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猛者狩り

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第二章

「だからな」
「では五条大橋にですか」
「夜に赴かれ」
「そして」
「家臣として迎えようぞ」
 清盛は本気でそう思っていた、そのうえでその僧兵のことを調べさせてもいた。だが僧兵は多くを語らず夜に五条大橋にいてだ。
 武器を持たない者はそのまま通してだ、武士や僧兵と見ると声をかけていた。
「腕が立つなら拙僧と勝負をしてもらおう」
「望むところ」
 多くの腕に自信のある者が応える、自ら出向く者も多かったが。
 僧兵は圧倒的な力で誰もを一撃でのして刀や薙刀、金棒を手に入れた。僧兵の金棒の力はまさに鬼のそれに等しかった。
 そしてだ、ある日彼は倒した平家の武者の刀を手に入れてから言った。
「あと一つ」
「あと一つとはどういうことじゃ」
「拙僧は千人の強者を倒しその武器を集めることを目指しておる」
「集めてどうするのか」
 倒された強者は僧兵に問うた。
「一体」
「聞いておろう、願掛けじゃ」
「何の願掛けか」
「本朝一の強者になること」
「それが御主の望みか」
「そうじゃ、そうなる為にじゃ」
 まさにというのだ。
「こうしてな」
「武器を集めてか」
「貴殿のもので九百九十九となった」
「だからあと一つか」
「願掛けが出来る」
 こう言うのだった、夜の五条大橋で月を背にして。
「天下一の強者にしてくれとな」
「そうか、わかった」
「うむ、もう貴殿は去られよ」
 倒した武者にも礼儀は忘れていなかった、物腰は粗野ではあるが作法そのものは間違えていない。
「戦の場ならともかく今は違う」
「それ故にか」
「戦の場でも無駄な命は奪わぬもの」
 これが僧兵の考えだった。
「それ故に」
「では」
「うむ、さすれば」
 こうしてだった、僧兵は武者の命は取らなかった。そして武者がこのことを清盛に対して話すと清盛はにこりと笑って言った。
「あと一つか」
「そう言っていました」
「わかった、ではな」
「それではですか」
「明日にでも五条に行ってじゃ」
「その僧兵をですか」
「家臣に迎えよう」
 こう言うのだった。
「是非な、しかも無駄に命を奪わぬ」
「そのこともですか」
「気に入った、わしも武士であるがな」
「はい、大臣様は」
「無駄な殺生は好まぬ」
 これが清盛の気質だ、武士であるがそれでも無駄な殺生はしないのだ。助けられる者は出来るだけ助ける男なのだ。
「その僧兵のその考えも気に入った」
「だから余計にですか」
「家臣にしたくなった」
 こう話してだ、実際にだった。
 清盛は明日の夜にと思った、だが。 
 その夜だ、あと一つと言った僧兵のところに不意にだった。
 着飾った、白い小袖の上に唐綾を着ている。頭には播磨浅黄の帷子があり袴は白い大口のものだ。そして直垂は唐織だ。その下には敷妙という腹巻があり紺地の錦で柄も鞘も包んだ刀を持っている。そして太刀は黄金づくりだ。 
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