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第三章

「戦争が終わればだ」
「不要ですね」
「むしろ邪魔ですね」
「それも一切」
「海軍長官にも言っておこう」
 フォレスタルにもというのだ。
「引き止めない様にな」
「長官もご存知でしょう」
「このことは」
「相手が相手ですし」
「長官も彼を嫌っていますし」
「そうだ、ではプレジデントにもお話しよう」
 副大統領として、というのだ。
「ではな」
「はい、それでは」
「戦争は我々の有利が動かない状況になりました」
「欧州本土にも上陸しましたし」
「サイパンも陥落させました」
「ドイツも日本も死命を制しました」
「後は降伏させるだけです」
 トルーマンの周りの者達も言う。
「ではです」
「彼はもう不要です」
「戦争に勝てば」
「後はああした人物はいりません」
「その通りだ、では戦争が終わればな」
 キングはお払い箱というのだ、実際にキングは戦争が勝利に近付くにつれて扱いが邪険になっていってだった。
 ドイツが降伏し日本がだ、遂にだった。
 そうなるとキングは自らだった、健康上の理由を述べて。
 辞任を申し出たがだ、フォレスタルは素っ気なく彼に言った。
「わかった」
「そうですか」
「今までご苦労だった」
 こう言っただけだった、引き止める素振りは一切なかった。そのうえで彼が敬礼してから退室するのを見守るだけだった。 
 キングは元帥として海軍の顧問になった、しかし。
 その立場になってもだ、ルーズベルトの急死によって大統領に昇格したトルーマンは海軍の上層部の者達に言った。
「わかっていると思うが」
「はい、顧問は顧問です」
「現場ではありません」
「もう現場には関わっていないので」
「それでは」
「話を聞かなくていいし会わなくていい」
 キング、彼にというのだ。
「そういうことだ」
「承知しています」
「ではその様に」
「相変わらず酒とギャンブル、女性にのめり込んでいますが」
「仕事の後は」
「好きにさせておけ」
 トルーマンはここでも素っ気なかった。
「彼のな」
「そうしてですね」
「このまま」
「相手にしないことだ」 
 戦争が終わったからだというのだ、そしてだった。
 実際にアメリカ海軍の者達は誰も彼に聞かなかった、大統領であるトルーマンもだ。キングは顧問になってから暫くして脳卒中で倒れて後は寝たきりになってから世を去った。
 二十一世紀になってだ、ハワイにいるアメリカ海軍の空母ニミッツを見てだった。ある大学生が港から若い海軍中尉に尋ねた。
「あの、ニミッツは」
「何かな」 
 見ればアジア系の顔をした士官だ、日系か中国系かはわからないが。
「ニミッツが」
「はい、ニミッツは大戦中の海軍元帥ですね」
「太平洋艦隊司令官だったよ」
「あの、ですが海軍には」 
 当時のアメリカ海軍にはとだ、アフリカ系の大学生は中尉にさらに尋ねた。 
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