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機動戦士ガンダム SEED C.E71 連合兵戦記(仮)

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間章 7話 地球戦線


C.E 70年4月17日 再び宇宙で大規模な戦闘が発生した。

世界樹攻略戦での被害を回復した地球連合宇宙艦隊は、プラント本国制圧の為、
月面 プトレマイオス基地より、第5艦隊、第6艦隊を進軍させた。

プラント管理下の資源衛星 ヤキン・ドゥーエ付近でザフト軍防衛艦隊と激突した。

このヤキン・ドゥーエは、C.E 55年に開発された資源衛星で、当時は、ザフト軍の補給拠点として利用されていたが、ユーラシア連邦のアルテミス要塞を初めとする宇宙要塞と異なり、本格的な武装は施されていないかった。

純粋な艦隊戦力では、世界樹攻防戦の後も、未だに地球連合側は、ザフト軍を遥かに上回っていた。
だが、機動兵力では、モビルスーツを有するザフト軍が優越していた。

更にザフト軍は、長躯補給を繰り返す必要があった地球連合側に比べ、ヤキン・ドゥーエという宇宙拠点が間近に存在していた為、兵站面でも有利であった。

この時、要塞砲を持たないヤキン・ドゥーエ守備のザフト軍の一部は、要塞砲の代わりにヤキン・ドゥーエ内に存在する物資輸送用の小型マスドライバーで隕石や金属の塊をヤキン・ドゥーエ制圧の為に接近してきた連合艦隊に撃ち込むことまでした。

この即席のレールカノンは、アガメムノン級宇宙空母 プトレマイオス級宇宙戦艦を含む10隻を撃沈した。

地球連合軍は、ヤキン・ドゥーエの宇宙ドックや採鉱施設に損害を与えたものの、ザフト軍のモビルスーツ部隊の前に戦力の半数以上を喪失し、撤退した。

この戦いの後、プラント最高評議会は、ヤキン・ドゥーエをプラント本土防衛用の宇宙要塞に転用することを決議した。

以後、宇宙要塞となったヤキン・ドゥーエは、宇宙におけるザフト最大の拠点として機能することとなる。

C.E 70年 5月2日 

この日 旧アフリカ連合領 モロッコ州 カサブランカ沖……スペイン語で「白い家」を意味するこの海域は、 人間の血と兵器のオイルで醜く染め上げられた。

アフリカ共同体が制圧しつつあったモロッコ州 カサブランカ沖で地球連合地上軍を支援すべく出撃したユーラシア連邦艦隊を主力とする地球連合軍地中海艦隊と編成されたばかりのザフト軍 ボズゴロフ級潜水空母を中核とする潜水艦隊が激突した。

この第一次カサブランカ沖海戦でザフト軍は、ようやく部隊編成できる程の数が揃った水中戦MS UMF-4A グーンを投入、未だにニュートロンジャマー下の戦場に適応できなかった地球連合艦隊は、壊滅した。

この戦闘で投入されたボズゴロフ級潜水空母は、全て軌道上で組み立てられて建造されたものでカーペンタリア沖に「竹トンボ」と呼称される特殊モジュールによって投下されたのであった。

ボズゴロフ級潜水空母と機動兵器モビルスーツの組み合わせは、神出鬼没の奇襲攻撃を可能にし、通商破壊から艦隊戦、沿岸の基地制圧戦でも活用され、潜水空母等時代錯誤の妄想である。と嘲笑っていた地球連合海軍の将官を戦慄させた。


この戦いで地中海に侵入したザフト軍は、軌道上からのモビルスーツ部隊の降下と連携し、アフリカ共同体支援の為、アフリカ北岸より侵攻を開始、同時にボズゴロフ級を中核とする艦隊による古来より地中海の入り口であったユーラシア連邦領 イベリア半島  ジブラルタルの海軍基地を制圧、ヨーロッパ侵攻を開始した。

地上でザフトの快進撃が開始された翌日の5月3日 地球連合側が第一次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の被害が、回復していない中、これを好機と見たザフト軍は、地球連合の宇宙最大の拠点が存在する月面プトレマイオス基地の攻略を目標に月面侵攻作戦を開始した。

ザフト軍は、月の裏にある、鉱山の資源枯渇によって開発が放棄されていた月のローレンツ・クレーター基地を基礎として橋頭堡となる宇宙基地を建設し、月面における最初の拠点を得た。

その結果、両軍は、グリマルディ・クレーターを境界に月を二分し、小艦隊による小競り合いを繰り返した。

境界となったクレーターに因み、この戦線は、グリマルディ戦線と呼ばれることとなる。小部隊同士の戦闘では、モビルスーツ ジンを有するザフト軍が勝利を重ねたが、対照的に宇宙基地を巡る戦闘では、大損害を受けながらも未だに大兵力を誇る地球連合軍が宇宙基地の防衛システムとの連携で善戦した。

また地球連合の商船、輸送船改造の仮設空母による補給艦や衛星軌道上補給ステーションを狙ったヒットエンドラン戦法も月面のザフト軍を苦しめた。

これは、旧式の輸送船や商船の輸送区画にモビルアーマーを搭載し、仮設電磁カタパルトを搭載したものでザフト軍の仮設艦艇と同様に機動兵器を数機単位しか運用できなかったが、装甲を殆ど持たない輸送船や少数の護衛モビルスーツ部隊に奇襲攻撃を敢行するのには、十分だった。

この作戦を編み出したのは、第8艦隊司令官に任命されたハルバートン准将であった。

同じ頃、5月3日にアフリカ北岸に上陸したザフト軍は、モラシム艦隊を初めとするボズゴロフ級潜水空母艦隊の航空支援を受けつつ北アフリカ侵攻を開始した。

北アフリカ各地でアフリカ共同体支持のゲリラが決起していたことによる地球連合側の混乱、距離的にアフリカに最も戦力を投入可能なユーラシア連邦が、ザフト軍のジブラルタル基地制圧を嚆矢とする西ヨーロッパ侵攻に対応するのに限界であったことに起因する増援部隊の少なさ(ユーラシア連邦軍の一部は、混乱状態にあった汎ムスリム会議領ルートで進軍)もあって無人の野を進むかの如き迅速さで北アフリカを制圧していった。対するユーラシア連邦軍とアフリカ連合を中核とする地球連合軍は、初戦
となったセウタの戦いで敗北し、各地で焦土作戦を行いつつ撤退を繰り返すばかりであった。

しかし5月30日 エジプト州北部 エル・アラメインで両軍は本格的に衝突した。

エル・アラメイン…西暦時代、ドイツの名将 エルウィン・ロンメルと彼の指揮下で連戦連勝を重ねた精鋭のドイツアフリカ軍団(DAK)が潤沢な補給を受けた米英連合軍に敗北を喫した激戦地は、再び砲声と爆音、兵士の悲鳴が木霊する地となったのであった。

エル・アラメイン会戦は、沿岸より上陸したザフト軍の陸戦MS TFA-2 ザウートを中核とする部隊
があらかじめ待ち伏せていた地球連合軍側大戦車軍団の衝突から始まった。

この時、地球連合軍の大戦車部隊を率いていたのは、陸軍大国のユーラシア連邦軍でも有数の戦車指揮官 モーガン・シュバリエ大尉であった。
彼は、夜間作戦に優れていたことと時折常人には無謀に見える優れた作戦を立案することから「月下の狂犬」と綽名されていた。

ザフト軍は、これまでのニュートロンジャマーによる通信障害によって連携の取れなくなった自軍を遥かに上回る地球連合軍を粉砕してきたことで油断があった。

しかし、モーガン・シュバリエ率いる戦車師団は、ニュートロンジャマーによる通信障害を逆手に取り、予め工兵により埋められていた地雷を初めとするトラップと信号弾、訓練を重ねた練達の戦車兵同士の技量のみで無線通信使用時とほぼ変わらないレベルの高度なフォーメーションを可能にしていた。

対するザフト軍は、多数のザウートと少数のジンの砂漠戦仕様 ジン・オーカーで編成されていた。
ザウートは、装甲と火力では、リニアガンタンクを優越していたが、機動性では、MSの上半身と重い火砲を備えていたこともあって遥かに劣っていた。

更にジン・オーカーに機動性で劣るため、双方の部隊は、互いに連携が取れず孤立してしまった。
本来後方支援に徹するべき、ザウートは、リニアガンタンク部隊に単独で交戦してしまうこととなった。
シュバリエ大尉は、少数のジン・オーカーをアフリカ統一機構軍に任せると自身の部隊をザウート部隊に突撃させた。
本来、接近戦は、モビルスーツの独壇場のはずであったが、この場合は、違っていた。
シュバリエ大尉旗下のリニアガンタンク部隊を先頭に地球連合戦車軍団は、数で劣る鈍重なザウート部隊を押し包むように接近するとフォーメーションを駆使してザウートをかく乱しつつ、次々と履帯を狙って砲撃した。

火力と装甲で上回るはずのザウートは、同士討ちを恐れて反撃できず、次々と履帯を撃ち抜かれて擱座していた。

さらに行動不能に陥ったザウートには、リニアガンタンク部隊に随伴していたユーラシア連邦機甲兵部隊の肉薄攻撃と上空の攻撃ヘリ部隊が止めを刺した。

この時、機甲兵部隊が着用していたパワードスーツは、グティの砂漠戦仕様 フェダーインであった。

シュバリエ大尉旗下の部隊他一部優良部隊にのみ配備されていた配備されたばかりのフジヤマ社製熱紋誘導ミサイルも猛威を振るった。

この兵器は本来、質量ともにユーラシア連邦機甲軍団に劣る東アジア共和国戦車部隊の戦力強化のために開発されていたものの改良型で、仮想敵のユーラシア連邦の精鋭戦車部隊が運用しているという皮肉な光景であった。

また履帯の面でもザウートは、リニアガンタンクに劣っていた。リニアガンタンクの履帯は、砂漠や寒冷地、湿地といった過酷な自然環境に対応可能な耐久性能を備えていた上、ゲリラの仕掛け爆弾等の攻撃により、履帯が破損した場合に備えて、車輪には、高性能モーターが内蔵されていた。

その走破性能は、コロニーや都市の舗装された地面での運用が前提である作業用重機を転用したに過ぎないザウートの履帯とは比べ物にならない。

またアフリカ統一機構軍も機甲兵力ではユーラシア連邦に劣っていたが、対戦車火器やトラップを有効活用し、先行し過ぎていたジン・オーカー部隊に大打撃を与えた。

地球連合軍戦車部隊は、ザウート主体のザフト軍を圧倒し、一時は、ザウート部隊を率いていた指揮官 マーチン・ダコスタの乗機を撃破する寸前まで迫った。

その時、増援として上陸地点より駆けつけたアンドリュー・バルドフェルドを指揮官とする
新型陸戦モビルスーツ バクゥ部隊がザウート部隊と入れ替わる様にしてそれまで優位に立っていた地球連合軍戦車部隊の前に立ちふさがった。

バクゥは、ザウートやディンと同様にプラントが全世界に対して行った放送で
新型MSとして発表され、既に実戦投入されていたが、四足歩行という特殊な形状から他の機種よりも生産数が少なく、この戦いが事実上の本格的な実戦であった。

バルドフェルドは、バクゥを分散させず集中運用することで地球連合側戦車部隊を分断すべく突撃した。

バクゥは、大火力と肉食獣の如き運動性でリニアガンタンク部隊を圧倒し、次々と鉄の棺桶に変えていった。
さらに後退した残存のザウート部隊が後方から砲撃による支援を開始、更に洋上のボズゴロフ級潜水空母より発艦したディン部隊によってヘリ部隊が壊滅させられたことで
地球連合側の敗北は決定的となった。

この戦いで在アフリカ地球連合軍が誇る戦車師団は、壊滅し、多くの優秀な戦車兵が失われた。
指揮官のモーガン・シュバリエは、撤退戦の際も優れた力量を発揮し、多くの部隊が指揮官戦死、7割壊滅という悲惨な状況下で損害を3割に局限し撤退した。

彼がバクゥ部隊の突撃とディン部隊の航空攻撃で混乱の渦中にある中で後退できたのは、彼が優秀な将校 であったというだけでなく、彼のある能力も作用していたのであったが、本人を含めそれに気づいた者は、居なかった。

勝利の立役者となったバクゥ部隊の中核を成したバルドフェルド中隊 指揮官 アンドリュー・バルドフェルドは、
後日オレンジとブラックのツートンカラーに乗機を塗装していたことと相まって「砂漠の虎」
とプラントの最高評議会の意を受けた宣伝機関(母体となったのは、プラント有数の広告代理店である。)によって大いに宣伝された。 その後、エジプト州に孤立した地球連合軍の一部は、アレクサンドリアとカイロに無防備都市宣言を出すと海路でユーラシア連邦領 トルコ、ギリシャに撤退した。
以後、ザフト軍は、かつて彼らが、地球連合軍の前に敗戦を喫したビクトリア宇宙基地制圧を目的として南下した。

翌日には、ザフト軍の支援とニュートロンジャマーによる混乱によって北アフリカの主要な地域を制圧したアフリカ共同体は、アフリカ共同体の建国を正式に宣言、オセアニアの大洋州連合に次ぐ地球上二番目の親プラント国家の誕生であった。


C.E 70年 6月2日 この日、人類史上初の月における大規模戦闘が発生した。

ザフト軍は、膠着状態に陥りつつあった月のグリマルディ戦線に決定打を与えるべく、地球連合軍の補給拠点の一つであった宇宙採掘基地 エンデュミニオン・クレーター基地に侵攻を開始した。

ザフト軍は、勝利を確実なものとするため、先の世界樹攻防戦で戦果を挙げ、ネビュラ勲章をプラント最高評議会より授与されたラウ・ル・クルーゼやヒルダ小隊等の精鋭と当時、生産されたばかりであったシグーやまだ試作段階にあったジンの高機動改良型であるジン・ハイマニューバ等の最新鋭機、バルルス改特火重粒子砲等の新兵器を多数投入した。

このバルルス改特火重粒子砲は、宇宙艦艇用の大口径ビームカノンとMS用の予備バッテリーパック
を改造したカートリッジを組み合わせた火器で、破壊力の面では当時、ザフトが保有するMS携行火器では、最も威力のあるものであった。

史上初のMS用ビーム兵器だとプラント側は宣伝していたが、その実態は、バッテリーと砲身の排熱問題で数発しか撃てない上、取り回しの面でも重突撃機銃に比べ大幅に劣っていた。

更に地球や月等有重力下で装備した場合、機動性の低下がみられる等、まだまだ改良すべき点が多々存在していた。


対する地球連合側は、ユーラシア連邦軍を主力とする第3艦隊とプトレマイオス基地より増派された第5艦隊と第6艦隊の残余を含む大西洋連邦の精鋭 第7艦隊で編成されていた。

またニュートロンジャマー下での主力となる機動兵器の面では、一部が世界樹攻防戦と第1次ヤキン・ドゥーエ攻防戦に参加し、グリマルディ戦線でも戦果を挙げていた精鋭MA部隊 メビウス・ゼロ隊が投入された。

メビウス・ゼロは、大西洋連邦軍が開発し、地球連合軍の主力モビルアーマー
であるメビウスの試作機として開発された機体である。

この機体は、モビルアーマー以前の、かつてファースト・コーディネイター ジョージ・グレンが大西洋連邦軍人だった頃に搭乗した試作宇宙戦闘機の影響を強く受けており、機首のみを分離して大気圏突入可能である点や制式採用機のメビウスと異なりメインスラスターの方向転換ではなく補助バーニア噴射により方向転換を行う等技術的には、メビウスよりも1世代ほど旧式の機体であった。

そしてこの機体の最大の特徴は、機体の胴体部に4基装備された有線式オールレンジ攻撃兵器 「ガンバレル」である。

この「ガンバレル」は、推進器と内蔵されたリニアガンで構成され、攻撃時は、本体より
射出され、有線誘導による遠隔操作によって本体火器の射程圏外の敵機の撃墜を目的として
開発された兵装である。

有線兵器は、敵機の予想しえない方向から攻撃可能で、有線制御である為、ニュートロンジャマーによる電波障害下の戦場でモビルアーマーが、運用可能な数少ない誘導兵器でもあった。

その為、メビウス・ゼロは、モビルスーツを保有しない地球連合軍の中で唯一ザフト
軍の保有するモビルスーツに対抗可能な機体であった。

しかし、この有線攻撃兵器「ガンバレル」は、使用者に高度な空間認識能力が、要求されるのみならず、パイロットは、本体であるメビウス・ゼロの操縦も同時に行わなければならない為、メビウス・ゼロは、3個小隊15機のみしか存在なかった。

なおメビウス・ゼロがその優れたスペックを持ちながら主力モビルアーマーの地位を射止めなかったのもこの人員確保の面が主な原因であった。

エンデュミニオン基地を巡る戦闘は、まず本隊に先行して出撃した仮設輸送艦より発艦したスナイパーライフル装備のジン長距離強行偵察複座型で構成される特殊偵察隊と迎撃に出動したメビウス隊との戦闘によってその火ぶたが切って落とされた。

この偵察隊は、エンデュミニオン基地を取り巻く様に設置された監視衛星の破壊を目的とした部隊であった。
彼らの攻撃目標である監視衛星群は、エンデュミニオン基地の防衛システムの索敵システムとしての
役割をもっており、これを破壊することは、基地制圧の為の陸戦隊を乗せたシャトルや仮設輸送艦をエンデュミニオン基地に輸送する為には必要不可欠なことであったのである。

ナスカ級やローラシア級のような本格的戦闘艦を撃沈しえない攻撃でも民間機を転用した
シャトルや輸送艦を撃沈するのには十分であったからだ。

直後、進軍してきたザフト軍のナスカ級、ローラシア級の艦砲射撃の掩護を受けたザフト軍MS部隊がエンデュミニオン基地の周囲に展開する地球連合艦隊に向かって突撃した。

この時、出撃したMS部隊は、少数であったが、全機精鋭とシグーやジン・ハイマニューバで構成されていた。

この部隊の目的は、対艦攻撃ではなく、対艦攻撃部隊に先行して艦艇の対空火器や自動攻撃衛星や
艦艇の護衛を務めるMA部隊の撃滅であった。

これは、これまでの戦訓から従来の対艦攻撃装備と通常装備の混合では、通常機に比べて鈍重な対艦攻撃装備機は、護衛のメビウスの一撃離脱戦法で撃墜されるリスクが上がり、また敵機を撃墜すべき、通常装備機も行動を制限されてしまうというケースがあった為、まず高機動の精鋭による通常装備部隊により、宇宙艦艇を護衛する連合側MA部隊を撃滅し、その後に対艦攻撃部隊を投入するという戦術によるものであった。

まず、護衛機を撃破した後に対艦攻撃部隊を投入することで攻撃隊の犠牲を局限するという戦術は、日中戦争期日本軍が行った戦闘機隊を先行させて敵戦闘機部隊を撃滅し、制空権を確保後に爆撃隊を突入させるという制空隊の宇宙版と言えた。

この戦術を提案した人物は諸説あるもののプラントの公式発表では、この戦いにジン・ハイマニューバの試作機で出撃したラウ・ル・クルーゼであったとされている。

先行して発進した精鋭MS部隊は、ブリーフィング通り連合艦艇の護衛MA部隊に襲い掛かった。地球連合側のMA部隊は、技量面でも性能でも一部を除き劣っていた為、射撃演習の的の様に次々と叩き落された。

そして護衛機が壊滅したのを計らい、遅れて出撃した対艦攻撃部隊と通常装備部隊が突入した。

通常装備部隊は、MAの排除を行うと共に対艦攻撃部隊の掩護の為に艦艇のセンサーや対空火器を攻撃した。

これによって殆ど妨害を受けることなくD型装備のジンで構成される対艦攻撃部隊は、地球連合艦隊に攻撃を開始した。

護衛機を失った地球連合艦隊にこれを阻止する力はなく、主力を担っていた第3艦隊
は瞬く間に壊滅した。これをみた地球連合軍エンデュミニオン基地守備隊司令官と宇宙艦隊司令官代理(第3艦隊壊滅によってこの時点で本来の艦隊司令は全員戦死していた)は、エンデュミニオン基地防衛が困難であることを直ちに理解すると各部隊に遅滞戦闘を命じると共に基地の最深部に鉱山基地時代から設置されていたある装置の稼働準備を進めた。


エンデュミニオン基地内で恐るべき罠の準備が進められている中、 前線では、生き残った艦隊と共にメビウス・ゼロ部隊を初めとする精鋭部隊を中核に生き残っているMA部隊が奮戦し、ザフト軍の侵攻を少しでも遅らせるべく苦闘していた。

だが、唯一の誘導兵器が運用可能なメビウス・ゼロと優れた空間認識能力を持つ精鋭パイロットをもってしても戦況を好転させることは出来なかった。
長期化する戦闘によってパイロットには疲労が蓄積していた。

これは、ザフト側も同じ条件であったが、彼らは、身体能力に優れていたコーディネイターであったことが明暗を分けた。

またメビウス・ゼロのガンバレルは運用に高度な空間認識能力を必要し、複雑な操作行うためパイロットは、メビウスのパイロット以上に消耗が早かった。

メビウス・ゼロ隊は、櫛の歯が抜けるかのごとく次々と撃墜されていった。
中には補給作業中に母艦ごと撃沈されたものもいた。

防衛艦隊の半数以上を喪失した地球連合側は、撤退を開始した。
ザフト軍は、エンデュミニオン基地への上陸を開始、一部の勇敢なクルーが操縦する仮設輸送艦は、ドックに強行突入したものさえいた。

ザフト軍は、一部の防衛部隊を基地に置き去りにして逃げ帰る地球連合艦隊を見て嘲笑すると共に自軍の勝利を確信した。

そしてそれは、間もなく最悪の形で裏切られることとなった。

ザフト軍がエンデュミニオン基地の制圧を開始した頃、同基地の最深部では、敷き詰められた巨大なパラボラアンテナの群れが発動の時を待っていた。

ザフト軍がエンデュミニオン基地の7割を制圧したのと同時にエンデュミニオン基地とその周囲は、エンデュミニオン基地を起点に光に包まれた。

その恐ろしい光に呑み込まれた物体は、連合もザフトも区別なく次々と爆発していった。

そしてエンデュミニオン基地自体も砂の城の様に崩れていき、間もなく大爆発を起こして消滅した。

効果範囲にいたザフト軍部隊は、例外なく全滅し、後に残されたのは、舞い上げられた遺灰のようなレゴリスと真空の宇宙空間で冷却される事無く高熱を周囲に放つ、溶鉱炉から取り出されたばかりの銑鉄の如く赤熱する鉄屑のみであった。

辛うじて難を逃れたザフト軍部隊は、一瞬何が起こったのか理解できなかったが、直ちに事態を理解すると敗走する地球連合艦隊の追撃を中断し、目の前で大爆発を引き起こしたエンデュミニオン基地とその周囲に残された残骸から生存者を探すべく、救助作業を開始した。

それが無駄な努力であると知らずに……
エンデュミニオン基地と周辺に展開するザフト軍を壊滅させたものの正体は、最深部に存在するマイクロ波発生装置「サイクロプス」であった。

「サイクロプス」は元々、軍事兵器ではなく、エンデュミニオン基地がレアメタル採掘基地であった頃、クレーター内に存在するレアメタル採掘用の機材であった。

この装置は、レアメタルを内包した氷をマイクロ波を照射することで熱で融解させ、中に存在するレアメタルを取り出すのが本来の使用目的であった。

地球連合軍は、この装置を一種の自爆装置として利用したのであった。

またマイクロ波は、電波の一種であるためニュートロンジャマーの影響で、効果範囲が限定されてしまっていたが、皮肉なことにそれによって威力は増大されていた。

そしてサイクロプスの効果範囲に存在する生物は、体内にある水分が急激に加熱・沸騰させられ、更に水蒸気が全身の皮膚を突き破って爆発。最終的には、破裂死に至らしめられる事となる。

更に、装甲が施されたモビルスーツや宇宙艦艇も内部に内蔵された弾薬や推進剤が加熱され、誘爆することで破壊される。また効果範囲内の電子機器も強力なマイクロ波によって機能停止に追い込まれる。

基地施設への効果は薄かったものの撤退に際して地球連合軍は大量の爆薬を自爆用に各所に設置していた。
これが誘爆することによってサイクロプスの発動したエンデュミニオン基地は、空前の大爆発を引き起こしたのであった。

こうしてグリマルディ戦線最大の激戦となったエンデュミニオンの戦いは、終結した。
地球連合軍は、精鋭部隊のメビウス・ゼロ部隊の殆どと第3艦隊を初めとする艦隊戦力の過半数を喪失し、防衛目標であったエンデュミニオン基地を自ら自爆させることで失った。

対するザフト軍は、戦闘そのものでは、地球連合艦隊の過半数を撃滅する等事実的な勝者と言えた。
だが、最終局面で地球連合軍が使用したサイクロプスによるエンデュミニオン基地の自爆によってシグーやジン・ハイマニューバ等の新型機を任された精鋭を含むMS部隊と艦艇の3割近くを喪失した。


この被害を受けたザフト軍は、直ちに橋頭堡となったローレンツ・クレーター基地に
撤退すると同基地を、一部部隊を残して撤退した。

以後、月面戦線は終結し、ザフト軍は、地上のマスドライバーの制圧または破壊とプトレマイオス基地を初めとする連合側宇宙拠点への補給阻止を目的として作戦を進めることになる。またこの戦いでジン5機を撃墜し、メビウス・ゼロ部隊唯一の生還者となった大西洋連邦軍大尉 ムウ・ラ・フラガは、地球連合軍によって「エンデュミニオンの鷹」と宣伝されるにいたった。

これには、エンデュミニオンの戦いの悲惨な敗北を糊塗するのみならず、一部を除きザフト軍に圧倒されている地球連合の士気を鼓舞する目的があった。

なおこの戦いと同時にユーラシア連邦軍の宇宙要塞 アルテミス要塞に対してナスカ級2隻 ローラシア級2隻 仮設MS母艦3隻で構成される陽動部隊が攻撃を仕掛けている。

この戦闘では、ザフト軍側は、要塞駐留のユーラシア連邦艦隊に大損害を与えたものの予め敷設された宇宙機雷と同要塞に試験的に設置された対光学物理防御システム「アルテミスの傘」によって撃退されている。


 
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