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二人でないと

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第五章

「そやからずっとです」
「このままやっていきます」
「もっともっと上目指します」
「お客さん喜ばして笑わしてきます」
「そう思うんならそうするんや」 
 是非にとだ、紗奈衣は二人に言った。仕事の後で夕食を兼ねて居酒屋で飲みつつ。
「お笑いに頂点はないで」
「ずっとずっと上がある」
「果てがないものですか」
「そや、どんだけ高みに達してもや」
 それでもというのだ。
「まだ先があるんだ」
「高みの先が」
「それがですか」
「そや、そやからもっともっと精進するんや」
 こう二人に言うのだった、自分のジョッキの中のビールを飲みつつ。
「ええな、二人で」
「漫才は二人でやるもんやさい」
「そやからですな」
「そや」
 まさにというのだ。
「これからもそうしていくんやで」
「お笑いの高みをどんどん上っていく」
「二人で」
「そういうこっちゃ、健康にも気をつけてや」
 言いながらまたビールを飲む紗奈衣だった。
「頑張るんやで」
「そう言いながらビールがぶ飲みですか」
「それで大ジョッキ六杯目でっせ」
 五百ミリリットルのそれをだ。
「飲み過ぎちゃいます?」
「いつもビールめっち飲んでますやん」
「しかもおつまみはソーセージにジャガバターにベーコン料理」
「痛風一直線やん」
 こう言うのだった、紗奈衣のつまみまで見て。二人は共に焼酎を飲み枝豆や冷奴といった和風の肴である。
「女の人でも痛風なりますやろ」
「用心せなあきまへんで」
「そう思うならこれもネタにすることや」
 紗奈衣は自分に注意する二人に笑って返した。
「ええな、それが漫才や」
「そうきましたか」
「それが漫才師ですか」
「ほなちゃんとネタにさせてもらいますで」
「そっちに昇華させてもらいますね」
「それが漫才や」
 まさにとだ、紗奈衣はまた返した。
「ほなそうするんや」
「ええ、そうします」
「それでお笑い取りますわ」
 二人はその紗奈衣に確かな声で答えた、そうして二人もまた飲むのだった。二人でこれからも漫才師として駆け上がっていこうと思いつつ。


二人でないと   完


                           2016・7・21 
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