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第一章

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 アーネスト=キングはアナポリスの時からその優秀さを知られていた。
 七十八人中での四番だ、優秀であると言っていい。そしてアメリカ海軍の中で順調に昇進していったのだが。
 彼を知る者は誰もがだ、彼については眉を顰めさせてだった。こう言った。
「優秀かも知れないが」
「嫌いだ」
「付き合いたくない」
「共にいたくはない」
 こう口々に言う、上司とはよく衝突してだった。
 同僚達もだ、こう言う者がいた。
「カルフォルニアにいた方がいい」
「あの州なら普通の人間だ」 
 後に大戦中に日系人達を収容所に押し込みアメリカ合衆国の歴史を汚した州である。当時のアメリカでも相当差別主義の強い州だったと思われる。何しろ大戦中の知事は公の場で『ジャップ』という言葉を使うレトリックを駆使して彼等を排撃したのだ。その知事の名をアール=ウォーレンというのは特記しておく。
「日本でスリに遭ったというが」
「それから大の日本嫌いになったらしいな」
「それがそのままあいつの人格を形成している」
「偏見の塊だ」
 これが彼の評価だった、艦長としては優秀であり訓練の時にも常に的確に状況を把握しそして隅から隅まで常に見ていた。
 海軍そして軍隊に関することは熟知していた、そのうえで世界を見ていた。
 四十八歳にしてパイロットの資格を手に入れ海軍航空隊そして空母を軸とした機動部隊の活用も現実のものとしていた。
 それを見てだ、政府も彼を使うことにしたが。
 副大統領のトルーマンもだ、彼についてはこう言った。
「能力はいい、能力は」
「しかしですね」
「その他は」
「協調性がなさ過ぎる」
 あまりにもとだ、彼は周りの者達に言い切った。
「口が悪い、イギリスと共に戦うつもりが見られない」
「合衆国に頼るなとです」
「いつも言っていますね」
「そして常にイギリス側を攻撃していますし」
「彼をイギリスとの会議には出したくないです」
「全くだ、とにかく頭が切れて常に的確な判断を下す」
 このことにはトルーマンも文句はなかった。
「勤勉で仕事では真面目でだ」
「部下にも公平ではあります」
「厳しいですが贔屓もいびりもしません」
「そうしたことはしないですが」
「通信教育で単位を得ていったことも知っている」
 海軍士官としての勤務の合間にだ、キングはそちらにも励んでいたのだ。
「如何なる状況も見逃さず聞き逃さないが」
「しかし」
「それでもです」
「彼の場合は」
「どうにも」
「人間としては問題があり過ぎる」
 とかくというのだ。
「ニトログリセリンとはよく言ったものだ」
「酒と女性、ギャンブルが好きですが」
「どれにも歯止めが効きません」
「のめり込んでだらしがないです」
「非常に危険です」
「士官は紳士でなければならない」 
 トルーマンは眉を顰めさせて言い切った。
「カール=ヴィンソン議員が見出したのは能力だ」
「はい、しかし人間としては」
「どうにもなりません」
「偏見は強く言いたいことを言い」
「常に怒っている様です」
「そういったものにも歯止めが効きませんし」
 とかく、とだ。トルーマンの周りの者達も言う。銀行員かセールスマンの様な丸眼鏡をかけた真面目そうな悪く言えば目立たない感じの彼に。 
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