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無邪気だけれど

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第二章

「他はな」
「本で書いてるのと全然違うわね」
「凶暴で悪さばかりして」
「全然大人しくないわ」
 それこそというのだ。
「本当に」
「そうだよな」
「すぐに噛んで引っ掻いてきて」
「ものは落として」
「ワラビには悪戯をして」
 サンルームでのどかに寝ている愛犬も観る、こちらは大人しく優しいことで華族から純粋に深く愛されている。ブリアードという種類の犬について書かれていることに忠実な性格だ。
「悪さばかりして」
「御飯がないとねだって」
「本当に困った奴だ」
「何かとね」
 二人でライゾウを観つつやれやれといった顔で話す、しかし。
 ここでだ、郁美は林蔵にこうも言った。
「けれどこいつがいないとな」
「寂しいでしょうね」
「子供達も結婚してな」
「皆お家を出たから」
 それで今家に住んでいるのは二人だけだ。
「あんなに狭かった家がな」
「今じゃとても広くて」
「ワラビもいるにしても」
「あの娘は犬だから」
 だからだというのだ。
「お家の中には入れられないから」
「そうした家じゃないからな」
 林蔵は郁美にこう答えた。
「うちは」
「造りがね」
 アメリカの家の様に土足ではない、だから大型犬を家に入れて飼うことは出来ないというのだ。
「そうした造りじゃないから」
「あの娘はあそこだ」
 サンルーム、その部屋の中だというのだ。
「犬小屋には入らない娘だから」
「サンルームに入れてるけれど」
「いい娘だが家の中には入れられないから」
「あそこしかないから」
「お家の中はな」
「この子だけれど」 
 ここで再びライゾウを観る、相変わらず気持ちよさそうに寝ている。
 そのライゾウを観ながらだ、郁美はこんなことも言った。
「本当に悪い子で」
「やれやれだな」
「好き勝手して」
「性格が悪いな、実家で子供の頃何匹も猫は飼っていたが」
 林蔵は自分の思い出も交えて話した。
「こいつはまた特別だ」
「今まで、っていうのね」
「飼った猫の中で一番悪い」
「そうした子なのね」
「実際にな」
「持ったら怒って触ったら攻撃してきて」
 ライゾウのそうした性質についても話される。
「そんな子は、なのね」
「こいつだけだな」
「やれやれね」
「本当に悪い奴だ」
 寝ているライゾウを観ての言葉だ、だがライゾウは二人のそんな話をよそに気持ちよさそうに寝ている。いびきまで立てて。
 とかく悪い猫でこの夫婦だけでなく実家に戻って来た子供達やその家族にも常にその悪さを言われていた。
 孫の一人清がだ、お盆に彼の家族と共に実家に帰って来た時に林蔵にこんなことを言った。
「お祖父ちゃん、ライゾウと遊んでたら噛まれたよ」
「ああ、そうか」
「そうかって」
「あいつは誰でも噛むんだ」
 こう孫に答えるのだった。 
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