛についていたジン2機が市街地に対しての重突撃機銃による支援射撃を行うために市内に接近した瞬間に潜伏していた地球連合軍部隊の襲撃を受け壊滅的打撃を逆に蒙ることとなったのであった。

更に中隊長であるケヴィン以下、ウーアマン中隊にとっては間の悪いことにこの車両部隊には、索敵車両や歩兵部隊のみではなく、ウーアマン中隊のMSの整備、修理を行う為の前線用整備トラック、弾薬や燃料を搭載していた輸送車両、そして市内で戦闘しているウーアマン中隊と後方のカッセル軽砲小隊との連絡を行う為の指揮車までが含まれていた。

前線で迅速に整備補給を行い、連絡を密にするための策が完全に裏目に出ていた。


これらが被害を受ければ、戦い続けることすら困難になる可能性があった。

不幸中の幸いは、車両部隊を2つに分けていたことで、カッセル軽砲小隊と合流していた部隊は、カッセル隊と同様に無傷であった。
しかし、指揮車と索敵車両が撃破されたことで、索敵用ドローンの索敵範囲は、半分ほどにまで低下を余儀なくされていた。
このことにより、同士討ちを恐れたカッセル軽砲小隊は支援砲撃をやめてしまっていた。

「中隊長!ここは一度後退し、部隊を再編してから再度攻撃を駆けるべきです!」
「やむを得ん、全機後退!」

悔しげに口元を歪め、ケヴィンは、引金を引いた。
ウーアマン中隊の指揮官機のジンが、撤退信号弾を上空に撃ち上げた。

「後退信号!ここまで来て!」
20㎜機銃で歩兵部隊を支援していたある装甲車の車長は、車内で叫んだ。

「後退だって!中隊長はこの状況が分かっているのか!?」
指揮下の歩兵部隊と数両の装甲車と共に公園跡で、
地球連合軍部隊に包囲されていた赤毛の女指揮官は、外の銃声と悲鳴に負けじとばかりの大声で叫んだ。

「後退だと?」
市内に潜伏する地球連合軍部隊の挑発の様なロケット弾と迫撃砲、対物ライフル等による嫌がらせ同然の攻撃に、重突撃機銃で応戦していたジンのパイロットは、他の班の状況が分からなかったこともあり、怪訝そうに呟いた。

それぞれの兵士達の感情や事情など斟酌されることなく、ウーアマン中隊は、市内から撤退を余儀なくされた。

この混乱した状況で、全ての部隊が撤退出来たわけではなく、包囲された部隊や孤立を余儀なくされた部隊は、市内に取り残されることとなった。

「敵が退却を開始しました!」
「隊長!奴ら、逃げ出し始めましたぜ!」
「こちらアンジェリカ、敵部隊は撤退を開始した模様」

「…」
ハンスは、部下からの通信で、市内に突入した敵部隊が撤退したことを知った。最初、彼と交戦していた指揮官機のジンが率いていた部隊が後退した時点で予感はしていたが、
市内の全部隊が後退するとまでは考えていなかった。

「各部隊は、防衛ラインを再編し、敵の再攻撃に備えろ」
「「了解!」」
「指揮官殿!一部敵部隊が市内に残っていますが、どうします?」
防衛線の一つを指揮するガラント少尉が質問する。
彼の隊は、最初にザフト軍歩兵部隊と交戦した部隊で、隊の半分近くが死傷する損害を被っていた。

「敵にモビルスーツはいるか?」
「いえ、車両と歩兵部隊のみです。また一部脱出したモビルスーツパイロットを目撃したと、
ヒュセイン曹長の隊の報告がありますが、詳細は不明です」

「少数の部隊を監視に張り付けて放置しておけ。敵も奴らがいる限り、不用意には、砲撃できんし、
絶対にここにまた突っ込む必要があるんだからな」
「さて、次は何が来る…!」
通信を終えたハンスは、ザフトが次にどんな手を仕掛けてくるかを想像した。


 
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